カワサキUSAが2025年1月25日、X(旧Twitter)で2ストロークエンジンの復活を宣言した。まだマシンの正体は不明ながら、これに先立ちカワサキは「2ストロークエンジン」なる特許を2024年7月8日に公開している。何か関連性はあるのだろうか?
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●CG製作:SRD(不許複製/All rights reserver)
カワサキUSAが予告動画を公開!!!
カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサキよ、2ストロークを復活させてくれ!」といったSNS上での数々の投稿を紹介し、これにカワサキが『WE HEARD YOU』と応えるもの。その内容やハッシュタグの付け方から、カワサキが2ストロークエンジンを復活させる予告と見て間違いないだろう。
↓以下がその投稿。
We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki pic.twitter.com/NuZt4GiLq7
— Kawasaki USA (@KawasakiUSA) January 25, 2025
これに先立つこと半年、2024年7月8日にカワサキの「2ストロークエンジン」と題した特許が公開されていた。これは一般的な2ストロークエンジンの構造と異なる2スト+ターボという新機軸エンジンで、今回の復活宣言に関連したものかというと微妙なところ。今回のものに関しては一般的な2ストロークエンジンを搭載したマシンが登場する可能性が高いように思われる。
なぜなら上記XのポストはカワサキUSAのものだからだ。北米といえば他の地域に比べてオフロードバイクの販売台数比率が大きく、軽量ハイパワーな2ストロークエンジンはモトクロスマシン「KX」に搭載するほうがインパクトは大きいし合理的。過給機を搭載して複雑化した(つまり重くなる)エンジンを採用する可能性はあまり高くないのでは……というのが正直なところだ。
とはいえ、公開特許に基づいたマシンがデビューする可能性もセロではないだろうし、今後2ストロークエンジンのバリエーションを増やしていく中で夢のあるマシンが登場することも期待したい。というわけで以下、特許公開時に展開した考察を一部再編集のうえお届けしよう。
弁方式がSOHC2バルブの2ストローク……だと??
カワサキモータースが2022年12月26日に出願し、2024年7月8日に公開となった特許には、「2ストロークエンジン」の名称が与えられていた。新規の2ストエンジンか、と簡単に考えたらちょっと違う。なにしろ、4ストロークエンジンでしか見られないはずの円錐状のバルブを採用しているのだ(※)。それも吸気側だけ。
これをヤングマシン的なスペック表記とするなら、●冷2ストローク●気筒SOHC2バルブ……ということになるのだろうか? 一般的なモーターサイクル用2ストロークエンジンの弁方式といえば、ピストンバルブやピストンリードバルブ、あるいはクランクケースリードバルブ、ロータリーディスクバルブの4種類しか聞いたことがない。
しかも、4ストロークエンジンにおける2バルブといえば吸気/排気バルブが各1本という構成であり、この特許図のような吸気側の2本だけというのも実に奇妙だ。
しかし、特許の文面と図版を眺めていると、とても理にかなっていると思えてくる。
一般的なモーターサイクル用2ストロークエンジンでは、シリンダーの前後方向のどちらかの壁面に掃気ポートがあり、反対側に排気ポートがある。上記4つのバルブ方式のいずれかでクランクケース内に吸気し、ピストンが下がることで1次圧縮が行われ、掃気ポートからシリンダーに混合気が供給されるとともに燃焼済みのガスが排気ポートから押し出される。入れ替わった混合気はピストン上昇で圧縮され、スパークプラグで点火することで燃焼を得ることができ、またピストンは押し下げられていく。
こうしたサイクルがピストン1往復=クランク1回転の間で行われ、上/下の2ストロークで1サイクルが完成されることから2ストロークあるいは2サイクルエンジンと呼ばれるわけだ。
4ストロークがピストン2往復=クランク2回転で1サイクルを完成するのに対し、同一回転数なら2倍の回数の燃焼を得ることができ、それゆえ同一排気量なら、2ストロークエンジンのほうが圧縮比を上げにくい構造ながらもパワーを得やすく、反面で燃費は悪い。
軽量シンプルな部品構成ながらポート形状によるパワーの追求は複雑で奥深く、一方でクランクケース内に吸気することからクランクベアリングとピストン&シリンダーを潤滑するためのオイルを供給し続けなければならないのが2ストロークエンジンの宿命だった。
※船舶用などの2ストロークディーゼルエンジンでは円錐状の排気バルブとターボの組み合わせが一般的(本記事のエンジンは吸気バルブ)かつ主流だが本記事では割愛
2ストオイルの供給量を減らすことができる?
