日本人ライダーも頑張ってほしい!

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.83「スポーツはショービジネスなのか」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第83回は、力を発揮しているクアルタラロ選手、そしてスポーツとショービジネスの関係について。

TEXT:Go TAKAHASHI PHOTO:DUCATI, YAMAHA

とにかくスタートで前に出る、それをやってのける

MotoGP第9戦カタルニアGP、そして第10戦ドイツGPと、ヤマハのファビオ・クアルタラロが連勝しました。どちらも先行逃げ切りというクアルタラロの勝ちパターン。スタート直後の1コーナーは「絶対に前に出る!」という気迫のこもったすごいブレーキングでしたね。ライバルたちも、クアルタラロを前に出したらもう追いつけないことが分かっているので、みんな精一杯頑張っています。でもこの2戦は、クアルタラロの気合いが完全に勝っていました。

ヤマハのマシンのパフォーマンスは、相変わらずそれほど高くありません。それでもクアルタラロが勝てるのは、とにかくスタートで前に出て自分のペースを作ってしまうから。他車に先行された時、マシンが速ければ余裕を持って着いていけますが、マシンが遅い場合はそうは行きません。ブレーキングか立ち上がりで相当無理をする必要があり、タイヤを酷使します。そうするとレース序盤はどうにか食らいつけても、終盤には引き離されてしまうんです。

だからクアルタラロはとにかくスタートで前に出る。そして他にペースをかき乱されないように、序盤からリスクを負ってハイペースで飛ばし、マージンを作ってしまうんです。逆に言えば、今のクアルタラロにはそれしか勝ちパターンがない。それでも絶対にそのパターンに持ち込み、パフォーマンスで劣るマシンでも勝ってしまうのですから、本当いすごい実力の持ち主だと思います。

ドイツGP序盤、ストレートエンドで前に出たバニャイア選手を即座に抜き返したクアルタラロ選手。わずかな接触もあったが、ここが勝負の分かれ目になったか。 [写真タップで拡大]

徐々に離されたバニャイア選手はその後転倒。本人としては不可解な転倒だったようだ。 [写真タップで拡大]

今シーズン好調で存在感をアピールしているアプリリアですが、ドイツGPではマーベリック・ビニャーレスのマシンにライドハイトデバイスのトラブルが発生。リヤの車高が下がったままの状態になってしまい、リタイヤしました。電子制御は禁止されており、機械的に動作しているライドハイトデバイスですが、それでも壊れる時はあるんですね。

……と思っていたら、アプリリアのチームCEO、マッシモ・リボラは「原始的な仕組みしか使えないからトラブルが起きるんだ。電子制御ができていればこんなことも起きなかった」というようなことを言っていました。確かに、今や機械仕掛けよりも電子制御の方が信頼性が高いのかもしれません。問題が起きた時のデータ確認もできますしね。

とっさの事態が起こり得るのが公道

市販車にも、電子制御デバイスがどんどん浸透してきています。MotoGPマシンはレギュレーションで縛られており、電子制御サスペンションのようにMotoGPでは禁止されているものもあります。もしかしたら市販車の方が進んでいる面もあるかもしれません。僕自身は、少なくとも市販車は電子制御にどんどん頼るべきだ、と考えています。

先に何があるか、何が起きているか分からないのが公道です。コーナーを抜けたら路面が濡れているかもしれないし、路肩にコケが生えているかもしれないし、止まっている車があるかもしれないし、歩行者がいるかもしれない。予期できない事態に直面した時に、ABSやトラクションコントロールシステムのような電子制御デバイスは絶対に助けになります。

サーキット走行は短時間で、走りに集中しています。でも公道走行は長く、集中せずにボーッと走っていることも多い。そしてそういう時に「とっさの事態」が起きるんです。でも乗り手がボーッとしていようが何だろうが、電子制御デバイスは常に状況を検知し、正確に作動してくれます。

「バイクぐらいとことんマニュアルでアナログの方がいい」という考え方があるのも理解できますが、僕は常に安全第一。いざという時にこそ頼りになる電子制御デバイスに関しては肯定派です。数年前に比べると完成度が非常に高く、作動フィーリングもナチュラルで気付かないこともあるほどなんですよ。

楽しんでもらう努力が、いつかレースのレベルアップを呼ぶ

MotoGPに話を戻しますが、ドイツGPではレース前にファンからグローブをせがまれていたジャック・ミラーが、レースを終えてちゃんとグローブをあげてましたね(笑)。ちょっといいシーンで、僕もミラーのことが今まで以上に好きになりました。クアルタラロも負けじとブーツを観客席に投げ込んでいて、盛り上がっていましたね。

