バイクという乗り物を特徴づけるのは、2つの車輪でバランスを取りながら走らなければならないこと、傾けて曲がること、そしてエンジンと人間が近いことだ。いわばエンジンを懐に抱えて走るようなもの。それゆえエンジンの違いがバイクの個性の大きなウエイトを占める。本記事では単気筒、2気筒、3気筒、4気筒、6気筒をフィーリング主体で解説していきたい。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ)
振動、路面を蹴飛ばす感じ、エンジンで走らせる気持ちよさ
バイクはエンジンを懐に抱えて走るような乗り物だ。単純にライダーとエンジンの距離が近いことがエンジンの存在感を大きく感じさせるだけではなく、エンジンの性格と、それを扱うアクセル操作の仕方によって、バイクの曲がり方やタイヤのグリップなども変わる。バイクはバランスを取りながら走らなければならないため駆動力の影響がとても大きいこと、そしてクルマに比べれば軽く小さな車体ゆえ相対的にエンジンの質量(エンジン自体の重さだけでなく回転する部品の慣性力も)の及ぼす影響が大きくなることが理由だ。
のっけからちょっと小難しいが、ようするにバイクっていう乗りものはどんなエンジンを搭載しているかで、その個性が大きく左右されるってことである。今回はそのあたりをざっくりと解説してみたい。
もっとも大きな違いを生むのは排気量
現在、新車でふつうに買える量産車であっても、原付一種の50ccから2000cc前後のビッグマシンまで、多種多様なバイクが生産されている。どんな排気量のバイクにもそれぞれの面白さがあるものだが、ざっくり言えば小排気量車はエンジンをブン回しながら人間がバランスを取る要素が大きく、対する大排気量車はアクセルでエンジントルクを操り車体を動かす、つまりアクセル操作でバランスを取る要素が大きい。
アクセルをためらいなく開けて走れるのが小排気量車であり、アクセルを開け過ぎないように気を遣いながらコントロールしていくのが大排気量車、とも言えるだろうか。中間的な排気量では、その割合が車両ごとに異なると考えていい。これはサーキット走行などの大きな負荷がかかる走りだけでなく、街乗りで周囲の流れに合わせたようなペースでも変わらない。おおよその傾向としてそういうものなのだ。
また、小排気量車はエンジンが小さいことから車体も小さく軽くつくることができ、大排気量車は基本的に車体が大きく重くなる。これも、軽量コンパクトな小排気量車と、手応えの大きさが操る醍醐味にもなる大排気量車という違いを生んでいる。
じゃあ、気筒数ってなに?
さて、気筒数のハナシである。エンジンの中ではピストンがシリンダーという筒の中を往復することでクランクという“はずみ車”のようなものを回し、これがいろいろ(省略)伝達していって最終的にタイヤが回る。このおおもとになるピストンの数がイコール気筒数になるわけだ。ちなみに排気量とは、ピストンがいちばん下からいちばん上まで上がる際に押しのける空気の体積のこと。理科の実験で使った注射器を思い出してもらうとイメージしやすいかもしれない。同じ大きさの気筒が2つあれば排気量は倍になる。
単気筒のバイクの性格は?
