長年にわたって親しまれてきた「原動機付自転車(原付一種)」という枠組みが見直されることになりそうです。2025年11月に導入される新排出ガス規制に、原付として適正なコストで適合することが難しいことから、排気量ではなく出力で区分するという枠組みが検討されることになりました。
●文:Nom(埜邑博道)
今のままじゃ50ccの原付は2025年11月以降、生き残れない!
複数の報道にあるように、警察庁が原動機付自転車(排気量50cc以下)の定義について以下のように見直す方向で検討をはじめました。総排気量ではなく出力によって区分しようというものです。
車体 | 現)50cc以下 | 新)125cc以下で最高出力4kW以下 |
運行 | 現)法定速度30km/h 2人乗り禁止 2段階右折ほか | 新)変更なし |
免許 | 原付 or 普通自動車 | 新)変更なし |
今年の4月に当サイトで既報のように、再来年(2025年)11月に施行される新排ガス規制によって、現行の原動機付自転車=50cc(以下・原付)は存亡の危機を迎えています。
現在の原付でこの新規制をクリアするためには、莫大なコストをかけて車両を改良する必要があり、車両メーカーも二の足を踏んでいます。そんなに高額な改良コストをかけて現在の原付を新規制に対応させても、改良コストが販売価格に跳ね返ってしまい、便利でリーズナブルな交通手段として重用されてきた原付ではなくなってしまうからです。
また、メーカーサイドが現行の原付の改良に二の足を踏むもうひとつの理由としては、50cc以下の排気量の原付一種は、日本以外にもヨーロッパと中国にカテゴリーとしては存在していますが、需要はまったくなくて、世界中で日本でだけいまだに流通しているという「ガラパゴス」的存在だからです。
原付は、学科試験と、学科試験合格後に実車で行われる原付講習を受講すれば免許を取得できるという簡便さや、原付免許がなくてもクルマの免許を持っていれば運転することができるという点から、1980年代初めから爆発的に販売台数が増え、ピーク時には年間約200万台の需要がありました。
しかし、ヘルメットの装着義務や最高速度の30km/h規制、二段階右折、さらには3ナイ運動などにより販売台数が右肩下がりに激減し、昨年の販売台数は約13万台と全盛期の6分の1程度にまで需要が落ち込んでいます。メーカーの立場としては、ここまで需要がシュリンクしたカテゴリーの車両を製造・販売していくのは非合理的で、ビジネスとしても割に合わない。ですから、ヤマハがホンダ・タクトのOEM供給を受けてジョグとビーノに仕立て上げて販売するという、前例のない事態まで起こっているのです。
このような状況から、現在、浮上している原付の存続問題の解決策が世界のスタンダードになっている125ccクラスの車両をベースにして、排気量はそのままで、最高出力を現行の原付並みの4kw=5.4psに抑制した「新原付」にしてはどうかというものです。
メーカー関係者によると、昨年のバイクの世界販売台数約5000万台のうち、90%の車両がこのカテゴリーに属するそうですから、量産効果によるスケールメリットは計り知れないほど大きく、ヘタをすれば現行の原付よりも安い価格の新原付が誕生することもあり得ない話ではありません。
再来年の11月に新排ガス規制が施行されることを考えると、125ccベースの新原付案を採用して、実際にマーケットに新原付をリリースすることを考えると時間はあまり残されていません。バイクのクラス分けを、現在の排気量区分から最高出力区分に変更することに伴う法整備や、125cc車に変更を加えて4kw=5.4psに抑制した車両にする開発期間などを考慮すると、時間はかなり差し迫っています。
そんな中、二輪業界の要望を受けて、最高出力を4kw=5.4psに抑制した小型二輪=新原付にした場合の安全性などについて、機械力学や交通心理学を専門とする学識経験者、業界関係者らで構成される有識者会議の初会合を9月11日に開催し、以降、年内に3~4回程この有識者会議を開催して、実車試験や関係者からのヒアリングを実施して安全性などを確認するという警察庁の方針が9月の初めに明らかになったわけです。
警察庁が具体的に動き出したことで、125㏄車をベースにした新原付案は実現に向けたスタートを切ったと言えるでしょう。
排気量区分から最高出力区分に変更するには新たな法整備などが必要だ
絶滅の危機から一変、125cc車をベースに新たに生まれ変わろうとしている新原付ですが、それを実現するためにはいくつか越えなければいけないハードルがあるのも事実です。
