
分割ジョイント部分のOリングには要注意! 2連/3連/4連キャブを分解メンテナンスした際に、キャブ本体ばかりが気になってしまい、“連結部分”の存在をすっかり忘れてしまうことも。燃調キットにジョイント部分のOリングが同梱されているケースもあるが、機種によってはOリング自体がなく、部品交換しか修理手段がないモデルも…。後者であっても、キースター燃調キットでは機種によっては対策部品がラインナップされている。
●文/写真:モトメカニック編集部 ●外部リンク:キースター( 岸田精密工業)
連装キャブレター分解メンテナンス時の注意点
2気筒でも3気筒でも4気筒でも、“連装キャブレターの分解メンテナンス”では注意すべきことが多い。単一ボディのシングルキャブを分解メンテナンスするのとは、ちょっと違った目線が必要だろう。どんなキャブにも共通して言えることは、分解洗浄/部品交換後に「これで大丈夫!!」とは決して思い込まないようにすること。
まずは、オーバーホール完了後のキャブレター単体に、点滴型のメンテナンス用タンクからガソリンを流し込み、キャブ単体状態でガソリンの漏れ/滲み/オーバーフローがないか、事前確認しておくことが重要だ。
やっとのことで車体に取り付け、復元完了。ガソリンタンクを載せて燃料ホースを接続して、コックを開放!! その直後に、エンジン下にはガソリンの滴りが…、では悲しすぎる。そんな状況は、ベテランサンメカなら誰もが経験したことがあるはずだ。
キャブレター単体の状況で、可能なかぎり点検を先に済ませることで、後々の復元作業も意気揚々と進めることができる。そんな際に特に要注意なのが、連装キャブの連結部分に組み込まれている、燃料ジョイントの“Oリング”交換だろう。ジョイント部分からガソリンが滲んだり、滲みを超えて滴り流れてしまうようなトラブルは、意外と多いのだ。
今回、キャブレターの不調で入庫したRC42型ホンダCB750の場合は、分解オーバーホールを当初から考えていたので、キースター製燃調キットのオーダー時には、補修部品の入り組内容を確認。同モデルの場合、気筒間に入るジョイント部品用Oリングがキット同梱されていることを知って安心した。
実は、このOリングの交換を忘れてしまったことで、後々本当に面倒なことになった経験がモトメカニック編集部スタッフにはあった。だからこそ、車体にキャブボディを復元する前には、可能なかぎりでき得る確認点検作業を先行すべきだろう。
ちなみにこのCB750は、教習仕様車の払い下げ購入車。それゆえ、車体各部の部品仕様が一般市販車とはかなり異なっていた。それ以上に驚いたのが、教習仕様車ならではと思われる不具合があったことだ。キャブレター周辺のメンテナンスだけでも、それが複数あったのだ。教習車のメンテナンスは未経験だったので、実に興味深くバイクいじりを楽しむことができた。
実働7年で走行距離は2万7000km。ひと世代前の大型自動二輪教習仕様車に取り付けられていたキャブレター。通常の2万7000kmとはまるで違うコンディション!?
車体から4連キャブを取り外して気が付いた。なんとキャブ側取り付け金具付近の奥まった部分でインナーケーブルが擦られ続けて、切れかかっていた。教習車ならではだろう。
最後の空冷エンジンなので、様々な排気ガス対策部品がエンジン周辺に取り付けられていて、キャブ本体にアクセスする前に、様々な部品を取り外さなくてはいけなかった。
エアークリーナーケース側のインレットパイプをズラしたときに気が付いた、メインベンチュリの汚れ。自動車ならば15〜20万kmほど走ると、キャブはこんな汚れになる。
スロージェットのバイパスポートから混合気が吹き出していた様子は、バタフライバルブに痕跡として残っていた。いかに低速域ばかりが使われていたか!? 想像できるだろう。
慌てず、焦らず。気になるところは“携帯カメラ/デジカメ”で状況証拠!? を撮影しよう
ガソリンの吹き返しと思われる汚れをクリーニングするには、スプレーケミカルより漬け込みの方がより確実なのは間違いない。組み立て時に迷わないよう、4連キャブ特有のバルブリンクやスターターバルブなどの連結部分は、分解前に画像として残しておこう。
アイドリング時の混合気量を調整するパイロットスクリューは、無用にいじられないようマイナス溝ではなくD形状を採用。これを回すには、ストレート製Dタイプソケットドライバーがあると良い。
現状の戻し回転数を記録しておくのは、パイロットスクリューを取り外す際のお約束。これほどまで汚れる前に調整したのか否かは不明だが、4個とも大きく外れることなく揃っていた。
パイロットアウトレットとスクリューのテーパーによって、アイドリング領域の混合気量が決まる。燃焼室からの吹き返しでカーボンが付着すると、スロットル低開度域の不調につながることがある。
パイロットスクリューにセットされる緩み止めのスプリング/ワッシャー/二次空気吸い込み防止のOリングは、サイズが小さい。キャブ側に残らないよう、ピックアップツールなどで確実に回収する。
オーバーフローはなかったので不具合はないと想定されるが、フロートを外した際はニードルとバルブシートの当たり面を確認する。ニードル先端の円錐部分の線条痕は摩耗のサインなので、交換する。
パッと見はよくわからないが、バキュームピストンもベンチュリーと同じくワニス? ヤニ状? の吹き返しで、表面はネバネバでベトベト。ダイヤフラムの硬化や破損は致命傷だが、傷もなく柔らかくひと安心。
特殊なコーティングでもしてあるかのような様相だ。汚れ具合が均等なので、特定のシリンダーに不具合があるわけではないようだ。エアークリーナー経由で吸い込まれるブローバイガスも影響!?
