KTM 1290スーパーアドベンチャーS/R試乗インプレッション【ビッグオフ界最強の踏破力!】

KTM 1290スーパーアドベンチャーS/R試乗インプレッション

ダカールラリーにおいて最多優勝記録を持つオーストリアのバイクメーカー・KTM。そんなKTMが作るアドベンチャーツアラー「1290スーパーアドベンチャー」は、ラリーマシン作りのノウハウを存分に活用したオフロード特性が最大の強み。’21モデルは、高速ツアラー仕様の「S」とオフロード性能重視の「R」それぞれがブラッシュアップ。ヤングマシンのアドベンチャー&エクストリーム隊長・ヤタガイ氏が試乗インプレッションをお届けする。


●文:谷田貝洋暁 ●写真:山内潤也 ●外部リンク:KTMジャパン

【テスター:谷田貝洋暁】時代の荒波にもまれ、YouTuber化しつつあるフリーランスライター。もちろん、今回のインプレッションもこのKTMアドベンチャー試乗会の様子も動画で公開済みだ。

オフでは負けられない! 意地のフレーム改変

またがった瞬間、「1290スーパーアドベンチャーって、SもRもこんなにコンパクトだったっけ?」と首をかしげた。

今回の試乗会はKTMジャパン主催で、会場は日本自動車研究所の城里テストセンター。技術説明を受ける前に、ライディングポジション写真などを撮ってしまおう、ということになったのだが、何の事前情報を得ていない状況でも「前作比でかなりコンパクトになった」と感じられたのだ。

これならオフロードでも結構遊べると胸をなで下ろす。というのもビックオフ、とりわけ重量級のリッターオーバーアドベンチャーの試乗は毎回ドキドキである。こんなデカいバイクを扱えるのだろうか? しかもKTMのことだから、オフロードセクションの試乗は必須。ダート性能の高さを証明するためにもちょっとはパンチの効いたアクションシーンが欲しいところではあるのだが…。

あろうことか天気が雨なのである。「こんなの転かしちゃったらどうすんだよ? 約260万円だよ?」。朝っぱらから憂鬱な気分でライディングポジション撮影に臨んだのだが、意外や意外。「コイツとなら、オフロードセクションもなんとかなるかも」。SもRもまたがった瞬間そう思えた。そして押し引きしているうちにそれが確信へと変わったのだ。

KTM 1290スーパーアドベンチャーS

フロント荷重を増して、しっかり路面を掴め!

その後に技術説明を受けたところ、足付き撮影時に感じたコンパクトさの理由が分かった。説明文をそのまま書けば、SもRも「ステアリングヘッドを15mmほど後ろへ移動して、フレーム全長を短くすることでコーナリング動作を向上させている」らしい。

…難しいよね、説明しよう。年々進化するアドベンチャーツアラーのキャラクターの中で一番ネックとなるのはオフロード性能だ。特に21インチホイールを装備した新生アフリカツインが’16年に登場して以来、オフロード性能での競争が激化。フロント21インチホイールでオフ性能を謳ったモデルが続々登場している。

ただ、排気量が大きくなればなるほどオフロード性能とのバランスが難しくなってくる。エンジンの前後長が大きくなってしまい、フロント荷重をどんどん稼ぎにくくなるからだ。新生アフリカツインが、V型ではなくパラレルツインを採用したのもこの前輪荷重を稼ぐためだし、直近のドゥカティ ムルティストラーダV4Sが、90度LではなくV4エンジンを載せたのも同じ理屈。そんな時流を意識してだろう、KTMでも790(現890)アドベンチャーシリーズにパラレルツインを登用して、ミドルアドベンチャー随一のオフロード性能を獲得することになった。

さて、今回の1290スーパーアドベンチャーS/R。なんと搭載するエンジンは、KTMが「LC8」と呼称して大事に育てているこだわりの75度Vツインである。さてさて、どうやって車輪を15mmもエンジンに近づけたのか?