これについても、4月のコラムに書いていますが、あらためて整理しておくことにします。
① 道路交通法で、原付免許と普通自動車免許で運転できるのは50cc以下の車両(第一種原動機付自転車)と定められているので、この定義を排気量50cc以下から最高出力〇馬力(現行の案では4kw=5.4ps)以下に変更する必要がある。
② 現在、50㏄以下の軽自動車税は2000円/年、125㏄以下は2400円/年となっているので、新原付の軽自動車税をいくらにするか決めなければいけない。
③ 最高出力でクラス分けをすることになると、現在は明確に定められていない最高出力の測定方法を厳密に定める必要がある。それも、日本国内だけの基準ではなく国際基準とするべく、国際連合→欧州委員会の傘下にある「自動車基準世界フォーラム」(W29)の下部組織に当たるEPPRで最高出力の測定基準を検討して、その決定した基準・測定方法を導入する。
今後、上記3点に加え、新原付を安全面を踏まえてどういうバイクにするべきなのかが、有識者会議で検討されることになります。残念ながら、30km/hの最高速度制限、二人乗りの禁止、2段階右折に関しては現行の原付と同じが前提のようです。
その点を差し引いても、アジアを中心にいま全世界中で売れている125㏄クラスの車両をベースに作られる新原付は、これまでの原付以上に魅力的なバイクになることは十分予想できます。
たとえば、現行の原付はフロントに10インチホイールを採用していますが、125ccクラスは14インチが主流。フロントホイールが大径化されることで走行安定性は格段に向上するでしょう。
また、フロントホイールの大径化にともない、ホイールベースや全長も長くなり、それも安定した走行性能に寄与するはずです。
また、ベース車両がメットインスクーターなら、現行の原付一種に対しシート下スペースの容量も確実にアップ。さらに、125cc車ベースであれば、ポケットなどにキーを入れたままイグニションのON/OFF、ハンドルロックの施錠/解錠、シートの解錠操作が可能なスマートキーが採用される車両も用意される可能性もあります。
そして、最大の注目でもある価格ですが、前述のように年間10数万台しか販売されない現行の原付に対し、ワールドワイドで約4500万台以上が販売されている125ccクラス。おそらく、年間の販売台数が100万台以上の日系メーカーのモデルもたくさんあるはず。
この量産効果は非常に大きく、国内専用開発で年間数万台しか売れない原付とコスト比較をすると、125ccベースの新原付のほうが安くなる可能性もあります。
実際、ホンダの現行ラインナップを見ると、アジアで大量に販売されているDio110の日本仕様が21万7000円~、国内専用設計の原付であるDunkは22万9900円と一部ではすでに逆転現象が生まれています。
某メーカー関係者は、最高出力を4kw=5.4psに抑制したうえで新排ガス規制に適応させるために何らかのデバイスが必要になるとしても、新原付は現在の原付に対してごく小幅の値上げで済むのではという見解でした。
現在の原付より安い新原付の誕生が理想的ですが、装備が充実して、将来的なモデル継続の安定性が実現するのであれば、小幅な値上げはいたしかたないかもしれません。
なにより、地方や過疎地に住む方々の重要な交通手段であり、現在も年間10万台以上が販売され、今年の3月末時点での保有台数の合計が435万5000台(国土交通省調べ)の原付ですから、新原付となって存続されることを願って止みません。
余談ですが、この435万5000台の中には、いまだに2ストローク車も相当数交じっていると推察されます。その2ストに乗っている方々が、リーズナブルで装備の充実した新原付に買い替えると相当のCO2削減効果が生まれると思われます。つまり、新原付はCN化にも貢献できるというわけです。
さて、9月11日に初会合が開かれる有識者会議でどのようなことが議論されるのか結果が楽しみですが、デッドラインが新排ガス規制が施行される2025年11月ですから、年内には新原付のモデル詳細が決定され、決まったレギュレーションに合わせたモデル開発が来年から本格的に各メーカーでスタートし、並行してもろもろの法整備が行われ、2025年春に新原付がバイクショップに並び始める、というのが予想されるロードマップです。
今後もWEBヤングマシンでは、有識者会議の内容を含め、新原付実現に向けての動きをウォッチしていきますのでお楽しみに。
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