
近年、全メーカーが力を入れているアドベンチャーカテゴリー。大排気量&電子制御満載の本格ビッグアドベンチャーは進化が凄まじいが、中にはアドベンチャールックのバイクも多数。そんな中、ロイヤルエンフィールドは独自のフィロソフィーでヒマラヤを作り続けてきた。そんなヒマラヤが水冷エンジンを搭載してフルモデルチェンジ。インド北部の街・マナリで開催された試乗会に参加してきた。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:高島秀吉 ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
バイク好きが開発! 自然と共存するアドベンチャー、それがヒマラヤだ
今だから書けるが、昨年のモト・ヒマラヤ2022(【いざ、インドへ! 標高5000 mを走破する旅に参加】バイクでヒマラヤを登る!Vol.1「モト・ヒマラヤ2022 Day1〜4」)に参加した時、我々は見てはいけないものを見てしまった。それはツアーの最終日、ツォ・カールという塩湖のある町で、ロイヤルエンフィールドの開発陣が今回発表された水冷のヒマラヤをテストしていたのだ。
「写真を撮らなければ見てもいいよ」と我々を全面的に信頼してくれた彼らは、テスト車両を惜しげもなく見せてくれたし、驚いたのはそこにアイシャー・モーターズ(ロイヤルエンフィールドの親会社)のマネージングディレクターであるシッダールタ・ラル氏やロイヤルエンフィールドのCEOであるB・ゴビンダラジャン氏、さらにロイヤルエンフィールドのデザインチーフ(デザインは開発の意味)であるマーク・ウェルズ氏がいたことだ。その全員がバイクウエアを着用しており、砂埃や泥で汚れた様子から過酷な道を走ってきたことが窺い知れた。「何人かは高山病でダウンしているけど」と言いつつ、メーカーの首脳陣が海抜4500mの街で泥まみれになりながら実際に走って、開発している姿は本当に衝撃的だった。
今回のプレゼンでも、シッダールタ氏が「実は昨年日本のメンバーがモト・ヒマラヤで見た時からほとんど変わってないんだ」と皆の前でいじられるほど…。もちろん今回の試乗会でも首脳陣が各国から集まったジャーナリストとともに走り、その世界観を共有していたのは言うまでもない。
NEWヒマラヤの発表会で印象だったのは「ビッグアドベンチャーは自然を壊してしまう」という言葉。僕は昨年ヒマラヤでヒマラヤを走った時に、まさしく同じことを感じた。地球に、そして信じられない絶景に感動しながら、この自然の一部を借りていることに感謝して走った。ロイヤルエンフィールドのヒマラヤは美しい自然と共存することができるバイクだと思ったのだ。
NEWヒマラヤの試乗会は、海抜2000mほどのインド北部のマナリという街で開催。ここから3000mの山々を巡る試乗コース。遠くの山は雪景色となり、NEWヒマラヤのKAMET WHITEのカラーを連想させる。
往路はデリーからチャンディカール、そこからクルという街にフライト。そこから1時間半ほどかけて海抜2000mほどのマナリという街に到着。ホテルに着くと、多数のNEWヒマラヤが迎えてくれた。遠くの山はうっすら雪景色だが、日中は半袖で過ごせる暖かさ。ちなみに帰路は、マナリからチャンディカールまで車で6時間ほどかけて移動した。
こちらは2022年のモト・ヒマラの時の写真。最終日、偶然NEWヒマラヤのテストシーンに遭遇してしまった。海抜4500m、塩湖の街に首脳陣が勢揃いするメーカーがあるだろうか…。秘密裏なテストにもかかわらず、彼らはとても気さく。我々がメディアだとわかっていたにもかかわらず、快く対応してくれ、急遽、夕食を一緒にすることに。
アイシャー・モーターズ(ロイヤルエンフィールドの親会社)のマネージングディレクターであるシッダールタ・ラル氏と、昨年モト・ヒマラヤに一緒に参加したジャーナリストの河野さん(左)と。「日本チームは昨年のモト・ヒマラヤで見たよね。実はあの時からほとんど変わっていないんだ」
すべてを刷新したNEWヒマラヤの452cc水冷エンジン
空冷エンジンを大切にしてきたロイヤルエンフィールドが、ブランド初となる水冷エンジンを搭載するモデルに選んだのがこの新ヒマラヤだ。これは彼らがいかにこのバイクを大切にしているかの表れでもある。
まずはそのエンジンから見てみよう。エンジンは水冷化された452cc。昨年、テスト風景を見た時、我々は「450にしてダカールとか出るのかなぁ」などと噂していたが、そんな噂を払拭するように、絶妙な排気量を刻んできた。「ヒマラヤを登るのにもう少しパワーが欲しい」、そんな要望に応えたのだという。
