マフラー交換などのカスタムで、キャブセッティング変更が必要な時に役立つ燃調キットの活用方法
バイクメーカーは市販車を開発する際にテストを繰り返して入念にセッティングを決めていますが、ユーザーが吸排気系のパーツ交換を行うことでスタンダードセッティングの前提が崩れてしまいます。スロットルを開けても加速が悪い、一定速度で走るとギクシャクする、スロットルを戻すとマフラーから“パンパンパン”とアフターファイヤーが発生するなど、純正キャブセッティングで不具合が発生した時は、混合比を変更するためキャブ内部の部品交換が必要です。その際に重宝するのが、500機種以上のバリエーションを展開するキースターのキャブレター燃調キットです。ここでは人気のボバーカスタムに仕上げられたカワサキエストレヤを題材に、燃調キットを使ったキャブセッティングを紹介します。
●BRAND POST提供:KEYSTER 岸田精密工業
マフラー交換とエアークリーナーケース撤去でアフターファイヤーが発生。乗りづらさの原因は?
キャブレターはパイロットジェットやジェットニードル、メインジェットといった小さな部品によって、スロットル開度に応じて最適な混合気を作る、内燃機関の歴史上でもっともシンプルかつ優秀なパーツです。
フューエルインジェクションの方がスマートで頭が良いと思われがちですが、インジェクションはキャブレターの働きを電子制御に置き換えただけであり、吸気にガソリンを混ぜて混合気を作る仕組みはキャブレターと何ら違いはありません。
むしろ複雑なECUやインジェクターや燃料ポンプを必要とせず、自然の摂理で作動するキャブレターの方が、本質的な意味で優れていると考えることもできます。
昔懐かしい霧吹きの要領で、管の中を空気が通過する際に発生する負圧によって、管の外の液体=ガソリンを吸い上げて空気と混ぜ合わせて混合気を作るのがキャブレターの役割です。エンジンはこの混合気を燃焼室内で爆発的に燃焼させることで作動しますが、その際には混合比が一定の範囲にあることが重要です。具体的には、空気とガソリンの質量の比率が一定範囲にあることで、燃焼室内の混合気はきれいに燃焼します。
バイクメーカーが市販車を開発する際は、燃費性能や排ガス規制をクリアするために入念なキャブセッティング(現行車ならインジェクションセッティング)を行います。キャブレター車の場合、キャブレター内部の通路=ベンチュリーを通過する空気の圧力(負圧)と流量がセッティング決定の重要な要素となります。ベンチュリーを通過する空気の条件とはエンジンだけでなく、エアクリーナーの入り口からマフラーの出口までを含む吸排気系全体の設計で決まっています。
そのため吸排気系パーツの交換によって、ノーマルセッティングのキャブレターでは対応できなくなる場合もあります。ノーマルセッティングのキャブにも一定の許容範囲があるので、キャブセッティング不要で装着できるカスタムパーツもあります。しかしカスタムの内容によっては、ノーマルセッティングでは対応できなくなる場合もあります。
ボリューム感のあるタイヤを装着してフェンダーを切断、車体各部の装備類を徹底して削ぎ落とす“ボバースタイル”は、チョッパーと並ぶ人気のカスタム手法です。ここで紹介するカワサキエストレヤも、ボバーの王道を行く個性的なスタイルが魅力です。エストレヤ純正のケーヒンCVKキャブレターに組み合わされる野暮なノーマルエアークリーナーケースはパワーフィルターに交換するのも必須ですが、実はこれによってキャブセッティングは大幅に変わってしまいます。
このエストレヤに限らず、エアークリーナーケースを外したことで、スロットルを戻した際にマフラーから“パンパンパン”と破裂音=アフターファイヤーが発生するようになったというのは、典型的なカスタムあるあるです。それだけでなく、アイドリング時にエンジンがストンと止まってしまったり、エンジン回転数が低く速度が遅くスロットル開度が小さい領域でトルクが希薄で乗りづらく感じることも少なくありません。
エアークリーナーケースはエアークリーナーエレメントを収納する箱であると同時に、実はキャブレターにかかる負圧を決める重要な働きをしているアイテムです。ケーヒンCVKキャブは、ベンチュリーに発生する負圧によってバキュームピストンが作動する負圧式キャブレターです。ベンチュリーにかかる負圧は、エンジン側でピストンがシリンダーを下がる際に発生しますが、エアークリーナーケースの吸い込み口も影響しています。
エンジンが発生する負圧に対してケース側の吸い込み口のサイズが小さい場合、吸入空気量が少なくなるためキャブレターのベンチュリーにかかる負圧は大きくなります。シート下のエアークリーナーケースあたりに積んだウエスが吸い込み口にかぶさると、キャブレターがかぶり気味になって不調になるのはそのためです。
逆にエンジンの負圧に対して吸い込み口が極端に大きい、つまりエアークリーナーケース自体を撤去するとどうなるでしょう。ケースによる吸気抵抗=キャブに対して適正な負圧を発生させる抵抗がなくなることで、ベンチュリーにかかる負圧が小さくなります。
するとキャブレター内部を通過する空気量が同じ=エンジン回転数が同じでも、ケース無しの方が負圧が小さい分、フロートチャンバー内のガソリンが吸い上がりづらくなり、混合気が薄くなります。これが減速時に発生するアフターファイヤーや、スロットル低開度での乗りづらさの原因です。
ベンチュリー負圧の不足による不具合はスロットル開度が大きくなっても同様に影響します。しかしスロットル開度が大きくエンジン回転数が上がると、キャブレターの働きとしては吸入負圧よりも吸入流量への依存度が高くなるため、低開度時ほど自覚症状を感じづらい傾向となります。また公道走行ではスロットルを全開にできる機会が少ないため(高速走行とスロットル開度は別問題なので注意が必要です)、メインジェット領域のセッティングのズレを認識しづらいという面もあります。
