
利用が進まなかったアクアラインは、これまでに段階的に値下げをしながら、現在はETC搭載車に限り普通車800円、バイク640円で通行できます。この料金は2025年3月31日まで継続されるはずでしたが、突如として「ロードプライシング」を導入する方向で調整に入ったといいます。
●文:Nom(埜邑博道)
アクアラインにロードプライシングを導入? これぞユーザー無視のお役所仕事の典型だ!
サーキット走行会が数多く開催される袖ヶ浦フォレストレースウェイがあり、ツーリングスポットとしても人気の千葉県。関東周辺のライダーにとってはとても身近な地です。
東京、神奈川、埼玉などから千葉県にアクセスする際に便利なのが「東京湾アクアライン(以下アクアライン)」。筆者も千葉県(の南部)に行く際は、必ずといっていいくらいアクアラインを使っています。
現在、このアクアラインの川崎側の浮島ICから千葉側の木更津金田ICまでの通行料金はバイクが640円、普通自動車は800円。ただこれはETC車割引料金で、ETCを使用しない通常料金はバイク=2510円、普通車=3140円となっています。
1997年に完成したアクアラインは、完成当時の料金は4000円(普通車・以下同)で、この高額さからなかなか利用が進まず、2000年に3000円へ、さらに2002年からETC車2320円へと何度か値下げを繰り返していました。
そして、現在の普通車800円、バイク640円となったのが2009年のこと。
覚えていらっしゃる方もいるかも知れませんが、この金額になったのは2009年に「(ETC利用の)普通車料金を800円に引き下げる」ことを公約に掲げて森田健作さんが県知事選挙に出馬し、見事当選を果たしたためでした。
当選後、森田知事(当時)は自民党麻生内閣(当時)と協議を重ねて、社会実験として通行料金を普通車800円とすることを決定し、その結果、1日の利用者は約4倍(現在は2倍ほど)になり、千葉県に大きな経済効果を生み出しました。
ちなみに、この割引料金にするために、国と千葉県が年間5億円ずつ拠出しているそうです。
そして、昨年の3月には、高速道路ネットワークの有効活用や首都圏における交流・連携の強化等の地域経済の活性化を図ることを目的に、2025年3月31日までこの割引料金を継続すると発表されていました。
ところが、6月の中旬になって突然、国土交通省(以下国交省)と千葉県が、アクアラインに時間帯などによって通行料金を変動させる「ロードプライシング」を試験的に導入する方向で最終調整に入ったと各メディアが報道しました。
具体的には、通行量の多い時間帯は現在の通行料金に数百円を上乗せし、少ない時間帯は数百円割り引くというもので、通行量を分散化して渋滞緩和を図るのが目的だそうです。そして、このロードプライシングは土日・祝日からスタートする案が浮上していて、夏休みやお盆休みなどで交通量が増える夏から半年間程度の試験導入をして、本格導入するかを判断するとのことです。
確かに、土日・休日のアクアラインは朝夕ともかなり混みあいますが(最近特に混むようになっています)、その理由は大半の人は土日・休日しか、そしてその時間帯にしか利用できない(遊びに行けない)から。
現在、繁忙期は休日割引の適用を除外し交通の分散化を図るとともに、観光需要の平準化を図るという国交省の方針から、GWやお盆休み、年末年始は高速料金の休日割引が適用されなくなっていますが、やはりその時期にしか休みが取れない多くの人のクルマで全国の高速道路は大渋滞。国民の声を無視したままの料金施策が行われています。
そして、この「高速料金の弾力的運用」とやらをアクアラインにも適用する狙いなのは明らかです。
どんな試算をしているかは公表されていませんが、アクアラインにロードプライシングを導入すると道路会社(NEXCO東日本)の料金収入は増加し、しかし土日・休日の渋滞は緩和されることはないでしょう。まさに「泣きっ面に蜂」です。
では、報道に出ている国交省と千葉県にこの件について聞いてみました。
国交省の道路局高速道路課によると、アクアラインがとても混んでいる状況を改善するために、国、千葉県、NEXCO東日本で交通集中する時間帯の料金を上乗せし、逆に閑散時間帯は安くするというロードプライシングを導入してはどうだろうかと検討していて、導入に向けて調整中とのこと。
導入の具体的な時期や金額はまだ決まっていないといいますが、間違いなくロードプライシングは導入されるようです。
また、千葉県の県土整備部道路計画課高速道対策・館山道促進課は、県からは何も発表はしていませんとした上で、国と県でこのようなこと(=ロードプライシング)について検討をしているのは事実で、アクアラインの渋滞を緩和してほしいという要望に対しどういったことができるかを話し合っている。ただ、ETC割引をなくすつもりはなく、継続していきたいとのことでした。
実質的な値上げ。そして、渋滞は緩和されないはず。
問題はふたつあります。
混みあう時間帯の料金を上げたところで、交通量はおそらくほとんど減りません。例えば、朝早い時間帯の料金が上がったとしても、1日ツーリングを楽しんだり、袖ヶ浦フォレストレースウェイでサーキット走行を楽しんだり、あるいはゴルフをしたりする人は、間違いなく朝早い時間帯にアクアラインを利用します。
そして、1日遊んだ後の夕方、混むのは分かっていても再びアクアラインを利用して帰宅するのです。
いくらいまより通行料が安い時間帯ができたとしても、それが使い途のない時間帯ならほとんどの人は利用しません。ですから、実質的に「値上げ」になるわけです。(※仮に割増と割引が同額だった場合、交通量が多いときに割増=割増の適用台数が多い/少ない時に割引=割引の適用台数は少ないことから結果的に料金収入は増加するというシンプルな計算になります)
そしてもうひとつ。東京、埼玉、神奈川方面から高速道路を使って千葉県にアクセスする場合、首都高と京葉道路を利用する方法もあります。こちらも朝夕の渋滞はかなりひどいものですが、たとえば首都高・中台ICから京葉道路・館山自動車道接続部を経由して首都圏中央連絡自動車道の木更津東ICまで行くとすると、料金はバイクが2520円、普通車が3060円(いずれもETC料金)。
現在、アクアラインを利用した場合はバイクが2170円、普通車が2660円ですから、もしアクアラインがロードプライシングの導入でバイクが350円以上、普通車が400円以上上がると(値上げ幅はこれよりもきっと大きいと思います)、アクアラインは使わないという人も出てきそうです。
そうすると、ただでさえ大渋滞している京葉道路の宮野木JCTなどはさらに混むことは容易に想像できます。つまり、渋滞する道路が移行するだけになるでしょう。
結果的に、ロードプライシングの導入でアクアラインは実質値上げとなり、しかし渋滞は緩和されず、さらには京葉道の渋滞が激しくなるという二重苦が生まれる可能性があるのです。
国交省の担当者は、「渋滞のピークを少しカットしたいだけなので、途中でご飯でも食べて空いた時間帯に走ってくれればいいんです、いくら高くすれば時間をズラしてもらえるか」と簡単に言っていましたが、これこそまさしく「机上の空論」。利用者の実態をまったく無視していると思います。
有識者とやらの提言で生まれたというロードプライシングの考え方ですが、その有識者の方々は高速道路のユーザーなのでしょうか。おそらく違いますよね。そうじゃなければ、こんな愚策を考え付くはずがありませんから。
とにかく、アクアラインには早晩ロードプライシングという実質的な「値上げ」が行われます。そして、将来的に全国の高速道路にもこの考えが波及する可能性もあります。
いまは誰もが情報発信源になれる時代ですから、みなさんもSNSなどで「高速道路の値上げ反対」という意見をどんどん書き込んでいただきたいと思います。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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