MotoGP ’20シーズン開幕直前

’19 MotoGPを振り返る〈スズキ後編〉【ライダーとマシンのトータルで性能向上】

  • 2020/3/2
MotoGP スズキ GSX-RR

アレックス・リンスが強大なライバルを従え、青い光が鮮やかに輝きながら、トップを走った。イギリスGPで接戦を制するなど、’19シーズンに2勝を挙げたスズキ。手堅い開発を続けた姿勢が結実した結果だった。ライダーの感覚をいかにマシン開発にフィードバックさせたのか、開発者へのインタビューから振り返る。

●文:高橋 剛 ●取材協力&写真:スズキ
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エンジンパワーとドライバビリティの相克

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MotoGPマシンは極めて精巧にして繊細であり、それを走らせるライダーも鋭敏なセンサーの持ち主だ。彼らはわずかな差異を決して見逃すことはなく、それが精神状態に作用し、成績の優劣に直結する。

スズキGSX-RRは’18年型から’19年型に進化するにあたり、主にはエンジンの開発に注力した。「’18年は強いて言えばパワー不足が問題でした」と河内氏。

「これを解消するために、’18シーズン中から’19年仕様のエンジンを開発していました。内部パーツを全面的に見直して、ベンチテストでは非常によいパワーカーブも得られていたんです。

ところが、’18年の最終戦が終わってすぐに実走テストしたんですが、アレックスに『パワーは出ているけど、コントロール性に劣る』と言われてしまった」

トップエンドのパワーを追求すると、過渡のドライバビリティが悪化する。レースエンジンの開発において、もっとも起こり得ることではある。その時、どうするか。メーカーの風土が表出する選択が待っている。

MotoGP スズキ GSX-RR

最優先するのはライダーの感覚

佐原氏は言う。「パワーをバーンと出して、バランスが悪くなったとしても、ライダーに『多少はガマンしてくれよ』という考え方もあると思う。でもウチはそうじゃない。何を優先するかって、やはりライダーが求めるコントロール性、なんです」

「コントロール性に劣る」というリンスのコメントを受け、時間をかけて開発してきた仕様を諦めた。急きょ違う諸元のエンジンを作り直し、わずか1ヶ月ほどで形にして、MotoGPライダーのテスト禁止期間にあたる12月にテストライダーのシルバン・ギントーリが走らせ、手応えを得た。年が明けて’19年2月、マレーシア・セパンサーキットでようやくリンスがテスト。「これなら行ける」と頷き、仕様が決まった。ギリギリのタイミングだった。

「ドタバタしたのは確かですが、最終的にいい諸元のエンジンを作れました」と河内氏。

佐原氏は、「開発側としては苦労して絞り出した馬力でしたが、そのうち実際に使えたのは半分に留まった、という印象です。でも、ウチが重視しているのはあくまでもライダー込みでのパッケージ。マシンだけ突出するのではなく、ライダーがマシンに乗った時に100%のパフォーマンスを発揮することをめざしています」

この慎重さ、手堅さはいかにもスズキらしいが、とかく開発スピードが求められる最高峰レースの現場にあって、デメリットにもなりかねない。

だが今のMotoGPは、ECUの共通化やタイヤのワンメイク化、そしてシーズン中のエンジン開発凍結など、開発コストの増大を抑える施策が採られている。逆に言えば、スズキのように「小さな規模」で戦うチームにも勝機がある、ということになる。リンスがマルケスからもぎ取った2勝は、その証明になっているのだ。

MotoGP スズキ GSX-RR

一方で、スズキの目標はタイトルの獲得だ。バランスを重視しながらも、前進を止めるつもりはない。だが、スズキ流を変えることもないのだ。

佐原氏は「チャンピオン獲得をめざして、トライすべきアイデアはたくさん持っています。でも、道筋はまだ見えていない、というのが正直なところ。何か新しいことを採り入れれば、よくなる部分もあるし、悪くなる部分もありますからね。そこをどう補っていくか……。パッと飛び上がれる簡単なミラクルみたいなものはないんです」と笑った。

一歩ずつの着実な歩みが続く。

MotoGP スズキ GSX-RR

MotoGP スズキ GSX-RR

新人のジョアン・ミルも最上位は5位とシングルフィニッシュを果たしたが、「彼自身も私たちも満足していない。体力もあるし、冷静さもあるジョアン・ミルは、すでに表彰台を争うだけのポテンシャルを持っている」(佐原氏)。身近なライバルであるチームメイトのジョアン・ミルの活躍により、リンスは今まで以上の緊張感を持ってレースに臨み、2勝の要因ともなった。ていねいな走りで旋回スピードを高めるリンスと、ブレーキングを強みとするアグレッシブなジョアン・ミル。ふたりのリクエストを合わせ込みながら、GSX-RRはバランスの取れたマシンになっていく。

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