止まらない、曲がらない。ヨレる、重い。日本を代表する名車として愛され続けるGSX1100Sカタナは、当然、旧車としての情報が多い。では、世界最速車として世に出た当時は、どれほどよく走り、どれほど衝撃的なマシンだったのか? ヤングマシン’18年12月号のカタナ冊子付録を制作時に、その答えの一つとなる記事と出会ったのでここに残しておきたい。内容はヤングマシン’81年4月号に掲載されたGSX1100Sカタナ・プロトタイプの試乗インプレッションだ。
’81 SUZUKI SPORTS MODEL TEST DAY
竜洋テストコースに大勢のジャーナリストを招き’81年スズキスポーツモデル発表試乗会が開催された。メニューは全くのニューモデルを含みチェンジの程度こそ異なれ、その数14機種に及び、さらにオマケと言うにはあまりにも魅力的な、そして試乗の機会が与えられるのはおそらく世界初と思われるGSX “KATANA”が加えられるという超豪華版。テストコース上という特殊条件の中ではあるが、14車+KATANAのインプレッションをお届けしよう(※ここではKATANAのみのインプレを掲載します)。
ベース車の脅威的な走り
1979年12月、スズキ新車発表会のため竜洋テストコースを訪れた各誌記者は、TSCC16バルブエンジン、アルミスイングアームを備えたGSX1100の走りっぷりに度肝を抜かれた。強力なトルクを全回転域で発揮するエンジンは、スロットルをひねるだけでロケットのような加速を見せ、時速220km/h以上の世界に軽々と運ぶ。コーナーでは、エア・コイル併用式に減衰力調節機構まで組み込んだフロントフォーク、動きの良いリヤサスペンションが適度に沈み、大地をしっかりつかんで安定し、しかも運動性は軽快で素晴らしい。技術陣の顔も自信に溢れ、「どうだいGSXの走りっぷりは!!」と自慢気にサスペンションをセットしてくれたものだった。その当時は無論、現在でも走りの能力に関してGSX1100は世界最高の市販スポーツバイクといって良いだろう。
これほど素晴らしいGSX1100だが、開発陣が、そして我々も気になったことがただ一つあった。それは、「スタイルが性能に合ってない」ことだ。四輪車の世界なら、フェラーリ、 ランボルギーニ、マセラティはいうに及ばず、ポルシェ、BMWにしても高性能スポーツカーにふさわしい顔というものがある。 バイクでもそうだ。例えばCBX・・・・・・。GSXほどコーナーは速くないにしても、直線のスピードは同等以上だし、何といってもエキゾチックな雰囲気がある。高性能の香り、これが一つ大切なのだ。
開発責任者の横内二輪設計次長はその当時の状況を、歴史が浅いだけに基本的なマシンを作るのに一生懸命だったということで、「外観までは手が回らなかった」と残念そうに語った。それから一年余り、レースでの活躍、市販車の売り上げとスズキの成長は著しい。そして、その間にもただ一つ欠けていたデザイン・プロジェクトがヨーロッパで進行していった。BMWのデザイナーであったハンス・ムート氏に、“GSX1100を使って思い通りのデザインをやってくれ” といったのは、ハイパーバイクの性能を使い切れる欧州でヨーロッパ人の感覚に合ったものを作る方が良いとした思い切りだ。数枚のスケッチが仕上った。“刀”のモチーフは既にある。
「何の刀か?!」スズキの問いに
「ブーメランだ」と答えた。
西ドイツのデザイナーがイタリアの血で考え、日本のバイクをベースに、オーストラリア原住民の武器をテーマにしたデザインは、クレイモデルの段階を過ぎ技術者の意見が加えられ、生産に移る。遂に、’80年ケルンショーに登場した“刀”は大反響を呼んだ。
目の前の“ KATANA”
カタナ・シリーズは、ユーザーによってレースに出られるように各国のレギュレーションに合わせて市販する。ヨーロッパでは1100ccだが、アメリカでは1000cc、そして日本では・・・・・・「ハンドル形状とスタイルが先鋭的」だとかで、難しい面もあるらしい。
高速での直進性を重視して同時に運動性を向上するために前輪に18インチ、後輪には高荷重用の4.50-17のⅤタイヤを装着。スポイラー的なカウリング、4into1マフラー、これらがケルンショーに登場したGSX1100Sカタナだった。
