着々と普及しているかのように見えるETC2.0車載器ですが、じつはバイクでの運用において、そのメリットを享受できるのはごく一部の機能に限られているのをご存じでしょうか? 今回はETC2.0で得られる/得られないモノを明らかにするとともに、ETC機器の選び方についても取材しました。
●文:Nom(埜邑博道)
ETC2.0機器は現時点ではバイクには必要ないのでは?
9月5日にWEBヤングマシンで公開した「『料金確定まで最長3週間』で見える親方日の丸体質」で書いたように、ETC2.0機器を使用するメリットのひとつである特定のスマートIC(全国に23カ所あり)をいったん降りて、IC近隣にある指定の道の駅を利用。3時間以内に同じスマートICから高速道路に乗って、降りた際と同じ方向に走行した場合は、目的地まで高速道路を降りずに利用した場合と同じ料金で高速道路を継続利用できる「賢い料金」社会実験を体験して、web明細上で高速料金が確定するまでに最長3週間かかる理由を取材しているうちに思い始めたのが「ETC2.0機器って、バイクに本当に必要なのか?」という根本的な疑問でした。
もっとも直截的なメリットであるETC2.0割引(ETC1.0機器装着車よりも高速料金が安くなります)や、実際に試してみた「賢い料金」社会実験にしても、じゃあ実際にいくら安くなったのかが判明(料金が確定)するまでに、現状では最長3週間もかかってしまいます。
安くなるのだからいいだろう、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが(各高速道路会社もたぶんそう思っているのでしょう)、サービスというものの本質はユーザーが求めるものをいかに正確かつ迅速に伝える(与える)かだとすると、まったくなっていないと言わざるを得ません。
そして、高速道路会社からは、お客様に不便をかけているのは把握しているが、料金確定のシステムが非常に複雑で、改修も検討しているが、いつになるかは現時点では答えられない、というお役所的答弁しか返ってきませんでした。
取材を続けているうちに湧いてきた疑問が、そもそもETC2.0ってなんのために導入されたのか、本当にユーザーのメリットを真剣に考えて導入したのかということでした。特に、前述のようにバイクユーザーにとってはあまりにもメリットが少ないのが現状で、これからETC機器をバイクに装着する方が従来からある1.0ではなく2.0を選ぶ理由はなんだろうということでした。
便利そう……ではあるけれど、バイクユーザーが利用できる機能はほんの一部
最近は新車を購入した場合、ETC2.0機器が標準装着されているケースが多いようです。あるいは、後付けの場合でも特に何も考えずに新しいモデルだからという理由で2.0を薦められて装着するケースも多いように思います。ボクも最近購入したHonda・ADV150にETC2.0機器が装着されていました。1.0と2.0のどちらにしますかという質問も、ディーラーからはありませんでした。
まあ、ETC2.0機器を装着したおかげで今回の記事が書けているのですから、ボクにはメリットがあったのかもしれませんが、ここで注目したいのが1.0と2.0の機器の価格差です。
下の表のように、現在もETC1.0と2.0の両方の機器を製造・販売しているミツバサンコーワの場合(日本無線は1.0機器は流通在庫のみ)、現在も製造・販売している現行モデルで2.0(MSC-BE700E)と1.0(MSC-BE61W)を比較すると、2.0は1.0よりも6050円高額です。この価格差は、2.0が全国高速道路の約1700カ所に設置された通信アンテナ「ITSスポット」からの情報を受信する機能を持つなど、1.0よりも「便利」なものだからです。
そういう便利機能を享受するために、2.0機器は構造上、1.0よりも高価になるということです。
しかし、その「便利」な機能を、現状ではバイクユーザーはほんの一部しか利用できません。これは、クルマも同様ですが、直截的なメリットである都心の渋滞を緩和するために導入するとしているETC2.0割引にしても、現在は圏央道と東海環状自動車道にしか導入されていません。この2つの高速道路を日常的に使用する人は日々メリットを感じているかもしれませんが、それ以外のごくたまにしかこの2つの高速道路を使用する人は気にもしないかもしれません。
料金割引で言えば、前述の賢い道路社会実験もそれに当たりますが、これだって料金が割引されるのはほんのわずか。先日、ボクが試した五霞スマートICで降りて乗り直した結果は、わずか10円安いだけでした(もちろん、乗り直した後に遠くまで走行すれば、割引額は少し上乗せされますが)。
さらに言えば、普通にSAやPAを使えば、わざわざいったん高速道路を降りて近隣の道の駅による必要なんてありません。これもなんだか、道の駅に寄ってもらえば地域振興になるのではと机上の空論を振り回しているだけのような気がします。
そして今回取材して分かったのは、このETC2.0構想ではバイクのことはまったく考えられていなかったのだろう、ということでした。
というのも、おそらくETC2.0の目玉である渋滞回避支援(広範囲の詳しい渋滞情報を提供することで、渋滞を回避する新ルートをETC2.0が提案)や、渋滞情報、災害情報、落下物情報といった高速道路上の様々な情報を提供することでの安全運転支援がバイクにはほとんど提供されていないからです。
もしかしたら一生気付かない通知機能
ほとんどと書いたのは、ETC2.0機器を装着していると、高速道路上の前方に何か情報があると、バイクに取付けられたインジケーターが点滅して知らせるという仕組みがあるからです。とはいえ、ただ点滅するだけで、その点滅が何を知らせているかは、SAやPAに入って自分で確認しなければいけません。