そんなメリット/デメリットを併せ持つ2ストロークエンジンは、なぜ姿を消していったのか。それは、掃気/排気がオーバーラップすることでどうしても未燃焼ガスが排出されることや、混合気に2ストオイルを供給することで排気ガスにオイル成分が含まれてしまい、排出ガスのクリーン化が難しかったことによる。また、燃費をよくするのが難しいため二酸化炭素の排出量でも不利だ。
これらを解決するため、これまでも燃焼室にインジェクターで直接燃料を噴射する直噴や、2ストオイルの混合気への混入を極力減らすようなメカニズムがトライされてきたが、根本的な構造が変わったわけではなかった。
ではカワサキの出願している特許による2ストロークエンジンはというと、吸気バルブを4ストロークで見られるような円錐型のバルブとし、燃料噴射を直噴にすることで、いくつかの課題を解決に導くように見える。
構造としては、4ストロークエンジンと同じくシリンダーヘッド上にあるカムシャフトでバルブを駆動し(機構的にはOHVでもいいという)、一般的な2ストロークエンジンと同じようにシリンダー側面に設けられた排気ポートから燃焼済みガスが排出されるようになっている。
面白いことに、吸気バルブは4ストロークエンジンがクランク1回転の間に仕事をし、もう1回転する際には完全に休んでいるのに対し、クランク1回転毎に開閉することになる。
これによるメリットは、クランクケース内に吸気しなくて済むということに尽きるだろう。スロットルボディと4ストローク的な吸気ポート/吸気バルブという流路で吸気システムは成立しており、クランクケースを経由する必要がないのだ。
となれば、クラッチやトランスミッションを潤滑するエンジンオイルを4ストロークエンジンと同様にクランクベアリングにも共有することができ、ケース内を循環するオイルで潤滑が完結する。あとはシリンダー(特に排気ポートまわり)の潤滑に必要な分だけの2ストオイルを供給できればよく、これによって排出ガスに混入するオイルもかなり減らすことができるのではないだろうか。
また、直噴を組み合わせることで排気ポートがピストンで塞がれた後に燃料を供給することが可能になる。つまり、点火前に混合気(未燃焼ガス)が排気ポートを吹き抜ける、という現象も起こらなくなるわけだ。
特許の文面によれば、シリンダー壁面の排気ポートが開いたあとに吸気バルブが開き、掃気~吸気が連動して行われる。そしてピストンが上昇して圧縮行程が開始され、燃料噴射が行われるという。
ではこのカワサキ方式の2ストロークのデメリットはと考えると、やはりクランクケース内に吸気しないことに起因するのではないだろうか。1次圧縮がないことで燃焼室に空気を送り込む力は弱くなり、一方で4ストロークのように吸気行程で燃焼室内がしっかりと負圧になるということもなさそう。つまり、回るには回るとしてもちょっと“吸いが弱い”ように思えてならないわけだ。
しかし、カワサキはすでに解決方法も特許にサラリと記載している。そう、過給機である。これは機械式スーパーチャージャーまたは排気を利用するターボチャージャーのどちらであってもいいようで、これによって新気を送り込む力を強め、掃気をより効率的に行うことができるようになるのだろう。また、2ストロークならではのチャンバー(マフラーのパイプが膨らむ独特の形状)がこのエンジンに対しても効果的なのかどうか、気になるところではある。
一部に4ストロークエンジンのような動弁機構を用い、2ストロークのいいところは残しつつネガティブな要因を排除する。ある意味2ストロークと4ストロークのハイブリッドのようなエンジンと言っていいのかもしれない。あとは気になるとすれば燃費がどうかという部分だろうか。
このほか、燃料は水素、あるいは炭化水素を含む気体燃料、炭化水素を含む液体燃料(ガソリン/ディーゼル/アルコールなど)であってもいいとされている。
まさしく“ぼくの考えた最強の2スト”が具現化されようとしているかのような公開特許である。これ、マジで実現してほしいんですけど!!
