前倒しでの実戦参加が見えてきた!?

山田宏の[タイヤで語るバイクとレース]Vol.12「接地感って、なんですか?」

ブリヂストンがMotoGPでタイヤサプライヤーだった時代に総責任者を務め、2019年7月にブリヂストンを定年退職された山田宏さんが、かつてのタイヤ開発やレース業界について回想します。2001年は、ロードレース世界選手権最高峰クラス参戦に向け、タイヤ開発テストを繰り返していた時期。山田さんはチームの主要メンバーとして奮闘していました。


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あるときそんなメンバーのひとりが、「よくみなさんが普通に使っている言葉なのですが、接地感ってなんですか?」と聞いてきたことがあります。彼はライダーが、どの部分からどんな挙動を感じ取って表現するのか?タイヤからどんな力が出ると良いのかを知りたかったのです。ちょうどその場には、青木選手ともうひとりの開発ライダーだった伊藤真一選手も同席。そこで両選手と私で接地感の定義について話したところ、じつは同じライダー間でも少しずつ違うことが判明して、お互いに「えっ、それを言っていたの?」と、むしろ我々のほうが驚いてしまったことがあります。

私は過去に、公道用タイヤの試験もやっていて、オートバイ4メーカーの開発評価ライダーとも手合わせテストをしていたので、自分がレース業界の標準とは思いませんが、二輪業界の標準的な感覚を知っていると思っていました。そして、「タイヤを通して路面の状態、接地の状態がわかりやすいかどうかということが接地感」というのが私の定義でした。ところが伊藤選手に言わせると、「そこでグリップが出て、力が伝わってくるのが接地感だ」と。だから、私の場合は「グリップ力はないけど接地感はある」が成立しますが、伊藤選手の場合はそういう状態はあり得ないことになります。ちなみに青木選手は、伊藤選手と私の中間みたいなところに定義がありました。まあたしかに、接地感というのはあいまいな言葉です。接地感とグリップはどう違うのか……とか。私の中では、そのふたつは別のものとして説明できるのですが、伊藤選手の中では一緒だったのです。接地感以外にも、ライダー用語というのはたくさんあります。未経験者がプロジェクトに入ってきたことで、キャリブレーションというか、あらためてそういう用語の定義についてすり合わせをできたことは、私にとっても有意義な経験でした。

そしてそんな会話などもプラス材料となって、それまで二輪レースが未経験だった開発者たちも、徐々にライダーが話す言葉の意味を理解できるようになり、それをどういうカタチでタイヤの設計に反映させていけばよいのかをイメージできるようになっていました。思い返せば、やはり彼らはみんな優秀でした。その後、私を除けば全員がかなり偉くなりましたから……。それに、この新しい大きなプロジェクトに関わっていたメンバーは、みんなとにかく高いモチベーションを持っていました。「とにかく、絶対ミシュランに勝つぞ!」と闘志を燃やしていたのです。

2001年5月上旬、スペインのヘレスサーキットでタイヤテストのために周回を重ねる伊藤真一選手。

こちらも同じく、5月上旬のヘレステストを走る青木宣篤選手。マシンは1台のみなので、2選手が交替で走行。

じつはライダーごとに違っていた接地感の定義

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