進化を止めないドゥカティのスーパーバイクは第7世代に!

スーパースポーツを次世代に繋ぐ!衝撃の連続に感嘆!【2025 ドゥカティ パニガーレV4S 海外試乗】

15分×6回の試乗を終える頃、僕の身体は強烈な疲労感に襲われていた。「明日は全身筋肉痛だろうなぁ」とNEWパニガーレV4Sの余韻に浸る。イタリアのヴァレルンガサーキットで開催された試乗会は、スリックタイヤを使い走行毎にデータロガーを見ながら走りを検証。ドゥカティらしい最高のエクスペリエンスだった。


●文:小川勤 ●写真:ドゥカティ、小川勤 ●外部リンク:ドゥカティジャパン

ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S

5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく。市販車初のレースeCBSを搭載したパニガーレV4Sは、ブレーキング区間で信じられないパフォーマンスを披露。フロントブレーキをかけるとリヤブレーキを自動で制動し、ライダーはリヤブレーキをコントロールしなくて良いのだという。

さらにブレーキングによる高い負荷がかかった状態でも、NEWパニガーレV4Sはとてもフレキシブル。これはまるでカットモデルのように肉抜きされたフレームとスイングアームの効果だろう。

「あと3〜5mブレーキングを遅らせてみると、もっと良いパフォーマンスが得られるよ。それから最終コーナーのラインはね…」と、走行前にドゥカティのエンジニアであるフランチェスコ・ベルガミーニさんがオプション装着できるデータロガーを見ながらアドバイスをくれた。「でも怖いんだよね」「ま、そうだよね(笑)」なんて会話を走行毎に楽しみながら、15分×6本の試乗会は進行していく。
 
これは7月に発表されたばかりの2025年モデルのパニガーレV4Sの試乗会が行われた、イタリアのヴァレルンガサーキットでの1シーンだ。僕は、NEWパニガーレV4Sのポテンシャルだけでなく、改めてドゥカティの面白さやパニガーレの独自性を実感。こんな形でエンジニアリングを体感させてくれるメーカーは他にないだろう。
 
『Wonder. Engineered.』のキャッチコピーの通り、この試乗会でパニガーレV4Sは僕に数々の驚きをもたらしてくれた。

価格は414万1000円(V4S)、323万9000円(V4)。日本導入は2024年内を予定。

【エンジン】水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ 【ボア×ストローク】81×53.5mm 【総排気量】1103cc 【 最高出力】216ps/1万3500rpm【最大トルク1】2.3kg f・m/1万1250rpm【燃料タンク容量】17L 【ホイールベース】1485mm【シート高】850mm【車両重量】191kg (燃料を除く)【タイヤサイズ】F :120/70 ZR17 R :200/60 ZR17

851からスタートしたスーパーバイクは第7世代へ。こうして歴代モデルを眺めていると、すべてのバイクの乗り味が鮮明に蘇ってくる。それは僕の記憶力が良いということではなく、個々のキャラクターがしっかりと確立していたからだろう。

パニガーレV4は2018年にデビュー。ちなみにこの時のフロントフレームに穴は空いてなく、翌年のパニガーレRからフレームに穴が空いた。第7世代のRにも期待が募る。

性能だけでなく、美しさと新しさをどこまでも追求

スーパーバイクの第7世代(7G)となったパニガーレV4Sは、イタリアンレッド1色。他メーカーのようなグラフィックはなく、それでいてデザインはとても洗練されている。

凹凸が交互に配置されたサイドカウルは、鍛え抜かれたアスリートのようなボディライン。このモデルからエアロデバイスは後付け感をなくし、空力もデザインの一部に。ウイングは車体と同色となり、大きな口を開けていたエアダクトはカウルの内側へと収められた。

スイングアームの肉抜きはかなり激しい。左右の肉抜き具合やリブの使い方は全然違うのだが、ここにドゥカティコルセの技術が注入されている。

また、デザインの各部で第2世代の916をオマージュ。全体的なシルエットはもちろんシャープなデイタイム・ランニングライトも916をイメージしたもの。伝統を大切にしつつ新しさを生み出している。
 
見た目の最も大きな変化は、両持ちのスイングアームを採用したことだろう。これはMotoGPマシンからのフィードバックでドゥカティコルセからの要望とのこと。両持ちと片持ちを数え切れないほど乗り比べ、結果を追求した。ハイエンドのスーパーバイクが両持ちスイングアームを採用するのは第3世代の999以来だ。
 
