フルモデルチェンジして発売されたスズキGSX-S1000について、発売時点での新型コロナ禍の状況を鑑み、スズキは開発陣のインタビュー映像をメディア向けに配信した。ここでは6人の開発者を紹介するとともに、彼らが新型GSX-S1000に込めた技術/知恵/思いをまとめてお伝えする。
●文:ヤングマシン編集部(山下剛) ●外部リンク:スズキ
アグレッシブなニューフェイス参上
’21年8月4日、スズキはフルモデルチェンジとなった新型GSX‐S1000を発売した。従来型は’15年に発売され、このたびの新型が2代目となるストリートファイターだ。
開発コンセプトは『ザ ビューティ オブ ネイキッド アグレッション』で、日本語に訳せば”攻撃的なネイキッドの美しさ”あたりだろうか。
それは主に大胆かつ斬新なフロントフェイスデザインに象徴され、ストリートファイターとしてのスポーティーな走行性能はもちろんのこと、街乗りからツーリングまで、幅広いシチュエーションで満足できるライディングフィールを実現させたという。
チーフエンジニアの大西文弘氏は、「扱いやすさとスポーツ性能の高さを継承し、かつアグレッシブで前衛的なデザインを採用しました。スポーツネイキッドとしてのスタイリング/スポーツ性能/使いやすさのバランスにおいては他社製に絶対負けない造りになっています」と自信たっぷりに語る。
スタイリング
まずは、象徴的な部分であるスタイリングから見ていこう。
デザインを担当した村上智弥氏は「マッシブなタンクデザイン、シャープなカウルラインとのコントラスト、斬新なヘッドランプによって、アグレッシブさ/機敏さ/知性を備えた鋭いパフォーマンスを表現しました」と話す。
特徴的なフロントフェイスは、階段状に3段並ぶポジションランプとヘッドランプが作り出す。これらには六角形のモノフォーカスLEDプロジェクターランプを採用している。「フロントから流れるウイングレットは最新のモトGPマシンのイメージをフィードバックしました。カウリングパーツは直線基調で鋭くし、タンクを中心として”塊感”の強い立体構造を作り、スリムなテールエンドへつなげています。戦闘機の造形美を参考にしながら、レイヤー構造を用いながら近未来的に仕上げました」
同時に「ポジションランプがもっとも苦労しました」と話すのは、電装設計の柴山拓也氏だ。
「指向性のあるLEDを点光りにさせず、横に細長い意匠のポジションランプを全体的に光らせ、なおかつヘッドランプと同等の明るさにするため試行錯誤を繰り返しました。ウィンカーは車体デザインに合うよう直線基調でフラットなレンズ面にしましたし、メーターはLCDを新設計しました。どちらも専用設計として、デザイナーの意図を最大限に反映できたと思います」
エンジン
エンジンはK5(’05年式GSX‐R1000)をルーツとする従来型をさらに改良したものを搭載する。エンジンを担当した黒須優貴氏はこう話す。
「主な開発目標は、(1)滑らかで豊かなトルク特性 (2)最高出力向上 (3)排ガス規制対応と性能を両立させる吸排気システム (4)スズキクラッチアシストシステム(SCAS)の4点です。特に排ガス規制対応は簡単ではなく、エンジンを細部まで徹底的に見直しました。吸気系ではエアクリーナーボックスの形状変更で吸気抵抗を低減し、排気系では触媒の増設や移設によって性能と耐久性を高めています。ほかにも改良点はありますが、設計や実験担当の皆さんの努力によって、出力やフィーリングの向上を実現できました」
エンジンはカムシャフト/カムチェーン/セカンダリーエアリードバルブ/バルブスプリングなどを刷新。パワー/トルクともに出力特性の谷間を埋めて平均化した。これにより最高出力は2psアップ。トルクは最大値こそ2Nm低くなったが、発生回転数を250rpm下げつつ、全域において扱いやすさを高めた。また、スリッパークラッチとアップダウン対応のクイックシフトシステムも採用した。
「排ガス対応で出力特性が変わると思っていましたが、設計部門の技術力によって従来型から出力を落とすことなく走れるエンジンができたことは、テストライダーとしても満足しています。タイヤは専用設計とし、ウイングレット効果もあってコーナリング性と直進安定性が良好なバランスに仕上げられました。ハンドルの左右グリップ間は従来より23mm拡げています。また電子制御スロットルは、ケーブル式よりも自然なフィーリングを追求してドンツキをなくしましたし、クイックシフトも含めてテストを繰り返したことで、幅広い回転域で快適に扱えるものができました」と話すのは、テストライダーの田畑廉氏だ。
電子制御
そして最後に登場してもらうのは、電子制御を担当した鈴木星矢氏だ。
「スズキインテリジェントライドシステム(SIRS)の新採用によって、スロットルを電子制御式としてドライブモードセレクターを装備しました。Aモードはもっともアグレッシブですが、従来型よりも開け始めは控えめですが、開度が大きくなるに従いトルクを発生する設定にしています。Bモードはやや緩やかですが、開度に対してもっともリニアで、扱いやすさと駆動力を優先しています。Cモードは最高出力こそ同じですが、スロットル微開から中間までのトルクを抑え、国内での普段使いを想定しています。また、トラクションコントロールは従来の3段階から5段階として、よりきめ細やかに設定できるようにしました」
従来型も素性のいいネイキッドバイクとして好評を得てきたが、今回のフルモデルチェンジによって走行性能は底上げされ、かつ洗練されたアピアランスを獲得した。斬新に熟成された新型GSX‐S1000は、さらに多くのバイクユーザーを魅了しそうだ。
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'21 GSX-S1000 概要 初代は'15年に発表され、国内仕様も設定。旧GSX-R1000ゆずりのエンジンを軽量なアルミツインスパーフレームの車体に搭載したストリートファイターで、鋭い走りが人気[…]
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