
2024年冬、注目度の高かったバイクニュースと言えばEICMA2024で発表されたホンダの電動過給機付き新型V型3気筒エンジン。V型3気筒の基本をおさらいしつつ、一体何がすごいのか、どういうものなのかについて、Vtuberのてんちょーさんが解説する。
●文/イラスト:ヤングマシン編集部(88サイクルズ@てんちょー)
V型3気筒ってどんなエンジン?
並列エンジンとV型エンジンの違い
多気筒エンジンは、シリンダーの配置によってさまざまなバリエーションがあります。並列(バイクだと直列とも言いますが)、V型、水平対向といったところが代表的です。このうち、V型エンジンのメリットはエンジン全体をコンパクトにできることです。
一番わかりやすい2気筒で考えてみましょう。並列の場合、1列にシリンダーが並ぶため、シリンダーやそこにつながるコネクティングロッドの数だけ、クランクピンが必要になります。一方でV型の場合は、シリンダーが前後もしくは左右に振り分けられているため、クランクピンを共有することができるのです。
つまり単気筒とくらべても、V型2気筒ならクランクの幅がコネクティングロッド1本分だけ広くなるだけで済むというわけ。ほぼ単気筒と変わらないスリムなエンジンにできちゃうってことだね。
とはいえ、デメリットもあります。それはヘッドが前後もしくは左右に分かれているため、カムシャフトなどバルブを動かす部品が2セット必要ということ。並列エンジンに対して部品の数が多くなって、重くなりがちってことだね。
そんなV型エンジンは、V字の角度、いわゆるシリンダーのバンク角によって出力特性に変化を付けることができるため、いろいろな角度の設定があります。シリンダーの挟み角って言ったりもするね。
たとえば、90度のバンク角だと1次振動が理論上ゼロになるという、振動の抑制にも有利な設計にできちゃいます。ハーレーダビッドソンの45度V型2気筒とか、ドゥカティでは90度のV型2気筒とそれぞれのV型エンジンの特性や狙いが分かる面白いポイントだね。
V型3気筒エンジンとは?
さて本題のV型3気筒エンジン。その名の通り、中央のシリンダーと左右のシリンダーを互い違いでV型に配置した構造です。さすがに2気筒とは違って、クランクピンを共有することはできないけれど、各々のシリンダーが隣接しないので並列よりもコンパクトなエンジンにできるというメリットは健在。エンジンの幅が2気筒分で済んじゃいます。それにヘッドが独立しているだけあって、放熱性も高くなっています。
加えて、並列エンジンよりも重心が後ろにあるので、車体全体で見るとマスの集中化にも貢献していますね。
もちろん、メリットばかりではありません。片方のバンクが2気筒、もう一方のバンクが1気筒という非対称の配置は大きな振動が発生するため、その対策が必須です。設計の難しいエンジンなんだね。
さらに、とくに市販車においてはトルクが欲しいなら2気筒、パワーが欲しいなら4気筒というように、バランスのいいシリンダー配置のエンジンを採用するほうが手っ取り早いという事情もあります。V型3気筒エンジンがマニアックなのも致し方ないというわけです。
V型3気筒エンジンを採用したレジェンドバイク達
そんなV型3気筒エンジンを搭載した有名なバイクといえば、1982年登場のグランプリレーサー、ホンダ NS500です。当時のロードレース世界選手権は、2ストローク全盛期。ライバル車は、水冷スクエア4気筒を搭載したスズキRGB500、水冷V型4気筒を搭載したヤマハYZR500といった具合でした。
そこでNS500はライバルの先を行くため、4気筒よりも軽く、運動性能の向上が狙える水冷V型3気筒のエンジンをチョイス。前バンクに1気筒、後ろバンクに2気筒という配置で、最初のエンジンのシリンダーのバンク角は112度でした。そんなNS500は、グランプリ復帰後になかなか勝つことができなかったホンダが調子を取り戻すきっかけになったのです。
