’03年に登場し、’10年からはロードスポーツ/ツーリング/アーバン/オフロードの4つの用途を持った4in1バイクをコンセプトに進化してきたドゥカティの「ムルティストラーダ」シリーズ。最新モデルの「V4S」は、その名の通りパニガーレ由来のV4エンジンを搭載した最上級モデルだ。
●文:谷田貝洋暁 ●写真:真弓悟史 ●取材協力:ドゥカティジャパン
ロード性能を保持したままフロント大径化に成功。コーナーがすこぶる楽しい
“前後17インチホイールによる圧倒的なロード性能”。これこそムルティストラーダのアイデンティティだと信じていた僕にとって、最近のムルティストラーダのフロント19インチ化の流れはどうも解せないものだった。舗装路では腰を落として肩から曲がっていくようなロードスポーツ性能。その一方でダートではタイヤのグリップにモノを言わせて前後17インチとは思えない走破性を見せる。これがムルティストラーダだと思っていた。
ところが新しいV4エンジンのムルティストラーダもどうやらフロント19インチ。いくら最近の流行りがオフ性能重視だからといってどうなのよ? そんな疑問を胸に、新しいムルティストラーダV4Sで走り出したのだが、すべては僕の勘違いであることがすぐに分かった。
フロント19インチ化したからといって、持ち前のロード性能を捨てたわけではなかったのだ。この腰を落として肩からコーナーに突っ込んでいける乗り味は、まさにムルティストラーダ感覚。前後17インチモデルとなんら遜色ないレベルのスポーツ性能だ。
いろいろと理由を考えてみたが、やはりV4エンジンの効用が一番だろう。Lツイン比で前後長はマイナス85mm、ハイトでマイナス95mmも小さくなったこのエンジンなら、前輪が大きくなったところで搭載位置をかなり前方に寄せることができる。フロントの荷重をしっかり稼いでなおかつステップも前へ。軸間距離1567mmのなかで、スイングアームもより長く取れる。
さらに、クランクを逆回転させることでフロント19インチの重ったるさを相殺。思いのほかコーナーではヒラヒラと軽快に切り返すことが可能なのだ。新しいムルティストラーダV4Sは、フロント19インチ化しながらも、持ち前のロードスポーツ性能をしっかり保持することに成功している。
ダート性能も格段にアップ! 真の4in1バイクへと昇華
ではオフロードではどうか? ライディングモードを“スポーツ”から“エンデューロ”へと切り替える。ちなみにライディングモードがスポーツ/ツーリング/アーバン/エンデューロの4種類なのはこれまで通り。
4in1バイクはこの4つのモードが由来であるが、まず各モードのキャラクターに合わせたサスペンションセッティング(個別にプリロードや減衰特性の変更も可能)が付与され、加えて3段階のパワー、8段階のトラクションコントロール、オフを含めると4段階のABS設定なども割り振られ、各モードのキャラクターを形作っている。
エンデューロのデフォルト設定は、パワーは弱でトラクションコントロールは8段階のうち2番目。トラコンに関してはちょっとダートを走ってみた段階でまだ介入が強い気がしたので、1に下げてみるとスライド許容量が少しだけ大きくなった。いろいろ試してみたが、大きなテールスライドを楽しむには、完全にオフにする必要があるタイプの味付けだ。
車体に関しては、さすがにフロント21インチ族のアドベンチャーツアラーほどの走破性はないものの、19インチ化されたことで格段にオフ性能はアップした印象だ。少なくともタイヤのグリップ力に頼ることが多かった旧シリーズとは違い、車体性能の根本的なところで性能が向上している。
最大の要因はフロント19インチ化にあることは疑いようがないが、もうひとつの大きな要素が新採用のアルミモノコックフレームにありそうだ。
実はこのアルミフレームにも、最初は抵抗を感じた(笑)。「しなやかな鋼管トラスフレームのドゥカティがアルミモノコック? しかもオフを走るムルティストラーダに?」なんて驚いてしまった。しかし走ってみれば、ロードセクションはもちろんオフロードセクションでも十分しなやかで、車体がコンパクトに感じるいい車体なのだ。
近年の解析技術の進歩でバイクメーカー各社のフレームの剛性コントロール技術は飛躍的に向上しているが、それはドゥカティも同じ。アルミモノコックなんて名前だけで、ものすごく高剛性な印象を受けてしまうが、なかなかどうして鋼管トレリスフレームに負けないぐらいのしなやかさを持っていることに驚かされた。
またオフロードでとくに気に入ったのがステップポジションの最適化だ。エンジン搭載位置に合わせて、ステップ位置そのものがずいぶん前に寄ったような印象を受けたのだが、おかげでスタンティング時の荷重コントロールがよりしやすくなった。少々リヤタイヤがスライドして暴れたところで上半身の荷重移動とステップコントロールできっちり抑え込めるようになっているのだ。オフロード性能の向上に関しては随分と力を入れたそうだが、その効果は十二分に実感できた。
大きく変化したムルティストラーダに対し、最初は抵抗があったのも確かなのだが、舗装路にせよダートセクションにせよ、試乗を終えてみればその感想は180度すっかり変わってしまった。特にコンパクトなV4エンジンとフロント19インチホイールの相性は、ムルティストラーダのキャラクターにこそベストマッチと思うようになったぐらいである。固定概念に囚われない、イノベーションに溢れた発想こそこのムルティストラーダにはふさわしいのだろう。
ムルティストラーダV4Sディテール解説
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