’15年の登場以来、世界中で好セールスを記録しているスズキGSX-S1000/GSX-S1000F。その理由を探るべく、今回は日本市場で主軸になっているフルカウル仕様のFにじっくり乗り込み、GSX-Sならではの魅力を改めて考えてみたい。後編は試乗インプレッションレポートをお届けする。
↓【前編:スペック詳細はこちら】↓
'15年の登場以来、世界中で好セールスを記録しているスズキGSX-S1000/GSX-S1000F。その理由を探るべく、今回は日本市場で主軸になっているフルカウル仕様のFにじっくり乗り込み、GSX-S[…]
必要最低限の電子制御と用途を限定しない特性
’15年のデビュー当初から、GSX-S1000は僕にとっては大のお気に入りで、自らツーリング企画を立案して、2泊3日で約1500kmを走ったこともある。とはいえ、久しぶりにGSX-S1000に乗るにあたって、僕は若干の不安を抱いていた。何と言っても’15年と現在では、スポーツネイキッド/スポーツツアラー市場は、劇的に変わったのだから。
具体的な話をするなら、近年のスポーツネイキッド/スポーツツアラーは、多種多様な電子制御の導入が当たり前になりつつあるし、ネイキッドの世界では日常域に特化したネオクラシックモデルが台頭し、ツアラーの世界では快適装備の充実化が進んでいる。だから試乗前の僕は、電子制御がABSとトラコンのみで、キャラクターがハッキリしているとは言い難いGSX-S1000に”古さや中途半端さを感じるかも…”という不安を抱いていたのだ。
でも嬉しいことに、その不安は杞憂だった。久しぶりにGSX-S1000Fに乗った僕の頭に、古さや中途半端さなどという言葉は浮かばず、むしろ、必要以上のハイテクデバイスを導入していなことと、用途が限定されていないことが、この機種ならではの美点と思えたのだ。近年のスポーツネイキッド/スポーツツアラーは、ハイテクデバイスを大量導入した結果として、ダイレクト感が希薄になった気がするし、メーカーが想定した用途以外では、意外に使い勝手が悪いことも。改めて言うのも気が引けるけれど、二輪の世界では、至れり尽くせり=最高!! という図式が必ずしも成立するわけではないのだ。
さて、初っ端から結論みたいなことを記してしまったが、僕が考えるGSX-S1000の最大の魅力は、開発ベースがGSX‐R1000でありながら(エンジンはK5〜8、フレーム+スイングアームはL2〜5がベース)、他のスポーツネイキッドで時として感じる”スーパースポーツのデチューン版…?”という気配が、ほとんど感じられないことである。もちろんGSX‐R1000と比較すれば、高回転&高速域の性能はある程度切り捨てているものの、一方でストリートスポーツとして、GSX‐S1000には常用域におけるライディングプレジャーがしっかり盛り込まれている。
ポテンシャルはあっても攻めることを強要しない
それを最も顕著に感じるのは、目を三角にするのでもなければ、四輪の後ろをまったり追随するのでもない、ほどほどの速度でワインディングを走ったときのフィーリングだ。例えば、2速がベストのコーナーを3速や4速で走ったとすると、GSX‐R1000はさほど面白くはないのだが、GSX‐S1000の場合は前後サスに理想的な荷重がかかっていない状態でも、適度な姿勢変化が起こって、前後輪の接地感の増減が感じられる。しかもコーナーの立ち上がりでアクセルを開ければ、低回転域でもドスが利いた力強い排気音と共に、明確なトラクションが伝わって来るので、普通に走っているだけで、スポーツライディングが満喫できてしまうのだ。
もちろん、乗り手がその気になれば、GSX‐R1000譲りの剛性感と安定感を頼りにして、とてつもないスピードで走ることも可能である。でもそれを強要しないところに、このバイクの価値があるんじゃないだろうか。いずれにしても、GSX‐S1000の守備範囲は相当に広くて、コレといった苦手なシチュエーションは見当たらないのである。
ちなみに、今回の試乗における僕の新たな発見は、GSX‐S1000の王道ぶりだった。真っ当とか実直、あるいは質実剛健などと言い換えてもいい。エンジンにも車体にも独創的な機構を採用していないうえに、やんちゃさやアグレッシブさといった、奇をてらった味つけが行われていないGSX‐S1000は、乗り方のアジャストが必要ないのだ。この特性であれば、どんな趣向のライダーでも自然に馴染めるに違いない。
と言っても、一昔前はビューエル各車に好感を抱いていたくらいだから、僕は独創的な機構や奇をてらった味つけを否定するつもりは毛頭ない。と言うより、それらが個性の演出と面白さに直結しているなら、大いにアリだろう。でもGSX‐S1000でツーリングに出かけた際に、事情をよく知らない道を、楽しさを感じながら走り続けられるのは、真っ当で実直で質実剛健な特性で、どんな状況でもマシンを信頼できるからだと思う。もっともそういったツアラー的なキャラクターは、スズキの意図とはちょっと違うのかもしれないが、GSX‐S1000は旅が楽しめるバイクとして、十分以上の資質を備えているのだ。
新型カタナも継承する包容力とカスタムの可能性
