レースの外でも話題を提供したロッシ

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.69「バイクファン以外をも引き込むパワー」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第69回は、バレンティーノ・ロッシ選手の最終戦を振り返ります。

TEXT/PHOTO: Go TAKAHASHI PHOTO: YAMAHA, PETRONAS SRT

シーズン最終戦、そしてバレンティーノの最終戦……

バレンティーノ・ロッシがついに現役最後のレースを迎えてしまいましたね。シーズンの最終戦、第18戦バレンシアGPが、彼にとってもMotoGPライダーとしての「最終戦」になりました。

予選では、自力で10番手以内に入ってQ2に進出。いまだに衰えない速さを見せてくれました。今のMotoGPは本当にレベルが高くてシビア。タイム差もほとんどなく、ほんのわずかなミスも許されない中での10番手は、「バレンティーノ、まだまだイケるんじゃない!?」と思わされました。そしてなんと決勝も10位フィニッシュ。これも本当にすごいことです。今もなお速さ、体力、メンタルともに揃っていることを示しました。

MotoGPクラスで優勝したフランチェスコ・バニャイアを始め、各クラスでVR46アカデミーの門下生たちが歴代ロッシヘルメットをかぶって走っていましたが、誰ひとりダブッていなかったのもすごい。それだけ長く走っていたということで、まさにヒストリーですよね。今回はテレビ解説の仕事でしたが、画面を見ながら涙が落ちそうになりました。

VR46アカデミーのフランコ・モルビデリ選手と10位争い。同アカデミーの出世頭と言っていいフランセスコ・バニャイア選手は表彰台の頂点に立った。 [写真タップで拡大]

ロッシの存在は、本当に大きかった。彼がMotoGPを変えたと言ってもいいのではないでしょうか。僕の現役時代、グランプリは今ほど大きな規模ではありませんでした。2輪レースの世界最高峰ではありましたが、それほどメジャーではなかったのは確かだと思います。パドックの雰囲気もまだまだ牧歌的で、良くも悪くも「2輪レース」の域を出ていませんでした。

それが今や、MotoGPのパドックはF1と比べても見劣りしないほどのゴージャスさ。ヨーロッパラウンドは各メーカーのホスピタリティブースも華やかで、シンプルに「すごい!」と思えます。レースのレベルも、ライダーの収入もアップして、観る人、走る人の双方に恵まれた環境になったと思います。

そのすべてがロッシの功績──とまでは思いません。イタリア国内にも「アンチ・ロッシ」派はいますし、プロモーターであるドルナの企業努力もあったでしょう。でも、ロッシという大スターの存在が全世界的にMotoGPの名を広めたことは間違いありません。最終戦では俳優のトム・クルーズやキアヌ・リーブスを始めとする世界に名だたるVIPたちがメッセージを寄せ、元サッカー選手のロナウドが現地でチェッカーフラッグ振っていました。ロッシのキャラクターが世界中で愛されていた証拠でしょう。

シンプルに言えば、ロッシはMotoGPをいろんな意味で「面白くした」のだと思います。ウイニングラップをイベント化したのもロッシだし、足出し走法を広めたのもロッシだし、ヘルメットを始めとしてデザインに遊び心を持ち込んだのもロッシでした。レースはもちろん、レース以外のファッション性や話題性でも、ロッシの注目度や影響度はとても高かった。

ロッシ選手が大きな影響力を持っていたことがわかるフィナーレだった。 [写真タップで拡大]

彼がいなくなった来年以降、MotoGPがどうなっていくのかちょっと心配です。レースのレベルが年々高まっているのは間違いありませんが、それを世界中のファンに届けられるか、あるいはファンではなかった人までMotoGPに引きずり込むだけのパワーがあるか……。でもまたきっと、新しい形のスターが生まれるんでしょうね。

来年の話をするのはちょっと早いかもしれませんが、今シーズンの終盤の安定感を見ると、MotoGP2022シーズンはドゥカティ勢がかなり強そうですね。バニャイアは、ズバリ、チャンピオン候補だと思います。ドゥカティのマシンは、旋回性やタイヤの耐久性をじわじわと高めながら、エンジンパワーという武器はそのまま維持しています。これは本当に強い。ファビオ・クアルタラロはヤマハのパワーに不満を訴えていますが、ライダーとしては当然のリクエストなんです。いくらコーナーで頑張っても、ストレートで抜かれてはたまりませんからね。

