’21新型スズキGSX-S1000徹底解剖:新旧比較インプレ・ワインディング編【さらなる速さと拡張性をゲット】

新型スズキGSX‐S1000の実力を検証する今回の企画。電子制御スロットルとなり、新たに3段階のパワーモード/5段階のトラクションコントロール/クイックシフターなどを装備したが、それらはワインディングにおいてどう影響するのか? 『ヤングマシン』誌メインテスター丸山浩氏が新旧モデルを比較する。


●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:スズキ

【テスター:丸山浩】永遠の峠大好き少年。ご存じ『ヤングマシン』誌メインテスターにしてWITHMEプロフェッショナルレーシングの会長。そして最近はYoutuberとしても活躍中。

GSX-S1000:ベストセラーマシンが装いも新たに正常進化だ

スズキのリッタースポーツネイキッド「GSX‐S1000」が、ユーロ5対応の新型にモデルチェンジした。先代GSX‐S1000と言えば、いわゆるK5型=’05GSX‐R1000をベースに公道向けに特化したパワフルなエンジンを、独自のツインチューブフレームとこれまたL2型=’12GSX‐R譲りのスイングアームを持った車体でパッケージングした、俊敏なスポーツ性で国内外から高い評価を受けたベストセラーマシン。今回の新型では、その先代までの丸みを帯びたボリューミーな生物的デザインから角ばった直線基調のメカメカしいものに一変。一見するとまったく新しいものに生まれ変わったかのような印象だ。

しかしエンジンや車体の基本構成は先代から引き続き受け継いでおり、その実体はまごうことなき正常進化だ。K5エンジンにはさらなる改良が施され、これに電子装備面も拡充されて電子制御スロットルによるエンジン特性の向上や待望のパワーセレクト機能=S‐DMSも追加。ストリートファイターとしての高みが追求されている。

今回は峠でのスポーツ性能を中心にこの新型GSX‐S1000の実力を確かめるため、先代モデルのGSX‐Sに加えて最新ネイキッドのもうひとつのかたちヤマハ・MT‐09SPと、やはり公道特化のリッター直4が自慢となるカワサキ・ニンジャ1000SXも用意。4台のマシンを風が涼しく絶好のバイクシーズンとなった箱根に持ち込んで、丸山浩氏が存分に走り込んだ。いざ新型GSX‐S1000は皆の期待に応えることができるか!?

【’21 SUZUKI GSX-S1000】■全長2115 全幅810 全高1080 軸距1460 シート高810(mm) 車重214kg ■水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 998cc 150ps/11000rpm 10.7kg-m/9250rpm 燃料タンク容量19L ■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=190/50ZR17 ●価格:143万円

ワインディング走行:どの領域でも扱いやすい名作エンジンを継承

先代GSX‐S1000は、ボリューミーな外観と裏腹にポジション的には非常にスリムにまとまっており、足着き性も両指の腹あたりと車重209kgの軽さも相まって引き起こしも比較軽いのが特徴的だった。今回スタイルが一変した新型だが、またがった感じは好印象だった先代と基本的には同じだ。車重は5kg増の214kgとなったが、それほどの違いを感じさせない。

唯一変わった部分として挙げられるのが、新型では全体で幅が23mm延長されたというハンドルバー。カタログ資料ではライダーとの距離については記載されていなかったが、先代の方が若干遠めに感じられる。これは長さというよりもちょっと反り気味になっている先代ハンドルバーの取付角度のせいだろうか。先代だけ乗っていると特に気にならない部分ではあったが、新型ではこのわずかに近づいたハンドルバーがマシンを操る時により貢献してくれる。特にワインディングでは車体を右に左にと振り回して乗るような際のコントロールがしやすくなり、その違いを感じ取ることとなった。

ともあれ、新旧ともにGSX‐S1000をワインディングで走らせる一番の醍醐味は、やっぱり直4エンジンの面白さだろう。もともとGSX‐R時代に178psを発揮していたK5エンジンは十分すぎるほどパワーに余裕があるうえに、スーパースポーツのエンジンとしてはロングストローク傾向なので下からトルクがモリモリと盛り上がっていき、どんな回転域でも欲しいパワーを引き出せる。ちょっとゴリゴリしたいかにもな力強さ感は、同じ直4でもツアラー系エンジンの繊細さとは異なる元気なキャラクターで、とにかく峠にはよく似合う。

