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【原田哲也さん×荒聖治さん対談:タイヤで広がるプレジャーの世界 Vol.1】信頼できる『良いタイヤ』とは?

ライダーやドライバーと、路面を繋ぐ唯一の存在である『タイヤ』。求められる性能や機能は数知れないが、タイヤが信頼できなければライディングやドライビングは楽しめない。元WGP250王者の原田哲也さんと、世界のレースで戦うレーシングドライバーの荒聖治さんが、ミシュランタイヤを熱く語る!


●文:ミリオーレ編集部(伊藤康司) ●写真:長谷川徹 、日本ミシュランタイヤ

原田哲也(はらだ・てつや)/1970年生まれ。16歳でロードレースにデビューし、1989年からヤマハファクトリーで250ccクラスに参戦し、1992年に全日本チャンピオンを獲得。翌1993年WGP250にフル参戦し、デビューイヤーにチャンピオンに輝く。最高峰WGP500を経て2002年に現役を引退。現在はモナコ在住。日本とモナコを行き来する忙しい日々を送り、バイクの普及活動に勤しむ。

荒 聖治(あら・せいじ)/レーシングドライバー。1974年生まれ。1994年にVW GOLF POKAL RACEでデビュー。米国での修行後、国内F4~F3に参戦。全日本GTやフォーミュラ・ニッポン、FIA GT1選手権に参戦し、2004年にル・マン24時間で総合優勝。現在もスーパーGT等で活躍する「世界の荒」。2022シーズンはBMW Team Studie からSUPER GT・GT300クラスに参戦。第3戦鈴鹿で勝利を飾った。

真円度を生み出すクオリティが、良いタイヤの原点

元WGP250王者の原田哲也さんと、スーパーGT等で活躍する荒 聖治さんは、共に千葉県のご出身。この対談で初めての顔合わせだが、じつはレースを始めたホームコースが同じ新東京サーキット(以前の千葉県四街道の時代)。原田さんはミニバイクレース、荒さんはカートだが、所属したチームも同じSRSスガヤだったことが判明し、お互いにビックリ!「意外な共通点がありますね〜!」と、和やかな雰囲気で対談はスタートした。

世界で活躍する2人だが、原田さんはスクールやインストラクターの仕事、そしてプライベートでもミシュランを使い、荒さんは参戦するスーパーGTで今期からミシュランを履いている。フィールドこそ異なるが、プロとしてタイヤになにを求め、どんなタイヤが信頼たるものであるのか? プロレースの世界から、一般道を走る場合の体験談なども広い視点で語っていただいた。

今回の対談では日本ミシュランタイヤの小田島広明さん、山田寿一さんを交え、モビリティにおけるタイヤの存在意義もとことん議論! それでは、2人のミシュランタイヤに対する印象から切り込んでいこう。

小田島広明(おだしま・ひろあき)/日本ミシュランタイヤ モータースポーツダイレクター。1965年生まれ。国内二輪・四輪レースを統括。かつては研究部門にも所属し、モータースポーツタイヤ技術にも造詣が深い。

山田寿一(やまだ・じゅいち)/日本ミシュランタイヤ二輪事業部マーケティングマネージャー。1970年生まれ。二輪レースやイベントのミシュランブースの出展でもお馴染みの存在。タイヤの相談に親切に対応。

ミシュランタイヤって『丸い』んです!

原田「僕はレースから引退して、しばらくバイクから離れていたんですが、今はツーリングもしますし、一般ライダーの方々と一緒にサーキットも走っています。サーキットではスクールや走行会の先導、インストラクターの仕事をしているんですが、そんな中でも色々なタイヤに乗る機会がありますが、ミシュランがいちばん扱いやすい。

グリップだけで見れば、他にも良いタイヤはいっぱいあると思います。レースをやっている時はどうしてもグリップを求めてしまいますが、いま僕が接しているライダーの皆さんは一般道がメインです。一般道を安全に走れ、しかもサーキットでFUNライドを楽しめるタイヤとなると、いろいろ履いてきた中で、僕の中ではパワーGPがいちばん良いかな、オールマイティに使えるので。

レースの現役の時は結果を出さなきゃいけないのでシビアな面も当然ありましたけれど……、いまはバイクに乗っていて『タイヤを気にしなくていい』ということが、いちばんメリットが大きいと思うんですよ。ちゃんと機能していれば気にする必要ないじゃないですか。そのぶん他のことに、ライディングや安全の方に意識を向けられると、楽しみ方とかも変わってくるので。ミシュランのいちばんの印象はそこですね」

「ミシュランタイヤの印象ですよね……まず『丸い』です。真円度が高いんですよ、すごく大事なこと」

原田「それはあるかも」

「乗ると違うんですよ、パチンコ玉とベアリングくらいの差があります。今年からGT300でミシュランタイヤを装着しているのですが、久々にミシュランに乗ったんですよね。ル・マン24時間(2004年)でもミシュランタイヤで優勝しているんですが、その時も支えていただきました。

久しぶりにクオリティの高いレースタイヤに乗って、スタートしてすぐにわかりました。第1コーナーを回って加速していくと「地球は丸かった」じゃないですけど『ミシュランタイヤは丸かった』です(笑)。それくらい真円度が違います、正確に転がる感じっていうのが」

小田島「シェイクダウンで出て行ったときに、すぐに『ミシュランって丸いね』って言っていましたね」

山田「走り始めた時に安心感が大きいですよね、丸いっていうのは」

性能もさることながら、デザインも追求しているミシュランタイヤ。一般的なタイヤはにぶい光を反射する黒だが、ミシュラン独自の金型技術で実現したデザイン「プレミアムタッチ」は、深みのある黒とベルベット調の質感が特徴。金型でつくる精緻な凸凹をタイヤ表面につくることで光の反射を少なくし、漆黒の色を表現している。高性能なタイヤにふさわしい品格のある佇まいが話題に。

