全日本ロードGP3クラスで戦う静夏ちゃんのメカニックは、弟の慎さん。プライベートでも一緒にツーリングするほど仲のいいふたり、今日はPCX/PCXハイブリッドの2台でご近所お気楽ツーリングです。※ヤングマシン2018年11月号(9月24日発売)より
ともにレースを戦う姉弟が、スクーターでリラックス
すみません、実はさりげなく1回休載させてもらってました……。7月1日、全日本ロード第5戦筑波大会のレース2でハイサイド転倒。両足の甲と指、合わせて3ヶ所を骨折してしまったんです。前日のレース1決勝は5位。自己最高位でした。でも、「攻めきれず・人を抜けず」という内容での5位だったので、レース2に臨んでは「もっと冷静に戦えば表彰台はイケるぞ」と思ってました。振り返れば、調子に乗ってたわけです(笑)。
スタート直後、イン側から1コーナーに進入したんですが、アウトから勢いよく2台が抜きにかかってきて、「抜かれたくない!」とスロットルを開けすぎ、目の前はゼブラ……。「こりゃ、やったな」と思った瞬間に跳ね飛ばされました。ゴロゴロ転がりながら、「あ〜あ、やっちゃたか〜。JP250レース2決勝の第1ヘアピンで小椋華恋ちゃんがハイサイドで転ぶのを見てたのにな〜。それより手前でやっちゃうとはな〜」と思ってました……。
足が痛かったので、病院で調べたら骨折していたんですが、レーシングブーツはまったく傷んでなかったんですよね。お医者さんいわく、「衝撃による骨折ではなくて、ステップを強く踏みすぎたからじゃないかな」とのことでした。 骨折っちゃうって、どんだけ強く踏んでるんだよ、自分……。
ところで、私のメカニックは弟の慎(しん)なのですが、私の体のことはさほど心配していなかったらしいです(笑)。それよりも、転倒を知ればすぐに「スペアパーツは何がいる!?」と考え、骨折と分かればすぐに「次のレースはどうなる!?」と思い、まぁとにかくレーシング。慎自身もバイクのレースをしていたこともあり、アタマの中は「走ること・戦うこと」だけ。私と同じです(笑)。 心配しすぎることもなく、「どうせ痛いのはオレじゃねーし」と、何事もなかったかのようにアッサリ振る舞ってくれるのは、弟ならではの気易さですよね。
実は最初にポケバイに乗り始めたのは慎の方なんです。その姿に、「何よ。面白そうじゃない」と乗ってみたのが、私のレース人生の始まりでした。でも慎は、姉の私が言うのも悔しいけど、すごく優しくて穏やかな性格の持ち主です。ミニバイクなんかではたまに私より速いタイムを出して、「生意気な!」とムキにさせてくれたんですが、「オレは人と競い合うよりバイクをいじる方がいいや」と、ライダーではなくメカニックの道を選びました。今回は、そんな慎とPCX/PCXハイブリッドの2台でショートツーリングです。まだ足に痛みは残ってるんですが、スクーター&慎となら気易いのなんのって!こんなにラクなロケも、なかなかないですよね。ありがたや……。
ハイブリッド最大の美点は、上質なスロットルレスポンス
慎──うーん、悩ましい……。
静夏──何悩んでんのよ。
慎──PCXってスクーターだけど、車格も少し大きいし、バイクらしさがあるじゃん? だからさ、PCXにまたがる時は、こう、スクーターっぽくセンターに足をくぐらせるのがいいのか、それともバイクっぽく後ろに足を振り上げてまたがればいいのか……。
静夏──どっちでもいいわよ。
慎──どっちがカッコいい?
静夏──好きにしなさいよ。
慎──うーん……。
静夏──あのね、気にするべきなのはそこじゃないの。エンジンとアシストモーターを組み合わせたハイブリッドはどうかってことよ。
慎──あ、そっか。いや〜、ハイブリッドって驚くほど違うもんだなぁとビックリしたよ。
静夏──驚くほどビックリって、驚きが重複してるじゃない。でも慎がそう言うのも分かるなぁ。私も乗り比べてビックリしたもん。
慎──エンジン車も、スクーターとしては十分よく出来てるんだよ。だけど、発進の時、クラッチがつながるまでの間にどうしてもタイムラグがあるし、つながり感にも多少の唐突さがある。構造上しょうがないんだけどさ。
静夏──見通しの悪い交差点でちょっとずつ頭を出そうかっていうような時に、ちょっとスロットルコントロールが難しく感じるよね。
慎──そうそう。スクーターとしてはごく普通なんだけどさ。でもハイブリッドの方は、出足がものすごく滑らか。停止してるところからスロットルを開けると、その瞬間から開けた分だけ車体が前に進むんだ。
静夏──……つまんないの。
慎──何が?
静夏──だって、私の印象と同じなんだもん。
慎──それは仕方ないだろ? 姉弟なんだしさ。
静夏──雑誌のインプレなんかを見ると、「PCXハイブリッドは加速力がスゴイ」って書いてあったんだよね。でも、実際に乗ってみた印象では、細かく発進する場面ですごく有効だなって感じたんだ。さっきも言ったけど、見通しの悪い交差点とか、駐車場の出入りとか、発進するかしないかという微妙なシーンでハイブリッドはすごく細かいスロットル調整が効くのよね。PCXの足着き性は不安があるほどじゃないけど、スクーターとしてはちょっと大きめ。だからか弱い私が片足ツマ先立ちで支えてる時にスロットルで発進するかしないかっていう微調整ができると、すごく助けになるんだよ。
慎──振動も感じないし、上質な乗り物に乗ってるって感じがするよね。無闇に速すぎるスクーターって、前からグイグイ引っ張られていくような感じがするんだけど、PCXハイブリッドは後ろから優しく押されるような感じかな。
静夏──そ、そういうことよ。いいこと言うじゃない。
慎──エンジン車のクラッチがつながるまでのタイムラグとか、微妙なトルクの谷とか、今まであまり気付かなかったネガが全部解消されてるよね。モーターアシストが効くのはスロットルを開けてから4秒だけらしいけど、こんなに効果的なのか。それとさ、回生動作で充電のインジケーターが点くのって、なんかうれしくない?「あ、今チャージしてる!」っていうシアワセ感……。
静夏──ちょっと何言ってるのか分かんないけど(笑)、サスペンションの動きも素直でいいよね。セッティングは何も変わってないらしいけど、車重が違うからかなあ、すごくスムーズに作動してて気持ちいい。
慎──サスがちゃんと仕事してるって感じがするよ。ホント、上質なスクーターだよなあ。
静夏──私、PCXハイブリッドに乗って思ったんだけど……。
慎──「こういうセッティングのマシンでレースしたい」、だろ?
静夏──何で言っちゃうのよ! でも、その通りなのよね。スロットル操作にピッタリと追従しながらパワーが出てくれて、しかもサスが思い通りに作動する。これってレーシングマシンとして見ても理想の仕上がりだなあって。 慎──分かってるって。「もっといいマシンを作れ」って言いたいんだろ? 作るから、来年はチャンピオン獲ろうぜ。
静夏──ホントよね。今年は厳しいけど、チャンピオン獲りたいよね。よし、今日はラーメンおごる。
慎──スムーズなおごり……。まるでPCXハイブリッド(笑)。
撮影:真弓悟史
まとめ:高橋剛
取材協力:ホンダモーターサイクルジャパン、アライヘルメット、ヒョウドウプロダクツ、アルパインスターズ