
ホンダのパーソナルEV第2弾として、6月20日に発売される「CUV e:」。第1弾のEM1 e:が原付一種だったのに対し、より使い勝手のいい原付二種なのも注目点だ。さらに大画面メーターはスマホ連動で全画面ナビに対応するなど、原付二種の枠を超えた装備も自慢。3月中旬に開催された大阪MCショー会場で開発責任者に話を聞いた。
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:箱崎大輔/ホンダ/YM Archives
【本田技研工業 電動事業開発本部 二輪・パワープロダクツ電動事業開発統括部 CUV e: LPL(開発責任者) 後藤香織さん】2006年入社。以来一貫して2輪車開発に従事し、おもに車体設計としてEV-neo/PCX/フォルツァ/CB1000Rの開発を担当。初めて開発責任者を努めたEM1 e:に続き、CUV e:も開発責任者を務める。
ホンダCUV e: 主要諸元
【2025 HONDA CUV e:】主要諸元■全長1970 全幅675 全高1100 軸距1310 シート高766(各mm) 車重120kg(装備) ■交流同期電動機 定格出力0.98kW 最高出力6.0kW(8.2ps)/3500rpm 最大トルク22Nm(2.2kg-m)/2300rpm リチウムイオン電池✕2 バッテリー電圧/容量50.26V/26.1Ah 一充電走行距離57km(60km/h定地走行テスト値/1名乗車) ■ブレーキF=ディスク R=ドラム ■タイヤF=100/90-12 R=110/90-12 ●価格:52万8000円(バッテリー&専用充電器それぞれ2個ずつを含む)
原付一種のEM1 e:とはまったくの別物
2023年5月に発売されたホンダ初のパーソナル向け電動バイク「EM1 e:」(32万100円 バッテリー/充電器含む)。モーターの定格出力は0.58kWと、道路運送車両法上の原付一種(0.6kW以下)に分類される。
YM:2024年に発売された原付一種のEM1 e:は、ホンダのパーソナル向けEVの第1弾でしたが、今回のCUV e:はそれに続く第2弾となります。
後藤:EM1 e:は門戸を広く、二輪免許をお持ちでない方も乗れるように原付一種としましたが、やはりバイクにお乗りの方からは「原付二種が欲しい」という声が多かったんです。それがCUV e:開発のモチベーションにもつながっています。
YM:EM1 e:の発表時にも原付二種版の存在を匂わせていらしたので、EM1e:をべースに原付二種版を作るのかと思っていたら…まったくの別物ですね。
後藤:パワートレインを含めて専用開発となりました。
YM:CUV e:はワールドローンチが2024年10月のインドネシアでした。グローバル機種として、かなりのボリュームを前提として新規開発を行ったと捉えていいですか? 日本での販売予定台数は700台と控えめですが…。
後藤:はい。ホンダは2024年をグローバルのEV元年と定義していたので、今後どんどん展開していく予定です。日本は手堅くですが…。
YM:基本的な雰囲気はEM1 e:と近い感じがありますが、デザインも別物ですね。
後藤:EVらしいスマートなデザインは共通しますが、CUV e:では前後のライト類がアイコニックなデザインとなっていて、内部のホンダロゴが光るんです。これはホンダの2輪では初採用となります。そのあたりも含めて、ひと目でCUV e:と分かるアイデンティティを持たせています。
YM:デザインだけでなく、メカニズムもまったく別物ですね。
後藤:EM1 e:はインホイールモーターで直接後輪を駆動していますが、CUV e:はモーターと後輪の間にリダクション(減速)ギヤを入れています。これによって最高速と日常域のトルクを両立し、登坂性能も満足できるものに仕上っています。
原付一種のEM1 e:はリヤホイール内にモーターを収めるインホイールタイプだが、CUV e:ではアルミケース内にモーターを収め、減速ギヤを介して後輪を駆動。両持ちスイングアームのEM1 e:はリヤサスが2本だが、片持ちのCUV e:は1本と、このあたりの作りも異なる。
車体は完全新設計。フレームとパワーユニットの結合部は、エンジン搭載のスクーターでは振動対策としてラバーマウントされることが多いが、CUV e:は低振動な電動のメリットを活かしたリジッドマウント。車体との一体感向上や軽快かつスポーティーなハンドリングに寄与している。
フロアは「このクラスだとグローバルで見ても人気が高い(後藤さん)」というステップスルータイプを採用。シートとともに前後長には余裕があり、自由度の高いライディングポジションを実現する。大型のキャリヤで積載性も高そうだ。
スマートな顔して…街中最速?!
