ついにスペアエンジンの腰上に着手!

【大鶴義丹・54歳、カタナ迷走の果て Vol.6】2023年カタナの旅「インチキゴッドハンド再始動」

様々なバイクを乗り継いできた大鶴義丹さんが50歳を過ぎ、辿り着いた『空冷カタナ』。第6回はスペアエンジンレストアの進捗について。腰上に着手するが、前途多難。バイク仲間に集まってもらい乗り切った。


●文:大鶴義丹

大鶴義丹(おおつる・ぎたん)/1968年4月24日生まれ。俳優、作家、映画監督など幅広いジャンルで活躍。バイクは10代の頃からモトクロスに没頭。その後、ハヤブサやGSX-Rシリーズでカスタム&サーキット走行も楽しみ、最近はハードなオフロード遊びがメイン。2012年に公開された映画「キリン」では脚本監督を手がけた。映画「キリン」から10年が経過し、テクニカルガレージRUNでスズキGSX1100Sカタナを入手した。

YouTube公式チャンネル 大鶴義丹の他力本願

「インチキゴッドハンド再始動」

2カ月ぶりに空冷カタナエンジンOHの再始動である。当たり前ではあるが、本業である2022年末の芝居公演が想像を絶するハードな作業であった。私が主演ということもあり、実際の演技作業以上にも色々な作業が山積みで、11月の上旬から、公演が終わるクリスマス過ぎまではバイクに乗ることは当然、カタナエンジンに触ることも控えていた。

芝居公演に重要なポジションで関わるときは毎度のパターンで、楽しいことをしてしまうと自分の中から「芝居っ気」が抜けてしまうからだ。

そして芝居が終わり、年末28日に、丸1日予定を空けて腰下を組み上げてしまうことにした。10月後半の時点で、ミッション、クランク関係のオーバーホール、エンジン全体のガンコート塗装などは済ませておいたので、あとは私の「インチキゴッドハンド」が上手く作動するかどうかである。

「半年かかって腰下まで」

カタナエンジンのレストアを初めて半年弱、所詮は素人の遊びではあるが、尋常ならぬ努力と勉強を積み重ねてきた。そしていよいよ腰下を組み上げるところまでたどり着くことができた。直すつもりが失敗して部品破損、再びやり直しなので、結局2倍、時間と費用がかかったりする。果てしない道のりだ。

それでも専門家などに教えをいただき、国内外のYouTube動画での勉強、パーツリストと睨めっこをしての純正部品発注、どの純正パーツが廃盤か、または海外からのパーツ輸入、塗装屋さんや内燃機屋さんとの専門用語を駆使してのやり取り。2023年における空冷カタナエンジンの諸事情についてはかなりの知識量を得た。

仲間のバイクショップなどから、「あの馬鹿マニア」に聞いた方が早いと、空冷カタナのエンジンの廃盤パーツについて質問されることもあるくらい。

ケミカル類はすべてワコーズを使用。ガスケットが固まってしまわないうちにクランクケースを合体させる。

「いよいよクランクケースが合体」

クランクケースの下側にあるシフトドラム関係の組み込みは、10月後半の時点で完成させていた。見た目通りに、この部分はとても複雑で、サービスマニュアルも決して丁寧に組み立て手順を説明している訳ではなく、分解するとき動画を撮影しておいたのがとても役に立った。

しかしこの仕組みを組み上げるまでに理解していくと、普段バイクに乗るときに何気なくシフトペダルを踏みつけることが申し訳なくなる。あれは時計仕掛けのようで、もっと大事にシフトチェンジをしなくてはいけない。

クランクケースのスタッドボルトも一部が廃盤に。海外サイトから探してなんとか手に入れることができた。

某元有名レーサー談。自分でエンジンを組むようなプライベートチームだと、心の奥でエンジンをいたわるような走りになってしまうが、ワークスチームの乗り手は、壊しても勝つくらいの意気込みだという。実際に私も、ここまで苦労して組んだエンジンを、レッドゾーンまで回すようなことはしたくない。

上側クランクケースにはミッションが収まる。ミッション関係は可能な限りベアリングやシール類を新品に交換した。またミッション関係の大掛かりなベアリング交換やプレス作業は内燃機屋さんに発注した。

クランクケースを組み合わせる手順は、逆さました上側クランクケースにミッションギヤを組み込む。それを「ニュートラル状態」にしておき、同じように下側クランクケースに収まっているシフトドラムとシフトフォークを、同様に「ニュートラル状態」で組み合わせていく。ちなみにこれらの作動部分は、すべて組付け専用のグリスでベトベト状態にしてあるのは言うまでもない。

クランクケースの上下は、液体ガスケットで密着させる。私はワコーズのガスケットメイクという液体ガスケットを使用した。同社ケミカル製品の信頼度は言うまでもないが、またこれは透明なので仕上がりもキレイだ。

はやる気持ちを抑え、クランクケース上下を仮組して、動きを事前チェックする。1人作業で、シフトフォークをミッションギヤの隙間に差し込んでいくのは至難の業で、どうしても手の数が足りない。助手がひとりいればどれだけ楽であろう。

悪戦苦闘で何とか組み合わせた上下のクランクケース。1速から5速、ニュートラルに入ることを確認すると、染みわたるような満足感があった。クランクシャフトも回してみたが、こちらはきちんと規定トルクで占めた後でないと良し悪しは判断できない。

再びバラし、クランクシャフトとミッションギアが収まる上側クランクケースを下にして、液体ガスケットを接着部分にギリギリ薄く縫っていく。またシール関係など、オイル漏れがしやすい部分などは、専門店に教わった特殊な塗り方をした。

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