SP忠男レーシングチームのOB会も

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.56「勝てばオレのおかげ、負ければチームのせい」とは?

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第56回は、ファクトリライダーのメンタルについて。

TEXT:Go TAKAHASHI

次世代スターライダーと、日本人ライダーへの期待

第4戦スペインGPも見応えたっぷりでしたね! 今、熱い注目を集めているモト3クラスのペドロ・アコスタ(ゼッケン37)が新人ながら早くも3勝。新人が開幕戦から4戦連続で表彰台に立つのは史上初ということで、早くも次世代モトGPトップライダーと目されています。

今回は予選が不発で13番手だったこともあり、「さすがに厳しいかな」と思っていましたが、彼はとにかくレースに強い! 最終ラップではデニス・オンジュが他のふたりを巻き込んで転倒、リタイヤしましたが、アコスタはしっかりと巻き込まれない位置にいるんですよね。たぶん本人はあまり考えていなかったはず。持って生まれた運のようなものとしか思えませんし、レースではそれもかなり大事な要素。この快進撃がどこまで続くのか、楽しみですね。

開幕戦2位、第2戦以降は優勝、優勝、優勝を達成し、史上最年少となる3戦連続優勝、史上初となるデビュー戦から4戦連続の表彰台を獲得したペドロ・アコスタ選手。スペイン生まれの16歳(間もなく17歳)で、チームはRed bull KTM Ajoだ。 [写真タップで拡大]

鈴木竜生くんは見事なポールポジションで魅せてくれましたが、全体的な調子は去年よりも悪そうに見受けられます。結果に結びつかないのが残念なところ。その一方で、佐々木歩夢くんが徐々に調子を上げています。この調子ならどこかで表彰台に立ってくれるでしょう。アコスタの活躍に目が奪われますが、日本人ライダーにもぜひ頑張ってほしいところです。

[左]モト3でポールポジションスタートとなった#24鈴木竜生選手。[右]#79小椋藍選手は世界選手権参戦2年目の2020年、モト3クラスで総合3位に入り、今年からモト2に参戦している。 [写真タップで拡大]

モト2の小椋藍くんは9番手グリッドからスタートし、7位でフィニッシュしました。モト2でのレースはまだ4回目、多くを学んでいる最中だと思います。特にレース終盤、タイヤがタレてきた時のマシンコントロールや、それを見越してのマシンセッティングなど、今まさに試行錯誤しているのでしょう。

レースとは、少しでも上のポジションでチェッカーフラッグを受けることを目的とした競技です。決勝レースのトータルラップを考えたマシンセットアップや、コンスタントなタイムを持続させる走り方を身に付ける必要があります。決勝は、予選より遅いタイムで進行していくものですが、だからと言ってラクなわけではありません。タイヤが消耗した時なりの難しさがあるんです。それでも藍くんはかなり頑張っています。1シーズンの中でいろいろ分かってくると思いますので、今の調子を維持してほしいものです。

モトGPクラスは、ファビオ・クアルタラロが独走優勝を果たすのではないかと思いましたが、腕上がりでポジションを落としてしまいましたね。重くて速いモトGPマシンをあれだけのハードブレーキングで減速させているわけですから、筋肉のキャパシティを超えてしまってもおかしくありません。特にスペインGPの舞台であるヘレスサーキットは休めるところがなく、ブレーキングからの切り返しが多いから大変です。クアルタラロは腕にまったく力が入らなくなったようですが、逆によく完走したものだと思います。

ポールポジションスタートからトップを快走するも、腕上がりの症状によって後退していった#20ファビオ・クアルタラロ選手。 [写真タップで拡大]

僕はロードレースでは腕上がりの経験がありませんが、最近始めたモトクロスやトライアルではすぐに腕上がりしてしまいます(笑)。慣れていないから腕に力が入ってしまうんですよね……。サーキット走行会などでは皆さんに「腕の力を抜いてください」なんてアドバイスさせてもらっていますが、土の上では自分がガチガチ(笑)。だって、土の上は滑りますからね……。怖くて力が入るというものです。

