公道市販トレールバイクとしてベストバランスかも

元セロー乗りがカワサキ「KLX230シェルパ」に乗ってみた! KLX230Sも同時に試乗レビュー

カワサキ|KLX230シェルパ|KLX230S

カワサキが新型車として投入したKLX230シリーズのうち、完全なブランニューモデルの「KLX230シェルパ」と、そのベースモデルとなった「KLX230S」に試乗したので、インプレッションをお届けしたい。


●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:山内潤也、箱崎太輔 ●外部リンク:カワサキモータースジャパン

モデルチェンジしたKLX230Sに加え、シェルパの名を復活させたブランニューモデルが登場

カワサキは、KLX230シリーズをモデルチェンジするとともに、KLX230Sとしては3年ぶり(その他の無印やSMは2~5年ぶり)に復活させた。同時に、KLX230Sをベースとしたトレッキングモデル「KLX230シェルパ」を新たにラインナップに加えた。

シェルパとはネパールの少数民族の名前を意味し、エベレストなどの登山隊の案内人や荷運びを請け負うことでも知られている。この名を冠したバイクとしては、かつてカワサキがKLX250のDOHCエンジンを空冷化して搭載したスーパーシェルパがあり、日本では2007年モデルまでラインナップされていた。

今回試乗したニューモデルは、復活したシェルパの名を冠したモデルと、そのベースになったKLX230Sの2車だ。

KLX230Sは無印KLX230に対する低車高バージョンで、先代モデルからはシート高を+15mmの845mmとしつつ、最低地上高や前後サスストロークを大幅に増しているのが大きな特徴だ。メインフレームこそ踏襲するが、シートレールを新作することでシートクッションの厚みを稼ぎつつ、下記の表のように新たなジオメトリーを獲得してオフロード性能も高めている。

旧KLX230 S(’22)新KLX230 S(’25)
シート高830mm845mm
最低地上高210mm240mm
ホイールトラベル(前)158mm200mm
ホイールトラベル(後)168mm223mm
キャスター/トレール27.5°/116mm24.6°/96mm
 

さらに、車高の高い無印バージョンで比較するとシート高と足まわり強化の関連性がわかりやすいので表を載せておく。

旧KLX230(’20)新KLX230(’25)
シート高885mm880mm
最低地上高265mm
ホイールトラベル(前)220mm240mm
ホイールトラベル(後)223mm250mm
キャスター/トレール27.5°/116mm25.2°/101mm
 

KLX230(’25)

KLX230 S(’25)

今回試乗できたのはKLX230シェルパ(左)とKLX230S(右)。

KLX230シェルパは、KLX230Sをベースに専用デザインの外装が与えられ、ハンドガードやアルミ製スキッドプレート、スタックパイプなどが追加されたもの。各種装備でトレッキングムードを高めるとともに、実際に獣道に分け入っていけそうな装備が心強さと安心感を与えてくれる。

さて、前述のスーパーシェルパが登場したのは1997年頃で、その時代にトレッキングマシンの代表格として愛されていたのは、ヤマハ「セロー225」だ。のちに「セロー250」にフルモデルチェンジしたが、扱いやすい車格と低速域を強化したエンジン特性などが街乗りライダーにも支持され、販売台数ランキングではトップセラーにこそならないものの常に上位を走り続けてきた。

何を隠そう筆者も1993年型セロー225と2005年型セロー250を長らく所有していた経験があり(2016年に職場の後輩にあげた)、オフロード界のスーパーカブとも言えるキャラクターのセローはいつかまた買おうと思っていたほどだ。ちなみに家族のぶんも合わせるとセローは合計4台入手している。

そんなセロー250は2020年に最後の1台が出荷され、生産終了。多くのセローファンとともにいつかの復活を願っていたのだが、先に復活したのはカワサキのシェルパだった。

カワサキの開発者は「セロー250を意識しなかったわけではないが熱心に研究するほどライバル視していたわけではない」といった感じのことを言っていたが、ユーザー目線からすれば『セローの代わりになるのか』はひとつの大命題と言えるだろう。

もちろん、公道市販トレールバイクとしてどうなのかという点が先ではあるが、上記の視点も交えてのインプレッションになることをご了承いただきたい。

懐深く、適度にゆったりしたフィーリングがいい!