YM:たとえば、PCXの125に乗っているユーザーがCUV e:に乗り換えたとしたら、どんなバイクだと感じますか?
後藤:0〜50mなどの短い距離ならCUV e:の方が速いです。0〜200mぐらいになると追い付かれる、みたいな感じですね。
YM:出足の良さは電動バイクの魅力のひとつだと思いますが、それがしっかり感じられるわけですね。
後藤:走行モードが3つあるのですが、そのうちのSPORTを選ぶと、ちょっと身体を持って行かれそうなぐらいの加速をします。ストップ&ゴーが多いお客様だとEVらしい出足のトルクフルさなど、とくに良さを感じていただけるはずです。
YM:EM1 e:では1個だったホンダモバイルパワーパックe:(以下MPP)も、CUV e:では2個搭載されています。
後藤:メカニズムとしては96Vのシステムを持つベンリィe:に近いので、ベンリィと同様にMPPを2個搭載しています。
安心して扱える特性のSTANDARD、パワフルでレスポンスのいいSPORT、出力を抑え航続距離を伸ばすECONと、3つのライディングモードが選択可能。後退をモーターでアシストするリバースモードも搭載する。
充電場所までナビでご案内
YM:加えて特徴的なのは、大画面7インチのTFTフルカラー液晶メーターと、さらにはCUV e:が初採用となる、スマホ連動でフルマップ表示も可能なホンダロードシンクDuo(以下Duo)。原付二種としてはだいぶ奢った装備だと思います。
後藤:たとえばナビで目的地をセットした際に、バッテリーの残量が少ないと、近くにあるバッテリーステーションを案内してくれる…など、ちょっとした提案型ナビになっているのもポイントです。
YM:なるほど。Duoは他のホンダ車にも展開されていくと思いますが、初採用がCUV e:なのは必要性があってのことなんですね。
後藤:はい。車両情報とリンクさせることで、EV特有の航続距離の不安などを解消しよう…という狙いがあるからです。
YM:それにしても車格に対し、かなりの豪華装備感があります。
後藤:たとえば、サイドスタンドのしまい忘れ警告も凝ったイラストを使うなど、TFTメーターを活かした画面遷移にも取り組んでいます。
スマホ連携機能のホンダロードシンクDuoは、7インチTFTメーターのほぼ全画面にナビ画面を表示。ナビはターンバイターンタイプも使用可能だ。
メーター表示や機能の切り替えは、ハンドル左側に配された新開発のマルチセレクションスイッチで行う。メーター内の各種警告も精緻なイラストを用いるなど、TFT液晶の利点をフル活用。
YM:原付一種/二種と来たら、やはりその上も欲しくなります(笑)。たとえば軽二輪クラスのEVとなると、取り外し可能なMPPではなく、バッテリーは固定式でプラグイン方式という選択になるのでしょうか?
後藤:そうですね。最高速が100km/hを超えるようなバイクだと、もっとバッテリー容量が欲しくなります。そこは航続距離と出力のバランスを見ながら決めていく部分ですが。
YM:なるほど。そうしたモデルにも今後、期待したいです。
後藤:ホンダでは2030年に30モデル以上の2輪EVを出すと公言して、フルラインナップ化を目指していますので、ご期待いただければと思います。
(終)
ホンダが2024年のミラノショーで公開した「EV Fun Concept」。2025年に発売予定とされるホンダ初の電動スポーツバイクのプロトタイプで、中型排気量相当の性能と100km以上の後続距離を想定する。バッテリーはホンダ2輪初の固定式で、この四角いバッテリーをあえて隠さず水平基調のデザインに取り込むなど、スタイリングでも電動ならでは魅力を追求している。
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