また、4バルブは648ccのツインエンジンで採用していたが、DOHC化もロイヤルエンフィールドしては初の試み。これはスペック追求の他に厳しい規制に適合させることも考慮しているそうだ。
ボア×ストーロークは84×81.5mmのショートストローク。ロイヤルエンフィールドの近年の単気筒はこれまですべてロングストロークだったが、初めてショートストロークとし、40.02psを8000rpmで発揮。また、最大トルクは5500rpmで発生するが、90%のトルクを3000rpmで発揮するキャラクターがいかにもヒマラヤらしい。ピストンピンなどフリクションを減らしたい部分には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングも施している。
またスロットルバイワイヤを使用し、電子制御も装備。エンジンモードはエコとパフォーマンスを用意し、リヤのABSをカットすることも可能。このあたりの操作を直感的に行えるのも好印象だった。
また前モデルまで5速だったミッションは6速に。見るからにコンパクトで前後長の短いエンジンは、前モデルから10kgも軽量化されている。
ロイヤルエンフィールドのローンチはいつも素晴らしいルート設定で、バイクに乗る時間を存分に取ってくれているのが特徴。冬目前のインド北部を2日間に渡って楽しませていただいた。
今回、メーターを刷新。これまでロイヤルエンフィールドの電子制御はABSのみだったが、パワーモードを搭載。リヤのABSカットやモード切り替えを簡単に行える。また、スマホに専用アプリを入れ、Wi-Fiでバイクと同期させることで、Googleマップと連動させることが可能。これまでのトリッパーの進化型だ。
シート高は2段階から選べ、シートを外せば簡単に変更できる。こちらはシート高が825mmの場合のポジションと足着き性。身長165cmでも不安はない。また、オプションでローシートも用意される。
インドの道路事情が生み出す、強固かつしなやかな車体作り
車体も完全新設計となり、それはロイヤルエンフィールドらしい強固な作り。今回走った場所もそうだが、インドの路面は舗装路もあるが、大きな穴が開いていたり、突然ガレ場になることも多々ある。また、ガレ場が何十kmも続く生活道路も普通なのだ。だから剛性への考え方は他メーカーより真摯だ。
そのため、その車体作りは少し特殊。大きな衝撃や転倒でもビクともしない強固さがある一方で、きちんとハンドリングを追求したシャーシ作りをしている。ライダーの操作をレスポンスよく伝えてくれる剛性感の高さを持ち、これは近年のロイヤルエンフィールド全車の特徴である。
またそれはサスペンションも同様で、このクラスにしてはとても高性能。前後ともショーワ製で、フロントに関してはカートリッジが入ったセパーレートファンクション、リヤサスはリンク式のモノサスを採用し、ホイールトラベルは前後とも200mmが確保されている。
前後ブレーキやタイヤも刷新。特にタイヤに関しては、インドのシアットがNEWヒマラヤのために開発。フロントはバイアスでリヤがラジアルという組み合わせ。またホイールはチューブレスタイプも用意され、どのモデルに採用されるかは導入する国によって変わるとのこと。
カラーリングも豊富。黒×黄は、ロイヤルエンフィールドらしい豪華さや高級感をイメージしたそうだが、その他は旧ヒマラヤと同様で、ヒマラヤの大自然からインスピレーションを得たもの。ピンクがヒマラヤソルト、ブルーはブルーポピーという花(ヒマラヤの青いケシとも呼ばれている高山植物)をイメージしているというから面白い。
日本での価格や仕様はまだ発表されていないものの、価格、性能、そして車格やスペックを考えるともっとも現実的でフレンドリーなアドベンチャーなのではないかと思う。
ビッグアドベンチャーに疲れたライダーへ【ヒマラヤがフルモデルチェンジVol.2 ロイヤルエンフィールド初の水冷マシンに試乗!】に続く
朝、部屋から出ると、朝日を浴びた雪山の壮大さに驚かされる。インドの道は、動物やトラックなど、みんなと共有しなければならない。ひたすらホーン(ホーンは相手への敬意)を鳴らしながら進む。
こういった道もすべて生活圏の道路。トラックやバス、乗用車はもちろん、タンデムや3人乗りのバイクもたくさん走っている。
NEWヒマラヤのカラーバリエーションを見てみよう