GSX‐Sの開発コンセプトは”サーキットを前提に生まれたGSX‐Rの魅力を、ストリートスポーツとして最適化すること”で、フルカウル仕様のGSX-S1000Fにしても、スポーツツアラーとして設計されたわけではない。ただし前ページで述べたように、旅が楽しめるのは事実だから、パニア/トップケースをオプション設定するべきじゃないか、GSX-S1000Fのスクリーンは調整式にすればいいのに、などと以前の僕は思っていた。
でも今から半年ほど前に、某誌の企画で4人のGSX‐S1000オーナーと話をしてからは、勝手な改善策を練っていた自分が、微妙に恥ずかしくなってしまった。以下にそのきっかけとなった、ベテランライダーの言葉を記そう。
「荷物の積載はシートバッグで事足りているので、ケースの必然性は感じていません。それにハードケースを前提にすると、車体後半が重くなって、現状のバランスが崩れちゃうじゃないですか。スクリーンは調整式だったら便利でしょうけど、純正アクセサリーと社外品にロングタイプがあるので、僕としてはマストではないかな。そもそもGSX‐S1000は、装備がシンプルで、価格が安いことも魅力ですから、現状のスタンスは変えて欲しくないですね。そういうバイクだからこそ、自分好みのカスタムが楽しめるわけですし」
ありきたりな表現で恐縮だけれど、この言葉は僕にとって、なるほど! だったのである。そしてそういう視点で話をするなら、個人的には乗り心地の向上を実現するために、前後タイヤとリヤショックを最新のアフターマーケット製に変更してみたいし、開け始めのスロットルレスポンスをちょっと穏やかにするべく、2次減速比の見直しかサブコンチューンを行ってみたい。
などと書くと、ノーマルの完成度が低いの? と疑問を持たれそうな気がするけれど、そういうわけではない。ノーマルはノーマルでよく出来ているものの、このバイクには優れた資質を自分好みに伸ばしたくなる魅力と可能性が備わっているのだ。改めて考えるとそういった魅力は、イジる余地が少なくなった”至れり尽くせりバイク”では持ちにくいのかもしれない。
そんなわけで、僕は多くの人にGSX‐S1000の面白さを知って欲しいのだが、大前提としてこのバイクがどんな人に向いているかと言うと、やっぱりスポーツライディングが大好きで、メインステージはワインディングを含めたストリート、というタイプだろう。でも前述した4人のGSX‐S1000オーナーで、そういうタイプはひとりだけで、各人の素性は、大型ビギナー、リターンライダー、スーパースポーツからの乗り換え、アドベンチャーツアラーからの乗り換えだったのだ。つまりこのバイクには、多種多様なライダーを受け入れる、包容力も備わっているのである。
そしてすでに『ヤングマシン』本誌や『WEBヤングマシン』サイトで報告しているように、’19年度から発売が始まる新型カタナは、GSX‐S1000の基本設計を転用して開発されている。ということは間違いなく、GSX‐S1000と同様の魅力を備えているわけだが、新型カタナのほうが運動性重視の構成にも思える。スポーツツアラーの資質を望むなら、GSX‐S1000/GSX‐S1000Fという選択は大いにアリだろう。
【SUZUKI GSX-S1000 ABS ●価格:113万1840円 ●色:白、黒、黒×青】今回はほとんど触れなかったものの、ネイキッド仕様も同時開発。日本ではGSX-S1000Fが人気を集めているが、海外では車重がFより5kg軽く、軽快なハンドリングが味わえるネイキッド仕様が主役になっているようだ。
【新生カタナはGSX-S1000Fの兄弟車】’19年に発売される新型カタナは、エンジンとシャシーの基本構成をGSX-S1000と共有している。もちろん外装部品はすべて専用設計で、825mmのシート高と12Lの燃料タンク容量を考えると、GSX-S1000より運動性重視のキャラクターか?
GSX-S1000F 主要諸元
車名 | GSX-S1000F |
全長×全幅×全高(mm) | 2115×795×1180 |
軸距(mm) | 1460 |
シート高(mm) | 810 |
車両重量(kg) | 214 |
エンジン型式 | 水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ |
総排気量 (cc) | 998 |
最高出力(ps/rpm) | 148/10000 |
最大トルク(kgf・m/rpm) | 10.9/9500 |
燃料タンク容量(L) | 17 |
変速機形式 | 6段リターン |
キャスター角(度)/トレール量(mm) | – |
ブレーキ前 | ダブルディスク |
ブレーキ後 | ディスク |
タイヤサイズ前 | 120/70ZR17 |
タイヤサイズ後 | 190/50ZR17 |
カラー | グラススパークルブラック/キャンディダーリングレッド グラススパークルブラック グラススパークルブラック/トリトンブルーメタリック |
税込車両本体価格 | 118万5840円 |
●文:中村友彦 ●写真:岡拓/真弓悟史
※ヤングマシン2019年2月号掲載記事をベースに再構成
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