スズキのVストロームファミリーが充実しまくっている。大型バイクはVストローム1050/DE、Vストローム800/DE、Vストローム650/XTと個性が異なるラインナップがあり、軽二輪クラスにはVストローム250に加えてVストローム250SXが投入された。ここでは、同じ250ccクラスに共存する2車を比較してみたい。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●外部リンク:スズキ
Vストローム250SX[59万1800円] vs Vストローム250[66万8800円]
2023年8月に発売された、スズキ自慢の油冷単気筒エンジンを搭載したアドベンチャーモデル「Vストローム250SX」は、往年のDR750を彷彿とさせる怪鳥デザインに前19/後17インチホイールを履き、一定のオフロード走破性が与えられた、スポーティかつ汎用性の高い1台だ。
しかし、スズキは同時に並列2気筒エンジン搭載の「Vストローム250」もラインナップし、2022年には軽二輪クラス(126~250cc)で販売台数ランキング3位、2023年にもモデルチェンジ前後を合計するとランキング5位を記録している。
名称は“SX”の有無のみの違いだが、エンジンのみならず車体構成やそもそものコンセプトがかなり異なる2車。どちらを買うか迷っている方もいると思うので、シート高やデザインだけで選ぶよりも、もう少し深く理解してから選択できるよう比較解説してみたい。
いずれもアドベンチャーモデルに属するが、Vストローム250(以下無印250)は低速トルクが豊かなエンジン特性と、それを生かす穏やかな車体が持ち味。並列2気筒エンジンとフレームはベースをロードスポーツモデルの「GSX250R」と共有しており、GSX250Rもライバル勢とは一線を画す、日常域を重視した安定感ある走りが高い評価を得ている。無印250は、言ってみれば実用的な1台だ。
『実用的』というのは、最高出力こそ24psと控え目ながら低回転トルクが豊かで、実際に街中やツーリングで出くわすほとんどの場面で扱いやすく、エンジンを高回転まで回さなくても十分な加速を得られることに尽きる。無印250はこのエンジンに加え、リラックスできるライディングポジションや優れた足着き性(シート高800mm)、大型リヤキャリアによる高い積載性などを誇り、ツーリングマシンとして求められる『長距離を走っても疲れない』性能を高めている。前後17インチホイールによる素直な操縦性も、これに貢献していると言えるだろう。
これに対し、Vストローム250SXは油冷単気筒エンジンとそれを搭載するフレームはジクサー250/SFと共有しながら、スイングアームの延長や前19/後17インチホイールの装着などによってオフロード寄りのキャラクターになっている。かつてのDR250のような本格オフロード車ではないが、それでも前後17インチより走破性が高く、2気筒Vストローム250より27kg軽量な車体によって、未舗装路でも気兼ねなく走り抜けることが可能だ。
また、エンジンは最高出力で無印250の2気筒を上回る26psを発揮しており、軽快な車体とあいまって元気のいい走りが楽しめる。玄人好みの名車と言われるVストローム650をそのまま軽量コンパクトにしたような走りと言ってもいいだろう。また、パワーがあるといっても低速トルクが不足していることはなく、アクティブさをベースとしながら汎用性も持たせたキャラクターに仕上がっている。シート高は835mmあるが、スリムさゆえに数値からイメージするより足着きもいい。
両車ともに大型リヤキャリアやウインドシールド、ナックルガードといったツーリング性能を高めるパーツを標準装備しており、似たマシンに見えがちかもしれないが、実際のキャラクターは見事に棲み分けられているのだ。
価格面で比べるなら、スポーティなSXがリーズナブルな設定で、無印250はプラス7万7000円になるが、ラグジュアリー寄りのキャラクターを見れば納得。それでも他メーカーのライバルに比べれば価格のアドバンテージを保っているのがスズキらしいところだ。
最低地上高は50mmも違う!
スペックで見ると、オフロード走破性の目安となるのは、なんといっても最低地上高。通常のオンロードバイクは150mm前後が一般的で、無印250はGSX250Rと同じ160mmなのに対し、250SXは205mmを確保(ジクサー250は165mm)している。数値は大きいほうが段差や石などにエンジン下部をヒットしにくく、より荒れた路面に対応していると言える。
さらに、フロントホイール径が大きいと段差の乗り越えがしやすく、また路面のうねりや凹凸による影響を受けにくくなる。その反面、小径ホイールに比べると旋回力が緩やかになっていく。SXのコンパクトな単気筒エンジンや軽量な車体もオフロードでは有利だ。
上記のような走破性と引き換えになるのは足着き性だ。もちろん、SXの835mmはスリムさも相まって、ある程度の経験があれば小柄な方でも困るほどのシート高ではないが、傾向としてそうなるのは確か。
なので、オンロードのトコトコ走りが中心というライダーにとって無印250の存在感は無視できまい。いずれもアドベンチャーに属しながら、やはりキャラクターの棲み分けには意味があるのだ。
ツーリング性能は?
