●文:モーサイ編集部(阪本一史)
国産アメリカンブームを築いた“Vツインエンジン+魅せる車体構成”
レーサーレプリカをはじめ、高性能モデルが400ccクラスを席巻した1980年代から1990年代初頭を経て、次に国内中型二輪クラスの販売をけん引したのが、“ほどほどの性能”のモデルだった。
筆頭に挙がるのはカワサキ ゼファーだが、それ以外では国産アメリカンが多様なモデル展開を見せ始めた時期でもある。
その急先鋒にあったのが、“ホンダの鉄馬”=スティードである。
日本国内の2輪車市場での1990年前後というのは、ひとつのターニングポイントだったと思う。1970年代後半から1980年代にかけて、熾烈な性能競争と販売シェア競争に明け暮れた各国内メーカーは、開発面で少なからず疲弊した。
従来モデル、あるいはライバルモデルを上回るべく、次々と市場に送り出される高性能モデル…「この競争にどこまで付き合うべきなのか」という疑問が、徐々に作り手にも消費者にも生まれた。
それをふまえ、腰を落ち着けて乗れる“ほどほどの性能”が模索されるようになったのだ。代表格が、オーソドックスなフォルムに空冷4気筒エンジンを搭載したカワサキ ゼファー(1989年)だ。
だが、この方向を模索したのは、カワサキだけではない。ゼファー登場以前に、ホンダも親しみやすい性能のモデルの開発に取り組んでいる。
売れ筋の400ccロードスポーツでは、水冷400cc並列4気筒のネイキッドモデル・CB-1(1989年3月発売)を出したが、その前年1988年1月には、新設計の水冷Vツインを近未来的なフォルムに搭載したブロスシリーズ(プロダクト1=650cc/プロダクト2=400cc)も発売。
この2モデル、今なら評価は違っただろうが、古典的なデザインをあえて復活させたゼファーとは異なり、デザインをはじめ車体もエンジンも新たなトライにこだわった。それはそれで過去を振り返らないチャレンジングスピリットのホンダらしいモデル展開だったのだが、それゆえゼファーに勝てなかった、とも言えた。
ホンダ スティードのデザイン=リジッドサスペンション風の本格的フォルム
そうした時代の中、ホンダが出した“非高性能モデル”で成功した筆頭は、1988年1月登場のアメリカン・スティード(400/600)だろう。車名の「STEED」は、英語で“元気な馬/軍馬”といった意味だが、同車は発売後10年間で累計8万台の出荷を記録。一時期はベストセラーモデルに君臨した。
低く構えたフォルムに1600mmという長いホイールベース、680mmの低いシート高、狭角52度水冷V型2気筒を抱える車体は、ヘッドパイプから後輪車軸部までを一直線に見えるように構成し、これをホンダは“デルタシェイプデザイン”と表現。
小ぶりなティアドロップ型の燃料タンク、スリムな右側2本出しマフラーを採用し、リヤサスペンションはモノショックを内側に隠すようにスイングアーム基部につなげる形式。
いわばハーレーダビッドソン ソフテイル系に通じるような、リジッド風サスペンションとしている(ホンダはこれを“レトロな固定式後車軸システムをイメージ”と表現している)。
ロー&ロングなスタイルで、各部はハーレーダビッドソンのスポーツスターにも、ソフテテイル系にも通じる雰囲気でまとめられた。これを「独自性や先進性がモットーのホンダらしくない」と批評する向きもあったが、消費者がこの時期に求めたものには合致したのだ……
※本記事は2021年12月15日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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