ヨーロッパ組の経験が生きるか

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.53「11月になった鈴鹿8耐より、もっと寒い……?」


TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:FIM EWC

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第53回は、冬の鈴鹿8耐と、MotoGPプレシーズンについて。

ミシュランパワーGP2

規則正しい生活を強いられています……

日本に到着しました。なかなか大変でしたよ……。スイス経由のフライトでしたが、スイスの空港はガラガラで、免税店もラウンジも営業していません。出国、乗り継ぎ、入国など場面ごとに「PCR検査の結果を見せてください」と言われるし、国をまたぐ時には健康状態が入力されているQRコード登録の必要があるんです。

今回の僕のフライトはKN95というマスクをするように指定されていました。キャビンアテンダントの皆さんももちろんそのマスクをしています。
コロナ禍以前の自由な移動とはまったく違う、ものものしい雰囲気でした。

日本に着いても、空港を出るまでに書類やら説明やらアプリの登録やらで、3時間ぐらいかかりました。そしてそのままホテルで3日間の隔離です。1歩も外に出られないし、毎朝8時には検温だし、もはや入院生活のよう。規則正しい生活のおかげで、今回は時差ボケにならなさそうです(笑)。

でも思ったのは、関係者の方たちの方がよほど大変だな、と。日々変わる状況や新しいシステムに対応しなくちゃいけないし、もちろん感染のリスクもあるし、ストレスからか関係者にやつあたりする人もいるし……。職務にあたってくださっている人たちには本当に頭が下がります。ただ、ロストバゲージまで食らったのはちょっと(笑)。僕の荷物はウィーンにあるそうです。こんなこともあろうかと最低限の着替えは持っていたので、ホテルでの隔離生活はなんとかなるでしょう……。

想像以上に冷えたタイヤに、どう対処するのか

鈴鹿8耐も11月への延期が決定しまいましたね。こうしてヨーロッパから日本へと移動してみると、延期もやむを得ないのかな、と感じます。やっぱり真夏が似合うレースですから残念ですが、今の状況からすると適切な判断じゃないかと思います。

「11月の鈴鹿8耐なんて、寒くて大変だぞ〜」という意見もあるようですが、フランス人に聞くと、「ルマン24時間はもっと寒いんだよ」と言われてしまいました(笑)。当日の状況やタイヤチョイスによるから何とも言えませんが、EWCのヨーロッパ組が活躍するレースになるのかもしれません。夕方になると一気に路面温度が下がるでしょうし、セーフティーカーが入った時にも想像以上にタイヤが冷えてしまうはず。そのあたりはヨーロッパ組の経験が生きそうです。

写真は2019年のルマン24時間耐久レース。例年は4月に開催され、天候によっては夜間に0℃近くまで下がることもあるとか。2020年はCOVID-19の影響で8月開催だった。

僕は現役時代、冬の寒い時期のテストではあまり走らないことで有名でした(笑)。ヤマハ時代、袋井でのテストなどは「原田は寒いとどうせ走らないから、来なくていい」なんて言われたものです(笑)。だって実際寒いし、GPは寒い時期にはやらないから、必要以上のリスクは負いたくなかったんです。

寒くてももちろんテストはできますし、それなりのペースで走ることもできます。でもやっぱり「それなり」なんですよね。本当の限界領域のテストをすることはできません。それに、当時の2ストエンジンは気温が低いほどパワーが出てしまうので、逆にセッティングに迷うことにもなりかねません。このあたり、「冬の鈴鹿8耐」でも要注意ポイントになるかもしれませんね。

そういえばアプリリアに移籍した年、開幕前のウインターテストで痛い目に遭ったこともありました。昼過ぎまでは寒いから走らずに(僕だけじゃないですよ!)、気温が上がってから走り始め、夕方、最後のセッションでハイサイドを食らって脳震盪を起こし、3日間入院です。タイヤが冷えていたのが分からなかったのと、エンジンがよく走るので、ついタイムを出そうとして調子に乗ってしまったせいですね。冬は冬で魔物がいますよ……。

写真は2019年の鈴鹿8耐。この年は猛暑というほどではなかったが、天候次第では過酷な8時間となる。2021年は11月開催になり、どうなる?