最初に試乗することになったKLX230シェルパを目の前にすると、かなりコンパクトなトレールバイクという印象。ホイールベース1365mmはセロー250の1360mmに近く、シート高が取っつきやすいだけでなく全体にコンパクトだ。

従来型のKLX230シリーズは、無印KLX230・2020年モデルの初登場時に試乗したのみ。その後モデルチェンジを受けることなく2022年モデルとして低車高バージョンのKLX230Sが登場したが、そちらには試乗する機会がなかった。なので無印KLX230との比較になってしまうが、車高以外の部分ではおおむね同じ造りなのでご容赦願いたい。

KLX230シェルパに跨ると、まず印象的なのはシートの造りだ。先代はシートがかなり薄く硬質で、よく言えば競技志向を感じさせたが、公道で普通に使用するには乗り心地がなかなかスパルタンだった。KLX230シェルパのシートはかなり厚みが増していて、体重81kgの筆者も余裕で受け止める。

また、前後ともサスペンションストローク(ホイールトラベル)が先代のKLX230S比でかなり増していて、跨って体重を載せるとけっこう沈み込むので、シート高の数値以上に地面が近く感じられる。前後に揺すってみるとダンピングも豊かな感じで、良好な乗り心地と安定性を予感させた。

KLX230シェルパのライディングポジション。身体が大きめの筆者でも窮屈さはさほどなく、一般的なトレールバイクの感じだ。足着き性には数値以上に余裕があるように感じられた。【身長183cm/体重81kg】

KLX230Sも基本的には同じ感じだ。ハンドル形状が微妙に異なり、グリップ位置はシェルパよりもやや低い。少しの違いだが、よりアグレッシブなフォームが取りやすそうだ。【身長183cm/体重81kg】

エンジンを始動して発進すると、最新排出ガス規制をクリアした空冷エンジンながら低速トルクは十分にあり、エンジンストールする気配はない。アイドリングがやや高めに設定されている影響もあるだろうか。

エンジン特性は中間域から高回転域の元気のよさが印象的で、約1万rpmに設定されているというレブリミッターまで一直線に吹け上がる。ハイパワーとは言えないが、街乗りやオフロードで元気よく走るには十分だ。スロットル操作に対する反応もよく、先代より増したパルス感と角のないトルクをともないながら車体を前に進めてくれる。

さっそく公道を走り始めると、まず車体の安定性が向上しているのを感じた。先代の無印KLX230は低い速度の直立付近で少し手応えが軽すぎるところがあり、ある程度寝かしたところから接地感が出てくるキャラクターだったが、KLX230シェルパは初期沈み込みが多めのサスペンションゆえか直立~傾け始めの領域でも安定感があり、安心して車体を寝かしていくことができる。これは公道のデイリーユースにおいて好ましい特性だ。

速度が増すと安定感も増し、アスファルト上でのダイナミックな走りにも対応。細身のタイヤは思ったよりグリップ力があるようで、カーブの途中で強めにリヤブレーキを踏むような意地悪をしてみても不安になるような挙動は全く起こらない。

ハンドリングはかなりニュートラルで、着座位置への許容度も高い。ライディングフォームをリーンアウトにしたりリーンウィズにしたり、また前後に動いてみても安定した反応で、さまざまな体格の方が違和感なく乗ることができそうだと思えた。

リーンアウトフォームが馴染むライディングポジションまわりだが、なんならハングオフっぽいのもイケる。ハンドリングは安心感のあるものだ。

前後ブレーキは扱いやすく、制動力もトレールバイクとしては十分。サスペンションの前後のバランスも好ましかった。

ここまでで、セローユーザーが乗っても満足できる1台だぞ、と思えてしまった。以前試乗した無印KLX230はオフロード志向が強すぎる傾向で、セロー云々というよりはコンパクトな空冷で闘う4スト(かつてのKLX250のキャッチコピー)を作ったようなイメージだったが、KLX230シェルパはトレッキング向けの装備だけでなく、マシンそのものの特性が安定性と軽快性をバランスよく配分されている。ガチ系のオフローダーからするとユルく感じるかもしれないが、公道トレールバイクとしてはとてもいい塩梅だ。これなら通勤通学からツーリングまでバランスよくこなしてくれるはずだ。