V型3気筒をレースシーンだけに留めず、そのテクノロジーをホンダは市販車にも反映しました。それが、1983年発売のMVX250Fと1985年発売のNS400Rです。どちらもNS500譲りの水冷2ストロークV型3気筒エンジンを搭載していましたが、シリンダーのバンク角は90度で前バンクが2気筒、後ろバンクに1気筒というNS500とは逆の配置となっていました。これは保安部品との兼ね合いからの変更といわれています。
MVX250FはNS250Rへモデルチェンジした際に、V型2気筒エンジンへ移行、NS400Rには残念ながら後続モデルはなく1代限りで終了となり、V型3気筒の血脈は長らく途絶えることになったのです。
EICMA2024コンセプトモデルの面白さ
そんなマニアックにも程があるV型3気筒エンジン搭載車が、EICMA2024で発表されたんだから、バイクファンにとっては一大事。このコンセプトモデルのエンジンは、大型二輪車への搭載を想定した4ストローク水冷75度V型3気筒で、前バンクが2気筒、後ろバンクが1気筒という構成です。MVX250FやNS400Rと同じシリンダーの振り分けですが、シリンダーのバンク角が違いますね。
てんちょーの考察になりますが、この75度というバンク角はホンダがスリム&コンパクトを追求した結果だといえます。
コンパクト化のために、90度より狭いバンク角のV型エンジンを採用したバイクと言えば、V型5気筒エンジンを搭載したホンダのMotoGPレーサー、RC211Vを思い出しますね。RC211Vのエンジンは、75.5度というバンク角でもシリンダーの配置によって振動を打ち消す工夫がなされていました。EICMA2024発表のエンジンでは、どういった振動対策がなされているのか気になるぜ!
そして注目なのが、前バンクのシリンダーヘッド上に配置された、バイクでは世界初採用となる電動過給機! 従来のターボやスーパーチャージャーといった過給機は、物理的にエンジンの回転数に同期して加給されます。ですが、電動化によって、エンジンの回転数に関わらず、任意に加給をコントロールできるようになるのです。
電子制御スロットルやライディングモードセレクターといった電子制御との組み合わせで、スポーツ走行から街乗りまで、目的に合わせたフレキシブルな加給が実現できるんじゃないでしょうか!?
そして電動過給機の後ろ側に繋がっている、箱状のサージタンクのようなものにも注目です。一般的なバイクだとここにプラスチックのエアクリーナーボックスがあるわけですが、なにやら金属でできているように見えます。
加給された高圧な空気が入ってくるので、耐久性が必要なのでしょうね。カワサキのニンジャH2シリーズに搭載された、スーパーチャージドエンジンにもアルミインテークチャンバーという似たような機構があり、放熱効果も高いことから、加給した空気を冷やすためのインタークーラーを搭載していません。
EICMA2024発表のエンジンでも、インタークーラーを必要としない設計で軽量化に貢献しているとアナウンスされていますし、これに近い構造なのではないかと考察できます。
そしてうれしいことに、EICMA2024発表のエンジンは、今後、FUNモデルへの適用を予定していて、量産化に向けて開発中とのアナウンスがホンダからありました。
今のところ排気量や馬力などは不明ですが、近年は500~1000cc未満ぐらいのバイクが世界的に人気になっていること、2027年からmotoGPの排気量が850ccに変更になることなどを考えると、ミドルクラス帯でも900cc前後の排気量のフラッグシップマシンになるのではないかと考えられます。
近年の同一エンジン多機種展開の流れも考えると、フルカウルのスポーツバイクだけでなく、ネイキッドやアドベンチャー、スポーツツアラー、ネオクラシックなどあらゆる可能性が考えられます。妄想がどんどん膨らんで、待ちきれないよね!
関係者筋からは「開発は正直かなり難しい。が、ホンダのチャレンジ精神を見せる存在として本気でやる」といった熱いコメントも発表されています。これこそホンダの真骨頂ですね。モビリティ全体に、持続可能社会への対応という大きな流れが起きている2025年、ホンダの内燃機関領域での新たなチャレンジから目が離せないぜ!
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