スイングアームと合わせてフロントフレームと呼ばれるメインフレームも大幅に変更。ヴァレルンガサーキットでフレームとスイングアームの単品を持ってみて驚いたが、信じられないほど肉厚が薄く、軽かった。この大胆な肉抜きからも分かる通り、剛性バランスは大きく変更され、フロントフレームは40%、スイングアームは37%も横方向の剛性を落としている。
 
僕の個人X(旧Twitter)に、現地でこの2つを投稿すると瞬く間に拡散。様々な意見が飛び交う感じも面白かったし、皆の驚きも相当のものだったに違いない。

シルエットやアンダーカウルの雰囲気、さらにヘッドライト周りはスーパーバイク第2世代の916をオマージュ。

エンジンからフレームとスイングアームが生える独自のシャシー構成。ライバルは全車アルミツインスパーフレームだが、ドゥカティはひたすらオリジナリティを追求する。

かなり大きな穴の空いたフロントフレーム。エンジンをシャシーの一部として考える手法は851時代から変わらない。

片持ちと両持ちのスイングアームを同条件で何度もテスト。MotoGPの技術を投入する。両持ちスイングアームはタイヤが減ってきた際も機能しやすいのだという。

216psに畏怖せず、自信を持ってスロットルを開けられる。ちなみに初期型のパニガーレV4Sは全開にするとかなり振られた。いま思えばシャシーが硬かったのだろう。

新しい規制に対応させつつ、216psのエンジンパフォーマンスを発揮

近年、全メーカーのスーパースポーツの開発の難題になっているのは、ハイパフォーマンスエンジンを規制に対応させることだ。しかし、MotoGPマシン譲りのV4エンジンを持つパニガーレV4Sは、216psを発揮しつつ新しいユーロ5プラス規制にも対応。ちなみにエンジンの下側でマフラーを完結しているデザインでこの規制に通っているスーパースポーツは他にない。

MotoGPマシンと同じ不等間隔爆発のV4エンジンは、速さだけでなく気持ちよさも兼ね備えている。多くのメーカーがMotoGPでも使うV4エンジンは、並列4気筒よりも幅が狭いため空力を良くできるなど様々なメリットを持つ。

MotoGPマシンと同じφ81mmのピストン径、不等間隔の爆発間隔、デスモドローミックと呼ばれるバルブ開閉機構を装備するV4エンジンの排気量は1103cc。ライバルよりも排気量が多いため、トルクフル。扱いやすさと速さを両立している。
 
また逆回転のクランクもMotoGPマシン譲り。逆回転のクランクには様々なメリットがあり、ひとつめはホイールが発生するジャイロ効果の軽減。これがリーンで大排気量を感じさせない軽快なハンドリングを実現し、フルブレーキング&シフトダウンをしても前輪に大きな荷重が乗る感覚が少なくなるメリットもある。ふたつめはスロットルを開けた際に前輪を押し下げる方向に慣性連動トルクが作用すること。ようはウィリーしにくくなるのである。
 
さらにこのモデルからカムシャフトを始めとする様々なパーツを変更して、エンジンを1kg軽量化。スーパーレッジェーラやパニガーレV4R、そしてレースシーンで培った技術をいち早く投入。改めて言うまでもないのだが、MotoGPマシンを開発するドゥカティコルセが直接開発に携わって誕生するのがドゥカティのスーパーバイクなのだ。他メーカーのエンジニアリングを考慮すると、このダイレクトな開発体制自体が驚きだろう。

ブレンボ製のHypureキャリパーを採用。もちろんモノブロックで、熱交換率も強化され前モデルから60g軽量化。力がかかっていないときのディスクの滑りを15%も軽減。ステップは10mmも内側にマウント。これも両持ちスイングアームがもたらすメリットの一つ。

前後サスペンションはオーリンズ製。ドゥカティ・エレクトロニック・サスペンション(DES)3.0は、前後にスプールバルブを呼ばれる機構を採用。これがハンドリングのレスポンスの向上などに貢献。リヤサスはエンジンの後バンクにマウントされる。

