新型コロナウイルスにより先が見えない2020モトGP。やきもきした状態が続くが、青木宣篤監修の「上毛GP新聞」では、こんな時こそひときわマニアック全開。2月に行われたマレーシア公式テストでの秘蔵ネタを披露する。まずは「10cmキープウイリー」実現の謎に迫る。
マレーシア公式テストで注目したのは、各マシンのウイリーの仕方だ。コーナーの立ち上がりでずーっとフロントタイヤを眺めているのだから、我ながらちょっとアブナイ香りがする…(笑)。
加速効率がもっとも良いのは、フロントタイヤが10cm浮いている状態だ。これ以上低いとライダーは加速力が弱いと感じてしまうし、これ以上高いとライダーはスロットルを戻してしまい、結果的に加速力が落ちる。
そこで「10cmのウイリー」を目指すわけだが、もちろん最新モトGPマシンの共通ECUにはウイリーコントロールが入っている。
「それなら制御任せでいいんじゃないのか」と思いがちだが、ご存知の通り共通ECUはそれほど賢くないので(笑)、「ウイリーしたらパワーカットしてウイリーを抑止する」といった単純な制御しかできない。そして実際の現象としては、「上がりすぎたらストンと落ちる」となる。
ちなみにスズキは「結構上がってから落ちる」を繰り返し、ホンダはほとんど浮かないようにしている。いずれも「共通ECUの制御ならこうなるよね」という想定の範囲内だ。
ところが、ヤマハとドゥカティは10cmという理想的なウイリーをずーっと続けられているのだ。10cm浮いた状態を維持したままの加速は、共通ECUでは不可能なはずなのに……。
アヤシイ。
絶対に何かやっている。
各メーカーとも共通ECUの理解度を深めているのは確かだが、ヤマハとドゥカティの「10cmキープウイリー」は、その範疇を超えている。
何をしているのかは分からないが、何らかの裏技でIMU(慣性計測装置)からの信号を利用し、精度の高いウイリーコントロールを可能にしているのではないかと思われる。
“裏技”というと聞こえが悪いけれど、「レギュレーションで禁止されていなければやってもいい」と考えれば、まだまだ制御もやりようがある、ということだ。
さて、ワタシはコーナーでは細い目を懸命に見開くだけではなく、耳をそば立ててもいる。エンジン音を聞いていると分かることがたくさんあるのだ。
マレーシアで耳を刺激したのは、KTMの仕上がりのよさだ。コーナー出口でのスロットルの開け始めの特性が非常にマイルドになっている。
トラクションコントロールも関わってくる部分であり、トラコン自体のいい煮詰めを感じたが、もっとベースの部分からエンジンが作り込まれていることが伝わってくる”いい音”だった。
開発ライダーとして参画しているダニ・ペドロサの貢献度が大きいのではないかとワタシは思う。
「エンジンは電気の力でとやかくしようとしても、結局はベースからよくないとダメ」ということをダニは熟知しているのだ。
ホンダは、別の方法で同じように開け始めの特性をマイルドにしている。音を聞いていると、どうもイナーシャ(慣性)を増しているようだ。
’19年はドゥカティ対策として「とにかくストレートで負けちゃならない!」とエアをたくさん取り入れてイナーシャの少ないエンジンを作ってきたホンダ。「ちょっとイキ過ぎたかな」という反省で、今年は乗りやすさにシフトしてきた。
マレーシアテストではマルク・マルケスは1回も本気で走っていなかったが、その分カル・クラッチローが一生懸命走り込んでいた。コーナー出口で自信を持ってパツッとアクセルを開けているのが印象的だった。
10cmキープウイリーもエンジン特性も、地道で緻密な開発によって得られた「ちょっとした差」。でも、目や耳で分かるぐらいハッキリした差であることも確か。皆さんもぜひ五感を研ぎ澄ませてモトGPをお楽しみください。
●監修:青木宣篤 ●写真:佐藤寿宏/高橋剛/DUCATI/MotoGP.com ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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