ツーリングで大切なのは、疲れないライディングポジションや尻や痛くならないシート、そして長い航続距離を実現する燃料タンク容量だ。これについては無印250のほうが有利。
SXの燃料タンク容量は12Lで、WMTCモード燃費34.5km/Lと掛け合わせると計算上の航続距離は414km。無印250はというと、容量17Lに燃費32.1km/Lで計算上は545.7kmにもなる。高速道路を使わないなら、かなり頑張らないと1日でフルタンクを使い切ることすらできないだろう。とはいえ250SXも十二分ではあるのだが。
シートに関しては250SXのほうがスポーティ、つまりやや硬めの印象で、長距離を走るならやはり無印250のほうが好ましいと言える。ライディングポジションは、250SXがやや低くワイドめなハンドルバーとスリムな車体でオフロード車寄りの雰囲気を持っているのに対し、無印250のほうはハンドルバーがシート高に対しやや高く、手前に向かって絞られたような独特のポジションになっている。後者は不整地などでの押さえの利きやすさよりも淡々と長時間走るのに向いており、こちらもツーリング志向を印象づける。
ちなみに、無印250のみセンタースタンドを装備しているのも隠れたポイントだ。普段はそれほど使わないかもしれないが、チェーン給油などメンテナンス時に役に立つほか、荷物を積載・固定していくときにも安定感がある。
スペックを比較!
車名 | Vストローム250SX | Vストローム250 |
型式 | 8BK-EL11L | 8BK-DS12E |
全長×全幅×全高 | 2180×880×1355mm | 2150×880×1295mm |
軸距 | 1440mm | 1425mm |
最低地上高 | 205mm | 160mm |
シート高 | 835mm | 800mm |
キャスター/トレール | 27°00′/97mm | 25°10′ / 100mm |
装備重量 | 164kg | 191kg |
エンジン型式 | 油冷4ストローク単気筒 SOHC4バルブ | 水冷4ストローク並列2気筒 SOHC2バルブ |
総排気量 | 249cc | 248cc |
内径×行程 | 76.0×54.9mm | 53.5×55.2mm |
圧縮比 | 10.7:1 | 11.5 |
最高出力 | 26ps/9300rpm | 24ps/8000rpm |
最大トルク | 2.2kg-m/7300rpm | 2.2kg-m/6500rpm |
変速機 | 常時噛合式6段リターン | 常時噛合式6段リターン |
燃料タンク容量 | 12L | 17L |
WMTCモード燃費 | 34.5km/L(クラス3、 サブクラス3-2、1名乗車時) | 32.1km/L(クラス2、 サブクラス2-2、1名乗車時) |
タイヤサイズ前 | 100/90-19 | 110/80-17 |
タイヤサイズ後 | 140/70-17 | 140/70-17 |
ブレーキ前 | 油圧式ディスク(ABS) | 油圧式ディスク(ABS) |
ブレーキ後 | 油圧式ディスク(ABS) | 油圧式ディスク(ABS) |
乗車定員 | 2名 | 2名 |
価格 | 59万1800円 | 66万8800円 |
車体色 | 黄、赤、黒 | 黄×黒、赤×黒、銀×黒、黒 |
発売日 | 2024年11月28日 | 2024年4月17日 |
SUZUKI V-STROM 250SX[2024 model]
SUZUKI V-STROM 250[2024 model]
まとめ
アドベンチャー志向があってダイナミックな走りを楽しめるのがVストローム250SX。やや大柄ながら軽量スリムな車体にパワフルなエンジンを搭載し、アクティブにキビキビ走りたいユーザーに向いていると言えるだろう。とはいえツーリングにも十分対応でき、幅広い汎用性を誇る。対するVストローム250(無印)は、やはりトコトコ走りが似合う落ち着いたキャラクターと、丸目の独特なデザインなど唯一無二の個性が魅力。いずれも名車の資質アリだ。
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