エアークリーナーケースを取り外すことで抵抗が減って、より多くの空気を吸い込めるようになるという考え方は間違いではありません。ボバーやチョッパーカスタムの場合はエンジンパフォーマンスアップというよりスタイル面での意味合いが大きいかも知れませんが、いずれにしても純正キャブレターでエアークリーナーケースを撤去する場合は、キャブレターにかかる負圧が大きく変化することに対応したセッティング変更が必要です。
パイロットジェット#38を#41に交換しただけでエンジンフィーリングが激変
純正キャブレターでセッティングを変更したい時に最も手っ取り早く頼りになるのが、機種別に設定されたキースターのキャブレター燃調キットです。バイクメーカーが決めた純正セッティングは、先述した通りエアークリーナーケースの入り口からマフラーの出口まですべて純正パーツの組み合わせで決定されています。そのため、パーツリストに掲載されたジェット類のサイズも、一部の例外を除いて純正サイズしかありません。
これに対して燃調キットは、パイロットジェット、ジェットニードル、メインジェットのセッティング3パーツを、純正を基準に混合比が変更できるよう複数サイズ用意しているのが特徴です。また50ccからオーバー750ccクラスまで500機種にわたる豊富なラインナップが用意されているのも特徴で、セッティングやチューニング用としてはもちろん、レストア時のキャブレターオーバーホール用パーツとしても重宝します。
ボバースタイルに変貌した外観にノーマルの面影はまったくありませんが、装着されたキャブレターはエストレヤ純正のケーヒンCVKなのでキースター品番FK-5200N、モデル名エストレヤ、エストレヤRS(型式BJ250C1~C5)用を使用してセッティングを行います。
先の説明通り、エアークリーナーケースを撤去したことでベンチュリーに発生する負圧が低下しているのを補うため、パイロットジェットのサイズをアップします。キャブセッティングというとまずメインジェットから交換してしまうライダーもいますが、スロットルを全開にできるサーキットや全開状態を維持できるシャシーダイナモを使うならともかく、街乗りならメインジェットは最後の最後です。
エンジンから取り外したキャブレターを分解し、取り出したパイロットジェットのサイズを確認すると#38が入っていました。キースター燃調キットのマニュアルでは#35がスタンダードサイズとのことなので、すでにワンランク大きくなっていたことになります。それでもアフターファイヤーや低速でのギクシャク感があるので、キット内で最大の#41に交換します。
パイロットジェットと合わせてニードルジェットとメインジェットも変更したくなりますが、ここではパイロットジェットのみを交換して復元します。それぞれの部品はスロットル開度に応じて、オーバーラップしながら働いています。スロットル開度が小さい領域で発生するアフターファイヤーや低速でのギクシャク感に対するジェットニードルやメインジェットの寄与率は小さいので、一度にあれこれ変更するのではなく、より関与度の高いパイロットジェットから変更して変化を確かめることが重要です。
果たして#38を#41にしたことで、変更前に感じられたアフターファイヤー、信号待ちでいきなりエンジンストップしそうな不安定感、車の流れについて走る時のギクシャク感が一掃され、とても乗りやすくなりました。
番手でいえば3番、直径ではたった0.3mm拡大したにすぎないのに、エンジンフィーリングの変化は劇的です。メカニズムとしては、クリーナーケース撤去によってベンチュリー負圧が低下して、パイロットジェットからのガソリン吸い上げが低下して混合比が薄くなったのが、ジェット径拡大によって吸い出されやすくなって症状が改善したと理解できます。
パイロットジェットの受け持ち領域は、スロットル開度が小さい=ベンチュリー径が絞られることで吸入負圧が最大になるため、わずかなジェット口径の変化がより顕著に出やすくなります。
エストレヤ用燃調キットのパイロットジェットのサイズは#34、#35、#41の3サイズで、今回の吸気系の部品構成では最大の#41で好調になりました。パワーフィルターより吸気抵抗が小さくなるファンネル仕様の場合、スロットル低開度時のベンチュリー負圧はさらに低下すると考えられるので、その場合はパイロットジェットももう1ランク大きくした方が良いかも知れません。
しかしキースターではさまざまな条件で使えるようパーツの入り組みを考慮しているので、エンジンやマフラーの仕様が極端でなければほとんどの場合は対応可能です。
パイロットジェットで大幅に改善した低速域に対して、ジェットニードルやメインジェット領域はどうかといえば、変更の必要はありませんでした。先に述べたようにスロットル開度が大きくなると吸入負圧より吸気流量の影響が大きくなり、エンジン仕様を変更しなければ吸い込める流量に大きな差が生じないからです(エアークリーナーケースの入り口の口径が極端に小さくて吸入困難になっている場合は別ですが)。
とはいえ4本のジェットニードルと6個のメインジェットに用がないわけではありません。キャブの中で20年以上使われてきたジェットやニードルは、オーバーホールの際に純正サイズに交換することで確実にリフレッシュできます。
今回は運良くパイロットジェット変更だけで不調を解消できましたが、スロットル開度がさらに大きい領域でセッティングが合わなければ、ジェットニードル、メインジェットの順に変更してフィーリングを確かめる必要があります。そのような場合でも燃調キットがあれば、エンジンが必要とする混合気に調整することが可能です。
※本記事はキースターが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。