オフロードも無理なく楽しめるKLX230シェルパ

じゃあオフロードではどうなのよ、とお思いでしょう。今回はガチ系オフロードではなく、一般的によくある未舗装路で試乗することができたので印象をお伝えしたい。

結論から言えば、筆者のような「オフロードの練習を頑張ったのは30年近くも前で、最後にコースを走ったのは何年前だっけ……」というライダーには絶妙にちょうどいいキャラクターだった。

ストロークが長く、初期沈みの大きめなサスペンションによって、グリップを失いそうなところでも追従がよく、多少滑ったとしても急激な感じがないので安心。ギャップの吸収性もよく、公道の未舗装路くらいだったら座ったままでも大丈夫そうだ。特にリヤの安心感が際立っていて、これにはアルミ製になったスイングアームによるバネ下重量低減の恩恵もありそうだ。

ABSを後輪だけキャンセルできるのも好ましい。さほど頑張らない程度のブレーキングでもブレーキターン気味にリヤを流したり、シフトダウンとエンジンブレーキを使ってハーフロック気味に向きを変えながら進入したりしやすく、懐の深いリヤサスペンションのおかげでリヤタイヤにしっかり荷重を載せながらの立ち上がり加速にもスムーズに繋げていける。

トコトコ走りから少しアグレッシブな走りまで難なく対応。複数台ある試乗会の中で朝イチの試乗だったが、馴染むのにそれほど時間はかからなかった。

本気の走りを求めるガチ系のライダーはともかく、“普段使いしながらたまにオフロードも楽しむ”といったライダーに安心しておすすめできるのがKLX230シェルパだった。

ちなみにセロー225と比べるとエンジン低回転域でのパンチはやや弱め、かつステップ位置は一般的なオフ車のそれなので、トライアルっぽい走りも得意だったセロー225はやはり唯一無二。ただ、セロー250と比べるとKLX230シェルパは立ち位置がけっこう近いように思え、乗り換えたとしても違和感は少なそうだ。山に行くならスタックパイプやスキッドプレートの標準装備も心強い。

予想外にオフロード性能が高かったKLX230S

シェルパのベースモデルとなったKLX230Sにも同時試乗できたのだが、こちらは装備の違いからか思いのほかオフロードでの走りがより楽しめるようになっていた。

基本的な走りの特性はKLX230シェルパから大きく変わらないのだが、ステアリング軸から遠いところにあったハンドガードがなく、またヘッドライト下のスタックパイプも、エンジン下のスキッドプレートもない。それゆえ、スペック数値ではKLX230Sが1kg軽いだけなのだが、ワダチやギャップでステアリングが振られたときの収束は違いを体感できる程度に早く、またギャップで突き上げられたときにもフロントがある程度の高さを保ったまま通過しやすい。

違いといったら上記だけとも言えるのだが、これが走り全体の印象にかなり影響していた。フロントの挙動のお釣りが少ないのでもう少しだけ思い切って突っ込んでみようと思えるし、コーナリング中の路面の凹凸も、少しだが確実にシェルパよりも軽くやり過ごすことができる。

おそらく数値で表したらわずかな違いなのだろうが、印象としてはフロントサスペンションが一段グレードアップしたかのように感じられるほど。実際は前後サスペンションともKLX230シェルパと共通だというから、このフィーリングは装備の違いによるものと見て間違いなさそうだ。

ほどよいパワー感で躊躇なくスロットルを開けていけるのがいい。レブリミッターの当たり方も自然なので簡易的なトラコンのように使える。

そして、コーナリングを軽快にこなせるようになった一方で、安定性もシェルパと変わらないか、やや上回っている。簡単に言えば、お釣りか少ないから軽快に振り回すことができ、挙動の収束が早いから安定性を保ちやすいわけだ。

ちなみにオンロードではオフロードほどの差が感じられなかったが、シェルパのほうがわずかながらフロント荷重を稼ぎやすく、一方でKLX230Sのほうが振り回しやすいように思えた。

ガチ系のオフロード好きが乗っても楽しめそうなのは間違いなくKLX230Sのほうで、これならタイヤを履き替えて草エンデューロレースに出場してみようかなという気になる。今回は試乗できなかったが、脚長バージョンの無印KLX230ならばもっと本格的に楽しめるに違いない。