ロードレースでは普通にできることが、土の上だとできなくなるんですよ……(笑)。僕もオフロードで皆さんのサーキット走行と同じ経験をして、皆さんにアドバイスする上でもいろいろ勉強になっています。いい先生に教わりながらちょっとずつレベルアップしているという手応えはありますが、ペースは非常にゆっくりです。でも、おじさんの遊びですからね(笑)。それでいいと思っています。

年齢もありますし、仕事もありますから、ケガは絶対にしたくありません。だから無茶はしません。うまい人たちの走りは本当に素晴らしくて眺めているだけでも楽しいものです。キッズモトクロスライダーなんか恐ろしく速くて、僕が地べたをノタクタと走っているのをジャンプして空中でピューッと抜いていきます(笑)。「カッコいいなぁ!」と思うけど、自分がそうなるつもりはありません。せっかく見つけた楽しい遊びですから、わきまえながら長く楽しもうと思っています。

だいぶ話がそれましたが(笑)、モトGPクラスの決勝はジャック・ミラーが優勝しました。ドゥカティのファクトリーチーム入りしての1勝目、そしてドライのレースで初勝利ということで、涙を流す姿も見られました。ファクトリーチームは、「勝たなくちゃいけない」なんてものではなく、「勝って当たり前」。その責任の重さやプレッシャーの大きさたるや、ハンパではありません。

はっきり言って、「勝てばオレのおかげ、負ければチームのせい」と思えるぐらいの気持ちの強さを持っていないと、ファクトリーライダーは務まらないんです。勝てなかった時でも、弱気になっちゃいけない。常に強気でいないと、プレッシャーに押し潰されてしまいます。このコラムでも再三繰り返していますが、モトGPライダーたちのテクニックは全員超一級品です。勝つか、勝たないか、チャンピオンになれるか、なれないかはほとんどメンタルの差でしかない。自分がどれだけレースにすべてを捧げられるか、そして強い気持ちを保ち続けられるか、という勝負なんです。決勝ともなれば、そのメンタルは200%に解き放ちながらも、マシンやタイヤの限界を超えてはいけません。それこそまさにメンタルコントロール。とても難しいものです。

中上貴晶くんは、3位表彰台が目の前に見える4位でフィニッシュ。相当に悔しかったことでしょう。25周のレースを戦って、3位のフランコ・モルビデリとのタイム差は0.69秒。1周あたりにすれば、わずか0.03秒に満たない差でしかない。これで表彰台に上がれるか、上がれないかが決まってしまったわけです。タイヤがワンメイクということもあって、本当にちょっとしたことで差が出るシビアなレースになっています。

[左]ホンダ最高位/自己最高位タイの4位に入賞した#30中上貴晶選手。[右]感極まった様子も見せた#43ジャックミラー選手。今年からドゥカティファクトリーチームに昇格している。 [写真タップで拡大]

こうなると、中上くん自身の走りとマシンセットアップの両面で「ちょっとした進化」が不可欠です。これだけの僅差を「合わないマシン」で埋めることはできませんからね。そしてセットアップに関しては、チームのサポートが絶対に必要です。中上くんは去年からの実績ですでにチームからの信頼を得ているはず。「あと1歩」を得るためにチームと綿密にコミュニケーションを取り、一丸になって頑張ってほしいと思います。

さて先日、筑波サーキットでSP忠男レーシングチームのOB会が行われました。鈴木忠男社長を筆頭に、塩森さん、山川さん、松本さん、中野真矢くん、名越公助くん、僕の弟の伸也などなど、多くの先輩や後輩たちに合えて、とても楽しい時間でした。社長を先頭にして、筑波の本コースを2周ほどパレードランしたんですが、今年76歳になった社長が速い!(笑)誰が社長を抜いてペースを抑えるかで、後続はやきもきしてました。

「これ以上、先頭を走らせると危ないぞ」と僕が前に出て、「これで諦めがつくかな」と思っていたんですが、僕に抜かれてから第2ヘアピンでオーバーランしたそうです(笑)。いつまでも元気な社長ですが、こんな風に先輩、後輩たちと一緒に走れるなんていいものだな、と思いました。社長としては、小山知良くんや中須賀克行くんたちも呼びたかったようですが、彼らは現役の全日本ライダーですしね……。でもいつかそんな日がくるのを楽しみにしたいと思います。

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