それから3カ月、さらに生産プロトに向かって改良されたマシンが試乗用として目の前にあった。フロントフォークにはダブル・ アンチ・ノーズダイブが加わり、マフラーはDMG製4into2となって左右連結され、パワーチャンバー効果も盛り込まれている。フレーム関係では、エンジン前部がラバーマウントされ、ステー形状が変更されている。カウル上部には複雑な曲面の黒ブチつきスクリーンが取り付けられたが、これは試作で像が歪んで具合い悪かったが、市販車では変更されるはずだ。その下にはラバー製の境界層板一エアロスタビライザーがデザインされる。
細かな改良点は幾つでもあるだろうが、外部の者には判らない。ただ、写真で見るより、本物の方が「マトモでカッコ良い」ことだ。カタナを挿して、いや、カタナに乗って街を走っても、異和感はなさそうだ。 軟弱なデザインよりもフルフェース、レーシングスーツには良く似合いそうである。
結論は・・・・・・欲しい。
ステーからやや外に曲げられた形状のジュラルミン製クリップオンハンドルを握る。シートは低く、フットレストは高く後方に持ち上げられているから、かなり苦しいと予想していたのに、意外や手長の僕の身体には合ってしまう。ドゥカティのクリップオンの苦しさとは大違いで、やや幅が狭く、よくしぼられたコンチハンの感じだ。盛り上ったタンク後部に内股から腹が巧く密着し、体重を預けられるから、ポジションは楽だ。
わずか4周しかできないから、低速走行は無視して最初からスロットルを開けてみた。スクリーンから顔をわずかに出して直線を飛んでゆくと、風当たりが弱いため速度感が希薄だ。どのぐらい出てるのかとスピードメーターを見れば、針は上限に貼り付いている。アメリカ仕様の85マイルメーターは、作動が確認できたのはヘアピンだけで、残りはすべてスケールアウトしていた。「グリーンベースに黒い針のタコメーターも瞬間的には読みにくく、9000rpmからの赤ジマのレッドゾーンも判断に困ってしまう。
GSX1100と共通だというエンジンとフレームを信頼して、適当に感覚で走る。余計な事を考えるには速すぎるマシンだから。パワーコントロールで抜けるコーナーでは5000〜7000rpmまで回しても、アップハンドルのGSX1100で感じたパンチ力はない。中速域がふくらんだというエンジン特性と前傾姿勢でGを感じにくいポジションとの相乗効果だ。
充分に余裕を持って走っても、直線でもコーナーでもスピードは非常に速い。コーナーでは最大47度というバンク角を使い切らず接地はしないが、身体は自然にイン側に落ち、フットレストを蹴り出すようにして、外腕がタンク側面を抱くようなフォームになっていることに気付く。バイクとの接触面が多いだけに、心理的に安心感が高い。スロットルも重くなく、レスポ ンスも良いから、スロットルワークで力が要ることもない。
スプリングを最弱に、ダンピングを2段目にセットしてあったリヤショックとフロントフォークはやや堅めだが、堅すぎるほどでもない。乱暴な言い方をすれば、もっと速く走れば良いのだから。スロットルのオンオフに対する挙動変化は、人車一体感が強いために気にならない。慎重に前後ブレーキを軽く操作しながら走ったためか、人によっては感じたというスロットルオフ時のフロントの逃げは、許せる範囲であった。BS製マグモーパス・タイヤは低速コーナーでの倒し込みは軽いし、加速時の喰いつき、高速コーナーでの踏ん張りとも、4周ぐらいの走行では充分と感じられた。
何といっても、高速での直進安定性とその速度は、これまでの国産バイクの感覚をはるかに超えている。750 でも良いから、このポジションと足回りで走りたいぐらいだ。荒れた道でも充分にいけそうだし、デザイン面でも最先端にあるし。是非、日本国内での発売にも期待したい。
レポート:マイケル黒田
撮影:H.NISHIMAKI
ニュース提供:ヤングマシン1981年4月号
なお、ここで紹介しているGSX1100Sカタナ・プロトタイプの車両情報を始めとする歴代カタナの貴重なストーリーは、ヤングマシン’18年12月号の付録冊子「KATANA COMPLETE FILE」に詳しい。