
ホンダは、ゲーム『ポケットモンスター スカーレット』に登場する人気キャラクター・コライドンを原寸大で再現した「ホンダコライドン」を公開した。コライドンは主人公を乗せて移動するポケモンで、ホンダはこれを寸法や動きに至るまで忠実に再現し、最終的には子供を乗せて走る未来モビリティとして披露する予定だ。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:編集部/Honda ●外部リンク:ホンダコライドンプロジェクト
子供の夢を、ホンダが大人げないほど本気で作る
この「ホンダコライドン」は、内部のモーターや駆動用タイヤによって走行が可能な電動モビリティ。手足/首/顔も可動としてゲーム上の動きの忠実な再現を目指し、子供を乗せて走らせることを最終目標としている。ゲームのキャラクターを現実世界に降臨させてしまおうという、なかなかに奇想天外なプロジェクトで、ポケモン好きの子供が大興奮なのは間違いない。
実物の作り込みはホンダが手がけただけにとても高く、原寸大による迫力はもちろん、鮮やかなカラーリングや恐竜を参考にしたという皮膚の質感など、片手間で作ったハリボテなどでは決してないことが痛いほど分かる。子供の憧れる乗り物(生き物?)を、ホンダが大人げないほど本気で作ってしまった…と言ってもいい。
建て替えのため3月いっぱいで閉鎖されるホンダ青山本社での公開を優先したため、現状では未完成(取材時も動くシーンは見られず)だが、今夏頃にはしかるべき場所で動く様子を公開する予定とのこと。
2022年のゲームソフト『ポケットモンスター スカーレット』に登場し、物語のカギを握る“伝説のポケモン”がコライドン。重さも大きさもポケモン社による公式データに揃えられており、ゲーム中の”しっそうけいたい”と同じ形で自立走行する。
内部にはフレームや2つのタイヤを支持するアームなどが存在。手足も内部に収められたアルミ製のアームで可動する。
ダメ元で出した企画が即決OK?!
このプロジェクトを推進したのは、二輪事業企画部・大型FUNカテゴリーGMの坂本順一氏。肩書のとおり、ふだんはホンダ大型バイクの開発を取りまとめている方である。それがどうして突然コライドンなのか?
きっかけはトヨタ自動車が2022年に発表した「トヨタミライドン」。これもポケモンのキャラクター・ミライドンを再現した4足歩行のロボット型モビリティで、どんな子供でも乗って楽しめることをねらい、操作はニンテンドーSwitchのコントローラーで行うなどの特徴を持つ。
トヨタミライドン
このときにトヨタが掲げた「大人の本気が子どもの夢になる」というメッセージに、坂本さんが強く感化されたのだという。同様に感じていた社員がホンダ内にも多数いたことや、コライドンがホンダのイメージカラーである青/白/赤のトリコロールを纏うこともあり、ポケモン側の了承を得たうえで、坂本さんは「ホンダコライドンプロジェクト」をホンダ社内の評価会に持ち込んだ。
この評価会とは基本的には新型バイクの企画を提案する会議で、つまり本来はCBの新型やらCBRの新型やらの企画が持ち込まれる場。そこに持ち込む企画としてはあまりに異質なため、坂本さん本人も「ダメで元々、当たって砕けろ」的な気持ちだったそうだが、むしろ経営陣は「面白そうだ。やってみよう」と即決だったという。
そこからは経営陣からひとつだけ付けられた「ホンダらしいコライドンを作れ」の条件のもと、2輪だけでなくパワープロダクツや先進技術部門など、他部門も巻き込んだオールホンダで、しかも若手を中心とした約40名のスタッフでプロジェクトを進行。約8ヶ月という短期間で今回の発表までこぎつけている。こうした企画にスッとOKが出るのはホンダという企業の柔軟性や、挑戦を是とする風土の表れだろう。
企画推進者の坂本順一氏(左)と、開発責任者を託された萩原和也氏。萩原さんはコライドンの動きを研究するため、お子さんに訝しがられるほどポケモンのゲームをやり込んだという。
開発に携わったメンバーは約40人(写真はその一部)。坂本氏/萩原氏は2輪の開発が本職だが、ホンダコライドンプロジェクトにはパワープロダクツや先進技術部門など、2輪以外の部門からもメンバーが集められた。その多くが若手とのこと。
コライドンのノウハウはオトナの夢にも繋がる?
とまあ、一見バイクにはあまり関係なさそうなホンダコライドンなのだが、タイヤが2つしかないにもかかわらず自立走行が可能で、ここにはホンダが2022年に発表した自立バイクの試作車「ホンダ・ライディングアシスト2.0」の技術やメカニズムが転用されている。つまり技術の根っ子は2輪なのだ。
倒れないバイク?!【ホンダ・ライディングアシスト2.0】
また、先ほど評価会の話をしたが、コライドンの開発は通常の2輪開発と同じ行程を踏んでいるのもポイントで、トリコロールカラーもバイクと同じ手順で新色を開発している。突飛とも言える企画を通し、異なる部署から人を集め、正規の業務をこなしながらコライドンのために新規開発を行い、わずか8ヶ月で公開にまでこぎつけたというスピード感は、今後の2輪開発でも有力なノウハウになるのではないか。
企画推進者の坂本氏も「僕達は重要なことは対面で決めるとか、常識に縛られがちだが、今回集まった若いメンバーはチャットで物事をどんどん決めていく。1時間チャットを見ないだけでやり取りが数十件溜まっているほどのスピード感には本当にショックを受けました。このノウハウは今後の開発にも絶対に活かせると思います」
そう考えると、子供の夢を叶えるべく生み出されたホンダコライドンは、何気に我々バイク乗りにも恩恵があるのかもしれない?!
ホンダコライドン
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