ちなみに、ボクは3年以上ETC2.0機器を使用していますが、そんな点滅に気づいたことは一度もありません。たぶん、多くのユーザーがそうだと思います。
ここでの問題は、クルマの場合は多くのメーカーからETC2.0対応のカーナビが発売されていて、ETC2.0機器が受信した各種情報がナビに表示されるようになっているのに対し、バイクの場合は情報を表示するソースがまったく用意されていないということです。
「ETC総合情報ポータルサイト」で「便利なETC2.0」というページを見ると、ITSスポットからの情報を得るためには「ETC2.0対応機器」と「ETC2.0対応カーナビ」あるいは「スマートフォン」が必要という記載があります(これにしたって、対象は「クルマ」と書かれています)。
スマートフォンで情報を得るためには、ETC2.0の情報を受信するためのアプリが必要だと思いますが、どこを探してもそんなアプリは見当たりません。唯一見つかったのが、デンソーがリリースしていたアプリでしたが、もちろんバイク用ではなく、さらに現在はリリース(アップデート)を停止していて、さらに今後も最新バージョンをリリースする予定はないとのことでした。
ETC2.0機器を販売しているミツバサンコーワに、ITSスポットからの情報を表示できない現状をどう考えているのか聞いてみました。
担当者によると、ミツバサンコーワでも情報を表示できないのは問題だと考え、画像ではなくETC2.0とブルートゥース接続したインターコムを通じた音声でライダーに伝えようと検討し、実際に開発・試験を行ったそうです。
ところが、ITSスポットからの情報があまりに多すぎて、たとえば東名高速道路を走っているときに新東名高速道路の情報まで受信して通知してしまい、あまりにも煩わしく、ライディングに集中できないほどだったと言います。
ETC2.0対応のカーナビの場合は、ITSスポットからの情報はサブ画面に表示されるなど、通常ユースに支障のないようになっていますが、ライディング中にまったく関係のない道路や遠方の情報が耳に入ってきたら……。
こんな機能は誰も使わない(使えない)と判断して、ミツバサンコーワは音声情報の採用を断念したとのことでした。
さらに、スマートフォンに対応したアプリを開発する予定はないのかとお聞きしたところ、アプリ開発には多大なコストが必要で、機器メーカーがそれを行うと機器のコストアップにつながってしまうので考えていない。さらに、ITSの規格があってその認証を取るのにも莫大なコストがかかるため、どのアプリ製作会社も二の足を踏んでいるのだと教えてくれました。
システムを導入しても、それを便利に使えるインフラがバイクには用意されていない。いつも思ってしまう、バイクだけ置き去りにされている感じが今回もしてしまいました。
国交省もバイクにはメリットがないのを承知していた!
監督官庁である国土交通省の道路局高度交通道路システム推進室(ITS推進室)に、バイクだけETC2.0の恩恵を十分に享受できていない現状をどう考えているのか聞いてみました。
「バイクユーザーがETC2.0のメリットを、十分に受けていないのは承知しています」
そう前置きしてから、2015年のETC2.0導入当時はいまのようにスマートフォンが普及していなかったため、その対応は十分ではなかった。現在は非常に普及しているが、スマートフォンに情報を表示させるのはバイクを運転する際の安全上、問題はないか検討している段階。さらに、スマートフォンは2~3年ごとに新機種が出るので、それに合わせてプログラムを変更しなければいけなくて、開発メーカーに非常に負担になると考えている。それも踏まえつつ、車両メーカー、機器メーカー、携帯会社、アプリ開発メーカーと議論しながら進めていきたいと思う、とのことでした。
アプリ開発メーカーの負担軽減のために、補助金などを交付することは検討しているか尋ねると、それはまったく考えていないとのことでした。
数多くのナビアプリをリリースしている(バイク用はツーリングサポーター)ナビタイムジャパンに、国交省などETC2.0を普及させようとしている団体などから、ETC2.0に対応するナビアプリの開発依頼や打診があったかを尋ねましたが、そういうものはこれまでないという回答で、ETC運用サイドはどこまで本気でバイクユーザーがETC2.0のメリットを受けていない現状を打開しようとしているのか、疑問を持ちました。
今回の一連の取材で感じたのは、前回の料金確定のプロセスで感じたものと同じことでした。
目的があってスタートさせる事業において、それを国民がどういう形で恩恵を受けられるのか、それもだれも置き去りにせずに実現できるのかという観点がまったく欠如していることが公然と憚っていると言わざるを得ません。
前回の高速道路会社にしても、今回の国交省にしても、自分たちがしたいことは積極的に推進するのに、その動きに取り残される人々については考えが及んでいないのです。
結論ですが、現状ではバイクにETC2.0は必要ないと思いました。
標準装着なら仕方ありませんが、自分で選択できるならETC1.0機器で十分です。2030年頃からETC機器のセキュリティが変更になるそうですが(今回の件とはあまり関係がないので説明は省きます)、ミツバサンコーワは新セキュリティ対応の1.0機器も新開発して販売しています。
1.0か2.0かの選択ポイントは、現状ではETC助成金の有無くらいしかないと思います。
そして、この助成金にしても、2.0を本当に推進したいなら2.0を装着する場合のみに助成金を付けるべきなのに、1.0まで含む装着キャンペーンが現在でも行われているのです。
なんだか、ここにも闇があるような気がしました……。
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