
ここは、本来は世に出ることなく開発途中で消えて行ってしまったマシンのコーナー。だが、今回は後に市販されたモデルを紹介したい。VT250 SPADA(スパーダ)は、実はCORSA ROSSA 25V(コルサロッサ 25V)だった?!
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:本田技研工業、YM Archives
イタリアンイメージをネーミングやデザインに注入
これらデザインスケッチ等は、1989年8月にウェルカムプラザ青山で実施された「MOVE」展で公開されたもの。これは本田技術研究所 朝霞研究所が企画して実現したイベントで、同研究所のデザインスタジオ風の展示が実施された。ちょうど’88年12月にVT250スパーダが発売されたタイミングでもあり、このモデルのイメージスケッチや1/1レンダリング、クレイモデル、モックアップモデルが展示され、実際に発売されたモデルの現物を見せる形でデザインの過程が紹介されたのだ。
ちなみにVT250スパーダのSPADAはイタリア語で剣の意味。車体色の赤はイタリアンレッド、緑はトスカーナグリーンとネーミングされるなど、イタリアを強く意識したもの。その原点はイメージスケッチにある車名「CORSA ROSSA 25V」から来ているのだろう。これもイタリア語で、CORSA=レース、ROSSA=赤を意味しており、レースレッドという英名にできるネーミング。連想されるのはドゥカティやフェラーリだが、ホンダのレースイメージにも赤が使われているので、意味のあるネーミングと言えるだろう。
【HONDA CORSA ROSSA 25V モックアップモデル 1989年MOVE展出品物】イメージスケッチからモックアップモデルに至るまで車名はコルサロッサのままだった。尚、市販では「CASTEC」となるフレームの刻印は「ALCAST」に、またイメージスケッチ(トップ画像)では「HRCF」と異なるネーミングだったのも興味深い。
【HONDA VT250 SPADA 国内仕様 1988年12月発売】こちらはVT250スパーダ。ウインカーの位置やマフラーエンド、ミラー、メーターなどの細部はモックアップと異なっているが、ほぼそのままのデザインで市販されたのが分かる。
’80年代末、脱レプリカを模索していた時代
’80年代終盤は、レプリカブームに陰りが見えていたころで、各メーカーは次の一手を模索していた時代とも言える。VT250スパーダとほぼ時を同じくしてホンダからはBROS PRODUCT ONE/TWO(1988年1月)やCB-1(1989年3月)など、新コンセプトのネイキッドモデルが発売された。それらの中にあったスパーダのスタイリングコンセプトは「イマ 主張するネイキッドスポーツバイクのあたらしいカタチ」とされ、「シティーユースメインのスポーティギア」を目指して形作られることになった。
掲げられたキーワードは、脱レプリカ、こだわり、トレンディ―、知的、ハートにリゾート感覚、軽快、アイデンティティ―、ファッショナブル、軟弱じゃないぜ──といったもので、昭和から平成に時代がかわる狭間の空気を読み取ったもの。特に最上段に置かれていた「脱レプリカ」が、スパーダの最も重要なテーマだっと読み取ることができる。
デザインコンセプトを図式化したものがこちら。まだパワーポイントなどない時代だが、写植文字などでスタイリッシュに表現している。青丸のスペースに掲げられたキーワードを見ると、バイクをファッションとして捉えるニーズを察知してそれに応えようとしたのが分かる。
こちらは開発初期と思われる会議の様子。中央で発言しているのはスパーダをデザインした小濱光可氏。ボードには「New VT WAIGAYA」と書かれている?! グラフにはCBRに対してVT系の販売が落ち込んでいることが記されており、250㏄90度V2モデルのテコ入れ方法を、ホンダ伝統のワイガヤミーティングで決めていったことが伺える。
特徴的なフレームもイタリア由来だった
VT250スパーダを語る上で欠かせないのは、やはり「CASTEC(キャステック)」フレーム。世界初のアルミ鋳造中空一体構造の二輪車用フルキャストフレームでデザイン上では最大のキーポイントとなった。この技術のルーツは、1988年2月にイタリアで発売されたNSR125Fのアルミダイキャストフレームで、左右分割タイプだったものを一体化。生産性を向上させるだけでなく、ツインチューブフレームよりもデザイン性を高めることができるもので、スポーツ性とファッションを両立させたいスパーダの目玉と言える技術だ。