その答えは…、KTMはラジエターを左右に割ったのだ。Rの走行写真を見てもらうと、これまでエンジンの前にあったラジエターが左右に分かれており、シリンダーヘッドの一部が見えることだろう。

実質的には、ラジエターを分割したことでエンジンを2度ほど前傾させ、結果としてステアリングヘッドが15mmも後ろへ移設できた。ちなみにホイールベースは、S/Rとも従来モデルと同じ長さを確保。稼いだ15mmはスイングアームの延長に充てている。

KTM 1290スーパーアドベンチャーR

’21モデルのRは歴代一番のオフ性能

走り出してみると、やはり車体がコンパクトになったと確信を得た。特にフロント19インチのSは舗装路でのハンドリングが軽く、重さを感じにくい。

同シリーズには、’15年の登場時から試乗しているが、’15モデルは、19インチモデルのみだったこともあり、完全に高速ツアラーという体だった。その後、’17モデルで1190シリーズと統合、SとRに分かれて従来型へと進化した。シルエットこそ今回の’21モデルとは似ているが、今回のモデルチェンジで、オフロード性能において格段の差が付いたと言っていい。

その差を大きく感じるのは、Rでのコーナリング。今回のような雨のダートはフロントタイヤが滑りそうで嫌なものだが、スタンディングでハンドルを押さえ込み、しっかりフロント荷重をかけているぶんには、かなり安心感があり怖くない。それどころか少々リヤが滑ったところで、アクセルを開け続けていられる。このコントロール性の良さこそ、ステアリングヘッドの15mm移設とスイングアーム延長の恩恵によるところだ。

KTM 1290スーパーアドベンチャーR

また驚いたのは、電子制御まわりのブラッシュアップ具合。正直に言えば、これまでのKTMのトラクションコントロール(ラリーモード)はアフリカツインのそれに負けていた感がある。段階的にトラクションコントロールの介入度を変えられるのは同じなのだが、介入度を下げていった場合にどこまでスライドを許容するか? そこに大きな違いが生まれていた。

スロットルバイワイヤを積んで以降のアフリカツインでは、トラクションコントロール介入度を最弱にすると「フルカウンターまでイケるんじゃないの?」というぐらいのスライドを許容してからトラクションコントロールが介入し、穏やかにスイライドを収束させる。スライドしていたリヤタイヤが、スッと”戻ってくる”のだ。

一方のKTMのトラクションコントロールは、ラリーモードで介入度を最弱にしても、「ちょっと滑ったな?」というところですぐにトラクションコントロールががっつり介入=「待った!」がかかった。景気良くスライドをかますにはトラクションコントロールをオフにするしかなかったが、今回のモデルチェンジでアフリカツインと似たような制御を獲得。これは890シリーズでも同じことが言える。

’21年6月現在、新型のR1250GS/アドベンチャー/ムルティストラーダV4S/CRF1100Lアフリカツイン/アドベンチャースポーツなどなど、リッターオーバークラスのアドベンチャーツアラーの試乗は済ませたが(パンアメリカのみ未試乗)、その経験から言えば、この新作KTMのオフロード走破力は最強と言っていい。特にRは、そのオフ性能においてライバルから頭ひとつ抜け出した感がある。

KTM 1290スーパーアドベンチャーS

Sに標準の目玉装備「自動追従クルーズコントロール」を試す!

1290スーパーアドベンチャーSは、ドゥカティ ムルティストラーダV4S/BMW R1250RTと同様、ボッシュ製の前走車追従型のクルーズコントロール(アクティブクルーズコントロール/以下ACC)を搭載している(Rは通常のクルーズコントロールのみ)。クルーズコントロール使用時には、設定した速度の範囲内という条件の下で、前方の車両を認識し追従走行。前方の車両が減速すれば、エンジンブレーキ/ブレーキを使って車速をコントロール。また追い越し時にはウインカーを出した時点で追い越し加速を始めるという、長時間の高速巡航時に非常に便利な機能だ。ACC開始速度は30~150km/hで、上限速度は180km/h。なお、ライディングモードがオフロード系モードの場合には使用できない。

Sにはアクティブクルーズコントロールを搭載。

【フロントにレーダー完備】搭載するのはボッシュ製のACCで、ミリ波レーダー装置をヘッドライト下部にビルトイン。車のようにカメラによる視覚認識ではなく、ミリ波レーダーを使うのは、レンズ面の汚れの付着を嫌ってのことだ。

【車間設定は5段階】前走車との間隔は”秒”で管理しており、0.9秒/1.0秒/1.2秒/1.5秒/2.0秒の5段階の設定が可能。上の写真は0.9秒で約80km/h走行中。

【さすがKTM。ACCも攻めるゼ!】“READY TO RACE”なKTMは、なんとクルーズコントロールにスポーツモードを搭載。コンフォートに対して、ACCを使った追い越し加速時のなどの出力設定がよりダイレクトになり、コーナリング時の自動減速機構などがカットされる。


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