●文:ヤングマシン編集部
あと14年すると、都内で電動バイクしか買えなくなる…? ’20年12月の東京都知事発言がライダーに衝撃を与えた。しかし、高コスト化や航続距離などの問題が山積しており、まったく現実的ではない。ヤングマシンでは先日お届けしたレポートに続き、改めて新情報を交えつつ”ムチャな政策”に異議を唱えたい。
拙速な都に対し、政府はバイクに慎重な方針!
「都内でのガソリン車の新車販売について、乗用車は’30年まで、バイクは’35年までにゼロにすることを目指す」
’20年12月8日、東京都の小池都知事が都議会で、突如”電動化”の方針を表明した。内容は下記のとおり。
’20年12月8日 小池百合子都知事発言のまとめ
●4輪は’30年まで、2輪は’35年までに都内で純ガソリン車の新車販売を禁止
●電動車=EV(燃料電池車含む)、ハイブリッド車=HV、プラグインハイブリッド車は販売可
●マイルドハイブリッドも対象か
●商用車やトラックについては不明
●罰則に関しては慎重な姿勢
“禁止”とされたのは純ガソリン車で、電動車(EV)やハイブリッド車(HV)はOK。また中古ガソリン車は販売可能だろう。ガソリン車を販売した際の罰則が気になるが、販売規制について都は”最後の手段”として慎重な態度を示している。
カーボンニュートラル、つまり脱炭素社会への移行は、地球環境を考えれば全世界の課題なのは間違いなく、もちろんバイクも決して例外ではない。しかし、問題はその移行手段と時期。現状を正しく把握し、それぞれのモビリティの特性や美点を考えて適材適所な施策を打つべきだ。でなければ、エコどころではなく自国の産業に大打撃を与える可能性さえある。少なくともバイクに関しては「すべて電動化!」と十把一絡げにする都知事発言に対し、我々ヤングマシンは大反対する。
まず第一に考えるべきは、”Well-to-Wheel(油田からタイヤを駆動するまで)”のCO2排出量。いくらEVが走行中はエコでも、車両を製作する工場や、バッテリーを充電する際の電力をほぼ火力発電でまかなう日本の場合、トータルでのCO2は、HVよりEVの方が多いケースもある。発電におけるCO2対策をしない限り、必ずしもEVがエコとは言えないのだ。
第二に、バッテリーの性能とコストに未だ問題がある。以前より性能はアップしているとはいえ、バイクは搭載スペースに限りがあり、クルマのような大容量バッテリーを搭載できない。コミューター用の小型バッテリーに関して言えば、航続距離は20〜40km程度。上り坂が多いとさらに短くなり、地方のように長い航続距離が必要な場合、まだまだ実用的とは言えない。
おまけに充電インフラの絶対的な不足も課題。某番組のようにコンセントを借りられるとは限らず、国内では整備に14兆〜37兆円という莫大なコストが必要になる。
そして、バッテリーが高額のため車両価格が数倍に跳ね上がる。しかも小排気量車は、元々排ガスがクリーンなため、たとえHV化してもコスト増を招くばかりで環境への効果は薄い。
加えて、バッテリーの搭載により車重が大幅に増加する。スポーツモデルなど趣味性が高いバイクは、美点である軽快さがスポイルされ、商品としての魅力がダウンしてしまう。
解決へのカギは、内燃機関に限定的なアシストを行うモーターを追加した”マイクロHV”をHVの対象に含めることだろう。ただしクルマへの導入は容易ながら、バイクにはやはり搭載スペースの問題がある。バッテリーの追加も必須で、重量と価格増は確実だ。
都知事発言についてメーカーにコメントを求めてみたが、残念ながら回答は得られなかった。しかしながら、国産4メーカーは’19年に共通規格の交換式バッテリーの開発に向けたコンソーシアムを設立したり、’20年9月に大阪で大規模な電動バイク実証実験を行うなど、企業としてバイクの電動化に舵を切り始めているのは確実だ。
とはいえ、国産4メーカーの現行ラインナップ約170台のうち、一般ユーザーが購入できるEVとHVはわずか2車種のみ。あと14年で一体どれだけのモデルが都内で販売できるのか、と考えると恐ろしい……。
こうした問題だらけの都知事発言に続いて、政府が’20年12月25日、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表した。
