−17kgの進化が生んだ「純粋な楽しさ」ドゥカティ パニガーレV2Sはこうして生まれ変わった

ドゥカティ パニガーレV2S

●文:小川勤(ミリオーレ編集部) ●外部リンク:ドゥカティジャパン

孤高のパニガーレV4Sと友好的なパニガーレV2S

パニガーレV4Sでサーキットを3本ほど走ると、強烈な疲労感が僕の身体を襲う。汗は止まらず、足腰に力が入らなくなる。試乗直後は格闘技を終えたような感じだし、翌日は全身筋肉痛…。2024年にイタリアのヴァレルンガサーキットで開催されたパニガーレV4Sの試乗会での思い出が蘇る。

年齢を重ね、僕のスキルやフィジカルが足りないことは認めるが、実際のところパニガーレV4Sに乗ることは格闘技に近い。216psのV4エンジンはスロットルを開ける度に牙を剥き、MotoGPマシンにもっとも近い市販車はいかなる時も気が抜けないからだ。立ち上がりのたびにマシンの上でバランスを取り、コーナーのたびに身体を大きくオフセット、直線でも怒涛の勢いで流れる景色を見ながらバイクにしがみつき、ブレーキングポイントを慎重に定める。ブレーキングでは強烈な減速Gに襲われ、腕と下半身が悲鳴を上げる。

パニガーレV4Sをある程度理解するにはテクニックやフィジカルが必要だし、乗る前にはメンタルを整え、真剣に挑む必要がある。その本質を感じることができる人はごくわずかだろう。ただ、こうした究極の市販車を用意できるのがドゥカティであり、開発を止めないのもドゥカティなのだ。今やMotoGPとWSBKで培ってきたノウハウを市販車にフィードバックし続けている唯一のメーカーである。常に進化し続ける姿勢には、僕は敬意を表する。

一方で、パニガーレV4Sにはない“身近なスポーツライディングの楽しさ”を改めて探求した時に、ドゥカティが出した答えが“軽さ”だった。2025モデルとして登場した「パニガーレV2S」は、前モデルから−17kgを達成。バイクの軽量化はとても難しく、どのメーカーもできる限り軽いバイクを作りたいと思っているに違いない。もちろんカーボンやチタンという高価な素材を使えば軽量化は叶うが、それは多くのユーザーにフィットしない価格になってしまう。そこで、パニガーレV2Sはエンジンやシャーシを一新。信じられないほどドラスティックな構造改革を行い、驚くべき軽量化を果たしたのである。

ひと目でドゥカティとわかる、美しいラインを繋いだデザイン。実車と対面するとそのコンパクトさにも驚かされる。

パニガーレV2シリーズは、今回試乗した足まわりに豪華装備を持つパニガーレV2S(240万8000円)とパニガーレV2(211万9000円)の2機種をラインナップ。

身長165cm/体重68kgの筆者(小川勤)がシート高837mmのパニガーレV2に跨った状態。ハンドルは前モデルより60mm高く、ポジションは前モデルほど前傾ではなくなった。

ドゥカティは、今の時代に新たなるエンジンに挑戦する

パニガーレV2Sが−17kgを実現したファクターは、NEWエンジンによるところが大きい。新しく開発された「V2」と命名されたエンジンは、前モデルから−9.5kgを実現。見るからに小さく、バルブ開閉機構にデスモドローミックを使っていないヘッドまわりはとくにコンパクト。このエンジンを懸架するモノコックフレームは実際に見ると不安になるほど華奢な作りだ。

ドゥカティがエンジンをフレームのメイン剛体として捉える考え方は昔から変わらないが、近年の開発プロセスの進化によりその手法はどんどん変化している。ドゥカティのR&Dはとても科学的なアプローチで行われおり、すべてを数値化。剛性バランスや耐久性などだけでなく、ライダーの感性やエモーショナルなテイストも数値化し、シミュレーション→プロトタイプ→製品になった際の数値の差を埋める作業が徹底して進められているのである。

それがこの大胆なストリップ姿を生み出す。そこには思わず見入ってしまう機能美があり、ハンドリングを想像するだけで気持ちが昂ってくる。それにしてもなんてスリムなんだろう。モノコックフレームは大きな穴がいくつも空いており、両持ちになったスイングアームも軽さとしなやかさを追求しているのがよくわかる。Vツインエンジンの幅にシャーシのすべてが収まり、まるで無駄がなく、構造で軽さを引き出しているのがよくわかる。これぞドゥカティだ。

新しいV2エンジンは、これまで多くのドゥカティエンジンに採用されてきたバルブ開閉機構であるデスモドローミックを廃止。V2のバルブ開閉機構は、フィンガーフォロワーロッカーアームとIVT(インテークバリアブルバルブタイミング)機能を搭載したバルブスプリング式となった。

モノコックフレームはパニガーレV4の流れを汲む設計で、その重量は約4kgとのこと。

エンジンをフレームの一部と考え、エンジンからフレーム/スイングアーム/リヤサスペンションが生えるような車体構成になっている。

ドゥカティの新章がスタートしたことを確信

スペインのセビリアサーキットは、2024年10月にオープンしたばかりのコース。レイアウトはテクニカルだが、パニガーレV2Sは1本目の走行から身体に馴染み、とてもイージー。ハンドリングに890ccの質量はなく、どこまでも軽快。しかしスロットルを開けると890cc/120psのVツインフィーリングが炸裂する印象だ。

かつて、これほど急速に身体に馴染むドゥカティのスーパーバイクはなく、ハンドリングの軽さと加速のギャップは新たなるスポーツバイクの誕生を予感させた。「た、楽しい…」 コーナーをクリアするたびに、そのスポーツ性に陶酔する。

