
2025年11月以降の法改正によって50cc原付モデルの生産が困難になることを受け、「新基準原付」が実現しようとしている。大枠は125cc以下・4kW以下の車両を50ccモデルと同じ扱いにするという方針だが、税金の扱いをどうするかなど担当省庁をまたいだ調整も詰めの段階に。これにともない、パブリックコメントの募集がはじまった。
●文:Nom(埜邑博道) ●CG製作:SRD(不許複製/All rights reserver)
新基準原付についてのパブコメ募集が始まった! 来年4月1日からの道交法改正がほぼ決まり
来年11月に施行される新排ガス規制に現在の原付一種(50cc)は対応することが困難という二輪業界からの要望を受けて、警察庁が排気量125cc以下・最高出力4kw(5.4馬力)以下の車両を原付免許/普通自動車免許で運転可能な「新基準原付」にするという方針を固めたのは昨年12月のことでした。
それから8か月、水面下ではさまざまな動きや駆け引きがあったようですが、警察庁は8月30日に突然「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対する意見の募集について(=パブリックコメントの募集)をウェブサイトで公表しました。
内容は、
1 命令等の題名
道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令
2 根拠となる法令の条項
道路交通法(昭和35年法律第105号)第2条第1項第10号
3 改正の内容
最高出力を4.0キロワット以下に制御した総排気量0.125リットル以下の二輪車を、現在は総排気量0.050リットル以下とされている一般原動機付自転車に新たに区分する。
4 施行期日
令和7年4月1日から施行する
という道路交通法改正案についてどう思うかという意見を募集するというもので、パブコメを募った結果、反対意見が通ってしまったとは寡聞にして知りませんから、「新基準原付」を認可する方向での道交法改正に向けて具体的な段階に入ったということになります。
道交法は法律ですから、改正案が公布されてから施行までに6か月以上の周知期間を必要とし、来年の4月1日から改正案を施行するには今年の9月中に改正案を取りまとめる必要があり、それゆえ8月30日に何の前触れもなくパブリックコメントの募集に至ったのでしょう。
ただ、何の前触れもなくと感じたのは我々メディアを含めた国民であり、警察庁と関係者の間ではさまざまなやり取りがあったと推察されます。
というのも、2025年11月から現在の原付一種は販売できなくなることが決まっていて、それを受けてホンダが来年5月で現行の原付一種の製造を中止するという報道が行われ、それを受けて現行の原付一種を確保しようと販売店が動き出しているなど、来年以降の「原付マーケット」の動向が非常に注目されているという事情があります。
販売台数が極端な右肩下がりになっているとはいえ、いまでも年間9万台の需要がある原付一種ですから、販売店にとっては重要な「飯のタネ」。となると、いつから新基準原付が市場に投入されるかは重大な問題で、二輪業界側は需要期である春にはどうしても市場投入したい。それには、春までに道交法が改正されて、新基準原付が従来の原付免許/普通自動車免許で運転できるようになっている必要があるわけです。
二輪メーカーも新基準原付を販売するにあたって、排気量125cc以下・最高出力4kw(5.4馬力)以下の車両を製作し、その車両で国土交通省から型式認定を受ける必要がありますから、来シーズンの初めから新基準原付を店頭に並べるにはいまが法改正のタイムリミットだったようです。
【’25SuperCub110(4kW)|イメージCG】(CG不許複製/All rights reserved) ──2025年発売と言われている新原付のスーパーカブは、110をベースに4kW以下としたもの。現行の原付一種と同じ扱いになり、白ナンバー装着かつ道交法も50cc原付と同じものが適用される。
警察庁・国交省・総務省・経産省の足並みを揃える必要があった
とはいえ、新基準原付の概要が発表されてから8か月も経過してしまったのはなぜなのでしょう。