泡タイプのキャブクリーナーをスプレーするより、溶液タイプに漬け込む方がクリーニング効果が高いと判断して、4連キャブを分解する。組み立て時に不安があるなら、スマホで撮影しながら進めよう。
長年使用したキャブには汚れが堆積する。外からブラシでこするより、部品単位にした方が細かい部分まで清掃できる。ビスの十字穴の汚れは、ピックツールで掘るだけでトラブルを予防できる。
2カ所の連結プレートを外してスターターシャフトを抜くと、ボディを分離できる。スロットルバルブリンクに組み込まれたスプリングは同調を合わせる際に重要なので、飛散に注意して組み付け順を記録。
チョークレバーで開閉するスターターバルブが開くと、スターター系統からガソリンが吸い出されて冷間時の始動性が高まる。一方、バルブ先端のガスケットの硬化や変形で不調になることもある。
スロットルバルブを全閉にして光にかざし、ベンチュリー内径とバルブ外周の密着度を確認する。このキャブは大丈夫だったが、ぴったり閉じない、隙間がまちまちだと同調がうまく合わないこともある。
せっかくフルオーバーホールをするなら…の“せっかく”がココ。15年以上経過しているキャブのゴムは確実に劣化が進行している。連結を解除したなら、フューエルジョイントのOリングは必ず交換しよう。
キャブレターに関わる各方面、もちろん当編集部も絶大な信頼を寄せている、ワイズギアのスーパーキャブレタークリーナー。原液3割対ガソリン7割で希釈して使用する。
4個のボディを同時に洗浄できるよう、2Lのペットボトルをカットした特製容器を準備。ガソリン通路やエアー通路にしっかり行き渡るよう、全面的に沈む容器を使用するのがポイント。
車体左側(1番)キャブのスロットルポジションセンサーを外すと、バルブ開度と抵抗値を合わせる調整が必要。サービスマニュアルがなかったので、洗浄液が付着しないよう注意しながら漬け込む。
洗浄液に1〜2時間漬け置く間に、フューエルジョイントのOリングを交換。ピックツールで軽く引っ張るだけで、経年劣化による無数のクラックが露呈する。これがガソリン漏れの原因になる。
キースターの燃調キットには、フューエルジョイントやベントパイプのOリングも含まれている。ジェットやニードルを使ったセッティングはもちろん、オーバーホール時に役立つ理由がここにある。
汚れ具合によって最適な漬け込み時間は増減するが、クリーナーで浮いた汚れはブラシで軽くこするだけで簡単に落ちる。ボディ外部のホコリや油系の汚れも落ちて、新品のような輝きになる。
ジェット取り付け部分や各部のエアポートの通気状態を、エアブローガンでしっかり確認しよう。ジェットに緑青が発生したり、カチカチのワニスが付着した長期放置キャブにとって、エアブローは必須作業なのだ。
エアブロー後も表面にはクリーナー成分が付着しているので、パーツクリーナーなどですすぎ洗いを行う。今回のような全分解状態なら、フレッシュなガソリンに漬けて洗い流すのが手っ取り早い。
ボディ以外の部品も、キャブクリーナー洗浄後ガソリンですすいでおく。ヤマルーブの原液タイプはゴム部品に使えないので、ダイヤフラム付きのバキュームピストンはパーツクリーナーだけで洗浄。
今回、ジェットやニードルなどのインナーパーツはすべてキースター燃調キットに交換するが、ボディと構成部品は分解時からキャブごとに管理しておく方が、組み立て時の間違いを予防できる。
漬け込み洗浄によって、汚れが堆積していたスロットルドラム部分のスプリングやスターターバルブ周辺もこの美しさ。スターター系統を開閉するバルブも、キースター製の新品で万全だ。
フロート部分に挿入されるフューエルジョイントの先には、小さなストレーナーが組み込まれている。燃料コックを通過したゴミやサビやを取り除く最後の砦。ここが汚れているとガソリン流量が低下する原因になるので、組み立て前に確認しておこう。
組み立て時のねじれや傷付きを防ぐため、フューエルジョイントにセットした燃調キットのOリングにラバーグリスを塗布する。薄く塗れば十分で、Oリングが新品なら液体ガスケットは不要。
ボディ側の挿入部内壁の汚れや腐食はOリングの傷やシール不良=ガソリン漏れにつながるので、しっかり確認してから組みつける。同時にバタフライバルブのリンク組み立ても行うので、慎重に。
スロットルバルブを同期させるリンク部分のスプリングは、調整板に張力を加えるこの部分にセットする。アジャストスクリューを緩めて、隙間を広げてから挿入すると組み付けやすい。
アジャストスクリューと調整板とスプリングの位置関係はこうなる。スクリューの締め込み量で隣のスロットルバルブの開度が変化して、同調を調整できる。FIのスロットルバルブも仕組みは同じ。
ボディを連結する2カ所のプレートを取り付ける際は、ボディを平らな面に押しつけながらビスを均等に締め付け、スロットルバルブがスムーズに開閉することを確認する。
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