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。
ミリオーレの最新記事
孤高のパニガーレV4Sと友好的なパニガーレV2S パニガーレV4Sでサーキットを3本ほど走ると、強烈な疲労感が僕の身体を襲う。汗は止まらず、足腰に力が入らなくなる。試乗直後は格闘技を終えたような感じだ[…]
ファッションからスポーツまで。現代のバイクライフにフィット このバイクは只者じゃない−−。僕はマヨルカ島のリゾートホテルのエントランスに鎮座するトライアンフの「スピードツイン1200RS」に初対面した[…]
ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S 5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
最新の関連記事(ロイヤルエンフィールド)
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc 400ccクラスは、普通二輪免許を取ってから間もないビギナーも選ぶことができる排気量帯で、16歳から乗ることができる。 そんな400cc[…]
重厚感とユーザー寄りのデザインと扱いやすさが魅力本物のクラシックテイストがロイヤルエンフィールドの特長 1901年にイギリスで創業したロイヤルエンフィールドは、世界最古のバイクブランドとして長い歴史の[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
ニューモデル攻勢は一段落。これからは収穫の時期 REを追うライバルも続々登場しているなか、商品展開も次のステージに移行すると考えていいのだろうか。 「たしかにそうですが、REは他社の競合機種をあまり意[…]
クラシックなボバースタイルをもつ”個性爆発”のゴアン クラシック350 名は体を表すというが、ロイヤルエンフィールドのニューモデル「ゴアン クラシック350」が表現するものは何か? 英国発祥のロイヤル[…]
人気記事ランキング(全体)
振動の低減って言われるけど、何の振動? ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。4[…]
エクステリアはより力強く、そして個性的に 今回のモデリスタのコンセプトは、その名も「Dandy mode(ダンディモード)」だ。彫刻的な立体表現を随所に用い、街中はもちろんのこと、オフロードにおいても[…]
一回の違反で免許取消になる違反 交通違反が点数制度となっているのは、よく知られている。交通違反や交通事故に対して一定の基礎点数が設定されており、3年間の累積に応じて免許停止や取消などの処分が課せられる[…]
動きが渋い鍵穴に潤滑剤はNG! ・・・の前に ちょっと前に「キーの回りが渋くなってきた鍵穴に、潤滑剤を吹きつける(注入する)のはNG!」という情報がネット上で広く流れました。その理由は一時的に動きが滑[…]
足着きがいい! クルーザーは上半身が直立したライディングポジションのものが主流で、シート高は700mmを切るケースも。アドベンチャーモデルでは片足ツンツンでも、クルーザーなら両足がカカトまでベタ付きと[…]
最新の投稿記事(全体)
スタンドの重量はわずか2.5kg! 「チタニウムリヤスタンド TYPE-T11」は、ひとつひとつ職人が手作業で仕上げています。湾曲する部分はチタンパイプを溶接してつなぎ合わせて制作。細部にクラフトマン[…]
8耐の熱い走りを思わせるライムグリーンと赤の差し色 2020年モデルの発売は、2019年9月1日。250ccと基本設計を共通化した2018年モデルにおけるフルモデルチェンジ時のスペックを引き継ぐ形で登[…]
【本田技研工業 電動事業開発本部 二輪・パワープロダクツ電動事業開発統括部 CUV e: LPL(開発責任者) 後藤香織さん】2006年入社。以来一貫して2輪車開発に従事し、おもに車体設計としてEV-[…]
スズキRG250Γ(ガンマ):レーサーそのものの仕様に大歓喜 1983年、ようやく運輸省(当時)がカウリングとセパレートハンドルを認可。Γ(ガンマ)は、その恩恵を受け、車体を一気に”近代化”した第1号[…]
クラッチレバーをグリップに当るまでフルに切るのは丁寧なのではなく、ギヤに衝撃を与えるラフな操作になってしまう! 大切な愛車、バイクの運転はまだ慣れていないので上手くはないけれど、操作は慎重で丁寧であり[…]