関係者によると、新基準原付についてはいくつもの省庁がかかわっていて、省庁間の取りまとめ・意思統一が必要とのこと。道交法改正が警察庁、車両運送法の改正(車両区分で、原付を現行の50cc以下から125cc以下に変更が必要)が国土交通省、税金が総務省、二輪車というカテゴリー全体については経済産業省と4つの省庁が関係していてなかなか足並みが揃わなかったといいます。
しかし、改正案の公布→6か月以上の周知期間と施行まで時間がかかる最難関の道交法改正のメドが立ちました。
残るは道路運送車両法の改正と税金の問題。道路運送車両法は国会での決議が必要なく、公布と施行が同時でもOKなので来年3月までに方針が決まれば問題ありません。
ただ、税金(軽自動車税)に関してはしかるべき手続きが必要で、現行の原付一種は2000円/年で、90cc以上125cc以下の原付二種は2400円/年。当然、二輪業界側は排気量は125㏄以下でも「原付」なのだから2000円/年を希望しています。
新基準原付の税金を2000円/年に決めるには、税制改正が必要で、そのためには年内に行われる税制改正大綱にその旨が記載されなければいけません。そして、来年、つまり令和7年度の税制改正要望は各省庁から8月中までに取りまとめて総務省に提出されています。
軽自動車税については、下記のように警察庁から要望が提出されています。
・措置の内容
車両区分の見直しにより新たに「第一種原動機付自転車」(「一般原動機付自転車」)に該当するとされる排気量 125cc 以下かつ最高出力4kW 以下の二輪車について、現行の第一種原動機付自転車の軽自動車税の標準税率を参考としつつ、適切な税額の適用を要望する。
つまり、新基準原付についても現行の原付一種と同様の税額とすることを求めているのです。
さらに、国交省の要望にも他官庁主幹という項目の中に
○第一種原動機付自転車における車両区分の改正に伴う同区分に係る軽自動車税の見直し
という文言が入っています。
このように、税額こそ明記されていませんが、新基準原付の税額も現行の原付一種と同様にという意向が税制改正要望に記されています。
税制改正は、通常、国会審議を経て3月末までに承認されて4月1日から施行というスケジュールとなっています。道交法の改正も4月1日からと、ここにきて各省庁の足並みが見事に揃ってきたようです。
免許区分も車両区分も、そして税額も二輪業界が望んだ方向でしっかり動き始めたことは何よりの朗報です。
ただ、新基準原付の報道があって以来、YouTubeを含むSNSで「原付免許で125㏄まで乗れるようになる」という誤った認識が拡散されているのを見聞きします。これも、昨年12月の発表以来、確たる情報がなかなか発表されなかったことが一つの要因かと思います。
現行の原付一種から新基準原付への移行課題
原付一種 (現行) | 新基準原付 | 以降への改正点 | 担当省庁 | |
車両区分 | 排気量 50cc以下 | 排気量110~ 125cc以下・ 最高出力4kW (5.4ps)以下 | 道路運送 車両法の 改正が必要 | 国土交通省 |
免許証 | 原付/普通自動車 | 原付/普通自動車 | 道路交通法 の改正が必要 | 警察庁 |
軽自動車税 | 2000円/年 | 2000円/年? (現行の原付一種と同じ場合) | 税区分の 改正が必要 | 総務省 |
2段階右折・ 最高速度は 30km/h以下 | ○ | ○ | 警察庁 |
まずは、10月1日に改正道交法が公布されて、新基準原付とはいかなるものかが誰の目にも明らかになることが大事で、そうすることでマーケットに新基準原付というカテゴリーが大きな混乱なしに浸透していくのではないでしょうか。
いずれにしても、昨年12月以来、やきもきしていた件がひとつ解決しました。
みなさんも、警察庁のウェブサイトから新基準原付についての意見をぜひ投稿してください。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 多事走論 from Nom)
ヤングマシンの電子化について考えてみました ボクがヤングマシン編集部に配属されたのは、1983年の7月。バイクへの興味も知識もなく、二輪免許も持っていませんでした。なので、内外出版社に入社する際に、面[…]
大型連休の休日割引除外から、年間すべての3連休へ除外対象を拡大 4月から始まる’25年度は、GW、お盆休み、年末年始およびシルバーウイーク(昨年度から追加され、’25年度は9月13日(土)~15日[月[…]