モトGP開幕、大予想!?

今週末は、いよいよモトGPが開幕しますね。去年のカタールはモトGPが行われず残念でしたが、今年は全クラス開催されるので楽しみです。マルク・マルケスは量産車のRC213V-Sでヒジ擦って走ってましたが、さすがに開幕戦は参戦を見合わせるとのこと。彼の骨折もいろいろあってずいぶん長引いてしまいましたが、参戦し始めたらやはりスゴイ走りを見せてくれるでしょう。

モナコではロリス(カピロッシ)と食事しながら話してたんですが、アプリリアに注目しているようでした。アレイシ・エスパルガロはテストでもいいタイムを出してましたよね。ドゥカティのジャック・ミラーは去年からの好調を維持しており、その勢いのまま開幕を迎えそうで、やはり本命でしょうか。

分からないのはヤマハ。去年もカタールのテストは絶好調で、「ファビオ・クアルタラロはチャンピオンになるだろう」と言われてましたからね……。昨シーズンのムラを克服するようなマシンにしているとは思いますが、こればかりはシーズンが進んでみないと分かりません。

スリッピーな路面のカタールで好調なら、路面グリップの高い他のコースならもっと速く走れるはずなのに……という疑問をお持ちの方もいるかもしれません。不思議ですよね(笑)。でも、例え話ですが、雨が得意なライダーがドライも得意かと言えば、必ずしもそうではありませんよね。だからやっぱり得意・不得意があるんですよ。

でも、雨の例で言えば、マシンの倒し込みの速さが関係しているように思います。倒し込みがゆっくりでていねいなライダーほど、雨が上手かな、と。逆にスピードが上がるドライでは、ゆっくりとていねいに倒し込んでいたらコーナーが終わってしまう(笑)。スパッと速く寝かさなければ、とうてい間に合いません。バイクが寝ているタイミングが遅くなれば、スロットルを開けるタイミングも遅くなり、リスクは高まります。

これはほんの1例ですが、実際にはブレーキのかけ方、スロットルの開け方、そしてセッティングといろんな要素が複雑に関わり合って、トータルで得意・不得意が決まるものでしょう。僕も10回ぐらいチャンピオンが獲れてただろうなぁ……。

そして面白いことに、時には「なんだかよく分かんないけど、決まった時はベラボーに速い」というライダーもいます。ノリック(註:阿部典史さん)なんかがそうでしたよね。たまにすごいタイムを出すので、「なんでそんなに速いの?」と聞くと、たいてい「うーん、よく分かんない!」って返事でした。逆に不調に苦しんでる時も理由を聞くと、答えは同じ。「うーん、よく分かんない!」(笑)。

でも、ノッてる時は手がつけられないぐらい速い。シーズン中1戦か2戦、めちゃくちゃ速くてスパッと勝っちゃったりすると、そりゃあ魅力的ですよね。GPライダーだったら、速いのは当然だし、速さがもっとも大切です。でも、キャラクターが濃いライダーが人気なのも分かります。

僕はシーズン通して速く走ること、勝つこと、そしてチャンピオンを獲ることしか考えていなかったので、玄人受けはしたかもしれませんが、人気はどうかな? だいたい、現役時代には人気なんてことはまったく気にしていませんでした。今となってはちょっと後悔……?(笑)でも今、僕が現役だとしても、SNSはやらないかな。その時間があったらトレーニングしてしまいそうです。それより、自分のレプリカマシンを自分で販売してるかもしれません(笑)。

さて、モトGPに話を戻しますが、モト2にステップアップした小椋藍くんのレースも楽しみです。テストは12番手。モト3からのステップアップ組では、アルベルト・アレナスが9番手、トニー・アルボリーノが16番手でしたが、タイム差はほとんどありません。誰が抜け出すのか注目したいですね。

モト3の日本人ライダーに元気がなかったのは少し気がかりです。鈴木竜生くんは新型コロナウイルスに感染してしまい、テストに参加できませんでした。タイミング的に開幕戦はちょっと厳しそうですね……。本人は非常に気を付けていたとのことですが、それでも感染してしまうのが新型コロナウイルスの怖さです。東京を中心とした緊急事態宣言は解けましたが、皆さんもくれぐれもお気を付けください。


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