アルミ製燃料タンクはシート下まで伸び、マスの集中を促進。シートは後方向に35mm伸び、幅は50mm拡大。背の高いライダーの動きやすさが大幅に向上した。

MotoGPマシンに急接近する第7世代のスーパーバイク

僕は第一世代の851以降、ドゥカティの歴代スーパーバイクに試乗してきたが、ドゥカティは次のジェネレーションにステップアップする際、常にドラスティックな改革を行ってきた。今回の7Gも同様で、圧倒的パフォーマンスが俄然身近になった。

エンジニアのフランチェスコ・ベルガミーニさんと。走行毎に僕のデータを検証。ギヤ選択、ライン取り、スロットルの開け方などを教えてくれた。

ちなみにMotoGPチャンピオンのフランチェスコ・バニャイヤは、2024年の7月にWDWの開催されたミザノサーキットでパニガーレV4S を駆り1分35秒051を記録。これは2022年のWDWで6GのパニガーレV4Sを駆った時よりも0.835秒も速いタイムで、MotoGP第13戦のミザノのMotoGPで優勝したマルク・マルケスのレース中のタイムは、1分31秒564だった。パニガーレV4Sは7Gになり、MotoGPマシンに急接近したと言っていいだろう。
 
今回の試乗会は15分×6本が用意され、最初からスリックタイヤを装着。1本のセッションが終わるとオプションのドゥカティ・データ・ロガーを使ってエンジニアと走行データを見ながら走りを検証するという試みだ。
 
まずはコースに慣れるところからスタート。ヴァレルンガは前半が高速で後半が低速セクション。メインストレート部分がストレートと呼べないほど大きく湾曲したトリッキーなコース。高めのギアを使ってまずはコースを覚える。スローペースだとパニガーレはなんだフワフワとしている感じ。サスペンションを奥まで使っていないのだが、フレーム&スイングアームが柔らかいせいなのか乗りやすい。

これがオプションのデータロガー画面。「最終コーナーでは一度アクセルを開けてしまっているからきちんと曲がれていないよ。もう少し我慢してからスロットルを開けよう」とフランチェスコさん。分かっているが、できない…。

走行後に「このヘアピンは1速だよ。いま2速で曲がっているね」とデータを見ながらフランチェスコさんからアドバイス。僕の走りはすべて筒抜けだ。2本目は少しだけアベレージをアップ。前半の高速セクションでパニガーレはとても自由に振る舞う。5速全開から少しブレーキを当てて挑むヴァレルンガで最も速いコーナーでも不思議とラインを見失いにくい。

最初の3本はレースモードB。色々な制御の介入が多く、でもだからこそ安心感の高いモードだ。立ち上がりも進入もスライドする気配はないが、制御が走りを支えてくれていることも実感できる。216psがこんなに身近で良いんだろうか?と驚く。

6.9インチのTFTメーターはかなり大きく、視認性も高い。表示方法も多彩。ドゥカティコルセが開発した電子制御は、6軸慣性プラットフォームをベースにしている。このモデルからドゥカティ独自のアルゴリズムを使用することで予測的に作動するというから驚く。ライディングモードは「レースA」「レースB」「スポーツ」「ロード」「ウェット」を用意。パワーモードは「フル」「ハイ」「ミディアム」ローの4つが設定。「フル」は最も極端なモードで、デフォルトではどのライディングモードにも紐づいていない。

今回はレースBでスタートし、途中からレースAに変更。もちろん各制御にデフォルトはあるものの、DTC、DSC、DWC、EBC、ABSなどの数値も簡単に変えることができる。

速さと楽しさを共存させるNEWパニガーレV4S

4本目からはレースモードAでスタート。エンジンレスポンスも上げ、各制御の介入度は少なめに。するとパニガーレV4Sの動きはさらに軽くなった。スロットルワークで車体のピッチングを出しやすくなるため、サスペンションもよく動く。ただし、それには当然だがライダーがしっかり身体を使ってバイクの動きに追従しなくてはならず、僕の体力が限界に……。バイクは軽く動きたがっているのに、僕の身体が重くなる。まもなく50歳、日頃の運動不足を痛感する。