クレイモデルでデザインに溶け込むキャステックフレーム。軽量、高剛性という機能面でもメリットがあり「さりげなく良いバイク」を実現するためのキモとなる技術でもある。
当時、浜松製作所におけるアルミフレームの生産も開始から約5年が経過しており、大型化するピボットプレートの生産を中心に、中空薄肉鋳造技術のノウハウが蓄積されるようになっていた。そこで、他社の追随を許さない魅力を発揮する中空薄肉キャストフレームの検討が始まったという。
【HONDA NSR125F 国内仕様 1989年6月発売】イタリアで生産され、現地では1988年2月発売されたNSR125Fは、フルカウルモデルをネイキッドにするスタイルが現地で流行っていたことから、デザインの自由度が高いキャストフレームを開発して魅せるフレームデザインとしたモデル。日本にも1000台が輸入された。
【復刻インプレ】VT250スパーダ vs CBR250R【1989年1月号】
両車ともに、非常にニュートラルな乗り味で峠道を楽しめるが、本気で攻める気なら低中速コーナーはスパーダがラクで、高速コーナーではCBRがいい。クネクネと曲がりくねったつづら折りなどでは、スパーダのそのシャープなハンドリングは絶対的な強みであり、クイックな切りかえしで他を圧倒する。とにかく面白いように、スパッスパッと曲がってくれるのだ。峠での有効パワーバンドも6000~1万2000rpmとワイドで、下からのトルクが効いているため、ゼロ発進からのスタートダッシュは直4エンジンを上回る実力を発揮する。またミッションの守備範囲も広く、扱いやすいパワー特性と相まって、CBRよりも一段高いギヤで走り抜けることも可能だ。タイトコーナーのスペシャリストとしての実力は、本当に大したものだ!!
CBRはどうか? パワーバンドは1万4000~1万8000rpm。気を抜いて回転を落とすと、すぐにスパーダに先行されてしまうから、常に高回転をキープしておきたい。それもとびっきり速く走るなら、1万6000rpmから上の2000回転をホールドすべし。かなりのテクが必要だが、これさえマスターすればタイトコーナーでもスパーダを十分押さえることができる。要はパワーを維持できるかどうかなのだ。
高速コーナーの安定感はCBRが一枚上手だ。コーナー入り口からフロントのおさまりも良く、ベターッとラインをトレースしながらリヤにトラクションをかけてやれば、グイグイと回り込んでくれる。そういった走りでこそ、Rサスも一番動きの良いところが使えるようで、タイヤとのマッチングがベストだ。逆に、スパーダは100km/hを超える高速コーナーでは、速度に対してサスが柔らかすぎるのに加え、タイヤが太すぎるため、路面のギャップをもろに拾い、タイヤが細かくはね、フワつく。
脱レプリカを狙ったVT250スパーダではあるが、やはりヤングマシンではレプリカモデルとガチ対決。ここではワインディング対決だけを抜粋した。
ライダーは大島正さん(故人)と丸山浩さん。短命に終わったスパーダだったが、現在ではそのポテンシャルの高さからもて耐レーサーとして活躍する姿も見られる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([特集] 幻の名車)
石油危機で消えたポストZ1候補2台目はロータリーエンジン 1970年代初頭、ロータリーエンジンは一般的なレシプロエンジンよりも低振動でよりフラットなトルクカーブとスムーズなパワーデリバリーが実現できる[…]
2ストローク90ccの「CO-29」は、キーレスにポップアップスクリーン採用 1988年に劇場版「AKIRA」が公開された翌年、1989年8月にウェルカムプラザ青山で「MOVE HONDA MOTOR[…]
1984年にツインチューブフレームを採用していた これはホンダウェルカムプラザ青山で1989年8月に開催されたイベント「MOVE」に出品されたプロトタイプのCR-1。モトクロッサー、CR500Rのエン[…]