『丸い』と行きたいところに行ける。これは一般道でも大切なこと

「自分の行きたいところに、ステアリングをどれくらい切ったら行ける、というのがイメージしやすいんですよ。タイヤが丸くないと(荷重が)抜けたり入ったりするので修正舵が必要になります。

僕のBMW M4 GT3に積んでいるVBOXという機材のドライビングを解析するソフトで、他社のタイヤとミシュランを比較すると、他社のタイヤは修正舵が多いんです。そしてミシュランは全然修正していない。単純に比較はできないんですが、タイム的にも速いです。ステアリングを普通に切って普通に戻して正確に狙ったところに行けて、きちっと加速・減速、コーナリングができる。これはすごく大切なことです」

小田島「当たり前のようだけど大事ですね」

「意外と丸くないタイヤは多いですね。たとえばスーパーGTで実績があってABSともマッチングの良いブレーキパッド、っていうのを入れても全然ダメです。地面から離れて荷重が軽くなったときとか、もう粘りがなくてブレーキもそういう強いのが使えないので。タイヤがちゃんと地面に接地して、ちゃんと丸く転がって、正確にその行先に向かっていくっていうのがどれだけ重要かっていうのを、ミシュランだとすごく実感します。全然違います」

WGP250クラスに参戦を始めた1993年、デビューイヤーにいきなりチャンピオンに輝く離れ業を演じた原田さん。現役時代は冷静にチャンスを伺い勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれた。

小田島「製造上、二輪四輪関係なく真円度にはかなりこだわっています。ライダーやドライバーが求める応力を出すために、いかに接地面を多くして、その面積を維持するか。それが意図したものと違う形になったら、タイヤがいびつな形になって接地面が変化し、当然自分の意思とは違う方へ進んでしまいます。

真円度が悪いと、回るたびに面積が少しずつ違うので硬さで凸凹して、バイブレーションとは違う変な動きが出ます。真円度というのはスタティック(静止状態)で置いて丸いというだけでなくて、乗って荷重をかけて転がして、それでいつでも同じように回る、同じようにたわむというのが大事なんです」

原田「バイクタイヤは潰れる方向の動きだから、真円度はそんなに気にならない……いや、跳ねているのはわかるよね」

小田島「バイクはディフレクション(たわみ)が大きいからわかりにくいかもしれないけれど、その形状が出来ていなければ(丸くなければ)タイヤに意思が伝わらないですから。たわみが、あるところは硬くてあるところは柔らかいっていうのが繰り返すと接地面が変化してしまうので、しゃくれたりジャダーが出たりする現象になります。

じつはレースライダーとかレースドライバーの高度な話だけじゃなくて、ちょっとした振動がトトトトってくるアンバランスなことって、普通の人が感じられるレベルなんです。それをタイヤを買ってから減って交換するまで、ず~っと付き合わなきゃいけないって、不快ですよね。だから丸さはすごい大事なんですよ」

山田「ミシュランがこだわっている裏付けのひとつとして、ミシュランのタイヤには『軽点マーク』がないんですよ(※新車用の一部タイヤには刻印されている場合あり)。それくらいクオリティ重視でバランスにこだわって一般のタイヤも出荷しています。もちろん工業製品なので100%クリアというものは無いかもしれませんが、タイヤはホイールとアッセンブリで使うものなので、組み合わせた時に少しでもバランスウェイトを付けないでも良いように調整するというのもミシュランらしさのひとつですね」

ミシュランはウエットが良い!

ミシュラングループの本社は、フランス・パリから南に約400㎞のクレモン・フェランにある。現在、170カ国で68カ所のタイヤ生産工場を有し、ヨーロッパ、北米、アジア(日本:群馬県太田市)に3カ所の研究開発センターを持つ。

原田「そうだ、大切なこと言うのを忘れていた。ミシュランはウエットが良い! 僕が使っているレース用ではないパワーGPとか、ロード6もウエット性能がすごく良い」

「ウエットは良いですね~。パイロットスポーツ5もすごく良いですよ。レースでも面白い話なんですけど、ドライコンディションの時に僕が乗って他社のドライタイヤが富士スピードウェイで大体1分41秒で、燃料積んで連続周回だと43~45秒。同じ車で雨の中、ミシュランのウエットタイヤで44秒台。ラップタイムは一緒です。それくらいウエットでも性能が出せる。これも修正舵とか、いきなりすっぽ抜けたりが無いので、すごく正確なドライビングが出来ます」

山田「お2人とも言っていますけど、ストレスを感じないタイヤってことですよね」

原田「気にしなくても良いタイヤが一番ラク。良いから気にする必要が無い」

小田島「どんなコンディションであってもロースピードでもハイスピードでも雨が降っても、タイヤのことを忘れてくれるっていうのは何よりもうれしいです」

「パイロットスポーツ5のプロモーションビデオの撮影で、箱根のターンパイクを走ったのですが、料金所から2個目の橋の継ぎ目に、けっこうな段差があるんですよ。越えた時に跳ねて突き上げて、その後に収まる感覚っていうのも、まぁタイヤにダンパーが付いているんじゃないか? ってくらいヒュッと収まっちゃうんですね。そうじゃないタイヤだとポンポンした後の姿勢が乱れたり、ステアリングの修正が必要だったりするんですけど。

高速道路の継ぎ目とか橋に差し掛かるところ、路面が荒れているところとかに気を使わないで走れてしまう。ドライバーが警戒しない、恐ろしい思いをしないっていうのは、運動性能だけじゃなくて安全性も高い。だから『丸い』というのは、タイヤの仕事としてすごい重要なことなんです」

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