「腰下完成の舞」
ガスケットを塗り終えたら、組付け位置を固定するノックピンを入れ、再び同じように上下クランクケースを合わせていく。ここで再びミッションギアの隙間に3本のシフトフォークを差し込んでいくのだが、再びこの難題に四苦八苦する。ガスケットを塗ってから数分以内に合体させなくてはならないのだが、実際には10分くらいかかってしまった。ある程度までは手で組み合わせたら、最後はゴムハンマーで丁寧かつ強気で組み合わせていく。
組み合わさったクランクケースはクランクボルトで、下側から締め上げる。私は3段階に分けて規定トルクまで丁寧に締め上げた。下側前部の太い特殊ボルトは、クランクシャフトを締め付ける重要部品でもあり、メーカー純正以外は使用できない。しかしこの中の、特に大事なボルトがメーカー廃盤であり、私はコネを使って海外から純正部品を高額で輸入した。
裏返して上部のクランクケースボルトを締め上げ、クランクシャフトを回してみると驚くほどにスムーズであった。引っ掛かりの「ひ」もない。大阪の有名な内燃機屋さん「エンジンショップ」で、愛のある曲がり修正を施しているのだから当たり前である。
そして再びミッションを1速から5速、ニュートラルへとチェンジしていく。思った以上にスムーズで、嬉しくなり「ゴッドハンド」と叫びながら、ひとり小躍りをした。腰下完成の舞である。
「ピストンとシリンダーに潜む魔物」
その勢いでピストンに新品リングを入れ、コンロッドに取り付けていく。自分で言うのもなんであるが、結構速いペースであった。ピストンが並んでいるガンコートを施されたクランクケースは得も言われぬ美しさがあった。その光景に惚れ惚れとした。ここまで半年の時間がかかったのだ。
「ここまできたらシリンダーも入れたい」
時計を見るとすでに夕方であった。始めたのが午前中の11時くらいなので六時間以上経っていた。ピストンリングコンプレッサーを使い、ピストをシリンダーに入れるのは1人では大変だと知っていた。なので、この時点で作業をやめてその先の作業は仲間を呼び出して行うべきであるのは理解していた。
しかし「腰下完成の舞」でハイになっていたのが、ちょっとだけその先の作業を試したくなってしまった。
しかし、そこに「魔物」が潜んでいた。なんと1人で無理に行った作業により、ベースガスケットと高価な純正ピストンリングを2つも折ってしまった。バカな行為に1人ガックリであった。こういうところが、素人作業の限界なのだろう。
結局、年をまたぎ、破損した高い部品を取り寄せ、正月明けに、バイク仲間を4人呼び出した。その中の1人は整備士免許持ち。あれだけ苦労したのに、数人がかりだとピストン4つを入れるのもあっけない作業であった。
そしてリング等を組付け専用オイルで慣らし、ピストンが入った状態でクランクシャフトを回すと、適度に抵抗のあるスムーズ感で、良いエンジンに育つ気がした。ここまでの道のりに感涙で、再び「腰下完成の舞」をしそうになったがやめておいた。
教訓、絶対に4気筒バイクのシリンダーにピストンを入れる作業は1人ではやってはいけない。
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