GLの元となった水平6気筒試作車 CB750フォアの発売後、モーターサイクルキングとは何かを探るために試作された1台。ロータリーエンジンのような滑らかさを求めて水平6気筒としたが、ミッションを後ろにつ[…]
市販されなかったターボはミッドナイトスペシャル仕様 1981年10月末~11月にかけて開催された東京モーターショーは、各社がターボのモデルを一斉に出品して話題となった回である。ターボ過給器付き2輪車は[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA] | 名車/旧車/絶版車)
先進技術満載の長距離ツアラーに新色 発売は、2018年10月12日。ホンダのフラッグシップツアラーであるゴールドウイングは、2018年モデルで17年ぶりのフルモデルチェンジが実施され、型式もGL180[…]
ホンダCBX400F:盛大に歓迎された新マルチ ヨンフォア(CB400Four)の生産終了後、2気筒のホークII、ホークIIIをリリースしてきたホンダだったが、ついに1981年11月、400cc4気筒[…]
初の3色展開で色鮮やかなラインナップとなった 「シンプル」「コンパクト」「愛らしさ」といった歴代モンキーの不変的な魅力を踏襲しつつ、楽しさをスケールアップした原付二種のレジャーバイク・モンキー125。[…]
ホンダCB400フォア:工芸品がごとき秀逸デザイン ヨンフォアことCB400フォアのベースとなったのは、1972年に発売されたCB350フォア。 当時、クラスで唯一の4気筒で、4本出しマフラーを採用す[…]
4ストローク2気筒の『オフ・ザ・ロード』 国産4ストローク2気筒型オフロード車を語る上で外せないバイクが1970年登場のホンダSL350です。SL350は1970年代のホンダ車の中でもレアな存在ですが[…]
人気記事ランキング(全体)
使わないのは「どうせ利かない」もしくは「踏んでもよくわからない」…… リヤブレーキをかけているライダーは、驚くほど少ない。 ブレーキペダルを踏んでも利いているかわからない、すぐABS(アンチロック)が[…]
振動の低減って言われるけど、何の振動? ハンドルバーの端っこに付いていいて、黒く塗られていたりメッキ処理がされていたりする部品がある。主に鉄でできている錘(おもり)で、その名もハンドルバーウエイト。4[…]
足着きがいい! クルーザーは上半身が直立したライディングポジションのものが主流で、シート高は700mmを切るケースも。アドベンチャーモデルでは片足ツンツンでも、クルーザーなら両足がカカトまでベタ付きと[…]
ホンダ新型「CB400」 偉い人も“公認”済み ホンダ2輪の総責任者である二輪・パワープロダクツ事業本部長が、ホンダ新ヨンヒャクの存在をすでに認めている。発言があったのは、2024年7月2日にホンダが[…]
一回の違反で免許取消になる違反 交通違反が点数制度となっているのは、よく知られている。交通違反や交通事故に対して一定の基礎点数が設定されており、3年間の累積に応じて免許停止や取消などの処分が課せられる[…]
最新の投稿記事(全体)
一大ブームが巻き起こった1986年 滑走路で戦闘機と加速競争する姿、美人教官とのタンデム、苦悩を抱えて丘の上に佇む夕暮れ──。数々の印象的なシーンに初代ニンジャ=GPZ900Rがいた。 1986年に公[…]
房総半島の意外な魅力「素掘りトンネル」 東京から小一時間で行けるのに意外と秘境感あふれる千葉・房総半島。ここには味わい深い素掘りのトンネルが多数存在する。そんな異次元空間を求めて、半日だけショートツー[…]
約8割が選ぶというEクラッチ仕様 「ずるいですよ、あんなの売れるに決まってるじゃないですか……」と、他メーカーからの嘆き節も漏れ聞こえてくるというホンダの新型モデル「レブル250 Sエディション Eク[…]
ヤマハRZ250:4スト化の時代に降臨した”2ストレプリカ” 1970年代、国内における250ccクラスの人気は低迷していた。 車検がないためコスト的に有利だが、当時は車体設計が400ccと共通化され[…]
重厚感とユーザー寄りのデザインと扱いやすさが魅力本物のクラシックテイストがロイヤルエンフィールドの特長 1901年にイギリスで創業したロイヤルエンフィールドは、世界最古のバイクブランドとして長い歴史の[…]
- 1
- 2