潜在能力を解き放つマフラー

ヨシムラ機械曲チタンサイクロンマフラー「Duplex Shooter」インプレッション

ヨシムラの新作機械曲チタンサイクロンマフラー「Duplex Shooter」は、KATANA/Z900RS用として新規開発。各部の寸法はもちろん専用設計で、消音とパワーを両立する機構として、いずれもサブサイレンサー+バイパスパイプを採用している。


●文:中村友彦 ●写真:真弓悟史 ●取材協力:ヨシムラジャパン ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

エンジン本来の資質が存分に満喫できるマフラー

旧車好きを取材すると、”今どきのバイクはつまらない”という言葉を聞くことが少なくない。筆者は必ずしもそう思わないし、そもそも、ただひたすらに性能を追求できた旧車と、厳しい騒音・排出ガス規制を前提にして生まれた今どきのバイクを、同じ尺度で語るのはフェアなことではないだろう。

とはいえ、今回テストした2台を体験したら、旧車好きも今どきのバイクの見方が変わるに違いない。ヨシムラが手がけたKATANAとZ900RSは、それぞれのモチーフになったGSX1100SカタナやZ1に勝るとも劣らないほど、ワクワクする乗り味を堪能させてくれるのだから。

筆者がそう感じた背景には、踏み応え抜群のX-TREADステップや、最新のアフターパーツを投入して動きが上質になった足まわりなどもあるのだが、最も大きな要素はマフラーである。逆に言うなら、ヨシムラが新規開発した機械曲チタンサイクロンDuplex Shooter(以下サイクロン)を体験すると、STDは本来の潜在能力を抑え込んだ、能ある鷹はツメを隠す仕様…という気がしてくるのだ。

【Duplex Shooterとは?】「デュプレックス・シューター」は、サブサイレンサーを設け、そこからも排気を行うヨシムラ独自の機構。初採用はZ900RSの手曲ストレートサイクロンで、今回の2車はそれに続く採用となる。黒塗装されたステンレス製サブサイレンサーの寸法はφ105×230mm。主目的は消音ながら、出力特性にも多大な影響を及ぼすと言う。

デュプレックスシューターは膨張室からも排気する独自の機構。

…と言っても、アイドリング中や巡航時のサイクロンの音は意外に控え目で、むしろSTDのほうがワイルドと感じるほど。このあたりをどう捉えるかは人それぞれだが、筆者としては、チタンという消音に不利な素材を採用し、短いサイレンサーにこだわりながら、よくぞここまでジェントルな音を構築できたものだと思う。ちなみに開発陣によると、消音とパワーの両立という面では、サブサイレンサーと、エキゾーストパイプのバイパスパイプが大きな役割を果たしているそうだ。

いずれの車両用も1/2番と3/4番のエキゾーストパイプを連結。この機構の狙いもサブサイレンサーと同様に消音と出力特性の改善だ。パイプの外径は25.4/27mm(写真はZ900RS)。

では、どんなときにSTDを上回る感触が得られるのかと言うと、それはもちろん、スロットルを積極的に開閉したときである。パワーカーブに極端な差はないものの、サイクロン装着車はSTDより吹け上がりスピードが格段に速くなっているし、レッドゾーン手前の領域では、目が付いて行かなくなるほどの加速が体感できる。低回転域ではズヴァッ! という重厚な排気音が、回転の上昇とともにクゥオーッ! という刺激的な高音に変化する感触も、STDでは得られないものだろう。

それに加えて、減速時のエンブレが滑らかなことや、ハンドリングが軽くなっていることもサイクロン装着車ならではの美点だが、今回の試乗で僕が最も感心したのは、スロットルの開け方に対するエンジンの反応だった。

と言っても、ジワッと開ければジワッと、ガバッと開ければガツーンと反応するのは、STDもサイクロン装着車も同様である。でもサイクロン装着車は、まずジワッと開けたときの反応がSTDより優しいし、ここぞという場面でガバッと開ければ、STDより鋭くて力強いトルクと、これぞ並列4気筒! と言いたくなる咆哮が体感できる。このあたりを把握した筆者は、やっぱりヨシムラはライダーの気持ちをわかっているなあ…と、しみじみ感心。なお、操作に対するエンジンの反応が従順になったことで、コーナー進入時に車体を前下がりにしたり、旋回中にちょっと車体を起こしたりと、スロットルワークで姿勢を制御しやすくなったこともサイクロン装着車の美点だ。

冒頭で述べた要素について、念のために注釈を加えておくと、ヨシムラのKATANAとZ900RSは旧車っぽくなったわけではない。とはいえ、オブラートを取り去ったかのように、エンジン本来の資質が満喫でき、スポーツライディングが存分に楽しめるという点で、サイクロン装着車には、旧車に通じる雰囲気が感じられるのだ。

ヨシムラ初のKATANA用フルエキ

ヨシムラ初となるKATANA用フルエキゾーストは、当初は昔ながらのシンプルな構成で開発がスタート。とはいえ、理想の出力特性と音質を実現しながら排出ガス・騒音規制に対応するためには巨大なサイレンサーが必要で、その状態でのルックスはお世辞にもカッコいいとは言えなかったという。これらの問題を解決したのがサブサイレンサー+バイパスパイプなのだ。

【SUZUKI KATANA(’19) 機械曲チタンサイクロン Duplex Shooter 政府認証】■音量:近接94dB/5000rpm 加速82dB 重量:TM(メタルマジックカバー)7.5kg、TT(チタンカバー)/TTB(チタンブルーカバー)7.3㎏ (STD 11.0kg) ●税込価格:TT(チタンカバー)22万円、TTB(チタンブルーカバー)22万5500円、TM(メタルマジックカバー)22万3300円

φ105×410mmのサイレンサーは新規開発品で、カバーは3種類を準備。Z900RS 用も寸法は同じだが、内部構造は各車専用となる。[写真上]TT(チタンカバー) [写真下左]TM(メタルマジックカバー) [写真下右]TTB(チタンブルーカバー)

サイクロン装着車のパワーカーブ(赤)は全域でSTDを上回る。最も差異が大きいのは中回転域だ。

【焼入れエキゾーストパイプも選べる】エキゾーストパイプとテールパイプはチタンの素材色だが、+1万6500円で焼き色付きのFire Specも選択可。(写真左)焼け色なし (写真右)Fire Spec

ストレート管に次ぐZ用

発売中のストレートサイクロンは、中回転域がわずかにSTDに及ばないそうだが、新型サイクロンは全域でSTDを凌駕。φ38mmのエキゾーストパイプやφ54mmのテールパイプ径はKATANAと共通だが、Z900RS用は全長がやや長め。仕様や価格はKATANA用と同一だ。

【KAWASAKI Z900RS/CAFE 機械曲チタンサイクロン Duplex Shooter 政府認証】●音量:近接96dB/4250rpm 加速82dB ●重量:TM 7.5kg、TT/TTB7.3kg (STD 12.0kg)

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