良いタイヤとは、何も気にしなくてよいタイヤ
小田島「一般公道の方が不確定要素が多いですからね」
荒「そうなんです、予測できない」
小田島「(人間に備わる)センサーの数が決まっていて、不安なことにセンサー使うんだったら……」
原田「安全運転に使った方が良い。人間、あれもこれもはできないじゃないですか。1個でも不安要素を取り除いてあげたらライディングに集中できるし。良いタイヤの条件は……『何も気にしなくて良い』というのがいちばんだと思います、僕は」
小田島「一般道って天気も変わるし、気温も変わる。人も動いています。サーキットの場合はある程度一定の条件で走れますけど、一般道は本当に危険が伴うので、そういう時にスキルの違いがあっても誰もが安心して走れるというところで考えています。ドライで天気が良いときはそんなにタイヤに依存しないと思いますが、悪条件になるほど依存度が高くなる。そんな時に、いかに安全に走れるかというのはミシュランのキーワードになっています」
原田「夏とかツーリングで高い山に登っていくと、平地が30℃以上あっても高地に行くと15℃とかになる時があるじゃないですか。そういう時も、気を使わないで登って降りてこられる。タイヤの受け持つ範囲の広さというのはライダーとしてみればものすごく安心。そこに行った時に『いきなり滑った!』というのでは使い物にならないし」
ミシュランの考えるスリップサインとは?
小田島「新品のときだけじゃなくて、摩耗が進んだところまでいかに長くその性能を維持できるか、というのも大事な技術です。新品のタイヤである程度良い性能を出すのは、たぶんどのメーカーでもできます。でも、それが5000km、1万km……って距離を走って行ったときに維持できるかどうかが大事。ミシュランはメーカーとしてそこに力を入れています」
原田「ミシュランはライフが長いっていう印象がありますね」
山田「タイヤって減るんですよね、どうしても。そして、減ったときに性能がガクンと下がっているのにそのことにライダーが気が付いていない状態……これがいちばん怖い。だからこそタイヤが減ってもなるべく新品時の性能を維持できる、というのがすごく大事なのです。さらに、いまサステナブルが重要視されている中で、いかに廃タイヤを減らすかというのも、長くタイヤを使っていただくための重要なことです」
原田「ライフが長いというのは、そういう意味でも大切なんですね」
小田島「ウェアインジケーター(スリップサイン)って、四輪の場合は1.6㎜なんですが、残り3㎜くらいになったら変えたほうがいいですよって言ってるカーメーカーやタイヤメーカーもあるようです。ミシュランでは最後まで続く性能を目指してタイヤを作っていますので、溝深さで言えば法的限界の1.6㎜以外での交換推奨は特に行っていません。タイヤの交換時期は溝深さだけでなく、タイヤのダメージや偏摩耗の状況なども見て総合的に判断することが重要です」
ル・マン24時間は1度乗り込むと、東京-岡山間を全開で走るイメージ?
荒「ゲージ(トレッド面のゴムの厚さ)を薄くしてグリップを出すっていうのは難しいんです。ゲージを薄くする、コンパウンドを薄くすることで耐ブロー性などを向上しようとしているんですけど、それだとグリップが出ない。そこでコンパウンドのゲージ厚をとるとブローするんですよ。摩耗して薄くなってもグリップが変化しないっていうのは、なかなか技術として難しいんですよね。その究極の部分を体験しているのがレースの世界。
ミシュランタイヤで走った2004年のル・マン24時間、約20年前です。僕の乗ったアウディ・スポーツ・ジャパン、チーム郷のスティントのフォーマット(ドライバーが乗車するサイクル)の基本は4スティントなんです。4スティントというのは燃料が満タンから空になるまでを4回、同じドライバーが連続して走るんです。そしてその間はタイヤ交換をしないんですが、それでもタイムが落ちない」
原田「凄いね~!」
荒「タイヤと給油の両方をやる時でないと、ドライバー交替する時間が無いんですよ。だから給油だけで『もう行け!』と。そういう戦略なんですよ。僕は夜間は5スティント行きました。3時間半から4時間くらい、ずっと乗りっぱなし。それでもタイムが落ちないんです、グリップしているから。恐ろしくタイヤが持つんですよ、身体を鍛えておかないと、その戦略に付いていけません。計算したら距離にして700kmくらい。東京-岡山ですね」
原田「ヤダっ! 四輪ヤダっ!(笑)。体力が凄いね~、いや体力っていうより集中力の方が大変だね。タイヤより先に人間がタレちゃう」
荒「走行のペースも、いたわって走るわけじゃなくて、基本的にその時走れる全力で走っています。皆そういうレースをしているから、24時間走って2位と30秒しか差が無かったんですよ」
小田島「タイヤ交換にかかるタイムって30秒弱くらいなんですよね。それを1ピット当たりタイヤ交換とドライバー交替をやると30秒ずつ加算されてしまう。だから距離を走っても性能が落ちないことが大切なんです」
原田「夜と昼で気温が全然違うんでしょ?」
小田島「夜は15℃くらいで昼間は30℃くらいの時もあります」
荒「気温が低いので、夜はタイム出ちゃうんですよ、けっこうソフト系のコンパウンドも使えるんで。そして夜間にタイムが出せる感覚になってきて、やっと勝てる感じが出てきました。夜はちょっとヤダな、怖いなと思っている時は、勝てないんですよ」
小田島「今でも夜はレースベストですからね」
荒「夜はパワー出るからで速いんですよ。最高速も日中は330km/hくらいだったのが、340km/hとかになります」
タイヤが摩耗してもタイムが落ちないのがミシュランの強み
荒「マニアックな話をして良いですか? 1スティント走ったタイヤに燃料を搭載して重たくなると難しいんですよ、新品タイヤで満タンの時は何とでもなるんですが。摩耗によって性能が低下するタイヤを履いているのに『他所のチームが○スティントで行っているから、ウチも同じスティントで行こう』ってやると、タイヤが性能低下しているところに100リットルとか90リットルとか重量を積んでしまうので、それでは速く走れないですよ」
原田「やっぱりブレーキで止まれなくなったりとか?」
荒「止まれない、加速もできない、コーナリングもできない、すべての性能が低下してしまうんです。それまでは割とその流れで走っている時に気づかなかったことでも、燃料を搭載して重さを上乗せされると、全然走れなくなっちゃう。そういうところをタイヤがカバーするというか、そこってすごく大きいんですよ。ミシュランを履いた我々のチームが、そこでタイムを落とさないで行けるっていうのは強みでしたね」
今回の対談撮影は、群馬県太田市にある R&Dセンター(太田サイト)で実施。ここは次世代タイヤや金属積層造形をはじめとするハイテクマテリアルの研究開発を行っており、対談後は特別に見学させていただいた。現在、東京都新宿区にある日本ミシュランタイヤ本社は2023年8月までにこの太田サイトに移転予定となっている。 [写真タップで拡大]
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