個性的な水冷Vツイン搭載で乗り味は抜群だった 1982年ヤマハ「XZ400/XZ400D」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.7】

ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第7回は、1982年に登場しながら短命だったXZ400、カウル付き版のXZ400Dを取り上げます。
●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
ずっと走り続けたいミドル級爽快ツアラー
1970年代末期から1980年代に入った頃の日本のバイク各社は原付クラスからナナハンクラスに至るニューモデルを矢継ぎ早に投入していました。空前のバイクブームが訪れていたのです。
なかでも中型車クラスで異彩を放っていたのが、今回ご紹介する1982年発売のヤマハのXZ400とXZ400Dです。
たとえばZ400FXとZ500、Z550、CBX400FとCBX550Fのようにヤマハも400を日本国内向けとして輸出用にはミドルクラスのXZ550Dを同時開発しました。デラックスを意味する「D」の文字は当時のヤマハのフルカウル装備車XJ750Dなどにも使われましたが、カウルを持たないXZ400以上にXZ400Dは極めてレアな存在でした。
XZ400 主要諸元■全長2145 全幅750 全高1090 軸距1445 シート高780(各mm) 車重189kg(乾)■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 398cc 45ps/10000rpm 3.4kg-m/9000rpm 燃料タンク容量17L■タイヤサイズF=90/90-18 R=110/80-18 ●当時価格:49万9000円
XZ400の数か月後にツートーンカラーのYSP仕様が発売され、さらに間を置かずフルフェアリングモデルのXZ400Dが発売された。全高は1320mmと大きくなり、乾燥重量は200kgに達した。●当時価格:57万円
しかし、乗ってみるとこれがご機嫌! 実に素晴らしい走り味なのです。人気・不人気ではなく、まして外観からくる「たいして走らないのでは?」というイメージとは関係なしに偏見ゼロのニュートラルな視点がほとほと大事と思わされた1台でした。
振動が少なくコントローラブルなエンジンが秀逸
感動のひとつめ。それは水冷VツインDHOC4バルブエンジンはパワフルでありながら極めて滑らか。スロットルのオンオフで発生するバックラッシュが非常に少ない作りになっていて乗りやすかったのです。
アクセル操作の開け閉めによるギクシャクを俗に「ドンツキ」と言いますが、ドンツキが大きいとクルマよりホイールベースが短くて重心が高くて前後方向の揺れ(ピッチングモーション)が大きなバイクはカーブで思った走行ラインが描けなくなりがち。直線はもとよりカーブでも、このギクシャクが少ないほどライダーは快適かつ楽しくなります。
同社・同排気量の人気4気筒モデルXJシリーズに勝るとも劣らないハイレスポンスと加速力を示します。2気筒ながら扱いやすさでも同等以上だったのです。
感動のふたつめ。Vツインならではのスリムなライディングポジションを可能とするエンジンはシリンダー交角70度ゆえに前後方向にコンパクト化できる反面、交角90度のエンジンよりも振動が発生しやすいためヤマハは1軸3ウエイトバランサーを内蔵しています。この滑らかな程よいツインらしい鼓動と見事に混じり合っているのです。
燃焼に関してはスワール(渦巻き)を発生させてシリンダー内への充填効率を上げる方式Y.I.C.S.(ヤマハ・インダクション・コントロール・システム)を採用。これは他社を含めてこの頃に多くのバイクに採用され始めた手法です。4バルブ式エンジンが6000回転前後まで2バルブ作動という現在の国内外の可変バルブ式エンジンのバイクもスワール効果を狙ったメカです。
後輪への駆動方式はチェーンではなく、ヤマハ400ccクラス初のシャフト駆動でした。チェーン駆動よりも静粛性に富み、汚れもなく、チェーン調整も不要になるためロングランになるほどメリットを感じる方式です。
フロントサスは当時の流行だったセミエア式。前輪軸はフォーク下部後方にオフセット:トレーリングアクスルタイプというレアな選択。リヤはカンチレバー式:モノクロスサスペンション。いわゆるリンクなしの1本サスです。
当時の同排気量400ccモデルの大半はツインショック式でしたが、XZ400は直線高速走行はもとより、ワインディング走行での路面追従性の良さとふらつきのない安心の走りが実感できました。
レーサーレプリカ全盛期の逆風に抗えなかった
この時期に解禁となったフルカウルを纏ったミドルクラスの本格的なツアラーはそれまで存在していませんでした。エンジンとシュアなハンドリングでロングランでも持ち味を最大限に楽しめるXZ400と優れた防風性を備えたXZ400Dはその可能性を大きく切り開く存在ではあったのですが、RZ250の鮮烈デビュー以降、世はひたすら高出力・ハイパフォーマンスへと流れ始めていたのです。レーサーレプリカ全盛時代の到来です。つまりXZ400は逆風の中で生まれたバイクとも言えます。
角張ったデザインゆえに好みが大きく分かれたのかもしれません。過熱した販売競争の時に生まれ、短期間で消え去った結末があるにせよ、ツーリングに適した作りのまま、外観だけもう少しスポーティな方向に発展していればミドルクラスの名ツアラーとして名を残した可能性は十分にあったと思います。
1980年代前期は排気デバイスを含めたエンジンの水冷化、本格カウルやオイルクーラー装備、車体剛性アップ、ホイールサイズの見直し、アンチノーズダイブやリンク式リアサスを含めた前後サス、フロントブレーキに続くリアブレーキのディスク化など多岐にわたるバイク技術の大幅進化を見せた時代。
その中でもXZ400とXZ400Dは異彩を放った唯一無二のミドル級爽快ツアラーだったというわけです。
1983年には兄貴分のXZ550Dが登場。最高出力62ps/9500rpm・最大トルク4.8kg-m/8500rpmを発揮した。●当時価格:62万5000円
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(柏秀樹)
