ブリヂストンがMotoGPでタイヤサプライヤーだった時代に総責任者を務め、2019年7月にブリヂストンを定年退職された山田宏さんが、かつてのタイヤ開発やレース業界について回想します。2002年、ブリヂストンはロードレース世界選手権最高峰クラスに参戦開始。しかしそのシーズン序盤、待ち構えていたのは数々の試練と“事件”だったのです。
TEXT:Toru TAMIYA ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
開幕戦鈴鹿の日本GPでは地の利の生かし、青木宣篤選手が決勝7位
この開幕戦では、MotoGPクラスの2チームにタイヤを供給することがこれほど大変なのかということも痛感させられました。これまで、例えば125ccクラスでは世界選手権でも複数チームにタイヤを供給してきた経験はありましたが、125ccクラスとは準備するタイヤのスペック数が圧倒的に違うので、MotoGPクラスの初戦は、レースウィークがはじまって公式練習、予選、決勝という時間があっという間に過ぎていったように思います。
各走行で使用するタイヤも選定しなければなりませんが、ライダーやチームにとってはマシンセッティングを煮詰めることがもっとも重要な作業。この方向性をしっかり確定することに多くの時間が割かれます。一方でブリヂストンにとっては、実戦であると同時に開発の場でもあるので、当然ながらタイヤに対する評価もしてほしいところですが、タイヤの性能を活かすためにはサスペンションセッティングの方向性が重要で……というように、やらなければならないことが山積みの状況下で、我々も必死に奮闘していました。
なんとかブリヂストンのホームである日本での初戦を終え、迎えた2週間後の第2戦南アフリカGP。ここで、事件は勃発しました。カネモトレーシングのグールベルグ選手が、速さを発揮できない原因がブリヂストンタイヤにあるとして不満を爆発。しかもそれを、メディアに対して発言していたのです。
当然ながら、各ライダーは勝つために走っています。そして、基本的には全員が自分の能力に対して自信のある状態。ですから、ライバルよりも遅かったときに、その要因がマシンのうちどこにあるのかを探す傾向にあります。この第2戦南アGPのグールベルグ選手は、予選12位、決勝11位とそれほど悪い結果ではなかったのですが、彼としてはもっと上にいけたという自信があったのでしょう。ちなみにこのレースでは、宇川選手がロッシ選手を抑えて優勝しました。
我々としては、グールベルグ選手が求める性能を発揮できるタイヤを供給できなかったのですから、悔しいけれどタイヤが悪いと指摘されることはしょうがないのですが、メディアを通じてそれを大々的に公表されるのは困ります。当時の彼はオランダ人ライダーのヒーロー的な存在で、とくにオランダのメディアは、「前年に時々鋭い走りを見せていた彼が活躍できないのは、ブリヂストンタイヤのせいだ」というようなことを書き立てていました。
これに強く反応したのは、ブリヂストンヨーロッパの首脳陣でした。欧州におけるロードレース世界選手権最高峰クラスの人気というのは揺るぎないものでしたから、そこにブリヂストンが参戦したことで欧州でのブランドイメージが向上すると期待していたのに、グールベルグ選手の発言により真逆の方向になりかけたわけですから、怒るのも当然。ブリヂストンヨーロッパから我々にクレームが出されました。「このような状況が続くようでは、ブリヂストンのブランドイメージを下げることになるので、MotoGPでの活動はやめて欲しい」という発言が、ブリヂストンヨーロッパのトップからあったのです。
ブリヂストンのMotoGPクラス挑戦が、地元の日本ではじまった。ゼッケン17がカネモトレーシングのユルゲン・ファンデン・グールベルグ選手。 最後尾一歩手前の20位に沈み、決勝はリタイア。この段階ですでに、うっ憤は溜まっていた。 ※タイトルカットは第3戦ヘレス
第2戦 南アフリカGPで事件が起こった!
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