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原寸デアゴスティーニ・空冷カタナエンジン

【大鶴義丹・54歳、迷走の果て Vol.5】廃番に値上げ……いきなり鼻をへし折られた、カタナ エンジンオーバーホールの現実

空冷カタナ、このマシンがただの旧車ではないことが、公な意味で証明された。日本自動車殿堂は、2022日本自動車殿堂「歴史遺産車」として、スズキ『GSX1100Sカタナ』及び『GSX750S』などを登録表彰した。今回の受賞により、さらなるカタナファンが増えることであろう。


●文:大鶴義丹

大鶴義丹(おおつる・ぎたん)/1968年4月24日生まれ。俳優、作家、映画監督など幅広いジャンルで活躍。バイクは10代の頃からモトクロスに没頭。その後、ハヤブサやGSX-Rシリーズでカスタム&サーキット走行も楽しみ、最近はハードなオフロード遊びがメイン。2012年に公開された映画「キリン」では脚本監督を手がけた。映画「キリン」から10年が経過し、スズキGSX1100Sカタナを入手した。

YouTube公式チャンネル 大鶴義丹の他力本願

舞台『The Birthday Party』(12月17日〜12月25日)

「カタナ・予備エンジンOHの現在」

今のカタナ、かなり調子の良いエンジンが載っているというのに、どうして中古エンジンを買い足したのですか。それをオーバーホールする意味は何なのですか。

夏前に、私がカタナの予備エンジンのオーバーホールをすると言い出したとき、身近な知り合いから、Facebookなどの書き込みも含め、正直なところ微妙な反応ばかりであった。確かに、レースをする訳でもないのに、調子の良いエンジンに加えて予備エンジンを作る意味など一つもない。たんに金の無駄かもしれない。

しかし、そんなことをあちこちから言われると余計に頑張りたくなるもので、こちらも切れ味の良い返事の仕方を考えることにした。

「原寸デアゴスティーニ」

この言葉が一番しっくりとくると分かった。何分の一の「GTRニスモ」をナンチャラだのというコマーャルを見たことがあるはずだ。その実寸大の1100カタナのエンジンというヤツである。好きな空冷1100カタナのエンジンを、ショップに頼らずにオモチャ感覚で組み立てるということ。言うまでもなく工賃はかからないので、中古エンジン以外に、内燃機加工代と純正部品で30万くらい出せば何とかなると皮算用。

MIGLIORE|ミリオーレ|大鶴義丹|SUZUKI GSX1100S KATANA|カタナ|スズキ|エンジンオーバーホール

自宅の一室を趣味のみのバイク部屋に。調子の良いエンジンに加えて予備エンジンを組み立てていく作業を進めている。 [写真タップで拡大]

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バイク部屋はこんな雰囲気。奥に見えるのが最近導入したエンジンの作業台。 [写真タップで拡大]

「旧車エンジンオーバーホールの現実」

オフロードバイクに関しては、2ストエンジンや4スト単気筒のエンジンは何度もオーバーホールや修理をした経験はある。その手のエンジンを開けることに関してはある程度の知識はあると自負もしていた。また四輪のチューニングに没頭していた時代には、R32GTRやFD3Sのロータリーなども、出入りしていたチューニングショップで、プロの手伝いをしながら当たり前のように開けたりもしていた。 周りに専門ショップの知り合いもいるので、急がずにやれば大丈夫だろうと思っていた。

「廃番と値上げ」

よく考えると、私は二輪四輪共に現行車のエンジンしか開けたことがない。しかし空冷のエンジンなどはシンプルなモノなので、何を恐れることがあろうかと、空冷カタナのエンジンを分解していく。

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4バルブの4気筒はパーツ点数も多く、これを全部新品部品にしようと思うとそれだけでお会計が大変なことに……。細かいパーツにあっというまに予算オーバー。 [写真タップで拡大]

手に入れた中古エンジンは、思った以上に状態が良く、分解と清掃、計測、整理作業は簡単であった。この勢いで突き進もうとすると、しかしそこから先は「二輪旧車四気筒」という魔界が広がっていた。そして私はいきなり鼻をヘシ折られた。

傷んでいる部品はすべて純正の新品パーツに取り替えようと、意気揚々と千葉のテクニカルガレージランの社長と、パーツリストを見ながら打ち合わせをしていくと、私は徐々に血の気を失っていった。

エンジンの中の重要な純正部品がすべて大幅に値上げされていて、それが16バルブ分なので、純正パーツだけのお会計が50万でも済まない。純正ピストンなどは一つ10万円近いという異常な値段。純正オーバーサイズピストンは廃番。社長曰く、そういう状況なので、大抵の人は専門ショップなどが製作しているオーバーサイズピストンや、2ミリボアアップをして74ミリの社外鍛造ピストンなどを使うという。それらは4つで10万円強である。