僕が現役の頃は、ライダーがレーシングギアを勝手に人にあげるとギアメーカーから罰金などのペナルティがあったんですが、今はどうなんでしょうか? ゴール後の進行を妨げたクアルタラロには、絶対におとがめがあったはず(笑)。でも、観客としてはうれしいし、ファンも増えますよね。

ヨーロッパラウンドに入ってからの各レースを観ていると、観客席がやっぱり黄色い。そして46の帽子をかぶったりTシャツを着ている人も多い。引退後もさすがにバレンティーノ・ロッシのファンは多いな、という印象です。現役の間、ファンを喜ばせてきたからですよね。これはとても大事なことだと思います。

「レースはショービジネス」というと、抵抗感を持つ方もいらっしゃると思います。でも、MotoGPもプロスポーツである限り、お客さんを喜ばせて、お客さんに観てもらうことが大前提です。MotoGPはドルナがプロモーターになってから、プロモーションや映像コンテンツの提供に非常に熱心に取り組んできました。ピットはもちろん、表彰式の裏側にまでカメラが密着し、最近では走行中のライダーの肩に小型カメラを仕込むなどして、なんとか楽しんでもらおうと努力を続けています。

その結果、MotoGPの人気が高まり、それに伴ってコンテンツとしての価値が高まり、放映権料などが高まりました。その利益をチームに分配することで、MotoGPライダーたちのギャランティも高まりつつあります。そうやってMotoGPライダーのステータスが高まれば、憧れの存在として認知され、レースを志す子供たちが増え、ますますレースがレベルアップして面白くなる……。細かな問題点はもちろんありますが、今のMotoGPはそういう好循環の中にあると感じています。

見られることを意識した言動が観客を喜ばせ、それがコンテンツの価値を高めていく。ディフェンディングチャンピオンのクアルタラロ選手(左)は言うに及ばず、愛されキャラのミラー選手はいつも明るさを失わない。 [写真タップで拡大]

レースの世界はとかく秘密主義で、閉鎖的です。メーカーが威信を懸けてマシン開発している限り、それは機密事項も多々あるでしょう。でも一方で、レースはお客さんに観てもらわなければ始まらない。ドルナができるだけオープンに情報や映像を見せる方向にシフトし、魅力的なコンテンツに仕上げたのは、僕は大成功だと思います。

モータースポーツは、他のスポーツとは比べものにならないぐらいお金がかかります。お金がかかっている分、より魅力的な存在になり、高い価値を持っていてしかるべきなんです。多額の投資をしているわけですから、それをしっかり回収するのは仕事として当然のことです。

ネットフリックスがオリジナル製作している「Formula 1:栄光のグランプリ」はアメリカを中心に大人気となり、F1の盛り上げに大いに役立ってると聞きます。「ドキュメンタリーなのに脚色しすぎだ」などの批判もあり、ドライバーによっては「もう協力しない」といった声もあるようです。

でも、映像を作るプロからすれば、より多くの観客を引き込むためのテクニック、ということなのでしょう。その結果として多くの新規ファンを呼び込んでいるわけですから、あながち間違いとばかりは言えません。「Formula 1:栄光のグランプリ」が大好きな僕などは、「ネットフリックスでMotoGPの番組も作ってくれないかな」なんて期待しちゃいます。「その場合、F1でいうダニエル・リカルドの役割を果たすのは、やっぱりジャック・ミラーかな。同じオージーだし」と、勝手にキャスティングを妄想したりして……(笑)。

「MotoGPライダーはみんな本当にすごい!」と、僕は心から思います。世界から選び抜かれた27人が、あんなにものすごいスピードが出るモンスターマシンを、あんな高いレベルで操っているんですよ? だいぶ昔とはいえ、あの世界にいた人間としては、MotoGPはもっともっと注目されていいと思っているし、ライダーたちはプロとしてもっともっと稼いでいいと思っています。それって、MotoGP全体が盛り上がっていることの証拠ですからね。

そして日本でもっともっとMotoGPが人気を呼ぶためにも、ぜひ日本人ライダーたちに頑張ってもらいたい。Moto3、Moto2、そしてMotoGPと全クラスに日本人ライダーがいて、それぞれに与えられた環境で全力を尽くしています。中でもMoto2の小椋藍くんは、チャンピオン獲得が現実的なポジションにつけており、大いに期待できます。

でもやっぱり、最高峰クラス──MotoGPでチャンピオンを獲る日本人の姿を見たい。いまだ誰も成し遂げていない夢ですが、それが叶った時こそが日本でのMotoGP人気が爆発する大チャンスでしょう。若い世代の頑張りと実力を見ていると、その時も近いのではないかと期待しています。

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