
映画『トップガン マーヴェリック』で主人公役のトム・クルーズが実際に駆った愛機、カワサキGPZ900R。公開当時の2022年に日本上陸した劇中車を、その細部まで子細漏らさず撮り下ろした模様をプレイバック。とくに、36年分の歳月を再現したGPZ900Rのリアルな姿は、第1作を知る者なら感涙必至。第3作を心待ちにしながら、DVDやブルーレイ、サブスクで作品を見返してみよう。
●文:ヤングマシン編集部(沼尾宏明) ●写真:箱崎太輔 ●外部リンク:カワサキモータースジャパン
“Ninja”の伝説はここから始まった
滑走路で戦闘機と加速競争する姿、美人教官とのタンデム、苦悩を抱えて丘の上に佇む夕暮れ──。数々の印象的なシーンに初代ニンジャ=GPZ900Rがいた。
1986年に公開された映画『トップガン』で、トム・クルーズ演じる主人公マーヴェリックの愛機だったGPZ900R。その勇姿は、当時若者だった我々のハートを釘付けにした。映画の大ヒットともに、マーヴェリックに憧れる者たちが続出。ニンジャは、一大ブームを巻き起こした。
【1984 Kawasaki GPz900R [A1] Modified for TOPGUN MAVERICK】
あれから36年、誰も予想していなかった続編『トップガン マーヴェリック』が2022年5月に公開された。マーヴェリックは弾けるような若者から、歳月を重ねた渋みのある大人へと成長した。ただし、無鉄砲な部分は健在!
往年のファンをとくに歓喜させたのは、冒頭の場面に登場するGPZ900Rだろう。36年という歳月を表現した姿に、劇中の主人公とトム・クルーズ、そして我々にも等しく流れた時の重みを感じ取り、深い感慨を覚えた者も多かったはずだ。さらにニンジャの末裔であり、撮影時に最強フラッグシップだった、ニンジャH2カーボンが新たな愛機として活躍。この世代交代も作品のテーマと固く結びついている。
撮影で使用された2車は、2022年秋のミラノショーのカワサキブースで「PREPARE FOR TAKE︲OFF」(離陸に備えよ)との意味深なコピーとともに展示。同年末~翌年1月、神戸のカワサキワールドでも特別展示された。現地で激写してきた勇姿を、余す所なく公開しよう!
【左:GPZ900R 劇中車】第1作『トップガン』での愛機だった初代ニンジャ=GPZ900Rは当時、カワサキの最速マシンだった。36年の歳月を思わせる風貌で続編にも登場!
【右:Ninja H2 Carbon 劇中車】第2作『トップガン マーヴェリック』では、撮影当時の最新最強ニンジャだったH2が愛機。スーパーチャージャー付きで231psの超パワーを発揮する。
細部は前作と異なるも、長年の相棒そのもの
そこで披露されたGPZ900Rは、第1作に登場した実物ではない。続編向けに1984年北米仕様「A1」を用いて、ユーズド処理を施した車両だ。前作と微妙に細部は異なるが、36年の歳月をリアルに経てきた雰囲気をまとっている。
前作の劇中車両は、1985年型の「A2」と言われる。しかし、この黒×赤のカラーリングは純正で発売されていない。つまり、国内向けに発売されたGPZ750Rの外装を900に装着し、オリジナルペイントした説が濃厚だ。また、米国選手権AMAスーパーバイク参戦用に750が北米に数台輸出され、その外装が使用されたとも言われる。
前作ではカワサキから協力を得られず、車体からメーカー名や排気量を消す事態となったが、続編ではカワサキUSAが車両協力。一説ではレストアしたGPZを2台、H2カーボンを4台提供したとされている。
今回は1984年初期型の北米仕様がベースのため、前作のニンジャにはなかったリフレクターがサイドカウルに追加されている。ペイントでは白ラインが細くなり、前作では白っぽいエンジンの色が黒に。タンクにはステッカーが増え、フロントフォークにもステッカーが加わっている。
前作そのものズバリではないが、「この36年の間にマーヴェリックがステッカーを追加したんだろうな」「サイドカウルが割れたから、北米仕様のカウルに交換したんだろうな」などと想像する余地があり、見ているだけで楽しい!
