2023年11月にイタリアで開催されたEICMA(ミラノショー)にて、ビモータは新しいハブセンターステアリングのシャーシに、カワサキ製の998cc直4スーパーチャージドエンジンを搭載したクロスオーバーモデル「テラ」を発表した。同社初のクロスオーバーモデルであり、タンデム走行への配慮やツーリングオプション設定など、今までと異なる異色のビモータだ。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:編集部 ビモータ
スーパーチャージャーにハブステアでクロスオーバー…全部載せじゃん!!
EICMAで発表されたビモータのニューモデル「テラ」は、カワサキ体制となって初めて発表された、2019年のテージH2から数えて5番目となる「カワサキ・ビモータ」だ。このモデル最大の特徴は、同社のアイデンティティ=ハブセンターステアリングシャーシの最新進化にあるのだが、その解説の前に、まずは車両のアウトラインを解説していこう。とにかく要素盛り込みすぎな1台なのだ。
まず、テラはビモータ初のクロスオーバーモデルだが、エンジンには200ps&14.0kg-m(137Nm)を発揮する、カワサキZ H2用の998cc直4スーパーチャージャーユニットを選んでいる。同ジャンルでは最強を誇るBMW M1000XRの201psにはわずかに及ばないものの、ビモータ自身は「パフォーマンスはクラス最高。テストでは0-100km/h加速3.5秒、0-200km/h加速8.2秒をマーク」と述べており、世界最速級クロスオーバーなのは間違いない。
そんな凶暴な速さを持ちつつも、クロスオーバーらしい配慮もしっかりなされているのも特徴。タンデム走行を考慮してしっかり座面が確保されたリヤシートや、内部をキルティング張りとしたパニアケース、グリップヒーターやUSB電源ソケット、大型スクリーンなどのオプション設定なども、従来のビモータでは考えにくかったものだ。
最新バイクに欠かせない電子制御はZ H2譲りで、クルーズコントロールやトラクションコントロール、コーナリングブレーキ、上下方向クイックシフターにTFT液晶メーターなどを装備。さらにはオプションでマルゾッキのセミアクティブサスペンションも設定されるが、これは標準装備のオーリンズ製前後サスのフロント114mm/リヤ135mmというホイールトラベルを、それぞれ145mm /165mmまで拡大するもの。テラで悪路やオフロードに挑む人向けの選択肢まで用意されているのだ(本当にそんな人がいるかはさておき…)。
スタイリングは、Z H2同様に吸気ダクトを車体左側に大胆に配しつつアドベンチャー感を盛り込んだもので、奇抜さはなくオーソドックスなまとまりを見せるが、トリコロールをあしらったシート表皮などにイタリアンらしさを感じることができる。小型の2眼ヘッドライトはカワサキZX-10Rと共通のようだ。
伝家の宝刀・ハブセンターステアがさらなる進化
ここからはテラのキーポイントとなる車体の話に移ろう。ビモータはテラのシャーシを「あらゆる種類の道路で、あらゆるライダーとパッセンジャーのスタイルに合わせ、快適性や独自の機能、完璧なライディング能力を組み合わせたマシンを生産することを目的に、ゼロから設計した」としている。
その特徴は、片側35°というテージより8°大きな前輪切れ角を達成した新ステアリングシステムにある。ハンドルバーはブレーキキャリパーから伸びるリンクで、より直線的にフロントホイールと接続される構造(テージのハンドルバーは複雑に折れ曲がった長いロッド/リンク/ジョイント類を介し、前輪を後ろから押し引きしている)に改められており、この新システムにより、ハブセンターステアリングの弱点とされるステアリングの切れ角は大幅に改善されている。
汎用性が必要なクロスオーバーに“伝家の宝刀”と言えるメカニズムを搭載できたのは、この新ステアリングによるものが大きいはずだ。また、このシステムは「道路の凹凸やブレーキに対する感度を高め、ブレーキングによるフロントダイブの可変制御と下げられたロールセンターにより、最大のコーナリングパフォーマンスを発揮する」ともビモータは述べている。52.5%という、スーパースポーツと比較してもかなり大きいフロントの重量配分にも注目したい。
テラがビモータの汎用プラットフォームに?
