見応えのある展開が多かったオランダGP

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.84「自分の行くべき場所が見えていた」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第84回は、ドラマチックなレース展開で魅せてくれたオランダGPの話を中心に。

TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:APRILIA, DUCATI, RED BULL, YAMAHA

トップ選手にありえないミス? いいえ逆です

MotoGP第11戦オランダGPは、ファビオ・クアルタラロにとっては厳しいレースになりました。3番手を走っていた5周目に転倒し、2番手のアレイシ・エスパルガロをコースアウトさせてしまったんです。いったんピットに戻ってからレースに復帰したクアルタラロでしたが、ハイサイドで2度目の転倒を喫し、リタイヤしてしまいました。

序盤のペースには目を見張るものがあったものの限界を超えてしまったクアルタラロ選手。172ポイントで2位に21ポイント差をつけてランキングトップをキープしているが、余裕があるとは言い切れない。 [写真タップで拡大]

スタートでトップに立つことができなかったことが、焦りを呼んだのだと思います。つまりクアルタラロにとっては、とにかくスタートで前に出るしかない。そのプランが崩れた時に、残ったのは焦りだけだった、というわけです。

クアルタラロは去年のチャンピオンで、今年も王座にもっとも近い男です。特にここ数戦は作戦通りにスタートで飛び出し、そのまま逃げ切る楽勝に見えるレースを繰り広げました。オランダGPでの転倒は、「そんなトップライダーにしては、あり得ないミス」と思えたかもしれません。でも、逆です。どんなに楽勝に見えるレースでも、やはりギリギリの走りをしていたんです。

「スタートから飛び出す」と簡単に言いますが、タイヤも十分に温まっていませんし、路面もマシンも自分のフィジカルも、コンディションは分からない。そんな状況で飛ばして行くわけですから、当然リスクは高いんです。でも、今のヤマハで勝つには、それしかない。

オランダGPでは狙い通りの展開にならず、ドゥカティのフランチェスコ・バニャイアに先行されたことで、焦ったのでしょう。バニャイアのペースが上がらない序盤のうちに、どうにか前に出たかったはずです。それが「ギリギリ」の領域を超え、ミスを招いた要因です。

「あんなに無理をせず、3位キープでもよかったんじゃないか」という考え方もあるでしょう。でも、そこはレーシングライダー。基本的にみんな勝ちたくてレースをしているんです。特に、ライバルとの差がまだ広がっていないレース序盤は、リスクを取ってもどうにか勝てる展開に持ち込みたい。

ここがシリーズ戦の難しいところです。今、このレースを勝ちたくて、ライダーは走っている。でも、シーズンを通して長い目で見れば、確かに無理をする必要はない。……とは言いつつ、やはり勝ちたい。勝ちを取るか、ポイントを取るか、このせめぎ合いが大きなポイントになります。ポイントを選ぶといいことは、勝ちたい自分を抑えるということ。これが本当に難しいんです。

僕も現役時代、そのせめぎ合いに負けて目の前の勝利を追い求め、結果的に大事なポイントを失ってしまったことが何度もあります。だから、クアルタラロを責めることはできません。シーズンを通して得たポイント数でチャンピオンが決まるスポーツですが、そんなにクールでばかりはいられません。どうしても熱くなります。

考えていても、さらに先に体が動く

熱さでいえば、コースアウトしてポジションを大きく落としてからのエスパルガロの追い上げは熱かったですね! アクシデントで闘争心に火が点き、猛烈な攻めた走りを見せてくれました。いったんほとんどゼロポイントになりかけたエスパルガロにとって、もはや失うものはありません。ポイントのことなど考えず、行けるだけ行った。

タイトルカットは最終ラップの最終コーナーで2台抜きをした時のものだが、序盤の接触を経てからの怒涛の追い上げも見応えがあった。 [写真タップで拡大]

そして最終ラップの最終コーナー、ブラッド・ビンダーとジャック・ミラーをごぼう抜きしたのは見事でした。あの瞬間、エスパルガロは完璧にふたりの動きを読み切っていましたね。覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、僕も過去にああいうレースをしたことがあります。乗れてる時って、「予知能力が備わったんじゃないか」と思うぐらい先が読めるんです。

「一人目はこう動く。そうしたら二人目はこう動くはずだ。だったら自分はあそこに行けばいい……」。本当に瞬間的な判断ですが、自分の行くべき場所は確実に見えています。これはすごく不思議な感覚。恐らく脳みそフルスロットルで、ゾーンに入っている状態なのでしょう。ものすごく考えて先を読んでいますが、それよりも先に体が動いてしまうんです。エスパルガロも同じような状態だったのだと思いますが、それにしても見事な操縦でした。

レース後、ピットに謝りにきたクアルタラロを寛大な態度で迎え入れたエスパルガロ。あれだけ充実のレースができていれば、さぞ気分もよかったでしょうからね。もしコースアウトしてそのままリタイヤしていたら、さすがに毒づいたのではないでしょうか(笑)。

エスパルガロのチームメイト、マーベリック・ビニャーレスが3位。ついに表彰台を獲得しました。以前よりも伸び伸びとレースを楽しんでいるビニャーレス。明るく気持ちを盛り立ててくれるイタリアンチームが、ビニャーレスのモチベーションを高めたのでしょう。