ちなみに、どうやら1989年の東京モーターショーでトヨタが公開したコンセプトエンジンにも、似た系統のアイデアが採用されていた模様。資料が揃わず正体はわからないのだが、下記↓↓の記事で触れているので興味があれば一読を。記事の主題であるホンダの2スト+4ストハイブリッドというのも、前2気筒が4スト/後ろ1気筒が2ストのV型3気筒というのは妄想が過ぎるにしても、実際は今回の記事のようなアイデアと近いものだったとすれば、十分に存在し得たものなのかもしれない。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
高回転のバルブ往復にスプリングが追従できないとバルブがピストンに衝突してエンジンを壊すので、赤いゾーンまで回すのは絶対に厳禁! 回転計(タコメーター)の高回転域に表示されるレッドゾーン、赤くなっている[…]
2スト500cc最強GPマシンを4ストで凌駕せよ! ホンダが世界GP復帰宣言後、1978年から開発していた500cc4ストロークV型4気筒のNR500。 当時の最高峰500ccクラスで覇を競っていたヤ[…]
クラッチレバー不要でギヤチェンジできる自動遠心クラッチ 今から65年前にの1958年に誕生したスーパーカブC100は、ホンダ創業者の本田宗一郎氏と専務の藤澤武夫氏が先頭に立って、欧州への視察などを通じ[…]
新エンジン、電動スポーツ、電動都市型バイク、全部やる! ホンダは新しい内燃機関と電動パワーユニットの両方で行く! そう高らかに宣言するかのような発表がミラノショー(EICMA 2024)で行われた。ひ[…]
プロアームはかつてのVFRを思わせるが……? ホンダが全く新しい内燃機関のコンセプトモデルとして世界初公開したのは、『new ICE concept』と名付けられたV3エンジンだった。電動過給機付きと[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI])
直線基調の斬新スタイルへの挑戦 「デザインの源流はバック・トゥ・ザ・フューチャー」 好みにカスタムしたバイクで行きつけのカフェに向かい、日がな一日、気の合う仲間とバイクを眺め、バイク談義に耽る。 その[…]
大型二輪免許は18歳から取得可能! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外には“AT限定”免許も存在する[…]
400ccクラス並みのスタートダッシュを誇るパワーユニット搭載 カワサキは、原付二種クラスに同社が初めて投入した公道走行可能な電動スポーツバイク「ニンジャe-1」およびネイキッド版「Z e-1」の20[…]
2018 カワサキ ニンジャ400:250と共通設計としたことでツアラーから変貌(2018年8月30日公開記事より) 2018年型でフルモデルチェンジを敢行した際、従来の650共通ではなく250共通設[…]
2018 カワサキ ニンジャ250:電スロなしで全域をカバー/限界性能もアップ(ヤングマシン2018年1月号より) 伸び上がる! レッドゾーン以降もキッチリ回り、従来型より明確に高回転パワーがアップし[…]
人気記事ランキング(全体)
根強い人気のズーマー 2000年代、若者のライフスタイルに合ったバイクを生み出すべく始まった、ホンダの『Nプロジェクト』。そんなプロジェクトから生まれた一台であるズーマーは、スクーターながら、パイプフ[…]
チーム・ロバーツの誘いを断った唯一のライダー 年末年始に5泊6日でお邪魔した、アメリカ・アリゾナ州のケニー・ロバーツさんの家。家族ぐるみで仲良くさせてもらっていますが、実は僕、現役時代にケニーさんが監[…]
元々はブレーキ液の飛散を防ぐため フロントブレーキのマスターシリンダーのカップに巻いている、タオル地の“リストバンド”みたいなカバー。1980年代後半にレプリカモデルにフルードカップ別体式のマスターシ[…]
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
プロトは国内導入を前のめりに検討中! イタリアで1911年に誕生し、現在は中国QJグループの傘下にあるベネリは、Designed in Italyの個性的なモデルをラインナップすることで知られている。[…]
最新の投稿記事(全体)
まったく本気を出していないマルク・マルケス 11月18日(日)に最終戦ソリダリティGPを終え、翌18日(月)〜19日(火)には、同じカタルニアサーキットで2025年に向けてのテストが行われた。チームや[…]
申し込みは3月下旬からスタート ホンダ4ミニ系の愛好者にとって、カフェカブと並んでお馴染みなのがモンキーミーティング。多くの参加者によって盛り上がりを見せる人気のイベントだが、通算17回目となる202[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
「乗せて指導する教育」を実施、バイク通学者が多い熊本県立矢部高校 熊本県の県立矢部高等学校は、原付免許取得とバイク通学を2年生以上の生徒に許可している。「乗せて指導する教育」を、長年にわたり続けている[…]