しかも、新型になってそのエンジンはさらに力強さ感を増した。最高出力自体は先代の148psから150psへと2psアップとそれほどではないのだが、それ以上に電子制御スロットル化された新型ではパワーの出方が格段に進化した効果が現れていた。新旧を比べてみると、これまでスロットルを開けていく途中にあったトルクの谷というか波のような部分が解消。低回転から全体的にパワーが底上げされたような印象を受けるようになった。

それに先代ではマイナーチェンジしたモデルから採用され、新型ではさらに改良されたスリッパークラッチの効きの良さも特筆したいところ。峠との相性が良く、5→4→3→2と連続シフトダウンしてもリヤタイヤがホッピングすることなくキレイに減速していってくれるのが実に気持ちいい。新型ではこのクラッチにアシスト機能も付いてレバー操作がより楽になったうえに、双方向のクイックシフターも新たに追加された。クイックシフターは、一度使ってしまうとスポーツライディングではもう手放せなく、あるのとないのとではずいぶん変わってくる。

先代から引き継がれる、素性の良い車体周り

この元気のいいエンジンを受け止める車体も、先代そのままにフレーム/倒立フロントフォーク/スイングアームがしっかりした剛性感を出しつつ、ハンドリングはライディングポジションとともにほどよく素直で優秀な仕上がりだ。ホイールベースよりもちょっとコンパクトに感じられるような小気味よさで、低速から高速まで軽快にコーナーを旋回することができる。サスペンションは新型の方がちょっと硬くなったかなという印象だったが、そこはセッティングの範疇。前後ともフルアジャスタブルサスなので調整すれば済むレベルだ。

なお、フロントブレーキのマスターシリンダーは先代のラジアルポンプからナゼだか一般的なホリゾンタルポンプへと先祖返りしてしまっていたが、こちらもブレンボキャリパーの制動力やコントロール性そのものに違いは感じられず、ソフトな初期タッチの作り込みが非常に扱いやすく性能的には十分以上だと感じられた。

SDMSは全モードがワインディングに適している

…と、ここまでだったらブラッシュアップされた新型の方が先代より良くなっていると胸を張って言えるものの、先代も完成度としては非常に高いレベルだったので、走りの楽しさでは先代でも十分満足できると結論づけていたところ。だが、新型が大きく上回ったと感じさせてくれたのが、パワーセレクトであるSDMS(スズキドライブモードセレクター)の実装だった。A=Active/B=Basic/C=Comfortの3モードが用意されており、いずれも全開時の最高出力は150psと同一で、スロットルに対するレスポンスや出力特性で違いを付けたというもの。

最強となるAモードでは全体的な馬力やトルクの出方がパワフルになっており、先代から受け継ぐ荒々しい魅力を余すところなく発揮してくれ、まさしくアクティブといった感じになる。このAモードだと元気が良すぎて疲れるなと感じたならBモードの出番だ。ベーシックという名のとおり、その特性は極めてリニアで扱いやすく、もっとも自分の思い通りにパワーを引き出してやることが可能となるモードだ。しかもベーシックと言えど150psと回せば力強い。箱根の峠道をふもとから頂上まで駆け上がっていく際に最終的に私が好んで使っていたのが、このBモード。あらゆる面で不満やストレスを感じさせないのがコレだった。

そして、もっとも穏やかで本来なら雨天や街中での使用がメインと思われがちなCモード。これで峠を走るのもなかなか悪くないのは嬉しい発見だった。全開時の150psはそのままに、メインで使う低中回転域を程よくマイルドにした味付けは、エンジンを回して走る直4ならではの楽しみを安心して得られるだけでなく、ベテランでも峠をA/Bモードで楽しんで、もうお腹一杯という時に残りの行程を気持ちよく流して走ることを許してくれる。

これまで私としては、ビギナーが峠を楽しく走るなら扱いきれるパワーと過渡特性を持った弟分のGSX‐S750の方を勧めつつも、購入する側としては上の排気量の1000を選びたいという気持ちがあることも理解していた。新型はまさにこのジレンマを解消してくれたと言っていい。

先代1000と750のいいとこ取りをしたような面が、まさに新型1000の真骨頂。ビギナーが750と1000のどちらにするかで迷ったならば、スタイルや価格だけで考慮すればいいのではないだろうか。走りに関しては1000でもばっちりオススメ。幅広いライダーがスポーツライディングの楽しさを存分に味わうことができると断言しよう。


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