ガソリン価格が過去最高値に迫るのに補助金は…… ガソリン代の高騰が止まりません。 全国平均ガソリン価格が1Lあたり170円以上になった場合に、1Lあたり5円を上限にして燃料元売り業者に補助金が支給され[…]
新基準原付 2025年、バイク界に起こる最大の変化は従来の50cc原付(=原付一種)に代わって登場することになった「新基準原付」でしょう。 従来の50cc原付が、今年の11月から施行される排ガス規制に[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
最新の関連記事(交通/社会問題)
地域活性化ツーリングを開催、移動課題改善への提言も 2024年9月29日に開催された地域活性化・ライダー誘致イベント“伊豆ライダー誘致ツーリング”。 主催は若年層を中心に構成。バイクやクルマ、特定原付[…]
バイク駐車場の拡充に取り組む千葉市 千葉市内には6区で50の鉄道駅がある。中でも千葉駅は千葉県の中心駅として、JR東日本の在来線6線と京成電鉄、さらに千葉都市モノレールが乗り入れている。 都心や成田空[…]
「危険なら道路を改善しないの?」との疑問を感じるが…… 市中の道路を走っていると「事故多発交差点」と書いた立て看板を見かけることがあります。 その交差点で交通事故が多発しているので気を付けて運転してほ[…]
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
EVは脱炭素社会実現と移動課題の改善に寄与するか 「バイクラブフォーラムin南国みやざき」で実施されたパネルディスカッション、「電動二輪車利活用による社会課題(脆弱な二次交通)解決」において、次のトー[…]
人気記事ランキング(全体)
最新モデルはペルチェデバイスが3個から5個へ 電極の入れ替えによって冷却と温熱の両機能を有するペルチェ素子。これを利用した冷暖房アイテムが人気を博している。ワークマンは2023年に初代となる「ウィンド[…]
アウトローなムードが人気を呼んだフルフェイスがついに復活! 6月3日付けでお伝えしたSHOEIの新製品『WYVERN(ワイバーン)』の詳細と発売日が正式に発表された。 1997年に登場したワイバーンは[…]
バイクツーリングにおすすめの都道府県ティア表 バイクツーリングの魅力は、ただ目的地に行くだけでなく、そこへ至る道中のすべてを楽しめる点にある。雄大な自然が織りなす絶景、心地よいカーブが続くワインディン[…]
水冷Vツイン・ベルトドライブの385ccクルーザー! 自社製エンジンを製造し、ベネリなどのブランドを傘下に収める中国のバイクメーカー・QJMOTOR。その輸入元であるQJMOTORジャパンが、新種のオ[…]
東洋の文化を西洋風にアレンジした“オリガミ”のグラフィック第2弾登場 このたびZ-8に加わるグラフィックモデル『ORIGAMI 2』は、2023年1月に発売された『ORIGAMI』の第2世代だ。前作同[…]
最新の投稿記事(全体)
「2025 鈴鹿8耐 Kawasaki応援グッズ」を期間限定でオンラインショップにて販売 株式会社カワサキモータースジャパンは、2025年鈴鹿8時間耐久ロードレースに参戦するカワサキチームを応援するた[…]
バイクを愛するすべての人へ 去る6月7日(土)、東京のお台場に位置するBMW GROUP Tokyo Bayにて、BMWモトラッドが主催する『NIGHT RIDER MEETING TOKYO 202[…]
ホンダの大排気量並列4気筒エンジンをジェントルかつスポーティーに TSRは鈴鹿のマフラーメーカー「アールズ・ギア」とともに世界耐久選手権(EWC)を戦い、リプレイス用のマフラーも同社と共同開発していま[…]
0.1ps刻みのスペック競争 日本史上最大のバイクブームが巻き起こった1980年代は、世界最速を謳う大型フラッグシップや最新鋭レーサーレプリカが次々と市場投入され、国産メーカー間の争いは激化の一途を辿[…]
365GTB/4 デイトナ:275GTB/4を引き継ぎつつ大幅にアップデート 1968年のパリ・モーターショーでデビューした365GTB/4は、それまでのフラッグシップモデル、275GTB/4を引き継[…]
- 1
- 2