
時代を決定的に「それ以前」と「以降」に画してしまうエポックメイキングなモデルはいくつか存在する。中でも、いわゆる”Z1″は紛れもない革命児だ。ここでは国内向けの”Z2″を含め、開発秘話やモデル変遷をまとめている。Z伝説の真相を、改めてひも解こう。※本記事はヤングマシン特別号 青春単車大図鑑からの転載です。
●文:ヤングマシン編集部
「ホンダを完全に打ち負かすべし」:カワサキ900スーパー4
1968年10月の東京モーターショーで発表、翌1969年より市販されたホンダCB750フォアは世界を驚かせた怪物だった。しかし、最も驚いたのはカワサキの技術陣だったろう。同社が水面下で開発していたN600は、750ccのDOHC4気筒だったからだ。
「ホンダを完全に打ち負かすには、さらに完璧を期すべし」と急遽開発方針を修正し、1000ccへの展開も考慮の上、900ccの排気量がZ1に与えられた。
このため発売は予定よりも遅れたが、1972年秋に米国や欧州で発売されるやいなや、爆発的な人気を得たのは言うまでもない。
特にエンジンの耐久性については今もなお定評がある。これはすなわちチューニング素材としても最適なことを表す。
各地のレースでも大いに猛威を振るい、先鞭をつけたのはホンダCBだったが、日本製4気筒車の優秀性は、後発のZで強く決定づけられたとも言える。
外観も特筆に値する。4本マフラーはホンダも採用していたが、ティアドロップ型燃料タンクとテールカウルを備えた流麗なボディデザインは、明らかにその後の潮流を変えた。
高性能と高い信頼性、多くが格好良いと認めるデザイン。この三拍子を揃えたモデルを50年以上前に実現したことが、偉大な名車として賞賛される所以だ。現在につながるカワサキのイメージは、この空冷Zシリーズから構築されたといっても過言ではない。
また、この年代の中古車の中ではとりわけ人気が高く、例外的に市場が活性化している点も注目に値する。優れた製品は時を越えて人々に愛される。まさにZはその好例である。
【1973 KAWASAKI 900 Super4】ショートピッチの燃料タンク形状とオレンジの塗色から「火の玉オレンジ」と呼ばれた人気のカラーリング。■空冷4スト並列4気筒 DOHC2バルブ 903cc 82ps/8500rpm 7.5kg-m/7000rpm ■タイヤF=3.25-19 R=4.00-18 ※輸出モデル
当時最良の操縦性を持つとされた英ノートンの”フェザーベッドフレーム”は、ステアリングヘッドからのパイプがエンジンを取り囲み、再びステアリングヘッドへ戻る形態。Z1/Z2のフレームはこれに補強を加えたものと言える。ホイールベースは1490㎜とCB750フォア(K0)より35mm長く、キャスター/トレールはCBの27°/95mmに対し26°/90mmという設定。ちなみにシリンダーは車上分解が可能だ。
T-103試作車(後のZ1)とCB750フォアの性能を比較。ここでは750ccだが、DOHCエンジンによりゼロヨン、最高速度ともにホンダを上回っていたことがわかる。このメモはZ1開発計画に関わった大槻幸雄氏のもの。
“Z1″の系譜
【1974 Z1[A]】2年目のZ1Aはキャブレターの設定を小変更。火の玉パターンからストライプ入りのグラフィックに替えた。エンジンは黒→銀仕上げに。
【1975 Z1B[B]】変更点は車体色やエンブレムのほか、Oリング式ドライブチェーンの採用など。それに伴ってドライブチェーンへの自動給油装置が撤去された。
【1976 Z900[A4]】吸排気系や外装、灯火類を変更してモデルチェンジ。3系統ヒューズも装備する。欧州向けは前輪をダブルディスク化。以降の北米向けはKZが車名に。
排気量が1000ccを超え、”Z1″からZ1000へ
初期型からZ900 A4までは小変更を繰り返し、1977年には排気量をアップさせたZ1000 A1にフルモデルチェンジされた。4mmボアアップでリッターオーバー化して、エンジン内部も強化。リヤディスクも新採用され、欧州仕様はフロントにダブルディスクも装備した。
【1977 Z1000[A1]】903cc→1016ccにスケールアップ。排気騒音を低減し、マフラーは2本出しに変更。フレームも強化されたほか、後輪にもディスクブレーキが与えられた。
【1978 Z1000[A2]】フロントブレーキキャリパーをフォークの後ろ側に移設してステアリング周辺の慣性モーメントを低減。フロントブレーキのリザーバータンクを角型に変更。
「国内に君臨したゼッツー」:カワサキ750RS
排気量自主規制により、903ccのZ1は国内販売できず、スケールダウンの746ccが用意された。これが750RS、型式名Z2である。
車体構成に関してはZ1とほぼ共通とされたものの、排気量はZ1の903cc(66×66mm)に対して746cc(64×58mm)とショートストローク化され、キャブレターもZ1とは異なる専用のVM26SCを備えて69psを公称。
当時は逆輸入車も一般的ではなく、Z2は事実上の最速マシンに君臨し、大人気を得たのである。1976年からはZ750フォアとなり、FX登場後も併売された。
【1973 KAWASAKI Z2 750RS】■空冷4スト並列4気筒 DOHC2バルブ 746cc 69ps/9000rpm 5.9kg-m/7500rpm ■230kg(乾) ■タイヤF=3.25-19 R=4.00-18 ●価格:41万8000円
Z2 750RSの系譜
【1974 Z2[A]】前期はグラフィックがオレンジの火の玉から黄色のタイガーストライプに。後期はストライプパターンが変更され茶と青の2色になった。
