“どう積むか”がすべて解決!?

地面から遠く、前輪に近く! 新V4エンジンが「ムルティストラーダV4S」を真のアドベンチャーバイクにした


●文:ヤングマシン編集部 ●取材協力:ドゥカティジャパン

ヤングマシン×RIDE HI

ヤングマシンとRIDE HI、コンセプトの異なるふたつのメディアが、ドゥカティ「ムルティストラーダV4S」の魅力をそれぞれの視点から探っていく全4回のコラボ企画。本記事ではパニガーレV4/ストリートファイターV4に次いでV4エンジンを搭載したこのアドベンチャーマシンが、新エンジンを必要とした“ある目的”について考察する。

世代交代を印象付けるため? そんなことはなかった!

脱デスモドロミック!? そんなセンセーショナルな見出しが躍ったムルティストラーダV4Sの登場時、新V4エンジンの採用は商品性の向上や、厳しくなる環境対応にともなうエンジンの世代交代のためだと思われていた。

実際に、新V4エンジンはスプリングによるバルブリターンシステムを採用することでメンテナンスインターバルを伸ばしたり、気筒数が増えたにもかかわらずエンジン単体での重量低減とコンパクト化を推進した。

しかし、ドゥカティジャパンによる『V4グランツーリスモ(新V4エンジン) テクニカルプレゼンテーション』で話を聞くほどに、この大掛かりなモデルチェンジは、ムルティストラーダV4Sが新たな地平を目指しているからこその必然だったと理解できた。

エンジン開発の具体的な手法や、初代ムルティストラーダのロードバイク寄りのキャラクターからアドベンチャーマシンに進化してきた歴代モデルについては関連記事を参照していただくとして、ここではV4エンジン搭載を要求したムルティストラーダV4Sのマシンコンセプトを、車体造りの面から紐解いてみたい。

エンジン搭載位置の最適化と最低地上高アップ、そしてフロントホイール大径化が寛容なハンドリングと走破性をもたらす。

ドゥカティがムルティストラーダV4Sで実現したかったのは、前後17インチホイールを基本としたロード寄りのモデルから、BMW・R1250GSをはじめとするライバル勢とガチンコ勝負できるアドベンチャーモデルへと進化することだ。それはフロント19インチホイールのみのラインナップとなったことからも明らかだが、新V4エンジンによる貢献も大きな意味を持っている。

V4エンジンの見逃せないメリットに、ムルティストラーダ1260のテスタストレッタDVT(Lツイン)と比較して大幅なコンパクト化を実現したことがある。エンジンの高さで-95mm、前後長で-85mmとし、エンジン幅は+20mm増としたもののエンジン単体重量でも-1.2kgのダイエットに成功している。

左は新型ムルティストラーダV4Sの『V4グランツーリスモ』エンジン、右は従来型ムルティストラーダ1260シリーズの『テスタストレッタDVT』と名付けられたVツインエンジンだ。

ムルティストラーダV4S。フロントホイールが大きく、さらにエンジン高の短縮やリヤホイールトラベルが+10mmの180mmとなったことで、最低地上高はVツインのムルティ1260Sから+46mmの220mmとなった。ホイールベースは1567mm。

従来型となるムルティストラーダ1260S。シリンダーヘッドが17インチのフロントタイヤに近付いているが、エンジン長があるためスイングアームはやや短い。前後ホイールトラベルは170mm/170mmで、ホイールベースは1585mmだ。

このことがもたらしたのは、エンジン搭載位置の自由度が格段に増したことだ。Lツインの難しさのひとつに、前輪分担荷重が稼ぎにくいことがあった。これは前方に突き出たシリンダーの影響で、前寄りに積むにも限度があったから。同時に重心位置も高くせざるを得ず、ハンドリングへの影響がかなり大きいエンジン搭載位置に大きな自由度があったとは言い難い状況だった。

ムルティストラーダV4Sの“V4グランツーリスモ”エンジンは、前後長が短いうえにシリンダーバンクがLツインよりも起きていて、エンジン重心をかなり前輪に寄せて搭載することができる。また、デスモセディチストラダーレ(パニガーレV4のエンジン)に比べてオイルパンもフラットになっているので、重心を下げたうえで最低地上高も稼ぐことができる。

各軸間の距離で写真の寸法を合わせたV4エンジン。左はパニガーレV4の『デスモセディチストラダーレ』、右がムルティストラーダV4Sの『V4グランツーリスモ』だ。

こうして適切な搭載位置としたV4エンジンに組み合わされるフレームは、こちらもパニガーレ系のノウハウを生かし軽量コンパクトに造られたアルミ製モノコック構造。両持ちとなったスイングアームはトレリス状になった完全新設計のもので(かなり長い!)、これにドゥカティスカイフックサスペンション(DSS)EVOシステムによって制御される、マルゾッキ製セミアクティブサスペンションが装備されている。

ホイールは前述したようにフロントは大径19インチ、そしてリヤはやや細身の170mm幅タイヤを装着する17インチという構成だ。

試しに跨ったり押し引きしたりしてみたが、軽く感じられる車体なのに動きは適度にゆったりとしているという、まさしくアドベンチャーらしい挙動を想像させるものだった。

もし愛車にするなら、スポークホイールを選択したうえでエンジンバンパーを取り付け、ラフに扱ってみたい。そんな贅沢なバイクライフを想像させてくれた。

ムルティストラーダV4S & ムルティストラーダ1260S【足着き/スペック比較】

ライダーは身長184cm/体重78kg。跨り車のムルティストラーダV4Sのシート高は欧州仕様の840mmとされていたが、シリンダーヘッド後ろバンクが短くなったせいかシートのクッション厚は40mmも増しているといい、日本仕様で標準装着される予定のローシートでも不自然なえぐれ感はないという。押し歩きでの舵角のつき方は自然でしっとりした感じだった。

シート高825mmのムルティストラーダ1260Sは、シート自体は低いもののクッション厚があまりなく、少しガニ股っぽくなってしまう。シート形状も前後にフラットなV4Sに対し、ややえぐれていてスッポリとはまる感じになる。押し歩きすると、フロントタイヤがやや遠く、小径っぽい小回り感があって、オフ車好きの立場からするとややクイック過ぎるかも。

ムルティストラーダV4S & ムルティストラーダ1260S【スペック比較】


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