「ペッコはABSオフも試したけど、最終的に選んだベストなABSモードはレース1だったんだ」と、技術説明での話を思い出す。

今回の試乗会は最初からピレリ製のスリックタイヤでスタート。終始同条件のデータを取るために、スリックにしたとのこと。安心感としなやかさは抜群だった。

実はパニガーレV4Sは、レースeCBSを装備した初の市販車。これはフロントブレーキをかけるとリヤを自動で調整し、コントロールしてくれるシステム。「リヤはコントロールしなくていい」とフランチェスコさんは言い切るが、リヤブレーキをフロントよりも先にかけるスタイルの僕にはこれがなかなか難しかった。「もちろんリヤを使ってもいいよ。その場合もeCBSやABSは作動するから」とフランチェスコさん。

バックストレートがこの記事の冒頭でのシーン。270km/hくらいからの減速率は本当に強烈で、ブレーキングポイントをどんどん奥にできる。スリックタイヤの恩恵もあるが、制御とシャシーの進化を同時に体感。このシステムはフロントブレーキをリリースしても、少しの間リヤブレーキをかけているというのだから驚くしかないし、僕はすぐにレースeCBSの虜になってしまった。

また、レースeCBSは右足がペダルから離れがちな左コーナーや、イン側の足を出しての進入でも効果を発揮。進化するライディングスタイルに、パニガーレV4Sはしっかりと追従する。

パニガーレV4SのPVに登場するフランチェスコ・バニャイヤ。WDWのレース・オブ・チャンピオンでもパニガーレV4Sを駆り優勝した。

ドゥカティはスーパースポーツの最先端を探求し続ける

MotoGPで圧勝するドゥカティがいま考えられる最高のエンジニアリングで作った1台。それが第7世代のスーパーバイクだ。なんてわかりやすいコンセプトなんだろう、と感心するしかない。

「開発においてもっとも苦労したところは?」と聞くと「6Gの完成度も高かったから本当に大変だった。一つでは言い表せない」とのこと。規制に対応させることはカウル内にスペースがなくとても大変だったし、デザインにおいても前作が秀逸なだけに苦労したという。

しかし、ドゥカティはすべてにおいてレベルを引き上げ、スーパースポーツというカテゴリーを次のステージへと導いた。これは決して過言ではない。

正直なところ、BMW S1000RRの方が乗りやすさや素直さはある。ただ、パニガーレV4には走りを組み立てる楽しさがある。MotoGPマシンと同じ爆発間隔やデスモドローミックの高回転の伸び、エンジンを軸としそこから生えたフレームとスイングアームによる乗り味など、速さ以外にも特別な魅力が溢れている。MotoGPマシンと同じφ81mmのピストン径や逆回転クランクも大きな付加価値だ。

電子制御に全てを委ねてスロットルを大きく開け、電子制御に全てを委ねてブレーキを握る。走行を重ねる度に大胆な自分に出会える悦びがあり、長年多くのバイクに乗ってきた僕の心は踊る。こんな世界があるのか…。

しかしながらその楽しさに反して、悩みは僕のオールドスクールなライディングスタイルを変えられないことだった…。「もっと肘を出すんだ!」と、先導してくたダリオ・マルケッティさんの言葉をありがたく受け止め、自分を進化させることが目下の課題であることが明確になった1日でもあった。そう思わせてくれるのもNEWパニガーレV4Sの進化があってこそだ。

ライダーが望めばどこまでも応えてくれるMotoGPマシンに最も近い市販車が、2025年モデルのパニガーレV4Sだ。日本導入は2024年内を予定。MotoGP日本ラウンドのドゥカティーブースでの展示も決定。ドゥカティのアイコンともいえるパニガーレの最先端をご覧いただきたい!

MotoGPやWSBKといった最高峰のロードレースを、きちんとブランディングやマーケティングに使う唯一のメーカーであるドゥカティ。パニガーレV4Sはそんなドゥカティらしさを象徴する1台だ。

ダウンフォースを犠牲にすることなく空力は4%向上し、熱の排出性もアップさせた。今回から空力をデザインし、ウイングは車体と同色に。エアダクトはカウルの内側に配置される。

WDW開幕の前日に突如発表されたパニガーレV4S。こちらはWDWの会場で撮影した写真。「WONDER. ENGINEERED.」の壁の奥にパニガーレV4Sの専用ルームを用意。世界中のカスタマーにいち早く公開するのもドゥカティ流だ。バイクを売るだけでなく、ファンを楽しませることをとてもよく考えている。

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