【前作とソックリにモディファイ】レストアした1984GPZ900Rを第1作風にカスタム。この車体色は1984GPZ750Rにもっとも近い(後掲のヒストリーを参照)。
前作で実現しなかったが、第2作ではカワサキUSAが全面提供しており、エンドロールにもクレジットが記載されていた。
ベースは1984年北米仕様! エイジング処理が超リアル
【ロゴを消し、独自のステッカーチューンを施す】権利関係のためか、Kawasakiロゴやサイドカバーの車名、テールサイドのuni-trackの文字は消され、所属部隊などを表すパッチ(ステッカー)が貼られる。
【新たなステッカーを追加】前作『トップガン』ではFフォークにステッカーはなかったが、続編では「アメリカ国防総省の登録車両」と「海軍地域南西部」を示すステッカーが追加された。
【劇中で不明のメーターが判明】前作、続編ともメーターは出てこないが、北米仕様ならではのマイル表示を採用。当時の高速道路上限「55マイル」が赤く示され、内側に青字でkm/h表示がある。走行距離は約2万5000kmだった。
マーヴェリック号外装ステッカーの数々
まずは燃料タンク右側から!
FUEL TANK RIGHT
【エンタープライズに配属された部隊】赤いツチブタは、「アードバークス」の異名を誇る米海軍「第114戦闘飛行隊(VF-114)」のパッチ。1980年代には第1作に登場したエンタープライズに配属され、ベトナム戦争に参加した。
【夜間の戦闘が得意なブラックライオンズ】星座の獅子座と黒いライオンは「ブラックライオンズ」と呼ばれた「第213戦闘飛行隊(VF-213)」のエンブレム。夜間行動に優れ、空母キティホークやエンタープライズに乗艦した。
【牛のクソは禁止! インチキじゃないぜ】Bull Shit(牛のウンチ)は、スラングで「ウソだ! ありえない!」的な意味。第1作ラスト付近で同じセリフがある。これを禁じているため「インチキじゃないぜ」的な意か。
【ノロマじゃダメ!】シルエットの七面鳥=TURKEYはスラングで「ノロマ」の意。これを禁じた「No TURKEY」は「テキパキやろうぜ」的な気合いを表す。カウル分割部に貼られ、剥がれそう!
【これぞトップガンの証!】米軍航空戦パイロットのエリート養成学校「アメリカ海軍戦闘機兵器学校」、つまり「トップガン」のパッチがコチラ。敵機ミグをロックオンしたイラストをあしらい、目立つ位置に貼られている。
次は燃料タンクの左側!
FUEL TANK LEFT
【自分に言い聞かせている?】タンク両面のステッカーはほぼ同じだが、左サイドは「NO Bull Shit」に代わり、「NO WIMps」のステッカーが。「ビビるな、弱虫になるな」とハッパをかけている!?
【剥がれも再現!】サイドカバーに貼付されたトップガンの証には剥がれかけた雰囲気も。このステッカーがたくさん貼ってあるってことは余程優秀だったってこと!
燃料タンクの上側!
FUEL TANK UPPER
【第1作に撮影協力、実在した部隊だ】青いワシは「第51戦闘飛行隊(VF-51)」の部隊章。「SCREAMING EAGLE」と呼ばれ、第2次大戦中に設立された由緒ある部隊だ。こちらもミラマー基地が拠点で、第1作の撮影に協力したことで有名。
【「火の鳥」は第1作の所属部隊】第1作で主人公が所属していたのは戦闘飛行隊「VF-1」。後に戦闘攻撃隊の「VFA-1」になったようだ。デザインは「第110空挺早期警戒飛行隊(VAW-110) 」の部隊章がモデルで、映画の舞台と同じミラマー海軍基地が拠点だった。
テールカウルにも!
TAIL COWL
【速度無制限だぜ!】メーターで強調されていたように、アメリカのハイウェイは当時、上限55マイル(約89km/h)だった。1974年からオイルショックの影響で規制されたもので、1987年に解除。第1作はまだ制限中で、このステッカーは「速度制限ナシ」を意味する。
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