単気筒のキャラクターはというと、構造と同じくとてもシンプル。複数のピストンがあるとお互いに影響を与えあうが、単気筒はひとつしかない。低速からトルクがあり、一本調子に回転を上げていき、それほど高回転までは回らないのが一般的だ。排気量を問わずアクセル操作に対する反応がとてもわかりやすく、エンジンと車体も軽いことから、キビキビと軽快に走りたい人に向いている。排気量の分布は50cc~700cc程度。以下の2気筒の欄で触れる駆動パルスの関係と、高回転域の吹け上がりが鋭すぎないことにより、悪路でもリヤタイヤがグリップを失いにくく、その軽さもあって本格オフロードバイクのほとんどが単気筒を採用している。
ちなみに、ロイヤルエンフィールド各車や2021年に発売されたホンダGB350などは、単気筒の中でも“ロングストローク設定”、つまりピストンの直径よりもシリンダー内の往復距離のほうが大幅に長い設定のため、より低回転で高いトルクを発生する性格だ。
もっとも多様な個性があるのはツイン=2気筒
輸入車では125ccクラスから、国産では250ccクラスから1800cc超までが揃う2気筒勢は、その組み合わせや配置によってまったく違ったフィーリングとなるのが面白いところ。おおまかに分けると並列2気筒、V型2気筒、水平対向2気筒があり、2つの気筒で起こる爆発(正確には燃焼)のタイミングが等間隔だったり不等間隔だったり、不等間隔でもどのくらいのタイミングのズレなのか、といったものがクランク位相角で変わり、フィーリングに影響してくる。等間隔ではビィーーンと回っていくが、不等間隔ではバルルルッ、とか、ドドドドッ、といったようにパルス感や鼓動感が生まれやすい。
等間隔爆発の2気筒は、並列2気筒の360度クランク、またはBMWの水平対向2気筒が挙げられる。左右の気筒は同時に上死点と下死点を迎えながら、2回転に1回という4ストロークゆえ交互に爆発し、なめらかなフィーリングが持ち味だ。一方で、あまり高回転追求には向かない面もある。水平対向2気筒の縦置きクランクに関しては後述しよう。
不等間隔にはさまざまあるが、クルーザー系を除いて代表的なのは小~中排気量車に多い並列2気筒の180度クランク、そしてドゥカティの90度ツインだろう。並列2気筒180度クランクは、360度よりもパルス感が強く、かつ高回転向き。排気量が大きくなると振動がかなり大きくなる傾向にあるが、現代のエンジンはバランサー入りなので気にしなくていい。もっともクセがなくオーソドックスな2気筒といえる。
90度Vツインは各気筒がトルク変動を打ち消(省略)ざっくりいえばアクセルを開けたときには豊かな鼓動感があるが、閉じると振動が大幅に減ってまろやかなフィーリングになるのが特徴。また、クランク質量も小さいため、ハンドリングが軽く鋭くなる傾向も。単気筒に近いダイレクト感とメリハリ感がありつつ、とはいえツインらしく高回転域まで伸びやかに吹け上がる。特にドゥカティなどは「階段を駆け上がっていくような」と表現されるように、高揚感のある回転上昇が持ち味だ。
同じ90度Vツインを採用するのは、現行車ではスズキのVストロームやモトグッツィ全般など。大きなくくりで言えばスズキとドゥカティは似たフィーリングと言えなくもないが、グッツィはまったく異なる。
これはBMWの水平対向2気筒にも通じるハナシで、クランクの向きが縦置きなのだ。横置きクランクは回転軸が車体の左右方向なのに対し、縦置きは前後方向。いろいろ小難しい原理はさておき、ざっくりいうと横置きはエンジンを回しているとバイクを傾けるのに抵抗する力が生まれるが、縦置きにはそれがない。なので、大きく重い車体であっても、意外なほど軽快に扱える。もうひとつの大きな特徴は、トルクリアクションだろう。アクセルを開閉する際に、クランクが加速/減速するトルクの反動で車体が傾くのだ。グッツィは開けると右に傾き、閉じると左へ。BMWは、以前の空冷エンジンはグッツィと同様だが、最新の水冷はクランクの回転方向が逆なので開閉によるリアクションも逆。ただし、後者はクラッチ軸がクランクと逆回転のためある程度打ち消し合い、リアクション自体が小さいのも特徴だ。縦置きは総じてクセが強いともいえるが、だからこそ面白い! と夢中になるライダーも少なくない。
VツインにはほかにKTMの75度やハーレーダビッドソンの45度などがあり、それぞれに独特なパルス感を持っている。KTMは90度よりも単気筒っぽいフィーリングがあり、ハーレーは重厚かつ“ザ・不等間隔”という、回転域ごとに表情を変える様が面白い。また、並列2気筒のなのに90度Vツインのようなフィーリングを生む“270度位相クランク”も最近の流行だ。
3気筒は2気筒と4気筒のいいとこ取り?