’20年12月25日発表政府「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
●遅くとも’30年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる
●商用車は’21年前に対策を講じる
●バイクは具体的な期限を設けない
●電動化推進のため、燃費規制を活用
「遅くとも’30年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」とあり、都と同様の内容に見える…が、バイクに関しての考え方は全くの逆だったのだ。
経済産業省・製造産業局自動車課に問い合わせると、「’30年代半ば」という期限に関して、バイクは対象外だという。さらに先述した問題点についてもしっかり把握していた。
「経産省は、2輪EV化に向けて補助金制度や普及支援を続けているところです。政府としては、バランスを見ながら全体の観点から方針を決めます。都としてのやり方があるとは思いますが、配達などに使うバイクを含めて’35年までに一挙にEV化するのは困難。現状でバイクのEV化をクルマと同じ歩調で語るのは難しいと考えます」
我々ヤングマシンも政府の方針に賛成だ。都に対しては、クルマとバイクを同一視し、性急に物事を進めるのではなく、現状を今一度多角的に分析することを願う。
問題点1:日本でのEVは結局あまりエコじゃない
グラフは’19年度の日本の発電割合。CO2を出す火力発電が75%、CO2を出さない再生エネルギーや原子力が25%。EVとはいえ、製造時や充電時に炭素を発生させているのと同義になる。後者が多い欧州各国の工場であればカーボンニュートラルなEVを製造できるかもしれないが、日本の工場ではエコにならない。さらに電力不足の懸念も。
自工会の豊田章男会長は、「国内の乗用車400万台がすべてEVになった場合、夏の電力使用のピーク時に発電能力を10~15%増やさないといけない。これは原発でプラス10基、火力発電であればプラス20基が必要な規模」とコメントした。
問題点2:充電インフラの不足
EVの充電には時間がかかる…。ハーレーの新型EV・ライブワイヤーは、最新の急速充電器で0~80%充電まで約40分、満充電まで約60分。’19年現在、全国8000か所ほど急速充電器が設置されているが、EVが増えて充電器が足りなくなれば、充電待ちでいつまで経っても走り出せない…。増設にはコストがかかり、1器200万円とも600万円とも言われる。また、着脱式バッテリーでなければ、自宅にも充電設備が必要(10~20万円)。これらすべての整備に14兆~37兆円かかる!
問題点3:バイクへの効果はギモン
バイクの燃費は優秀で、スーパーカブ50は純ガソリンエンジンながらリッター69.4kmを誇る(WMTCモード)。これはハイブリッドカーと比べ、約2倍エコな数値。燃費に優れるトヨタ ヤリス(HV)でも36km/L(WLTCモード)にすぎない(ともに実燃費に近い測定モード)。
バイクをHV化した場合、もちろん一層エコにはなるだろうが、その効果は薄く、値段だけは高額化。庶民の足として活躍できなくなる。なお、バイクの新車販売台数は年間32万9500台(’20年)。乗用車の約430万台に対し、約13分の1。バイクで最多の50㏄以下は36.5%とさらに少ない。電動化は将来的に責務だとしても、性急な推進に疑問が残る。
問題点4:業界への打撃大
EVは構成部品が少ないため、ガソリン車に比べて構造がシンプル。部品点数は約3分の1と言われる。現段階で一気に電動化した場合、メーカーをはじめ、部品サプライヤー/アフターパーツ/用品店など、企業と雇用への痛手は相当なものとなる。ちなみに、日本で自動車産業に従事する者は約550万人。その家族を含めると約1300万人が自動車産業に生活を委ねている。
その一方で、欧州がEV化を積極的に推進するのはなぜか。HVなど自動車のエネルギー技術で遅れている欧州勢が、スタートラインをゼロにしてグローバルで戦うことが目的と言えるだろう。その土俵にあえて日本が乗る必要はあるのか?
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