ウエットでもドライでもないセミドライサンプはモアパワーから生まれた
前述したように、四輪レースでは必須のドライサンプだが、重量増を嫌うバイクでは一部の大排気量オフロード車が採用するが、レーサーでもウエットサンプが普通……は過去の話。ホンダやドゥカティはMotoGPマシンに「セミドライサンプ方式」を投入しているのだ(他メーカーのMotoGPマシンは未公表なので不明)。
ウエットサンプだと、オイルパンに溜めたエンジンオイルが何らかの状況で偏った際に(コーナーで左右には偏らないが、加減速時は前後に偏る)、超高速で回転するクランクがエンジンオイルに触れる(オイルを叩く)ことがある。すると撹拌抵抗が発生してレスポンスやパワーが落ちる。
また、クランクケース内はピストンが下降する時に空気が圧縮されて高圧になるため、ピストンの動きを妨げるポンピングロスを生むが、これもレスポンスとパワーの低下につながる。
そこでクランク室を独立させ(オイルパン側やトランスミッションとの間に隔壁を設ける)、強力なスカベンジポンプによってクランク室内からエンジンオイルを吸い出すことで、クランク室を負圧にしてポンピングロスを低減するのだ。クランク室が独立しているで、エンジンオイルがクランクに当たる撹拌抵抗も発生しない。
独立したオイルタンクは装備せず、エンジン下のオイルパン(サンプ室)にオイルを溜めているのでセミドライサンプと呼んでいるが、機構と機能はかつてのドライサンプから大きく進化している。そしてMotoGPマシンがから生まれたシステムをホンダはRC213V-Sに、ドゥカティはパニガーレV4にフィードバックしているのだ。
ホンダ RC213V-S
「公道を走れるMotoGPマシン」として作られたRC213V-S。クランク室を密閉して負圧に保ち、ポンピングロスを低減するために、ワークスマシンRC213Vと同様にスカベンジポンプを持つセミドライサンプ方式を採用。RC211Vで開発された「ミッション室オイルタンク型セミドライサンプクランクケース」から続く技術を投入している。
ドゥカティ PANIGALE V4S
MotoGPマシンのデスモセディチと同様のセミドライサンプを採用。オイル循環システムは4 つのポンプで構成され、その内の1 つがデリバリーポンプで、3 つがリカバリーポンプ(スカベンジポンプ)。リカバリーポンプの1 つはギヤポンプで、2 本のダクトを介してヘッドからオイルを抜き取り、残り2 つのポンプはあらゆる状況下で効率的にオイルを回収してクランクケースを低圧に制御し、ポンピングロスとオイルの飛散によって生じるパワーロスを抑制する。オイルタンクはフィルターハウジングとしての役割も備え、クランクケースの下のサンプ内に設置されるが、クランク室とは隔離されている。エンジンの写真は左側がMotoGPマシンで、右側がパニガーレV4。オイルパンが尖っているのは、加減速やコーナリング時にオイルの偏りを少なくするためだ。
じつはセミドライサンプ方式が増加中!
MotoGPマシンと同機構のセミドライサンプを装備するバイクはまだ少数。しかし、スカベンジポンプでエンジンオイルを回収するタイプの潤滑方式のバイクは、着実に増えつつある。
以下に挙げたバイクは基本的に同じ潤滑方式だが、カワサキとKTMはセミドライサンプと呼び、ホンダのアフリカツインはスペック表では「圧送飛沫併用式」と記載され、BMWは現行Fシリーズはドライサンプと表記するが以前のモデル(F800まで)はセミドライサンプと呼んでいたので、少々煩雑ではある。
しかも現在のセミドライサンプ、ドライサンプともに独立したオイルタンクを持たないモデルが多いので、ルックス的にはウエットサンプと見分けがつかない……。
とはいえセミドライサンプやドライサンプがもたらす低重心化や最低地上高の確保、そしてオイル撹拌抵抗の低減によるパファーマンスの向上は、どんなスポーツバイクにもメリットがある。だから現行モデルはもちろん、ニューモデルが登場したら、スペック表の潤滑方式の欄をチェックしてみるのも良いだろう。
ミドルクラスもセミドライサンプを採用
独立したオイルタンクを持たないけれどドライサンプ
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