僕もアプリリアに所属していたので分かりますが、チームがビニャーレスを信頼するまでには時間がかかったはずです。プライドを持って仕事をしているから、新しくきたライダーに対して「どれだけのものか」と疑ってかかるのは当然ですよね。

でも、いったん信頼されると、今度は何でもやってくれますし(笑)、レース後の喜び方もハンパないんです。これはもう、ライダー冥利に尽きるというもの。「次のレースはもっと頑張ろう」と奮い立ちます。ビニャーレスもそういう好循環の中で、本来の実力を発揮し始めました。ここからさらにいいレースを見せてくれるのが楽しみです。

Moto2でも小椋選手が追い上げる展開を見せた

Moto2では小椋藍くんが一時は17番手までポジションを落としたものの、そこから目覚ましい追い上げを見せ、2位表彰台を獲得しました。いいレースだったと思います。藍くんはヨーロッパでの注目度も高く、気の早いメディアは「来季はMotoGPか」なんて噂しています。僕としてはその前に、まずはチャンピオンを獲得してほしい。

MotoGPクラスに昇格するなら、Moto2のチャンピオンを手土産に! 現在ランキングは3位だが、14ポイントはトップと1ポイント差だ(2位はトップと同点)。 [写真タップで拡大]

同ポイントのセレスティーノ・ビエッティとアウグスト・フェルナンデスに続き、1点差でランキング3位の藍くん。レースはまだあと10戦あり、チャンピオンシップがどうなるかはまったく分かりませんが、藍くんにとって大きなチャンスであることは間違いありません。1度のミスがポイント争いを大きく左右するシビアな状況ですが、僕はかなりの可能性を感じています。

クアルタラロの話と同じで、目の前のレースの勝ちを取るか、それともポイントを取るかのせめぎ合いが続くでしょう。予期せぬトラブルが起こる可能性もある。それらをすべて含めてマネージメントできなければ、チャンピオンにはなれません。でも、藍くんは今年でグランプリ5年目。今まで積み重ねてきたたくさんの経験が生きてくると思います。

ランキング4位につける佐々木歩夢選手。トップとの差は69ポイントあるが、まだ可能性はある。 [写真タップで拡大]

そしてMoto3では佐々木歩夢くんが初優勝を挙げました。もう、ビックリするぐらいいいレースでしたね!(笑)激しい混戦でしたが、残り2周でスパッとトップに立ち、最終ラップは鈴木竜生くんに前に出られたものの、落ち着いて抜き返しての優勝。自信に満ちたレース運びでした。

歩夢くんは物怖じしない性格で、英語もペラペラです。外国人の中でもしっかりと自己主張ができ、コミュニケーション能力が高いんです。はっきり言うとお調子者なんですが(笑)、「かわいがられキャラ」なんですよね。クアルタラロやジェイク・ディクソンと仲がいいし、きっとチーム代表のマックス・ビアッジにも目をかけられているはず。まわりを味方につける能力は、レースをしていく上でめちゃくちゃ大事なんですが、歩夢くんはそれを持っています。彼もまだ十分にチャンピオンの可能性が残っていますから、後半戦が楽しみです。

飲酒運転など論外

さて、オランダGPで今季3勝目を挙げたバニャイアですが、7月5日に飲酒運転で単独事故を起こしてしまいました。確かにヨーロッパは食事にワインが欠かせない文化。ワイン1杯ぐらいなら飲んで運転しても問題ありません。でも今回のバニャイアはスペインの基準値の3倍ものアルコールが検出されたと報じられていますから、ちょっと度が過ぎます。

この件についてドゥカティがどのような判断をするのかは、分かりません。何らかのペナルティが科せられるのか、それともおとがめなしか……。でも、日本とヨーロッパの文化の違いを考慮したとしても、僕個人の見解としては、飲酒運転など論外。まったくあり得ません。

昔のグランプリには、ライダーの多少の破天荒さは黙認する文化がありました。でも時代は変わって、MotoGPはプロスポーツとして大きく成長しています。興行として成功しているから、ライダーの報酬もどんどん上がっている。それだけ注目度が高い中、スポンサー企業の看板を背負っているわけですから、責任度も増しています。特にMotoGPのトップライダーともなれば、自分の振るまいにはかなり気を付けなければなりません。

特に僕が言いたいのは、MotoGPライダーは子供たちに夢を与えなければいけない、ということ。真面目で窮屈な意見だと思われるかもしれませんが、MotoGPライダーは世界中のライダーのお手本になってもらい、子供たちが憧れる存在でなければ困ります。

いいレースで前半戦を締めくくっただけに、今回の出来事は残念。 [写真タップで拡大]

僕もライダーでしたから、優勝した後にハメを外したくなる気持ちは痛いほどよく分かります。大きなプレッシャーの中で日々を過ごしていますから、若者としては時には弾けたくもなるでしょう。でも僕自身は現役時代にお酒を飲むことはありませんでしたし、見られる立場だということもかなりしっかり意識して生活していました。

高い報酬を得るということは、それだけ責任があるということ。それこそタクシーを呼ぶぐらい何でもないんですから、自分の身を守るためにも使うべきお金を使ってほしいと思います。完全におじさんの意見になってしまいましたが、いろんな経験をして、いろんなものを見聞きしてきましたからね……(笑)。

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