
1980年に誕生したGSX1100Eをベースに開発、1980年のケルンショーで公開され、翌年から1982年モデルとして発売されたスズキのGSX1100Sカタナ。エンジンは独創的なTSCCヘッドでクラストップのパワーを獲得。さらに、斬新なスタイルは二輪デザインの金字塔とも言える。さっそく開発秘話を振り返ろう。※本記事はヤングマシン特別号 青春単車大図鑑からの転載です。
●文:ヤングマシン編集部
スズキGSX1100S KATANA 誕生の背景
1970年代中頃より開発を始めたGS750/1000はひとまずの成功を収めたが、スズキはさらなる高出力化を求めて研究を開始した。
新4バルブユニットにはGSXの名が与えられ、独自の2過流燃焼室=TSCCが発明された。燃焼速度を高めることで高出力/低燃費化を実現、バルブ駆動にはロッカーアームを採用して整備性の向上も図られた。
排気量の拡大もあって従来の2バルブ式よりも大きく重いエンジンになったが、GSX1100Eの出力は105psを達成し、申し分ない出来映えとなった。
しかしそのスタイリングには疑問符が付いた。角型基調のフォルムは新しさを狙っていたものの、「カッコ悪い」という意見が少なくなく、そこでスズキはスタイリングを外部デザイナーへ発注することを決定。BMWから独立して間もない、ドイツのターゲットデザインに白羽の矢が立てられたのである。
渉外を担当したのはハンス・ムート。彼は実際に日本刀や武士道をモチーフにしたデザインコンセプトを提案してもいたが、作業に当たったのは彼1人ではなく、無論チームワークによる成果である。
しかしムートの名ばかりがマスコミに報じられ、「カースタイリング」46号(1984年 三栄書房)で本人が語っているように、結果として彼はターゲットデザインを早々に辞してもいる。
【1981 SUZUKI GSX1100S[Z]KATANA】■空冷4スト並列4気筒 DOHC4バルブ 1074cc 111ps/8500rpm 9.8kg-m/6500rpm ■232kg(乾) ■タイヤF=3.50-19 R=4.50-17 ※輸出モデル
スズキGSX1100S KATANA 概要:モチーフは日本刀、最高出力はクラストップ
カタナ誕生にはそんな裏話もあったが、その斬新なデザインゆえ世界中で大きな反響を巻き起こした。
ただカタナは1980年代初頭のスズキを代表する旗艦として、速さという面でも抜群の資質を備えていた。111psの最高出力は同時代のビッグバイクでナンバー1であり、海外のテストでは当時の市販車で最速となる237㎞/hを記録。
単にルックスが斬新だっただけではなく、才色兼備と言うべき特性が評価されたからこそ、カタナは歴史に名を刻む、名車になれたのである。
速度計と回転計を組み込んだ独自のコンビネーションメーターもカタナの特徴だ。下部にインジケーターランプを内蔵している。
速度計と回転計を組み込んだ独自のコンビネーションメーターもカタナの特徴だ。下部にインジケーターランプを内蔵している。
燃料タンク左下のダイヤルは、グローブのままでも操作できるチョーク用ノブ。その下の2つのスイッチはオプション用のヒーターなどに使う。
燃料タンク左下のダイヤルは、グローブのままでも操作できるチョーク用ノブ。その下の2つのスイッチはオプション用のヒーターなどに使う。
カタナのデザインを担当した頃のハンス・ムート氏はターゲットデザインに所属。同社は、カタナに先立ちGS650Gも手がけた。
カタナのデザインを担当した頃のハンス・ムート氏はターゲットデザインに所属。同社は、カタナに先立ちGS650Gも手がけた。
スズキGSX1100S KATANA 兄弟モデル
1982 スズキGSX1000SD【レース規定に合わせた1000ccカタナも登場】
欧米のレース規定に合わせ、1982年と1983年に998cc仕様も用意された。欧州向けはVMキャブ、北米向けは1100同様にBSキャブを採用。
【1983 SUZUKI GSX1000SD】主要諸元■空冷4スト並列4気筒 DOHC4バルブ 998cc 108ps/8500rpm 9.3kg-m/6500rpm 車重232kg(乾) ■タイヤF=3.50-19 R=4.50-17 ※輸出モデル ※写真は1983年モデル
フォルムが引き立つセパレートハンドルだが距離が遠く、乗車姿勢はつらい。
フォルムが引き立つセパレートハンドルだが距離が遠く、乗車姿勢はつらい。
スズキGSX1100S KATANAの系譜
1983 スズキGSX1100SD
青×銀、赤×銀のツートンカラーを採用。ホイールデザインは6本スポークに変更。
青×銀、赤×銀のツートンカラーを採用。ホイールデザインは6本スポークに変更。
1984 スズキGSX1100SE
赤×銀のツートンカラーを採用した3型のSE。SDからの変更点は外装色のみ。
赤×銀のツートンカラーを採用した3型のSE。SDからの変更点は外装色のみ。
1987 スズキGSX1100SAE
一旦カタログ落ちしたが、限定車として復活。初期型デザインを踏襲している。
一旦カタログ落ちしたが、限定車として復活。初期型デザインを踏襲している。
1987 スズキGSX1100SBE
大手ショップの要望で赤フレームや赤シートを採用したSBE。販売は数百台のみ。
大手ショップの要望で赤フレームや赤シートを採用したSBE。販売は数百台のみ。
1990 スズキGSX1100SL
再販を望む声に応え、創立70周年記念車として復活。Fキャリパーなどを変更。
再販を望む声に応え、創立70周年記念車として復活。Fキャリパーなどを変更。
1991 スズキGSX1100SSL
基本的な内容はSLとほぼ同じで、カラーリング変更だけに留まっている。
基本的な内容はSLとほぼ同じで、カラーリング変更だけに留まっている。
1994 スズキGSX1100SR
アンチダイブ機構を撤去し、新たにパワーアシストクラッチやオイルクーラーを新設。95psに。
アンチダイブ機構を撤去し、新たにパワーアシストクラッチやオイルクーラーを新設。95psに。
2000 スズキGSX1100SY
1100台を限定販売した最終型。チューブレスタイヤや強化ブレーキがポイント。
1100台を限定販売した最終型。チューブレスタイヤや強化ブレーキがポイント。
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