ドゥカティはライダーのラインナップも層が厚い。ジャック・ミラーもいるし、ホルヘ・マルティンやエネア・バスティアニーニも勢いに乗っています。データもたくさん集まるでしょうし、いろんな面で有利です。それにしてもドゥカティ、来季は8台体制で、再来年からはモトEの公式サプライヤーになることも決まっています。フォルクスワーゲン傘下になってからのドゥカティは、どれだけ勢いがあるんでしょう(笑)。いちレースファンとしては日本メーカーにもぜひ頑張ってもらいたいところです。

MotoGPも少しずつ観客を入れるようにして、ちょっとずつコロナ以前に戻ってくるのかな……と思っていた矢先に、ヨーロッパではまた新型コロナウイルスが猛威を振るい始めていますね。オーストリアではロックダウンが行われるなど、予断を許さない状況です。でも、やっぱりお客さんがサーキットにいた方がレースは盛り上がりますよね。お客さんがいないとレースなのかテストなのかよく分かりませんし、ライダーのモチベーションにも影響すると思います。

人の力ってすごいですからね。お客さんも含めてのレースなんだな、と改めて思います。現時点では2022年9月25日に日本GPが、そして8月7日に鈴鹿8耐が行われる予定です。ぜひ皆さんもサーキットに足を運んでいただきたいですし、足を運んでもらえる状況になっていることを願っています。

左は2005年にセテ・ジベルナウ選手と。右はあまりにも有名な2008年アメリカGP、ラグナセカのコークスクリューでケーシー・ストーナー選手を相手に見せたパッシングシーンだ。 [写真タップで拡大]

ヤマハに移籍した2004年、ヤマハでの初勝利は開幕戦の南アフリカGPで早くも訪れる。競ったのは当時最大のライバルだった。マックス・ビアッジ選手。右は2007年の第2戦スペインGPでの優勝パフォーマンスだ。 [写真タップで拡大]

さて僕はと言えば、例年にも増して忙しい日々を日本で送っています。イベントや取材やスクールなどなど、完全オフ日がほとんどない状態で、うれしい悲鳴、でしょうか(笑)。去年はプライベートでツーリングに行く機会も多かったのですが、今年はなかなか……。最近はまっている趣味の釣りにもほとんど行けていません。

そんな中、先日、仲間たちとトライアルに行ってきました。僕たちの「先生」である本多元治くんのレッスンに参加……したわけではなく、レッスンを横目にしながら遊びのトライアルです。これがまた難しい! 半年ぶりでしたが、完全に元に戻ってました(笑)。

今回の課題に設定したのは、下りの直後に左に小さく曲がり、再び曲がっていくというセクションです。フロントが切れ込みやすい状況だということは、バイク乗りの方ならお分かりいただけると思います。切れ込まさずにうまく曲がれても、次の上りではフロント荷重が不足し、スロットルを開けるとズズズッと前輪が逃げていきます。

アウトステップに荷重をかけたくなるんですが、それだとバイクが起きてしまってやはりフロントが逃げていく。アウトステップの荷重をうまく逃がすために膝を入れるらしいんですが、「どうやるんですか〜?」状態です(笑)。外足を踏みたいのに、踏んじゃダメ。難しいから腰が引けてしまうと、フロント荷重が抜ける。それを防ぐために、膝を入れる……と、頭では理解できていても体が思い通りに動かない! 反復練習しか近道はなさそうです。

でも、こうやって「できないこと」に挑戦していると、いろいろなことに気付きますね。「頭では理解できていても、体が動かない」って、実は大事なスタートラインかな、と思います。何も分からないまま体だけ動くのとは違って、一応は理屈を頭で理解できているので、応用が利きます。次のステップにつなげやすいんですよね。頭でっかちで体が動かないのも問題ですが、頭の中に理屈を入れておくのも大事だよな、と思いました。

結局、朝から夕方までその課題に終始……(笑)。最後の30分で、自分のレッスンが終わった本多くんが顔を出してくれて、ポロッとアドバイスをくれたんです。そうしたら見事に1回成功しました! あとはこれを繰り返すだけ……なんですが、時間が空いちゃうとまたリセットされちゃうんだよな〜。まぁ、長く楽しめるバイク遊びのひとつとして、のんびり取り組んで行くつもりです。

反復練習をしたいけれど、時間がなあ~。 [写真タップで拡大]

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マシン・オブ・ザ・イヤー2021
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