とはいえ、フロント用のショックユニットをリヤショックと並べてエンジン後ろに配置するなど、車体の構成自体はテージH2の進化版といえるもので、エンジンをストレスメンバーとし、エンジン前部に固定したアルミプレートがフロントサスペンションを支持する構造は同様。このプレートを作り変えればどんなエンジンにも対応できるし、切れ角が大きなテラの新ステアリングシステムなら、あらゆるジャンルの機種に適合するはずだ。
つまりビモータが誇るハブセンターステアリングのシャーシを、より幅広く展開するための汎用プラットフォームがテラと見ることもできる。このテラの走りも気になるところだが、今後、カワサキとビモータのコラボレーションはさらなる展開が待っているとの情報もある。次にどんな手で我々を驚かせてくれるのかを楽しみに待ちたい!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ビモータ)
初日にテストライダーが走行し、2日目に本番ライダー2人が初走行! カワサキは、KRT(Kawasaki Racing Team)によるスーパーバイク世界選手権のワークス活動を2024年いっぱいで終了し[…]
火曜日からの公式テストに向けて先行発表 ビモータ・バイ・カワサキレーシングチーム=BbKRTは10月21日、スーパーバイク世界選手権の最終戦が行われたスペイン・ヘレスサーキットでのテストに向け、来シー[…]
ビモータ発の超スペシャル・ホモロゲマシン WEBヤングマシンでもすでにお伝えした、ビモータがSBKに参戦するというニュース。カワサキのファクトリーチームであるKRT(Kawasaki Racing T[…]
ビモータ×カワサキの新たな旅が始まる……! カワサキがワールドスーパーバイク選手権(WSBK)へのファクトリー参戦を終了し、従来のカワサキレーシングチーム(KRT)は新たなステージへと移行する──。 […]
エンジンコンセプトより適性アライメント優先のイタリアン ドゥカティに代表されるイタリア製スーパースポーツは、不慣れなビギナーには向かない個性的な乗り味のハンドリング…といったイメージがある。たしかに、[…]
最新の関連記事(EICMA(ミラノショー))
発表から2年で早くも外観デザインを変更! ホンダは欧州ミラノショーで新型「CB750ホーネット」を発表した。変更点は主に3つで、まずデュアルLEDプロジェクターヘッドライトの採用によりストリートファイ[…]
スマホ連携TFTやスマートキー装備のDX ホンダがミラノショーで新型PCX125(日本名:PCX)を発表した。2023年には欧州のスクーターセグメントでベストセラーになったPCX125だが、日本でも原[…]
400ccのDR-Zが帰ってきた! モトクロス競技の主導権を4ストロークが握り始めて間もない2000年、公道市販車として産声を上げたのは水冷398cc単気筒を搭載するハイスペックなデュアルパーパスモデ[…]
スポーツ性能を高めたBMWフラッグシップスポーツ BMW S1000RRのおもなスペックとアップデート S1000RRは並列4気筒エンジンを搭載するスーパースポーツで、BMWがWSBK参戦を視野に入れ[…]
RR同様に熟成したスポーツネイキッド BMW S1000Rのおもなスペックとアップデート S1000Rは、WSBK参戦を視野に入れてBMWが開発したスーパースポーツ・S1000RRのストリートバージョ[…]
人気記事ランキング(全体)
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
もう走れるプロトがある! 市販化も明言だ 「内燃機関領域の新たなチャレンジと位置づけており、モーターサイクルを操る楽しさ、所有する喜びをより一層体感できることを目指している。走りだけでなく、燃費、排ガ[…]
通勤からツーリングまでマルチに使えるのが軽二輪、だからこそ低価格にもこだわりたい! 日本の道に最適なサイズで、通勤/通学だけでなくツーリングにも使えるのが軽二輪(126~250cc)のいいところ。AT[…]
根強い人気のズーマー 2000年代、若者のライフスタイルに合ったバイクを生み出すべく始まった、ホンダの『Nプロジェクト』。そんなプロジェクトから生まれた一台であるズーマーは、スクーターながら、パイプフ[…]
「日本の旗艦が世界を討つ」 今から約半世紀前の1959年は、ホンダがマン島TTレースおよび世界GPに挑戦を開始した年だ。 同年、戦後より国民の移動手段として補助エンジンや実用二輪車を製造販売してきたホ[…]
最新の投稿記事(全体)
ユーロ5+に対応したビッグボクサーはブラッシュアップしたルックスで登場 R18は、BMWモトラッド史上最大排気量となる1802cc空油冷水平対向2気筒エンジンを搭載するクルーザーだ。2024年モデルで[…]
スズキGT750 概要:対CBフォア、愛称”ウォーターバッファロー” 1969年に発売されたカワサキ マッハIIIに対抗するかのように、並列3気筒を選び、なおかつ750ccの大排気量と水冷を採用したの[…]
※記事中の画像のキーパターンは加工してあります ホコリや汚れを呼ぶ潤滑スプレー 鍵を差すときに動きが渋いなーとか、引っ掛かるなーと感じたことはありませんか? 家の鍵や自転車の鍵、倉庫の南京錠など、身の[…]
見る角度によって印象が異なるカラフルなグラフィックが特徴 MotoGPに昇格した2013年から在籍したホンダを離れ、2024年からグレシーニ・レーシング(ドゥカティ)に移籍したマルク・マルケス選手だが[…]
2ストローク初心者に知っておいて欲しいこと 日本国内では製造中止から18年経った、2ストロークエンジンのオートバイ。未だに人気が衰えないどころか、半ば伝説化していて、若いライダーの注目も集めているとか[…]
- 1
- 2