まとめ

純正ハンドガード(9702円)。フレームを内蔵しない軽量シンプルな造りが特徴だ。

またいつか軽二輪クラスのトレールバイクを買おうと思っている筆者にとって、KLX230シリーズは有力な候補のひとつになった。もし今すぐに買うとしたら、デザインの好みでKLX230シェルパを選び、ナックルガードを軽量シンプルな純正ハンドカバーに交換すると思う。ヒット時の防護性能ではナックルガード>ハンドカバーだが防風性はだいたい変わらず、簡素な造りゆえに軽量で、転倒時のレバー折れを防ぐ機能も多少は期待できるはず。なんならスタックパイプとスキッドプレートの分はフロントフォークの突き出しを1mmほど減らして……と妄想が止まらなくなる。
 
購入欲が高まったタイミングでセロー250の後継機種が出ていなければKLX230シリーズのいずれかを選ぶことになりそうだが、欲しいタイミングで両方が揃ってしまった場合は悩ましいことになりそうだ。ほかにCRF250Lもあるしなぁ……。

高速道路ではメーター読み6速120km/hでレブリミッターに当たる。直進安定性もよく、多少の横風も気にならなかった。

KAWASAKI KLX230 SHERPA / KLX230S[2025 model]

KAWASAKI KLX230 SHERPA[2025 model]

KLX230シェルパはミディアムクラウディグレー、ミディアムスモーキーグリーン、ホワイティッシュベージュの全3色。

KAWASAKI KLX230S[2025 model]

車名KLX230 SHERPAKLX230S
型式8BK-LX232A
全長×全幅×全高2080×820×1150mm
軸距1365mm
最低地上高240mm
シート高845mm
キャスター/トレール24.6°/96mm
装備重量134kg133kg
エンジン型式空冷4ストローク単気筒
SOHC2バルブ
総排気量232cc
内径×行程67.0×66.0mm
圧縮比9.4:1
最高出力18ps/8000rpm
最大トルク1.9kg-m/6400rpm
始動方式セルフスターター
変速機常時噛合式6段リターン
燃料タンク容量7.6L
WMTCモード燃費34.7km/L(クラス2-1、1名乗車時)
タイヤサイズ前2.75-21
タイヤサイズ後4.10-18
ブレーキ前φ265mmディスク
+2ポットキャリパー
ブレーキ後φ220mmディスク
+1ポットキャリパー
価格63万8000円59万4000円
ベージュ、緑、灰緑、灰
発売日未定2024年11月27日

※KLX230シェルパは当初11月27日発売とされたが、諸事情により発売延期とアナウンスされた。新たな発売日が決まり次第お伝えしたい。

KLX230 SHERPA のディテール

ヘッドライトカバーは2分割のツートーンタイプを採用。ハンドルバーにはハンドガード、ヘッドライト下方に転倒時やスタック時に役立つスタックパイプを装備する。

シェルパ専用装備としてアルミ製テーパードハンドルバーを採用。メーターは軽量シンプルな液晶タイプだ。

分割式でシンプルな形状になったシュラウドとタンクカバー。燃料タンクキャップ直前までシートがあるのはオフロード好きも歓迎だろう。

クッション性が高くコシのあるシート。長時間走行でも尻が痛くなりにくい快適性を確保している。前後の体重移動もしやすかった。

IRC製のタイヤを採用し、リムはブラックアウト。やや細身のタイヤが軽快さに貢献している。

前後ブレーキディスクにはペータルタイプを採用。新型はサスストロークも十分に確保された。

空冷232cc単気筒エンジンはハイパワーでこそないがオフロードでブン回して走るのにちょうどいい元気よさ。高速道路でも不満は感じなかった。

後輪ABSをオフにできるスイッチ。走行中の切り替えは不可だ。

ライダー側のステップはオフロード仕様。パッセンジャー側は快適性を考慮したラバー付きだ。

アルミ製スキッドプレートもシェルパ専用装備。樹脂製スキッドプレートもオプション設定される。

KLX230S のディテール

スチール製のブリッジ付きハンドルバーを採用。スタックパイプやハンドガードは潔く非装備だ。

シュラウドまわりの形状はモトクロッサーKXをイメージした鋭い造形だ。

シートは色味こそ異なるが形状はシェルパと同じ。エンジンや足まわりも共通だ。

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