1969年の袋井テストコース完成が英国車に負けないハンドリングを生んだ ヤマハ初の4サイクルスポーツ車といえば1970年登場のヤマハスポーツ「650 XS-1」です。XS登場の約1年前にデビューしたC[…]
真摯な取り組みから生まれたスズキの良心だった 日本初のナナハンことホンダ「CB750フォア」に対し、GT750は2年後の1971年9月に登場しました。何に感動したかって、低回転のままスルスルっと滑るよ[…]
日本メーカーによる大排気量車ブーム、その先駆けが750フォア 「威風堂々!」 「世界を震撼させた脅威のスペック!」 「日本の技術力を名実ともに知らしめた記念すべき名車!」 1969年デビューのホンダC[…]
カワサキZ400FXを凌ぐため、ホンダの独自技術をフル投入 ホンダが持っている技術のすべてをこのバイクに投入しよう! そんな意欲がヒシヒシと伝わってくるバイク、それが1981年11月に登場したCBX4[…]
美に対する本気度を感じたミドル・シングル ひとつのエンジンでロードモデルとオフロードモデル、クルーザーモデルまでを生み出す例って過去に山ほどありますけど、プランニングからデザインのディテールまでちゃん[…]
最新の関連記事(柏秀樹の昭和~平成カタログ蔵出しコラム)
当時の表記はみんな“並列だった” 現在のヤマハ大型モデルの主軸となるパワーユニットといえば3気筒エンジン。MT-09やトレーサー9GTに搭載されているこのエンジンはDOHC水冷3気筒888cc、120[…]
高性能よりも高感度 現在のロング&ベストセラーモデルの筆頭として君臨しているホンダのレブルシリーズ。そのルーツは1985年デビューした250ccの「レブル」に遡ります。 1985年といえばハイテク満載[…]
最高のハイバランス600ccマルチ! 今回ご紹介するカワサキGPZ600Rは、1985年6月1日に66万9000円(限定1000台)で発売されました。 1980年代半ばといえば400ccクラスが人気の[…]
スズキではレアだった並列2気筒は、GSX-8Sの遠い先祖かも? 今回ご紹介するスズキGR650は1983年3月30日にデビューしました。 1983年といえば、日本のバイク史に記憶される年号のひとつと思[…]
アメリカの野生動物や軍隊に由来する車名 「最強」「最速」そして「独自のルックス」をイメージするカワサキブランドのルーツといえば2ストロークマシンの怪物500SSマッハⅢと4ストローク4気筒キングZ1を[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
400cc4気筒ブームの立役者、第3世代の直4を実現したカワサキの戦略 Z1/Z2系からZ650のザッパー系に続くカワサキ直4の第3弾がZ400FX。1980年代初頭に日本で巻き起こった空前のバイクブ[…]
ミドル直4“ザッパー”見参! 次世代を見据えた新技術を余さず投入 1970年代中頃はZ1がすでにビッグバイク界を席巻していたが、カワサキはその名を不動とするため「Z1ジュニア」のコンセプトのもと、40[…]
国内規制に合わせてエンジンを再設計 ホンダのCB750フォア(1969年)の発売と前後して、大型バイクの事故の増加や暴走族が社会問題化し、国内では750ccを超える排気量のバイクを販売しない自主規制が[…]
ライムグリーンのローソン・レプリカが人気を独占 カワサキはZ1からZ1000Mk.IIまで進化を重ねたが、1980年代に入ると大排気量スポーツのライバル車が台頭。そこでZ1系のエンジンとシャシーを刷新[…]
本格オフロードモデルDT系を原付のちょうど良いサイズでリリース! ヤマハは1968年、250ccの大きな排気量で初のオフロード用2ストローク単気筒エンジンを搭載した画期的なDT1をリリース、以来125[…]
人気記事ランキング(全体)
夏場は100℃超えも珍しくないけれど… いまやバイクのエンジンは“水冷”が主流。安定した冷却性能によってエンジンパワーを確実に引き出すだけでなく、排出ガス/燃費/静粛性の面でも水冷の方が空冷より有利な[…]
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう ──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか? 「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、[…]
RH1250S スポーツスターS:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 121HPを発揮するレボリューションマックス1250Tエンジンをオールブラックにし、精悍さを強調するデザインとなった202[…]
シグナスシリーズ、20年の歴史を背負うニューフェイス 以前は空冷エンジン搭載のコンパクトな原付二種スポーツスクーターとして人気を博した「シグナスX」だが、水冷の新世代「シグナス グリファス」に交代した[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
最新の投稿記事(全体)
ツーリングの楽しさを気軽に、疲れ知らずで ウェット路面に翻弄され、全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラス今季初戦は、決勝9位という不本意な結果に…。その悔しさを癒してもらおうと、新型のRebel […]
9月上旬~中旬発売:アライ「RAPIDE-NEO HAVE A BIKE DAY」 旧車やネオクラシックバイクにマッチするアライのラパイドネオに、新たなグラフィックモデルが登場した。グラフィックデザイ[…]
販売終了が続く絶版車用純正部品を信頼のMADE IN JAPANで復刻 長期間不動状態だったバイクを再始動する際、キャブレターやガソリンタンクの状態もさることながら、クラッチの張り付きも懸念事項のひと[…]
RH975S ナイトスタースペシャル:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 レボリューションマックス搭載モデルでは、燃料タンクをシート下にレイアウトすることでダウンドラフト吸気を実現。従来タンク[…]
BMWライフをスタイリッシュにサポート 安全性と品質を兼ね備えたBMW Motorradギア&ガーメント。2025秋のギア&ガーメントも新作アイテムが目白押し。その中でBMWライフをスタイリッシュにサ[…]
- 1
- 2