【1976 Z750FOUR】外装の意匠やメーター、電装系などを一新して装備を近代化している。Fダブルディスクや新型キャブレター、Oリング式ドライブチェーンも採用。
新世代 弾丸”ザッパー”登場
【1976 Z650[B1]】軽量スポーツの通称はザッパー。メタル支持の一体型クランクを採用したエンジンは、Z750FX-II以降、ゼファー750やZR-7に至るカワサキ738ccシリーズの基となった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([連載]青春名車オールスターズ)
ヤマハFZ400R:ワークスマシンと同時開発 市販レーサーと同時開発したNS250Rがリリースされた1984年5月。 400クラスにも同様の手法で開発されたマシンが、ヤマハから世に放たれた。 FZ40[…]
スズキGSX-R250:過激さ控えめ“アールニーゴー” 1983年のGS250FWでクラス初の水冷DOHC4気筒を開発したスズキ。 しかし、4バルブエンジンの投入は遅れを取り、1987年のGSX-R2[…]
スズキGSX-R400R:ダブルクレードルにフルモデルチェンジ GSX-Rは、1990年に3度目のフルチェンジを敢行。新設計エンジンに加え、φ33mmダウンドラフトキャブや倒立フォークまで備えた。 フ[…]
スズキGSX-R:斬新かつ孤高のネーム、走りもケタ違い 1983年は、世界耐久や鈴鹿8耐でスズキの耐久レーサーGS1000Rが旋風を巻き起こした。 その年の暮れ、晴海で開催された東京モーターショーに、[…]
ホンダの“R”だ! 可変バルブだ‼ 1980年代に入ると、市販車400ccをベースにしたTT-F3やSS400といった敷居の低いプロダクションレースの人気が高まってきた。 ベース車として空冷直4のCB[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
2024年モデル概要:赤×黒の熱いカラーリング 「エキサイティング&イージー」をコンセプトに掲げるZ900は、カワサキのフィロソフィーを体現したかのような、先鋭的な「Sugomi」デザインが特徴。エン[…]
ヤマハFZ400R:ワークスマシンと同時開発 市販レーサーと同時開発したNS250Rがリリースされた1984年5月。 400クラスにも同様の手法で開発されたマシンが、ヤマハから世に放たれた。 FZ40[…]
シリーズ累計で約3万台を生産したW1の系譜 約9年に及んだ販売期間の中で、W1シリーズの人気が最高潮に達したのは、ペダルの配置が左:シフト/右:リヤブレーキに改められたW1SA。それに次ぐのはツインキ[…]
零戦と同じサムライ魂が成し遂げた「究極」の直4 時代を決定的に「それ以前」と「以降」に画してしまうエポックメイキングなモデルはいくつか存在する。中でもZ1は紛れもない革命児である。 量産車として世界初[…]
海外の名車を規範とした1960年代初頭以前の日本車 W1シリーズの原点はメグロのスタミナK1で、K1の規範はBSAが1946~1960年代初頭に販売したA7である。ではそもそも、なぜ1923年に創設さ[…]
人気記事ランキング(全体)
50年の眠りから覚めたBSA、復活のファーストモデルがゴールドスター 世界最古クラスの英国ブランド、BSAが再び日本に上陸した。輸入を手掛けるウイングフットが「BSA ゴールドスター」を取り扱い“ほぼ[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
シリーズ累計で約3万台を生産したW1の系譜 約9年に及んだ販売期間の中で、W1シリーズの人気が最高潮に達したのは、ペダルの配置が左:シフト/右:リヤブレーキに改められたW1SA。それに次ぐのはツインキ[…]
懐かしの四角ライトに極太のブロックタイヤ 1987年に発売されたやまは「TW200」は、フロントに130/80-18、リヤには180/80-14という極太タイヤを履いたファットなオフロードスタイルで人[…]
ヤマハFZ400R:ワークスマシンと同時開発 市販レーサーと同時開発したNS250Rがリリースされた1984年5月。 400クラスにも同様の手法で開発されたマシンが、ヤマハから世に放たれた。 FZ40[…]
最新の投稿記事(全体)
トリックスター初となるハーレー用マフラー トリックスター初となるハーレー用マフラーが、X350向けにリリースされた。今回、初の試みとして“ツインタイプ”のサイレンサーが採用されている。 X350の特徴[…]
ライディングポジション変更のおかげで操縦性も大幅アップ! 私が参戦する全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラスは、5月下旬にシーズン初戦を迎え、私自身も今季のさらなる走りの進化に期待しているのですが[…]
2024年モデル概要:赤×黒の熱いカラーリング 「エキサイティング&イージー」をコンセプトに掲げるZ900は、カワサキのフィロソフィーを体現したかのような、先鋭的な「Sugomi」デザインが特徴。エン[…]
懐かしの四角ライトに極太のブロックタイヤ 1987年に発売されたやまは「TW200」は、フロントに130/80-18、リヤには180/80-14という極太タイヤを履いたファットなオフロードスタイルで人[…]
ヤマハFZ400R:ワークスマシンと同時開発 市販レーサーと同時開発したNS250Rがリリースされた1984年5月。 400クラスにも同様の手法で開発されたマシンが、ヤマハから世に放たれた。 FZ40[…]
- 1
- 2