ホンダの存在感が薄れていたアジア選手権600ccクラス。そこでの勝利を至上命題に掲げるのが新しいCBR600RRだ。勝てるエンジンに最先端の電子制御をフル搭載。代々受け継がれる乗りやすさも武器に、ライバルを制圧する!

【テスター:丸山浩】ヤングマシンメインテスター。試乗当日のスポーツランドSUGOはウエットからドライへ変わる難コンディション。「でも、だからこそコイツの乗りやすさがよ~く分かった!」
戦闘力と乗りやすさの最適バランスがここに
最後のモデルチェンジから7年ぶり! ホンダCBR600RRも控えめながらウイングレットを装備し、電子制御もガッツリ搭載。最高出力も119(欧州仕様)→121psに引き上げられた。大幅刷新された新型の戦闘力はいかほどなのか。舞台は全長約3.6kmの国際コース・スポーツランドSUGOだ。朝からフルウエットだけれども…。
【’20 HONDA CBR600RR】主要諸元 ■全長2030 全幅685 全高1140 軸距1375 シート高820(各mm) 車重194kg ■水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ 599cc 121ps[89kW]/14000rpm 6.5kg-m[64Nm]/11500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量18L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ●色:赤 ●価格:160万6000円
ストリートも許容するライディグポジションだが、フロントフォークの突き出し量を見るに、レースユースでのリセッティングも視野に入れているのは明白。[身長168cm/体重61kg]
ところがどっこい、このコンディションが素性を知るに良い機会となった。走行1本目はウォーマーで温めたタイヤ(OEMのダンロップ ロードスポーツ2)でも滑るほどのハードウエット。それでもコイツは乗りやすいのだ。すべての操作が安心できて、これなら箱根に行って雨に見舞われても大丈夫と思えるくらい。中でも1万rpm以下の出力特性がまろやかで、穏やかに走らせられる。かたやストレートで1万rpm以上回せば、流石に最高出力を上げた分のパンチも確認できる。
レースパフォーマンス一辺倒になりがちな600ccスーパースポーツカテゴリにおいて、ストリートユースもできる限り保持させようというのはCBR600RRかねてからのスタンス。ポジションもステップこそ高い位置にあるものの、シートは身長168cmの私で両つま先の腹が付く高さ。ハンドルは多少遠さを感じるが、極端に低い位置ではなく絞りも効いているので、ツーリングでも手首への負担は少ないだろう。アシストスリッパークラッチでレバーも軽い。
何より、121psを1万4000rpmで発揮する高出力エンジンがウエットコンディションでも扱いやすい過渡特性を持つのには、電子制御の存在が欠かせない。3パターンある走行モードのうち、もっともアタック向きな”モード1”でもフルウエットで走れるくらい、綿密な制御を行ってくれる。では純粋なレース戦闘力はどうなのだろうか。そう思う傍らでコースはどんどん乾いてきた。何とでき過ぎた展開か!
1000ccのように中間トルクで立ち上がりをリカバーできないので、必然的にコーナーリングスピードを上げてプッシュしていく。最高出力回転付近からアクセルを開けていくと、モード1でもトラクションコントロールの介入は少々早い。そこでユーザーモードでトラクションコントロールだけを最弱に設定し直してさらにアタック。攻め込み過ぎて逆にタイムロスになろうかという領域での介入が確認できた。
最後、試しにトラクションコントロールもウイリーコントロールも完全オフで攻め切ってみた。結果、タイム的にはトラクションコントロール最弱とさほど変わらないペース。スライドさせ過ぎてタイムロスになるくらいなら、CBR600RRはトラクションコントロールに任せた方がベストタイムを狙える、つまりはレース戦闘力があると言えよう。ちなみにウイリー制御は兄貴分のCBR1000RR-Rのように浮き上がるギリギリを保持するほどではないので(一定角以上でドスンと落ちちゃう)、腕に自信があれば切った方が気持ち良く全開で立ち上がれることを補足しておこう。
ハードに攻め込んでも乗りやすい印象は、1発目のウエット走行時と同じ。ライダー&シチュエーションに合わせて電子制御を切り替えてやれば、大きく乗り味を変えることなくマシンがサポートしてくれる。600ccのスーパースポーツがこの先どこまで作り続けられるかは未知数だけど、今回の電制満載アップデートはストリートユーザーにもサーキットユーザーにも嬉しい進化だね。
【すべての変更点は“勝利”に直結する】アジア選手権スーパースポーツ600ccクラスの勝利を目標に、開発はほぼレース仕様で進行。空力を改善した外観はCBR1000RR-R譲りのウイングレットや4灯ライトを採用。車体は従来型の基本を踏襲する。排ガス規制の関係で‘22年11月までしか生産できず、現状では最後の600スーパースポーツとなる可能性が高い。
【勝つためのパワーと最先端の電子制御】エンジンはクランクシャフトやバルブスプリングの材質を改め、レース用ECU装着時の許容回転数を1万6500rpm(STDは1万5000rpm)にアップ。電子制御は5軸IMUを核にCBR1000RR-R譲りの最新ソフトで制御する。
【安定旋回に効くウイングレット】コーナー進入時の安定性に寄与するというウイングレット。1000ccほどウイリー抑止効果は必要ないため、CBR1000RR-Rとは形状が異なる。有無を比較していないので明確には体感できないが…。
【現代流コクピットも獲得】国産600ccスーパースポーツ唯一のフル液晶メーターを採用。フロントフォークは設定変更のほか、20mm延長して車高調整幅を拡大し、アウターチューブ変更で剛性バランスを改良。燃料タンクは伏せやすいよう上面を10mm下げ、アゴも収めやすい形状に。
【とはいえストリートも忘れない】従来より3mm後方でスイングアームと接合、スプロケットの変更自由度を高めたエンドピースは、奥にある溝の上下幅を6mm拡幅し微妙に剛性を下げている。逆にチェーンブロック(四角い部品)は0.5mm肉厚化&面取りを減らし、わずかに剛性アップ。これらは公道でのしなやかさを意識した剛性チューニングで、トップブリッジとハンドルも締付ボルトの締結剛性を下げ(ボルトヘッドの二面幅を12→10mmに小型化)、フロントアクスルも固定ボルトのボルトヘッド二面幅を24→22mmへ小型化している。
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【2ストと4ストの中間の乗り味です!】世界GP125ccやモト2で活躍、アジア戦の600も経験している開発ライダー・小山知良選手。「ブレーキスタビリティの向上や加速性能/最高速アップなどが開発目標でした。新採用の電子制御スロットルでエンジンブレーキを弱められたため、サスペンションの無駄な動きが減り、2ストに近い感覚のブレーキングが可能です」
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