2気筒のトルクと鼓動感、そして4気筒のようなスムーズさと高回転域を足して2で割ったようなものが3気筒。……と言われることも多いが、3気筒ならではの魅力というのもきちんとある。なんといっても、太く柔らかい中速トルクと、角のない吹け上がり感が特徴だ。また、回転域によってさまざまな表情を見せるのも3気筒ならではかもしれない。低回転域ではギュルギュルしたサウンドとともにトルクフルな加速。中回転域では太くハスキーな排気音に変貌しながら、高回転パワーを予感させる。実際に高回転になると吼えるようなサウンドとともに一直線の吹け上がりを見せる。伸び感は4気筒に比べると手前で終わる感じだろうか。
現行車で3気筒は675cc~1200ccまでが一般的な存在だが、ロケット3という例外だけは2200cc超となっている。排気量が増すごとに図太い感じが増していくほか、MVアグスタは高回転寄り、トライアンフは中速の力強さ、ヤマハはその中間ぐらいのキャラクターづけが感じられる。いずれもクランクは240度毎の等間隔爆発(各クランクピンは120度ずつのオフセット)で、90度Vツインのようにエンジンブレーキがスムーズ(弱いわけではない)なのも特徴といえよう。
2022年9月追記:その後、トライアンフはタイガーシリーズに3気筒ながら不等間隔爆発とした“Tプレーン”クランクを採用し、独自のエンジンフィールを獲得している。
並列とV型に大別できる4気筒
もっとも日本車らしいと言えるのが並列4気筒かもしれない。「欧州車に負けない高性能車を」と追求した結果に行きついたのがこのエンジン型式であり、まずは高回転高出力が持ち味。低回転域からスムーズでトルクもあり、回転上昇とともにパワーを増していき、“超”のつく高回転域ではレーシングマシンを思わせるサウンドとともに2次曲線的にパワーを絞り出していく。最高出力の領域を使うかはともかく、馴染みやすく扱いやすい。特に慣れ親しんだ日本人にとっては最もクセがなく感じられ、この点をもって“無個性”と揶揄されることも多かったが、海外から見れば「これこそが日本車の個性じゃないか!」と言われることもあるのが面白いところ。
並列4気筒の排気量分布は400cc~1400ccクラス。かつては250cc4気筒も存在したが2019年現在はラインナップになく、噂のカワサキ車(!)のデビューを期待したいところ。
追記:2020年にニンジャZX-25Rが発売され、250cc気筒が待望の復活を果たした。
一方のV型4気筒は、並列4気筒に比べるとトルクがあってパワーも出しやすい一方で、サウンドは野太く、パルス感のあるものとなり、好みが分かれる部分にもなっている。ホンダ、ドゥカティ、アプリリアとも爆発間隔は異なるが、ざっくりいうと並列4気筒よりもトルクがあって吹け上がりも軽く、またハンドリングは軽快な傾向にある。
ヤマハYZF-R1系のクロスプレーン並列4気筒だけは少し例外で、上記の並列4気筒的な安定感とV4エンジン的なトルク特性(およびトラクション特性)を併せ持っている。
6気筒のシルキーなフィーリングは格別!
現在新車で買える6気筒のバイクは、ホンダのゴールドウイングと、BMWのK1600シリーズのみ。どちらもロングツーリングに適した旗艦モデルで、4気筒以上のウルトラスムーズな回転感覚と上質かつ鋭い吹け上がりが特徴だ。どちらもそれなりの車重があるため、トルクが太いようには感じないかもしれないが、巨大な車体をスルスルと推進していくエンジンには上品さすら感じる。BMWは並列6気筒を搭載し、高速域での鋭いピックアップも持ち味のひとつ。ゴールドウイングは比較的ゆったりめの速度でも気持ちいい。いずれも特別なバイクといえ、置き場所や用途など、所有するにはある程度の割り切りも必要だろう。
※本記事は現行量産車を対象に書かれたもので、2ストロークエンジン搭載車や競技専用車両、現在市販されていない型式のものは割愛しています(2019年7月現在)
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