パニガーレV4Sという孤高の存在があるため、パニガーレV2Sはどうしても弟分に見られがちだろう。しかし、その存在はまるで別物。訴求するターゲットも楽しさの質も異なる。もちろん多くの人が楽しみやすいのはパニガーレV2Sだ。パニガーレV2Sはライディング時に直感的に身体が動くイメージで、その先に自然とバイクと一緒にいるような強い一体感がある。ドゥカティのキャリアが長いライダーほど、そのキャラクターに驚くに違いない。

それはベテランのジャーナリストが集う今回の試乗会でも見られた光景だ。ピットは終日、驚きや喜び、嬉しい意外性に湧く声が上がっていた。皆がドゥカティの新しい章を大歓迎している空気の中にいることはとても心地よく、パニガーレV2Sは多くのライダーをコーナリングに、そしてドゥカティに目覚めさせるだろうな、と思った。

軽さの追求は車体のセットアップにも影響。サスペンションは前モデルよりもよく動く設定、今回はスリックタイヤで試乗となった。

オーリンズ製モノショックを車体の左サイドにマウント。パニガーレV4と同様にスイングアームは両持ち。後輪のグリップはわかりやすく、とてもしなやかに路面を追従する。

ブレーキキャリパーはブレンボM50、フロントフォークは伸び側と圧縮側の減衰力調整が左右で独立したオーリンズ製倒立タイプ。シート下に2本装備するサイレンサー。ライダーに近いところにサイレンサーがあり、ドゥカティサウンドを楽しみやすい。

扱いやすさと軽さは、速さにも直結する

「パワーよりも扱いやすさや軽さを追求する」 V2エンジン発表時にそう聞いた時、その先にあるバイクは“やさしいバイク”もしくは“キャリアの浅いライダーに向けたバイク”だと漠然と思っていた。しかし、まったく違った。逆にドゥカティらしさも、スポーツバイクとしての資質も強化されていた。

実際、開発中のテストでイタリアのヴァレルンガサーキット(2024年にパニガーレV4Sの試乗会が行われた比較的高速コーナーの多いコース)を新旧2台のパニガーレV2Sで走行すると、プロライダーもアマチュアライダーもほとんど変わらないタイムで走行したという。NEWパニガーレV2Sは、前モデルから比較すると65ccと35馬力を失っているにもかかわらずだ。

しかし、乗り込んでいくとそれも納得。乗りやすさや軽さがタイムに直結しているのがよくわかる。旋回速度はどんどん上がっていき、さらに向きを変える際や切り返しでは250や400ccを思わせるほど大胆な操作を許容してくれるのだ。とくに切り返しでの挙動は驚きとともに頼もしさを提供してくれて、この排気量のバイクでは感じたことのないレスポンスの良いハンドリングを持っていた。

また、スロットル開け始めのフィーリングが良いのも好印象だ。スロットル微開で後輪は路面を掴み、全開にすると綺麗にグリップする。クイックシフターを使ってスロットル全開のまま、シフトアップするとどこまでも連続的にトラクションが続く。たしかに高回転時のフィーリングはデスモドローミックが勝るだろう。ただ、そこにストレスを感じることは一度もなかった。

5インチTFTメーター

5インチTFTメーターの表示画面はロード/ロードプロ/トラックから選べる。

ライディングモードはレース/スポーツ/ロード/ウェットの4種類。モードに応じて各制御の介入度が変化する。

新しいスポーツバイクの到来を予感

パニガーレVS2とライダーは、常に信頼という絆で結ばれているような感覚がある。だから積極的にスポーツライディングを楽しめるし、多くの人に勧めたい気持ちになるのだ。

僕はこの15分×6本の走行枠をあっという間に駆け抜けてしまった。パニガーレV4Sの時は1日がとても長く、体力と相談しながらペース配分が必要だったが、この日は名残惜しいほど1日が早くすぎ去っていった。体力の問題は皆無だし、ただただ清々しさに包まれていた。もっと走っていたい…とすら思った。この新鮮すぎる感覚も、新しいスーパースポーツの到来を感じさせるのに十分だった。

−17kgのインパクトはとてつもなく大きい。スペインの抜けるような青空の下で、僕はパニガーレV2Sに素敵な魔法をかけられたような気がした。それだけこれまでのスーパーバイクとは何もかもが異なる。翌朝も筋肉痛は皆無。パニガーレV2Sの魔法は、翌日になっても解けていなかった。

グラフィックがほぼない、造形だけで完成させるドゥカティのデザインが際立つ。

4月19日のDUCATI DAYで日本初公開!

2024年に続き、『DUCATI DAY 2025』がポルシェ・エクスペリエンスセンター東京で開催。ニューモデル展示の他、さまざまなコンテンツが用意され、パニガーレV2Sも日本初公開!。ドゥカティ好きにはたまらない1日を満喫しよう。もちろんドゥカティユーザーでなくても参加可能だ。

DUCATI DAY2025

  • 開催日時:2025年4月19日(土)7:00開場〜17:00閉場
    • 7:00AM:GATE OPEN(駐車場開場) 
    • 8:00AM:一般受付開始
      ※詳細のタイムスケジュールについては後日公開いたします。
      ※ レーシングマフラー等の保安基準不適合車はご参加できませんのでご了承ください。
  • 会場:ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京
  • アクセス:千葉県木更津市伊豆島字中ノ台1148-1
  • 参加費:入場料無料(有料プログラムもあり) 

ウイングがないスタイリングがスリムさと軽快さを強調する。『DUCATI DAY 2025』でそのスリムさを確かめよう!

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