また、さらに厄介なのはバルブ周りの純正部品や、交換すべきベアリング、代替が効かない特殊なボルトなどの多くが「廃番」となっていた。スズキの旧車純正部品の値上げと廃番ラッシュはここ何年に急激に進んだという。

スズキの最大アイコンである空冷カタナ1100だけは何とかならなかったのかと思ってしまうが、この不況、メーカーとしては合理性と利益追求が最優先なのは仕方のないことだろう。逆にスズキとしては81年発売の大昔のモデルでありながらも、同社は他メーカーよりも頑張り、可能な限りの純正パーツを出し続けてきたという意見もある。

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ミッションを仮組みして、1速から5速まで動かしてみる。ミッションを自分で組むと、その精密さに感動し、他のバイクでも変速を必要以上に優しくしてしまう。無理にガチャガチャできない(笑)。 [写真タップで拡大]

「現実的な選択」

予算度外視に、すべてをチューニングパーツなどにするのは予算的にも不可能であり、そもそも今回の主旨ではない。私は冷静になり、当初考えていたような、多くの純正部品を新品にするようなことは諦めた。

また色々な部品の摩耗を数値的に調べていくと、予想以上にそのまま使える数値のモノばかりであった。無理をせずに、使えるモノはそのまま使おうという方針に変更した。

例を挙げると、ピストンは清掃とリングのみ交換。バルブやバルブスプリングなどは使用限度数値内なのでそのまま使用。その代わり内燃機ショップなどでできることはケチらずに、シリンダーはクロスハッチ加工、ヘッドは軽い面研、クランクシャフトも無理に分解せずに軽い修正だけをした。またエンジン全面は贅沢にガンコート。

またシールやゴム関係の純正部品は、他車と共通しているモノも多く、まだ出る部品が多かったので、その部分はケチらずにほぼすべてを新品とした。

「完成へカウントダウン」

今現在は、クランクケースを上下に合わせる寸前まできている。ケースを仮合わせして、ミッションとシフトチェンジの動きを手で回しながら作動テストもしたが、ちゃんと1速から5速まで変速した。あの複雑な機構を自分の手で完成させたと思うと、妙にうれしくなった。

この先は液体ガスケットを付けて、クランクケースの上下を合わせる。そこまでいけば、ピストンとシリンダーを入れるのはそれほど時間がかからない。つまり、腰下の完成となる。

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空冷カタナエンジンのオーバーホールは、加工に出していた部品も集まりいよいよカウントダウン。エンジン全面に贅沢にガンコートを施したので、まるで新品のよう。 [写真タップで拡大]

「得たもの失ったもの」

徐々に完成が見えてきたところであるが、年末の主演舞台の稽古が始まってしまい、原寸デアゴスティーニで遊ぶどころではなくなり、しばらくは業者さんに部品加工を出したりするなどの作業に留まる。

今回の原寸デアゴスティーニ・空冷カタナエンジン。予想以上の出費と時間がかかり、孤軍奮闘に、いよいよ面倒になったこともある。完成前に、どこかの専門ショップさんがそのまま引き上げてくれないだろうかという考えが浮かんだりもした。

だが、きれいにガンコートされているクランクケースの中に、ミッションやシフトドラムが複雑怪奇に並んでいるのを見ると、もしかすると五合目近くまでたどり着いているかもしれないと思った。

空冷カタナのエンジンをオーバーホールしていて一番の収穫というのは、「バイクとの対等にある感覚」を得つつあることだ。バイクショップさんと相反するような言い方になってしまうが、バイクショップさんにお金を払って作業してもらっている限りは、私はその「最深部」に触れることはできなかったであろう。

『対等にあるという意味は、バイクと自分の距離をどこまで近くできるか。ある人にとっては、それがスピードやレースであり、また別の人は長旅の相棒であるかもしれない。それは人それぞれ。私が今求めているのは、空冷カタナのエンジンを、自分ひとりで、イチから組む経験から得られる、ハードコアな知識だ。また、それを深めるべく、これから先も、また新たに空冷カタナのエンジンを組むだろう。次回は、72ミリピストンで軽くボアアップして、1135cc仕様にしても楽しいかもしれない。』

これから先、このエンジンが完成して、火が入り、そのパワーを自分で感じることができた暁には、さらにその思いは深まるはずだ。

MIGLIORE|ミリオーレ|大鶴義丹|ホンダ XR250|ハスクバーナ TE150i

趣味のみの部屋でなく、リビングにもフルレストアした1991年式のホンダXR250Rとハスクバーナ TE150iの2台が……。 [写真タップで拡大]


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