小排気量のバイクを勧める理由

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.57「ライディングの感覚を維持する」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第57回は、バイクを楽しむ派にもレース派にも言える「感覚の維持」のお話。

TEXT:Go TAKAHASHI

技術と予測力は、乗り続けることで保たれる

モトGP第5戦フランスGPは、雨に翻弄される難しいレースでしたね。マルク・マルケスがトップに立った時にはそのまま勝つかと思いましたが、転倒リタイヤとなってしまいました。さすがのマルケスもレース勘が戻っていないんですね。

今までのマルケスなら、ウエットとドライが混在する路面コンディションはもっとも得意としていたシチュエーションだったはず。ウエット路面を平気でスリックタイヤで走るような人なので(笑)。「自分をコントロールできなかった」とコメントしていましたが、焦りもあったのでしょう。マルケスなら復帰後もっとあっさり勝ってしまうのでは、という期待もありましたが、なかなか苦戦していますね。ライディングの感覚を取り戻せていないのでしょう。「バイクって難しいなあ」と改めて思います。

3月末に日本に到着してから2か月経ちましたが、プライベートでバイクに乗る機会が増えてそれなりに楽しんでいます。トライアルにモトクロスにツーリング。今腰と膝が痛いのは、ちょっとバイクに乗りすぎかな(笑)。でもバイクは乗れば乗るほど体に馴染んでいく乗り物。いくら乗っても飽きることがありません。

“あの”マルケスでさえ、ブランクからの復帰に手こずっているんです。やはりブランクはないに越したことはありません。毎日のように乗ることで、ライディングの感覚を維持できます。だからこそ僕は、気軽にヒョイと走り出せる小排気量のバイクを皆さんにお勧めしていますし、僕自身もセロー250を愛用しているんです。

出し入れも面倒じゃないし、自転車感覚で乗れてしまうセローですが、毎日乗っていることで自分自身が上達していることが分かります。そしてテクニック以外でも、まわりの交通がどんどんよく見えるようになるんですよね。「あのクルマは要注意だぞ」「あのコーナーの先は危なそうだぞ」といった予測力が上がっていくのが分かります。乗れば乗るほど技術+予測が高まって、余裕を持ってバイクを楽しめるようになるんです。

大事なのは排気量の大小ではなく、バイクにできるだけ多く乗ること、乗り続けること。たまにしかバイクに乗らないようでは、なかなか感覚を取り戻すことができません。出し入れに苦労してめったに乗らない大きなバイクより、サッとまたがって毎日乗れる小さいバイクの方が身になると、僕自身も実感しています。もちろん大きなバイクには大きなバイクでしか得られない所有感や楽しみ方がありますから、それを否定はしません。だから理想は大小2台持ち、なんですけどね(笑)。

ヤマハ セロー250ファイナルエディション

原田さんの愛車はセロー250の2019年式。写真のファイナルエディションの1つ前のカラーリングモデルだ。 [写真タップで拡大]

雨でも速いライダー、その秘密を知りたい……

さて、フランスGPの話に戻りますが、決勝ではフラッグ・トゥ・フラッグが宣言されましたね。レース中に路面コンディションが変わった時、ピットインして異なるタイヤを装着したマシンへの乗り換えが許される、というルールで、’05年から導入されています。スリックタイヤ装着車→ウエットタイヤ装着車、逆にウエットタイヤ装着車→スリックタイヤ装着車に乗り換える、という具合ですね。

僕の現役時代は赤旗掲示でいったんレースが中断となってタイヤ交換していましたが、フラッグ・トゥ・フラッグだとレースは続行されます。どのタイミングでピットインするかはライダーの判断次第。ピットインは当然余分なタイムロスとなりますので、この判断が重要で、よりスリリングな展開のカギとなります。例えばこんな感じ。

「スリックタイヤでのレース中に雨が降り出した。レインタイヤ装着車に乗り換えたいけど、空を見ると明るくてすぐに止みそうだ。止むならこのままスリックタイヤで行った方がいい。でも振り続けるならレインタイヤがいいに決まってる。どうする? どうしよう?」……ああ、自分で書いていても嫌になる判断を迫られますね(笑)。観ている分には楽しいんですが、やってる方は大変だと思います。

僕は完全に守りに入るタイプなので、安全策を選んでしまいます。さっきの例で言えば、すぐにピットインしてレインに変えてしまう。ギャンブルができない性格なんです。でも、安全策と言っても、実はそれだってリスク。もし雨が止んで路面が乾けば、レインタイヤへの変更は失敗ということになりますからね。こればっかりは運を天に任せるしかありません。

ただし、優勝したジャック・ミラーはピットレーンの速度違反でダブルロングラップペナルティを課せられた上での勝利ですから、運とばかりは言えません。なぜウエット路面であんなに速いのか……。僕は現役時代、雨が苦手ではないけど速く走れなかったので(笑)、走りの秘密を彼に聞いてみたいぐらいです。

そして最近のトピックスとしては、アプリリアの活躍が目立っていますね。アプリリアは昨シーズン表彰台を獲得していないため、今シーズン中もエンジン開発ができるというコンセッション(優遇措置)が適用されています。他メーカーのエンジン開発が凍結されている中、これは大きなアドバンテージ。それを生かしてどんどん差を縮めてきています。

僕はもともとアプリリアのファクトリーライダーでしたが、当時のスタッフはもう残っていないので、今のチームの雰囲気は分かりません。でも、イタリア人のパッションのすごさはよく知っています。イタリア人に「陽気でルーズ」というイメージを持っている人も多いと思いますが、好きなことに懸ける情熱は強烈で、文字通り寝る間も惜しんで働きます。

現役時代の僕は、転ぶとだいたいマシン全損(笑)。チームは夜を徹してマシンを全部バラして一生懸命直してくれる。僕が翌朝9時ぐらいにピットに行って「どう? 直った? 寝られた?」なんてのんきに聞くと、「もちろん直った。ちゃんと寝てるよ」なんて言うんですが、実は朝6時ぐらいまで修復作業してくれていて、ほとんど寝ていなかったりする。

ありがたいも何も、やっぱり「みんなのために頑張らなきゃ」「絶対勝たなきゃ」と思いますよね。そして、勝つ(笑)。失敗しても全力を尽くしてよりよい成果を出すことで、チームから信頼されるんです。僕もチームを信頼して大事にしていたし、チームも僕を信頼して大事にしてくれていました。

メディアへの対応が悪かったので対外的なイメージは「クールデビル」ですが(笑)、実はチーム内はすごく明るくて楽しかった。当時、パドックでは1、2を争うぐらい仲のいいチームだったんですよ。僕は仕事は信頼できるスタッフと楽しくやりたい派なんです。……な〜んて言ってますが、こういう考え方は社交的な奥さんの美由希さんに教わった部分が大きいんです。彼女には今もすごく感謝しています。

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